古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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誤字脱字報告有難う御座いました。何時も助かっており本当に感謝しています。


第646話

 スピーギ族に襲われて捕らわれ奴隷として扱われていた、カシンチ族のコリコ・スアクの兄弟を助けた。彼等は自分の部族の元に無事に戻れたみたいだ。

 そして周辺の少数部族と連合を組み、盟主として活動している事は報告で知っていた。その彼等から、僕に協力させて欲しいと親書が届いた。

 単に勝ち馬の尻に乗りたい、利益のお零れが欲しい位ならば相手にしなかった。だが彼等は、バーリンゲン王国との橋渡し役と力添えを望み、対価として千人の維持費の掛からない兵力を提供してきた。

 この提供に、ザスキア公爵も好意的に受け止めたみたいだ。だがあの兄弟に此処までの策略を張り巡らす事は無理だと思う。知識層の連中には間違い無いが、上層部の連中には見えなかったし参謀系でもない。

 だから彼等の仲間に、先を見通せる優秀な指導者か参謀役が居るのは間違い無いだろう。カシンチ族の中にか、連合を組んだ他の部族の誰かかな?

 または連合を組んだ連中と協議を重ねて結論を出したのかは分からない。だがこの提供は、僕等にとっても都合が良いので会って直接話をする事にした。

◇◇◇◇◇◇

 ブレスの街の連中は、彼等との会談には反対した。特にセキレイ殿は、信用出来無いので先に自分が行って話を聞くと頑として譲らなかった。

 僕の身の安全の心配と、少数部族達に拭い切れない不信感が有るのだろう。彼等と少数部族の連中とは長い間、争っていたから仕方無い。無関係な僕が話を聞いて変に肩入れする心配も有りか?

 どちらにしても近くに千人からの少数部族連合兵力が居るならば、立ち位置と関係を決めなければならない。保留の先延ばしは愚策だと説得した。

 会見の場所は、ブレスの街から100m先の荒野に建物を錬金した。只の箱型の簡素な建物だが、内部の家具は空間創造から取り出した一級品だ。

 参加者は、僕とザスキア公爵。警備として、クリスとアイン、ツヴァイにドライと過剰戦力だから問題など有り得ない。周辺を妖狼族が固めているから更に強固だ。

 先方は、コリコとスアクの兄弟の他に二人が参加すると連絡が有った。兄弟は僕の知り合いとしての顔繋ぎが役目で、他の二人が交渉の本命だろうな。

「この提案を描いた連中が誰なのか?楽しみですね」

 隣に座る、ザスキア公爵に話し掛ける。四人の使者は、クリスが特設の会場に案内する段取りになっている。昨日迄は何もなかった場所に、いきなり建物が有れば驚くだろう。

 ザスキア公爵は特に着飾っていないのは、彼等は遥かに格下であり正装する必要は無いから。だが普通でも普通じゃない、辺境では中々見られない豪華さだぞ。

 そもそも国でなく貴族でもない辺境の少数部族の代表相手に、大陸最大のエムデン王国の公爵本人が参加する事自体が異常です。普通に有り得ません。本人は気にしてないけど、相手は知れば驚くだろう。

 サプライズとしては凶悪な部類ですよ……

「そうね。目先の欲望に捕らわれず、その先の利益を求めるだけの頭は有るのでしょう。辺境の少数部族は大小五十以上、三百人程度から千人を超える部族も有るわ。全て纏まれば三万人を超える、それなりの勢力では有るわね」

 三万人……纏まれば辺境に小国の誕生だが、運営し維持するには中途半端な規模だよな。地理的に自給自足は無理、貿易も唯一隣接しているバーリンゲン王国が抑えるから無理。

 陸路は厳しいが、海路はもっと無理。今だって細々とバーリンゲン王国と交易しているが、足りなくなれば略奪もする厳しい生活環境だよな。

 纏まるどころか、共食いして数が減っていく一方。ああ、だから僕に交渉の助力を頼んで来たのか。バーリンゲン王国から何らかの譲歩を引き出さないと、いずれは均衡が敗れて滅亡か……

「連合の参加部族は十七、三割を超える勢力です。彼等が纏まれば、バーリンゲン王国も手を焼くでしょう」

 ザスキア公爵、凄く楽しそうだな。自慢の扇を開いたり閉じたりしている。あの扇を力強く閉じたり膝を叩いたりしたら、私怒ってますだ。

 勿論だが、相手に分かり易い感情表現であり交渉術でも有る。格上には使えない威嚇行動だが、彼女からすれば殆どが格下なんだよね。

 アインが紅茶と御菓子を用意し始めたが、僕のゴーレムクィーンは独自の進化をしている。彼女は王宮に勤める侍女並みのスキルを会得しているんだ。

 紅茶を最適な温度で淹れられる、普通に考えてゴーレムの行動じゃない。自律なんだよ、僕が操作してる訳じゃない。温度を感知する機能も無い、味覚も無いのに何故美味しく淹れられる?

 ツヴァイやドライも貴族の屋敷で働くメイド程度の能力を持っているのだが、何故そっち方面に進化した?誰に教わったんだ?掃除なんて誰がゴーレムに教えた?イルメラか?

「地方の領主達が力を持ち中央と連携をしない。私達の仕込みは順調だけれど、地方と中央が手を組まねばならない事態も有るわ。それが辺境の少数部族達への対応よ」

「亡国の危機に、権力争いなどしている暇は有りませんからね。共通の敵、敵の敵は味方。だけど彼等は、エムデン王国に喧嘩を売った前科持ちの愚か者でも有りますよ」

 パゥルム女王の反則ギリギリの簒奪で、何とかエムデン王国との開戦を止めた前科が有る国だからな。イマイチ以上に信用出来無い連中が多いんだよ、パゥルム女王の苦労が良く分かる。

 同情はするが協力は最低限の決められた事しかしない。僕が余計な事をすると、他にも影響が出るから迂闊な事は出来無い。僕が援助したのだから、他も僕の意を汲んで援助するとかしろとか……

 望まずに影響力の強い人間になってしまった。バーリンゲン王国とは適度な距離を置く事が望ましく、親身になる事は無い。だが最低限以上の配慮はしているつもりだ。

「申し訳有りません、リーンハルト様」

「ん?何か?」

 ザスキア公爵の配下の守備隊長が、物凄く微妙な顔で報告に来た。それは美形揃いで腕の立つ自信に溢れた連中が、どうしたら良いのか分からない位に悩んで……いや、少し嫌悪感も有るか?

 カシンチ族の連中が来ただけならこの態度は変だ。少数部族を蛮族と蔑む連中じゃないし、内心思っても顔に出したりしない自制心は持っている。

 つまり直ぐに僕や、ザスキア公爵に報告が必要な緊急事態だが内容か相手には良く思っていない。コーマでも攻めて来たか、カシンチ族が裏切ったか?

 入室を許可すると、凄く微妙な顔で近付いて見事な動きで敬礼する。見応えは有るが、男の僕は美形の機敏な動きに見惚れたりしない。

「その……自分はバーリンゲン王国の正統な王族である、コーマと名乗る人物が少数の護衛と共に訪ねて来ました。彼等は保護を求めておりますが、降伏では無いと申しております」

 は?敵対者に降伏じゃなく、保護を求めて本人が来たの?罠じゃない?または囮として本人を逃がす間の時間稼ぎとか?

「本当に本人かな?」

「何人かの街の連中に確認させましたが、コーマ本人に間違い無いそうです」

 やはり罠か?僕をおびき寄せて攻撃するとか?いや、違うな。兄達を倒された事でも実力差は嫌と言う程分かっているだろう。

 倒される相手に保護を求めて来たとなれば、自分の廻りに火が点いたんだ。裏切り上等の国だから、側近からも裏切り者が大量に湧いて命の危険を察したか……

 降伏じゃなく保護しろとか、そんな自分勝手な馬鹿な提案が通用すると本気で思っているのか?思っていそうで怖い、コイツ等の常識は僕等とは違う。

「時間を与え過ぎたからですかね?配下の裏切りに危機感を感じて、少数の護衛と共に逃げ込んだ。元とは言え王族、保護を求めて来たのに問答無用で倒すのは問題ですよ」

「あらあら、バーリンゲン王国が増援を予定通りに寄越さないから最悪から数えた方が早い結果になったわ。全く命が惜しくて敵に助けを求めるとか、殿方として最低ね」

「降伏じゃなくて保護とか、身分に合った待遇をしろとかでしょうか?逆賊でも元殿下、粗略には扱えないですね。全く面倒臭い事になりました……」

 ザスキア公爵と二人、深い溜め息を吐く。倒したかった相手が、まさかの降伏。いや、保護を求めて来たって事だよな。

 最後の一人として華々しく散って欲しかった、助命など面倒事でしかない。王都まで連行して、パゥルム女王に引き渡すしかないな。

 本心はこの場で捕らえて始末したい。後腐れなく全員倒したかったのに、命惜しさに降伏とか状況的に有り得ないだろ?元でも王族の意地とかさ、玉砕覚悟の突撃とかしてよ!

「さっさと捕らえて丁重に王都に連行しましょう。生かして捕まえられたならば、幾らでも使い道は有るわ」

「シャンヤンの街に直ぐに使者をだしましょう。コーマの身柄は確保した、現状維持で街を守れと指示を出しましょう。守備兵も配下の正規兵も残ってるから、戦力的には大丈夫でしょう」

「リーンハルト様が悪役を演じて、反パゥルム女王勢力の悪意を一身に受ける必要なんて無いのよ。彼は、パゥルム女王の手により公開処刑。此処に反乱は終了し、新たな政権が強固となった。逆に良かったわ」

 一生幽閉とか許さない、サクサク死刑にする様にお願いしましょう!とか笑顔で言ってるけど、コレ駄目なパターンだ。

 当たり前だけど反逆者である、コーマに未来は無い。パゥルム女王も巻き込んで彼女達にもヘイトを集めるつもりだな。

 コクコクと頷くしかない。結局は、パゥルム女王の増援手配が遅れたからの結果だから因果応報?いや、違うかな?

 まぁ礼儀として、話だけは聞いてあげよう。その内容により、多少の助力はするけど助命はしない。公開処刑位は防げるけど、何を言ってくるか楽しみだ。

◇◇◇◇◇◇

 カシンチ族が纏めた連合との話し合いの場を設けたのに、招かれざる客が現れて対応に苦慮している。まさか逆賊コーマが保護を求めて来るとは思わなかった。

 複数に確認させたが、時間稼ぎの偽物じゃなく本人らしい。クリッペンもザボンも倒された事、シャリテ湿原の殲滅戦の結果が広まり勝てないと理解したのだろう。

 負け戦に付き合うつもりも無いから、手っ取り早くコーマを突き出して自分達は助かりたい。そんな連中から逃げ出し、敵である僕等に助けを求めて来たのだと思う。

 まぁ、偉そうな態度の本人が目の前に居るから聞いてみるか……

「逆賊コーマに間違い無いですね?何故、敵対している僕等に助けを求めたのです?」

 カシンチ族との話し合い用に錬金したのに、敵対している元殿下を最初に迎え入れるとか皮肉だな。武装解除はさせたが、鎧兜は脱がさずに距離を置いて座らせている。この状況でも偉そうな若者がコーマか。

 側近は武官二人に文官が一人、それに愛妾が二人の合計六人。何故か偉そうにふんぞり返っている。お前達は助けを求めたのじゃなく、正確には敵に投降して来たんだぞ!

 確かに僕も結婚式で見た事が有るけれど、多分だが本人だと思う。確証は無いが影武者とも思えない、元とは言え王族の気品は有るか……

「俺はバーリンゲン王国の正統な血筋を受け継ぐ最後の男子だ。相応の待遇を求める。我等を守り王都まで無事に連れて行ってくれ。後はパゥルムと直接話す、他国の干渉は不用だぞ。全く女などに国政が出来るものか!」

 愚か者だな。自分の立場がまるで分かっていない。お前は元王族で今は逆賊、敵として倒しに来た僕等にお願い出来る訳がない。

 パゥルム女王と話すとか、彼女がお前等の抹殺を僕に頼んだんだよ。他国に干渉と言うか、宗主国は属国に干渉出来るんだ。

 あと女性を蔑むな!お前達兄弟は、妹達に負けたんだ。都合良く助けろとか、自分は助かりたいとか馬鹿なの?馬鹿なんだろうな。

 少なくともお前の兄弟達は、不利な状況でも戦う意志は有ったぞ。負け戦と分かっていても、敵に助けを請う事はしなかった。

 事情や状況はどうあれ、対外的には戦って負けた。元王族の意地を見せたのだが、お前は周囲の連中を抑えられず殺されそうだから敵に縋った。

 そして此方に一方的に要求するとか、叶えられると思っている事が信じられない。まぁだからこそ、時勢が読めず戦力差も分からずにエムデン王国に喧嘩を売ったのか……

「僕はパゥルム女王からの懇願で、貴方達元殿下の逆賊の討伐に来ている。現状は戦っては勝てないと投降して来た事に変わりない、条件など付けられない。貴方達は捕虜として捕まった事を忘れないで下さい。抵抗するなら、速やかに処分します。抵抗してくれた方が、後腐れなく殲滅出来ます」

 女などに国政が出来無いとか言い放ったけど、僕の隣にはザスキア公爵が居るんだぞ。お前は彼女を間接的とは言え蔑んだな!

 僕の挑発に反応して考え無しで抵抗してくれれば、その場で倒して終わり。大団円なのだが、それを行わない自制心と周囲を見る目は有るのか。悔しそうに膝を握り締めて僕を睨んでいる。

「なっ?貴殿の態度は、他国で小国とは言え一国の王子に対して失礼だぞ!」

「そうだ!我等は投降などしていない。保護を求めた他国の王族と重鎮ですぞ!」

「殿下は、バーリンゲン王国に必要不可欠な御方。パゥルム女王も悪い扱いは致しませんから、その様に扱って下さい」

 武官・文官・愛妾の順番で言いたい事を言ってくれたな。しかも聞いている、コーマは感心した風に鷹揚に頷いている。配下が言うなら自分は関係無いってか?

 パゥルム女王が悪く扱わない?馬鹿な、殲滅しろって言われてるんだぞ。なのに上から目線の言葉を吐かれたが、本気か?何処に助けてくれる要素が有る?

 コーマも良く言ってくれた、我が忠臣達よ。悪くはしない、俺に任せろとか言ってるけど、全員処刑台コース一直線だから!あの姉妹は甘くないから。

「一応、話は聞こうと思いましたが……逆賊共よ、身の程を知れ!政争に負けた元王族に何の価値が有る?我等は宗主国の重鎮、態度を改めるのは貴殿達だぞ!」

「何だと?エムデン王国の重鎮は、他国の王族の扱い方も知らぬ愚か者か?俺が死ねば連綿と受け継がれた、バーリンゲン王国の王族の血が絶えるんだぞ」

 絶えろよ!バーリンゲン王国の正統王家の血筋は、三姉妹が受け継ぐから大丈夫。お前の血筋は絶えろ、反逆者として逆賊として絶えろ!

「古来より弱い国は滅び強い国が残る。弱肉強食、パゥルム女王はエムデン王国に属国する事で自国の未来に希望を持たせた。貴方達の処遇は、パゥルム女王に任せます」

「きっ貴様!それは俺が殺されるって意味じゃないか!嫌だ、幽閉でも良いから死にたくないんだ。フザケルナ、俺は王族だぞ」

 ゴーレムポーンを錬金し彼等を拘束、ザスキア公爵の配下に引き渡した。最後が締まらなかったが、逆賊共は全て捕まえるか倒した。

 これでエムデン王国に帰れる。予定より半月遅れたが、何とか間に合った感じだろうか?後はカシンチ族連合の代表と話し合いだけだ。

 討伐絡みで頼む事が無くなったので、少し気が楽になった。辺境の治安維持と中央集権化の邪魔だけだし、早く済ませて帰ろう。

 イルメラ達の匂い成分が切れ掛かっている。僕は彼女達と一ヶ月以上離れると駄目なんだ……

 


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