古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第665話

 ローラン公爵から僕謹製の鎧兜の製作を依頼された。報酬は金貨十万枚、同じく王家に献上する鎧兜を含めると金貨二十万枚と破格の報酬だ。更に完成品を見てから上乗せ査定するとか言われたし。

 金を積めば誰でも錬金して貰える訳じゃないのだが、次に依頼してくる者は最低でも同額を提示する事になる。一式で金貨十万枚など、領地持ちの伯爵以上だろう。

 御機嫌で帰って行く、ローラン公爵夫妻を見て思う。公爵家の財力の凄さと、僕に対する気遣いの本気さは理解した。残りのニーレンス公爵にも鎧兜一式を錬金した方が良いかな?

 いや、無償提供は無理だ。ならば錬金させてくれと言ったら押し売りだよな、ニーレンス公爵からすれば金貨十万枚など安いものだが依頼料が発生するから別問題だよ。

「ああ、そうだ。魔牛族のミルフィナ殿の対応の対価に渡せば良いんだ!」

 ニーレンス公爵が契約を結ぶ、ゼロリックスの森のエルフ族絡みの頼み事の対価として金貨十万枚の価値の鎧兜を贈る。

 僕の懐は全く痛まないが、ローラン公爵が価値を決めてくれたので丁度良い。これで王家と友好的な公爵三家には全て僕謹製の鎧兜を贈った事になる。

 後は僕と友好的な関係を結んでいる、バーナム伯爵にライル団長、デオドラ男爵が僕謹製の鎧兜を持っている。どうしても欲しいならば……

「交渉材料として悪くない。僕に友好的で金貨十万枚も負担出来無い人達には、ダウングレードした物か所持している鎧兜に固定化の魔法を掛ける。これで大丈夫だろう」

 うん、ニーレンス公爵への依頼の対価として箔付けしてくれた、ローラン公爵には感謝が必要だ。今の僕に出来る最高の鎧兜を錬金して渡そう。

◇◇◇◇◇◇

 ロッテに頼んでいた、ニーレンス公爵への面会の申し込みの返事が来た。午後三時に指定となれば、お茶を飲みながら歓談の形にするのだろう。

 先導する、ロッテは自分が所属する派閥の長に僕が会いに行くので嬉しそうだ。逆にハンナが最近元気が無い、バセット公爵との関係を中立に下げたから。

 だが大量のマジックウェポンを安価で二百個近く渡したのだから、軽くみてはいない。同僚の専属侍女と比べると、立場が弱くなったけどね。

「リーンハルト様、少々お待ち下さい」

 ロッテが先に伺いを立てて、メディア嬢の声で了承の返事が来た。ニーレンス公爵は愛娘の、メディア嬢を同席させているのか。

 隠居した高齢のリザレスク様と、エルフ族の護衛であるファティ殿は居ないみたいだ。王宮に引退した女傑やエルフ族を招くのは色々と問題だから予想はしていた。

 ファティ殿には、今日の話し合いの結果をメディア嬢経由で伝えるのだろう。その後に、ミルフィナ殿に伝わるので時間が掛かるが仕方無い。早まった真似だけはしないで欲しい。

 ロッテが扉を開けてくれたので中に入る。既に応接セットのソファーに、ニーレンス公爵とメディア嬢が並んで座っている。二人共、機嫌は悪くないかな。

 ニーレンス公爵は子供達の中でも、メディア嬢には別格の愛情を注いでいる。彼の子供は女性が多い、その中で一番有能なのがメディア嬢だ。

 男性の方は、言い方は悪いがパッとしないらしい。まぁ女性の方も会った事の有る二人も見た目は美人だったが、性格は微妙だったな。

 典型的な甘やかされて育った我が儘で傲慢、メディア嬢に絡むが体よくあしらわれる程度の能力。息子達も同様だとすれば、ニーレンス公爵家は次の代で危機を迎え没落する。

 メディア嬢の婿がニーレンス公爵の跡継ぎ候補なのは公然の秘密だが、同世代の独身貴族は小粒ばかりで中々相手が見つからないらしい。

 其処に触れると藪蛇になりそうなので言わないし聞かない。僕は対象外らしいが、今の爵位と役職だけで見れば入り婿候補筆頭だったそうだ。そして僕とメディア嬢の間に生まれた子が、次期公爵となる。公爵は直系しか継げないから、メディア嬢の子供が継ぐ訳だ。

 ニーレンス公爵とメディア嬢が笑いながら教えてくれた事が有ったが、目が全然笑ってなかった。ジゼル嬢が不慮の事故に合えば、公爵家の圧力で懇切丁寧に説明し迫って来るだろう。正直、メディア嬢は破格の条件だとは思う。

 だが、ジゼル嬢の守りは完璧だ。軍隊が攻めて来ても簡単にあしらえる戦力を張り付かせているからな。ニーレンス公爵も理解してるが、彼が無関係でジゼル嬢に危害を加える奴等が派閥に居るから頭が痛い。派閥に居れば無関係とも言えないから、余計に頭が痛いんだ。

「失礼します」

 つらつらと考え事をしていたら呼ばれたので、挨拶をしながら中に入る。予想通りに、ニーレンス公爵とメディア嬢の二人が待ち構えていた。

 

「良く来てくれた。忙しいのに呼び出したりして済まなかったな。手間を掛けさせてしまった」

「お久し振りですわ、リーンハルト様。今回の王命も文句の付け様の無い成果に、ジゼルは自慢気でしょう。私の耳にまで入ってきましたわ」

 腰を浮かして招いてくれたニーレンス公爵に、ジゼル嬢に軽く毒を吐いたメディア嬢。確か僕の留守中に、メディア嬢とジゼル嬢は何度か会っていた筈だ。

 その時に何か有ったのだろうか?笑顔だし嫌悪感は無いから、何時もの可愛いじゃれ合いだと思うが周囲の連中が要らぬ事をしたのか?

 基本的に喧嘩友達だし腐れ縁だし似た者同士で仲は良いのだが、公爵令嬢と男爵令嬢の身分差をネチネチ言う馬鹿が居る。彼女達の面子や立場を煽る馬鹿が……

「婚約者の活躍を喜ばない淑女は居ないでしょう。ジゼル嬢は僕の事を無闇に自慢する程、愚かではない。さて、誰が騒いで貴女の耳に入れたのでしょうか?」

 私の耳にまでと遠回しに言ったのは、ジゼル嬢が色々な場所で僕を自慢したって事だが……一方的な自慢話など、他者との関係性を考えれば控える行為だ。

 誰だって他人の自慢話を聞かされて楽しい訳じゃない。しかも本人じゃなくて婚約者のだぞ。惚気と自慢がセットなど、嫌気が差すレベルだ。

 そして僕の賢い婚約者が、そんな愚者の真似事などする訳が無い。他人に話題を振られて、嫌みにならない程度に話すだけだよ。

「ふふふ、その者達は既に対処したわ。ジゼルと私の素人芝居に、まんまと引っ掛かった者達の多い事に嫌気がさしましたわ。全く同世代には、お馬鹿さんが多くて困ります」

 一芝居打ったのか……ニーレンス公爵の派閥構成貴族の連中が、僕と当主が親密になるのは困る連中が居たのだろう。同世代と言ったが、まさに小粒世代の連中か?

 紳士淑女個人が嫌がらせで、公爵令嬢に不和の火種を吹き込むのは考え辛い。つまり親か親類縁者の誰かに唆されて使われたと思うべきかな。自分の考えで行動したのならば、実家にも被害は甚大。良くて謹慎、悪ければ縁切りで放逐か?

 アーバレスト伯爵と仲間達とか言うオチは止めて欲しいが、同世代なら無いな。他の連中は舞踏会の挨拶まわりで会話をしたが、そこまで排除したがる感じはしなかった。

 派閥当主が懇意にしている相手をあからさまに敵意を見せる馬鹿は、ニーレンス公爵程の派閥には居ないだろう。無能は排除する、選り好みが出来る立場だからな。

「流石は我が姫と言う事ですね。ジゼル嬢も教えてくれないとは、婚約者に対して水臭いと言えば良いのか……」

「私のナイト様の仲を割こうとする愚か者は、アーバレスト伯爵とその仲間達の子息と令嬢達よ。親達が、リーンハルト様の事を良く思ってなかったから子供達が集まって事を起こした。愚かな子供達の末路は、期限付きの社交界出入り禁止らしいわ」

 ほほほほって上品に笑ったけれど、派閥トップの令嬢を唆したにしても実害が無ければ理解出来る範疇の緩いお仕置きって事なのか?

 まぁ懲りないとは思う、自宅待機じゃ罪の意識は芽生えない。親に叱られて仕方無く家で大人しくして居るだけで、後は遊んで終わりかな。

 実行犯の子供は良いが、監督責任を持つ親の責任はどうなる?子供は軽くお仕置きを受けたが、それで終わりじゃない。終わったつもりならケジメの付け方が甘くて、派閥内での立場は悪くなる一方だよ。

「アーバレスト伯爵と言えば噂によると次女の、ハリシュ嬢に対してカルステン侯爵の縁者で社交界でも人気の有る、トロイヤ殿が熱烈なアプローチを掛けているそうですね?」

「む、リーンハルト殿も知っていたのか。今回の処罰対象者の中に、ハリシュは含まれてない。トロイヤ殿には俺からも厳重に断りを入れたが、奴の本当の目的は俺への伝手探しだった。まんまと嵌められたよ」

 吐き捨てる様に言ったが、やはり派閥替えが目的だったみたいだな。ニーレンス公爵には、トロイヤ殿を派閥に引き込むメリットは無い。

 カルステン侯爵は事前調査で裏切り濃厚、そんな派閥からの鞍替えを受け入れるのは相当のメリットが無ければ突き放して終わり。

 トロイヤ殿は色事は達者でも武や知に長けた訳でもない。無官で無職、女癖の悪い男など受け入れても苦労しかない。カルステン侯爵も、仲間に引き込まなかったのは役に立たないからじゃないのか?いやデメリットしかないから当然か。

「裏切り濃厚の、カルステン侯爵派閥から鞍替えしたい。ハリシュ嬢を射止めれば、或いは可能だったのでしょうか?」

「無いな。ハリシュは時勢を読む程度には賢く、親に相談し判断を仰ぐ事が出来る。奴は見た目の好みで、ハリシュを選んだ馬鹿者だ。確実性を取らず自分の好みを優先した、下半身に正直者は貴族社会では生き抜けないだろうよ」

 ああ、大抵の一族に一人は居そうな色事で失敗し人知れず処分される馬鹿者の事だな。大切に育てている未婚の淑女に手を出す、彼女達は親の都合で嫁ぎ先が決まってるんだ。

 その大切な政略結婚の駒を恋愛ゲームの駆け引きを楽しむだけの為に手を出す。親からしたら堪った事じゃない、侯爵家の縁者でも相応の対処をする。

 或いは身内か親族の手で、人知れず処分する。身体を壊し領地か地方で静養と言う名の隔離をされて、然るべき時期に病死か事故死の噂が広まるんだよな……

「なる程、警戒は必要ですが必要以上に警戒する必要も有りませんね。流石はニーレンス公爵と、メディア様と言う事ですか」

「あら?リーンハルト様が素直に褒めて下さるとは思いませんでしたわ」

「ふむ、珍しいのか?ならば、何か願い事が有るのだろう?この際、話してみてはどうだ?」

 示し合わせたみたいなタイミングで、メディア嬢から願い事が有るらしい。会話の流れからも少し不自然だった、社交辞令程度で褒めた内には入らないだろう。

 だが不自然だろうが父娘の中では今回の話し合いで僕に願い事をする必要が有った、僕が本題を持ち出す前にだ。ミルフィナ殿の話をすれば、対価を求める流れは自然だったのにだ。

 まぁ無理難題は言われないだろう。それだけの関係は結んでいるし、無茶振りは関係の悪化を招く悪手だ。ニーレンス公爵が愛娘を大切に思う故の何かか?

「メディア様からの願い事ですか?それは珍しい、教えて下さい」

 教えて下さいは最低限の回避であり、何でも言って下さいだと話を聞く前に了承した事になる。僕等の関係性でも安請け合いは出来無い。

 この辺の事は、ザスキア公爵から口が酸っぱくなる程に言われた。貴族同士の会話は難しい、言質を取られる事を避けねばならないんだ。

 メディア嬢を観察すれば、少し赤くなりモジモジしているな。願い事とは、彼女からは言い辛いか恥ずかしい事か?錬金関係なら問題は無いが、それ以外の何かか?

「その、私にも護衛のメイドゴーレムを錬金して欲しいのです」

 珍しい、自信なさげに目を逸らして言ってきた。僕の自律行動型ゴーレムは、アウレール王に献上しろと騒いだ奴が居たんだ。

 僕の大切な人を守る護衛を引き離そうとした連中だが、アウレール王が既存の警備体制に不満は無いから馬鹿な事を言うなと一喝し公言してくれた。

 その流れなのか、僕に護衛用ゴーレムを頼み辛い感じになっていたが……いや、メディア嬢の感じだと、国王が要らぬと言ったゴーレムを欲しがる事を恥じてはいない?

「メイドゴーレム?ああ、護衛特化型のゼクス五姉妹をですか?」

 土属性魔術師である彼女が、他の土属性魔術師に錬金を頼む事の恥ずかしさの方か?だから目を逸らしたり赤面してモジモジしたのか?隣のニーレンス公爵を見れば真剣だな。

 いや、違う!そんな事じゃない。ニーレンス公爵家が、ゼロリックスの森のエルフ族と盟約を結んでエルフの護衛を付けているのにゼクスシリーズが欲しい?

 それは四六時中側に護衛が居ないと危険な状態になっているのか、コレからなるのか?公爵令嬢が危険に感じる程の何か……

 アイン達は駄目だ。彼女達は、イルメラ達の守りの要であり他人に譲渡など出来無い。ゼクス達は五姉妹で連携する事で最大の効果を発揮する仕様に、後から成長してなった。主に義父達との模擬戦で、苛烈な攻撃を防ぐ為に編み出した連携だ。

 アインとゼクスシリーズ以外の貸出可能な護衛特化型ゴーレムを錬金して対応するしかない、この話は根が深そうで聞くのが怖い。だから詳細は聞かない。

「メディア様のワルキューレを模したゴーレムも錬金可能ですが、目立たないメイド型ゴーレムの方が良いですか?」

「そうだな。護衛は目立たぬ方が良い、メイド型ゴーレムが良いだろう」

 やはりだ、やはり彼女に危機が迫っている。愛娘の願い事と言いながら、仕様に関して口を挟んで来た。つまりエルフ族の護衛では守り切れない不安が有るんだ。

 目を閉じて腕を組んで考える。考える動作を二人に認識させる為で、考えはもう固まっている。新しい護衛特化型ゴーレム、名前は十一番目の娘だからエルフだ。

 空間創造から、ツインドラゴンの宝玉を三個取り出し両手で包み込む様に持ち魔力を浸透させていく。ゼクスシリーズは、戦闘中に僕を守る為に錬金したが、エルフは護衛特化。

 守る事のみを追求して攻撃力を犠牲に防御力を極限にまで高めた、ボディガード専用の特化型ゴーレムにする。それと影の様に寄り添う黒豹型ゴーレム、パンターとレオパルト。

 エルフは常に寄り添い、パンターとレオパルトは影の如く控える二重の守り。

「では、護衛特化型ゴーレム……エルフ!」

 保有魔力の八割を注ぎ込む、有る意味アイン達よりも魔力を込めて作り込んだ現時点最強の護衛特化型ゴーレム。膨大な魔力に、近くに控えていたニーレンス公爵家の護衛が危険を感じて部屋に飛び込んで来て……

 パンターとレオパルトに取り押さえられた。公爵直属の護衛達を、怪我無く無力化するとか……うん、エルフと二匹の黒豹の連携は、もう少し調整が必要かも知れない。今後の課題だな。

「リーンハルト様?あの、この子達は?ウチの護衛達が、こんなにも簡単に取り押さえられるなんて……」

 能力的には成功、護衛としてのスキルはコレから教育していくしかないか……取り敢えず護衛の皆さん、申し訳なかったです。

 


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