古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第649話

 バーリンゲン王国の依頼を受けて三人の元殿下達を逆賊として討伐した。パゥルム女王の簒奪により一夜にして逆賊となったが、ウルム王国と手を組みエムデン王国に敵対した愚か者達でもある。

 しかも妖狼族を唆して、僕を暗殺しようとした事を合わせて考えれば手心を加える必要は無い。当初の予定通りに直接統治の旨味の無い、バーリンゲン王国を属国化させた。

 一ヶ月以内の予定が二ヶ月近くに延びてしまったのは、単純に僕等の侵攻速度にバーリンゲン王国の増援部隊が間に合わなかったから。此方は予定通りなのに、中々増援部隊を寄越さない。

 攻略した城塞都市の治安維持・管理の人員が居なければ、再度略奪されない為にも留まって守らなければならない。此処で放置は愚策、面倒を見るのも仕方無い。

 本当にバーリンゲン王国は何もしてくれない。全部僕等におんぶに抱っこ状態で、最後だけ盛大に祝えば良い位に思っているのだろうか?僕がエムデン王国に帰れば縁は薄くなる。

 後はパゥルム女王達の頑張り次第で、バーリンゲン王国の未来が決まるだろう。属国として繁栄か衰退か、独立を望んで滅ぼされるか。まぁ頑張って下さい。応援はしておきますよ。

◇◇◇◇◇◇

 パゥルム女王から指名された案内役は多分だが王族の影の護衛だろう。ミーティアと名乗った若い女性だが隙が無い、気配や足音も聞こえない。戦えば負けはしないが、クリスには及ばず、ニールと同じ位の強さを感じる。

 城門から人避けをした道を進む、脇道の入口に武装した兵士が隠れているのは通行止めの為だろう。人通りの全く無い道を進み王宮に入る、此方も武装した兵士達が配置されて此方をチラチラと見ている。

 コーマの存在を隠す為とは言え、普通此処まで武装兵を隠して配置すれば、僕等に危害を加える気かと疑われるレベルだぞ。武装兵達も好意的な雰囲気じゃなく、監視されている感じだ。

 まぁ多数の黒塗りの馬車が深夜に王都を移動すれば、嫌でも警戒するだろう。この戦力だけでも、維持は無理だが、王都制圧だけなら可能だからな。

 王宮には正門から入り、そのまま広場を通り広い庭園で停まった。此処でコーマを引き渡して別行動かな?流石に牢屋まで同行は出来無いし、ザスキア公爵は早めに休ませてあげたい。

「リーンハルト様、逆賊達の引き渡しをお願い致します。立会人は、ミッテルト王女で御座います」

 先程別れた、ミッテルト王女が真っ黒なドレスに着替えて先回りして待ち構えていた。彼女は残忍な一面も有る、コーマに何か言いたいのだろう。まぁ王女が立会人ならば、引き渡した後から文句も出ない。

 逃げ出す可能性も僅かながら有る、城内にも協力者の存在は否定出来無いし……コーマを御輿として担ぎ上げても、既に反抗勢力に戦力は無い。

 だが国外に連れ出されると厄介だ。ウルム王国に身を寄せられても、正当な王位継承権持ちだと言われても、戦争中で滅ぼす国だから大丈夫か?停戦の理由にもならないし。

 周辺諸国で、コーマを引き取り厄介事まで引き受ける国は無いな。ウルム王国は、レンジュを殺され裏切られた恨みは凄いだろうから捕まれば同じく処刑だな。

 実態の無い旧コトプス帝国の連中に確保された場合は、謀略のネタにされて難儀するが今回で滅ぼす予定だから大丈夫。他は現状の力関係を考えれば、無理をする必要性は限り無く低い。

「リーンハルト卿、私が立ち会います。逆賊コーマの引き渡しをお願い致します」

「分かりました。コーマに配下が三人、それと愛妾が二人。合計六人を引き渡します」

 三台の馬車に分乗していた六人をゴーレムポーンを使い引きずり出す。彼等も重罪なのは分かっているからか、馬車から降りるのに抵抗したけれど……

 両手両足を錬金製の特別な拘束具で拘束されているので、身体を捩らせる位しか出来無い。ミーティア殿が、十人の騎士団員を用意して二人掛かりで取り押さえた。

 配下の男性三人と愛妾の二人は観念したのか漸く無抵抗になったが、コーマは未だ激しく暴れている。命惜しさに投降したが、姉妹に引き渡されたら処刑しかないから焦るよな。

「ミッテルト!実の兄に対して酷い処遇じゃないか?拘束を解くんだ。俺は残された唯一の男性王族、其れなりの待遇を求める。パゥルムは何処だ?直接話をさせろ!」

「ふん。自国を滅亡に招いた馬鹿な男など、パゥルム姉様は会いませんわ。貴方は公開処刑ですが、その前に隠している情報は全て吐かせます。嘘を言う事は許しません!」

 一応血の繋がりが有る、コーマの事を鼻で笑ったぞ。彼女からしたら国を滅ぼそうとした愚か者で、姉に余計な負担を強いた憎むべき者か……

 肉親とは言え王族だし、亡国の危機を招いた愚か者など既に兄では無いのだろう。ゴミ以下を見る様な目だし、コーマも怯んでいる。年下の少女に飲まれるなよな。

 わざわざ着替えた真っ黒なドレスは威嚇の為の雰囲気作りだろうか?小道具としてか乗馬で使う鞭を持っている。パシパシと鳴らして楽しそうだな。

「な、何だと!このサディスト!女の癖に男を立てる事を知らぬのか?卑劣な売国奴、エムデン王国なんぞに尻尾を振りやがって恥を知れ!」

「黙りなさい!貴方は逆賊、他の二人みたいに討ち死にせず、命惜しさに命乞いをした元とは言え王族の恥曝しめっ!」

 うん。鞭を振り下ろす風切り音が、良い脅しとなっている。コーマが怯んで身をくねらすが、この男は臆病なのか?

「だ、黙れ!ちゃんとした深い理由が有ったんだ。お前等も協力すれば勝てたんだ、それを裏切りやがって!妹なら兄に従え、俺が国王になるのが正しいんだぞ」

 おお、凄い罵(ののし)り合いだが、コーマの怯え方から負けは確定。鬱憤晴らしの為か考え無しなのは分からないが、冷血王女様に噛み付いた代償は大きいぞ。

 これから拷問待った無し、顔は傷付けなくとも見えない所は分からない。情報を得る為に色々されるだろうが、双方頑張って下さい。

 しかし男尊女卑思想が滲み出ているな。妹は兄に従え、女の癖に出しゃばるなか……しかも反省もなく負けたのは運が悪かった程度の認識だよ。

 馬鹿だな。まぁ降参すれば助かる程度の認識しか持てない愚か者だから仕方無いのか?状況を考えられれば、助かるなど思えないだろう。

 この遠慮の無い罵り合いも、元家族の気安さだと思えば少しは納得出来るかな?命乞いが必要な相手にも、自分が上だと思ってるし呆れる。

 む?何故、僕に縋る様な目を向ける。完全に敵対してるし味方じゃない、助けろとか言うなよな。自分の置かれた立場くらい把握しろよ。

「おい!呑気に見てないで、リーンハルト卿からも馬鹿な妹を諭(さと)してくれ。保護を求めた相手が死刑とか、助けるのが当然だろ?早く俺を解放しろ!」

「リーンハルト卿は黙っていて下さい。口出しは無用です!」

 飛び火しやがった。自分では妹を言いくるめられないから、暗殺を仕掛けた僕に助けろだと?ミッテルト王女も僕が助ける訳ないだろ!

「は?何故僕が、他国の逆賊に配慮する必要が有るのです?しかも自分を暗殺しようとした卑劣な相手を助けろと?出来れば敵として倒したかったのが本音ですよ」

「あの暗殺は、俺が決めた訳じゃないぞ。この女だって知ってて止めなかったんだから同罪だ。それに暗殺されそうになっても結果的には助かったんだから良いじゃないか!」

 は?真面目な顔で結果的に助かったから許せって言ったのか?この傲慢さは悪い意味で王族らしい。自分は別次元で偉いから許せとか、本気で思っているのだろう。

 ついに手に持つ鞭で、コーマの肩を叩いた。見事なフルスイング、肉を叩く音だけで痛いのが分かる。

「い、痛いじゃないか!俺は馬じゃない、止めろ馬鹿女がっ!」

「黙れ、この屑!私達は知らなかったのに、勝手に共犯者みたいに言わないで!」

 ミッテルト王女が真っ赤になって否定しているのは、暗殺の事は知っていたのに止めなかったとバラされたからだな。

 有耶無耶になっていた過去の悪事を今更バラされても、今後の関係が悪くなる。本当に自分達の邪魔ばかりする愚か者だと思っているのだろう。

 チラリと僕を見る、目が合ってしまった時に更に真っ赤になった。彼女は王族だけど羞恥心は持っているみたいで、自分の身勝手さがバレて恥じているのだろう。

 だが他国とは言え王族の兄妹の罵り合いを見ていても無意味だ。僕は逆賊コーマをミッテルト王女に引き渡した。これだけで良い、後はパゥルム女王が上手く収めるのを期待しよう。

「僕は疲れているので後は任せます。特殊な拘束具は解除しますから、逃げ出さない様に押さえておいて下さい」

「おい、見捨てるな!俺は王族、然るべき配慮も出来無いのか?早く助けろ、死にたくない」

 コーマを無視して特製の錬金拘束具を魔素に還す。流石に僕以外には外せない拘束具で両手両足を拘束していては不便だろう。

 暗殺の件をバラされ愛想笑いを浮かべる、ミッテルト王女に一礼し喜劇会場から離れる。ミーティア殿が僕に割り当てられた部屋まで案内してくれた。

 今夜は休んで明日の朝に、ザスキア公爵と今後の件について相談だな。派手な凱旋祝いは断ったが、明日の晩の舞踏会は断れないだろう。

 ザスキア公爵も王都に居る貴族連中の反応を確かめたいって言っていたから参加はするが、色々と条件を付けないと駄目だ。

 ファーストダンスの相手がパゥルム女王とか、始まってから拒否し辛い様な事が無い様に舞踏会の進行にも口を出さざるを得ない。

 彼女達も結構図々しいんだよな。体制を固める為に、自分達の利益の為に、平気で僕等に縋り付いて来る。少しは遠慮して欲しいんだよ……

◇◇◇◇◇◇

 コーマ達を深夜に、ミッテルト王女に引き渡した。兄妹の酷い罵り合いを聞かされたが、予想通りで喜劇を見ていた感じがした。

 命惜しさに敵に投降した最後の元殿下は、男尊女卑思想に取り付かれた愚か者だった。パゥルム女王は奴を利用し敵対か日和見な連中に危機感を与える筈だ。

 流石に今回は差別せずに妖狼族も王宮内に大部屋だが泊めてくれた。これで差別し外に出したら文句を言うつもりだった、彼等は僕の配下だから。

 朝九時起床、遅めの朝食をザスキア公爵と二人で食べる。爵位の関係で他の連中は同席出来ないが、妖狼族やザスキア公爵の配下の連中にも朝食は振る舞われている。

 保護した養女予定の淑女三人の世話は、クリスと妖狼族に任せたが問題無く誤魔化せているみたいだ。メイド服を着せて僕の世話役として扱っているみたいだな。

「昨夜の逆賊の引き渡しだけれど、ミッテルト王女が喜劇紛いの行動をしたみたいね?」

「ええ、苦笑しか出来ませんでした。男尊女卑思想に染まった臆病な男は、妹に対して高飛車でしたが……まぁ命乞いは無駄でしょう。あれから拷問されて情報を洗いざらい話したと思います」

 程良く冷えたオレンジの果汁水を飲む。朝食のメニューは季節の野菜のサラダに、数種類のハムとチーズ。スティック状の堅焼きパンに、フルーツを煮込んだジャム。

 伝統らしいのだが、バーリンゲン王国が用意する朝食は基本的に冷たい。素材は極上だし味も悪くは無いが、熱いスープや紅茶が欲しくなる。

「何故、条件付きとは言え今夜の舞踏会に参加する事にしたのですか?晩餐会でも問題無かった筈ですが……」

 この国の貴族連中の意識と動向の調査とは聞いていますが?と自分の考えを付け足して聞いてみる。僕には擦り寄って来るか、敵意を含んだ目で見られるかの二択しか考え付かない。

「そうね。ミッテルト王女が進めている集団お見合いの進捗状況の確認よ。王宮の官吏達の慌て方を見て考えたいのよ。分かるかしら?」

「慌て方で分かる事ですか?自国を乗っ取られる危機感、他国の貴族の流入による既得権の危機、反発必至なのでは?」

 彼等にすれば迷惑でしかない。汚職と賄賂で金を稼ぐ事が好きな連中は、ミッテルト王女が大鉈を振るい断罪するだろう。

 だが汚職大好きでも仮にも王宮の政務を行っていた連中が減れば政務は滞る。だから見合い後に婿殿に仕事を引き継いで引退が混乱を最小限に抑えられる筈だ。

 悪どい何人かの官吏は、コーマと同時期に処刑するだろう。最悪の見せしめだが、あの冷酷王女なら実行するな。悪手ではないが、最良でも無い。

 この問いの解答は教えて貰えなかった。どうやら自分なりに考えて、晩餐会後に答え合わせになりそうだ。ザスキア公爵は僕の教育の為に、色々と状況に合わせて問題を出してくれる。本当に助かるのだが、出題のレベルは高いんだよな……

 




何時も本小説を読んで頂き有難う御座います。
素人の趣味全開小説を多くの方に読んで貰えて本当に幸せです。
感謝の気持ちを込めて盆休み中の本日8/9(木)より8/16(木)の8日間連続投稿します。
年内には完結出来そうです。最後までお付き合い頂けると幸いです。
これからも宜しくお願いします。

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