古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第666話

 ニーレンス公爵に、魔牛族のミルフィナ殿の相談の為に執務室にお邪魔させて貰った。事前に親書で内容は知らせて有るので、挨拶と軽い時事ネタを挟んだ会話の後でと思ったのだが……

 微妙に不自然な会話の流れで、メディア嬢に護衛特化型ゴーレムを錬金して欲しいとお願いされた。愛娘の頼み事を建前として、ニーレンス公爵本人が要求してきた。

 つまりゼロリックスの森から呼んでいる護衛、ファティ殿でも守り切れない状況に追い込まれる危険性が高いんだ。エルフ族のファティ殿は、四六時中護衛はしない。

 エルフ達は基本的に人間を見下す……まぁ彼女達はマシな方だが、風呂やトイレまで同行して親身な護衛はしない。出掛ける時に同行するとか、そう言う緩い拘束だろう。

 だから四六時中同行してもストレスが溜まらない非生命体のゴーレムを護衛として欲しがった。アイン達やゼクス達は、既に相応の結果を出し評価されている。

 彼女達の誰かをメディア嬢に渡す訳にはいかない。だから新しいシリーズ、十一番目の娘として錬金した護衛特化型ゴーレム、その名はエルフ。

 万能型のゴーレムクィーンの、アイン・ツヴァイ・ドライ・フィア・フンフ。防御型の、ゼクス・ズィーベン・アハト・ノイン・ツェーン。そして護衛型の長女エルフ。

 彼女はメイドの姿をしているが、両腕に三個ずつ『魔法障壁の腕輪』を装備し、スカートの中に花弁を模したフロートベイル(浮遊盾)を六枚装備。

 服装はニーレンス公爵家のメイド服を参考にしている。金髪を肩の上で切り揃えた髪型、マスクは我が家のメイド長を参考にした。ゼクス達と同じなのだが、一番しっくりとくる。

 常に護衛対象者から離れず防御に徹する、魔法障壁の腕輪や浮遊盾が抜かれたら最後は身を挺して庇う。その鋼鉄製の身体には、何回も固定化の魔法を掛けたので強固だ。

 そして守備に徹しても襲撃者を倒さない限りは安全が確保出来無い。故に影の如く周囲に控える二体の黒豹型ゴーレム、パンターとレオパルトも錬金した。

 ゴーレム故に気配を感じさせず、豹型だから地に伏せる形で待機出来るし、エルフが呼べば離れていても直ぐに来る。彼女達は攻撃特化、死角から襲撃者を襲い倒す。

 艶消しの黒色の身体、体長は2m前後。ゴーレム故に野生の黒豹よりも何倍も力強く素早い。その牙や爪は、フルプレートメイルどころか鋼鉄製の盾をも切り裂く。

 だが初めて錬金したので、エルフとパンターとレオパルトの連携が拙い。これは徐々に覚え込ませるしかない、仕方無いね。初めての子達だからね。

 今後も護衛型ゴーレムを欲しがる連中が出て来ると思うが、王族か公爵家の親しい連中以外は無理だろう。そして今回は一つ制約を掛ける事にする。

「リーンハルト殿?ウチの精鋭護衛達がだな、そのなんだ……」

 ニーレンス公爵の困った顔は中々見れないのだが、当主たる彼の護衛ならば精鋭中の精鋭。簡単に無力化は不味かった、護衛達の面子は丸潰れだよ。

 パンターとレオパルトに拘束を解かせて軽く頭を下げる。苦笑され、英雄殿のゴーレムなら仕方有りませんと言われたが内心は悔しいのだろう。

 握った拳には力が入っているし笑顔もぎこちない。本当に考え無しで申し訳なかった、次は気を付けます。

 ニーレンス公爵も仕方無いと言ってくれたが、多分余計に駄目だった。彼等は今日から過酷な修練を積むのだろう。次に恥を掻かない為に……

「簡単に我が家の護衛達を無傷で制圧する、この子達は?」

 ふむ、メディア嬢にとっては黒豹型ゴーレムもこの子扱いか。ニーレンス公爵は警戒し及び腰なのに、彼女は肝が据わっている。

 だから自身の危機も理解しても、気丈に振る舞うか。最初よりも更に評価を何段階か上げないと駄目だな。上級貴族の蝶よ花よと大切に育てられた割には芯が強い。

 ジゼル嬢が嫌々ながらもライバルと認めるだけの事は有る。だから守りに関しては妥協せずに協力するか、敵は身内で厳しい相手なのだろう。権力争い相続争い、本当に嫌になるな。

「彼女は、エルフ。僕の十一番目の娘、護衛特化型ゴーレム。防御型じゃなく護衛型、対象者を守る事に特化しています。僕と同等の魔法障壁を六重に張れ、スカートの中にフロートベイル(浮遊盾)を同じく六枚隠し持つ。我が義父達の本気の攻撃でも最低四回は防げるでしょう」

 僕の説明が終わると、エルフが腹の前で手を組み軽く頭を下げた。彼女の両腕に仕込んだ『魔法障壁の腕輪』は六個、つまり六重の魔法障壁を張れる。

 フロートベイルも六枚、全方位に展開出来る。魔法障壁と組み合わせれば死角は殆ど無い、エルフの守りを抜くには我が義父達が全員で本気の攻撃を何度かしなければならない。

 鉄壁に思うだろうが、性能的にはアイン達ゴーレムクィーンの方が高い。護衛対象者は戦う者ではないから、エルフは戦闘のサポートは出来無い。

 因みに武装は一切無い、その分を自動修復や身体の強度の強化に回した。硬さだけなら、ゴーレムクィーンに匹敵する。メイド服も同じく、固定化の魔法を重ね掛けしている。

「護衛特化型だから攻撃手段を持たない。故に攻撃は黒豹型ゴーレムの、パンターとレオパルトの二体が受け持ちます。この子達は隠密行動も可能、離れていても直ぐに駆け付けます。人型よりも目立たず狭い場所も素早く移動出来ます。この子達は連携が基本ですが、これから学ぶ事も多いのが今後の課題かな?」

 逆に、パンターとレオパルトは身体の強固さよりも機敏さと攻撃力を高めた戦闘特化ゴーレムだ。馬ゴーレムは移動用、黒豹ゴーレムは戦闘用。

 中々の性能、艶消しの真っ黒なボディも目立たないが見れば確かな強さを感じるな。うん、自画自賛だが良い出来だよ……

◇◇◇◇◇◇

 かなって疑問系で且つ、ドヤ顔で話す悪友の婚約者の言っている意味が分からない。いや、内容は分かるが理解出来無いが正しいのでしょう。

 我が家の護衛はレベル50以上、冒険者クラスで言えばB以上の方々で日々厳しい鍛錬を続けている精鋭中の精鋭。王族の影の護衛にも負けないと自負していた者達。

 そんな彼等を一瞬で無力化する、黒豹型のゴーレム達が私の新しい護衛。しかも彼等は攻撃補助で、本命はエルフと呼ばれたメイド型ゴーレム。エムデン王国最狂の武人、バーナム伯爵達の本気の攻撃をも跳ね返すと言う。

 土属性魔術師である私も、リーンハルト様が錬金している所を直に見ても何をしたか理解不能。リーンハルト様は、古代魔術師のツアイツ卿の生まれ変わりだと言われても納得するわ。

 現代の魔術師の訳が無い常識外の殿方。エルフ族とドワーフ族と懇意にしていますし、失われた太古の魔法を教えて貰ったのよ。そう、古代魔術師の再来ね!

 ジゼルが最初に怖がったのを自分が体験して漸く理解したわ。でも彼は私が危険に曝されている事に気付いて、こんな常識外れな護衛を用意してくれた……

 つまり私も大切な仲間の括りの中に入ったのね。これで、ジゼルに一方的に自慢されないで済みますが……問題も思い付く限りで二桁は有りますわね。

「エルフ、君の護衛対象は彼女だ。誰からも彼女に危害を加えさせるな、全ての害悪から守れ。パンターとレオパルトは、全ての敵を殲滅しろ。慈悲無く容赦無く、全ての敵を倒せ」

 えっと、慈悲深く清廉潔白だと思われている彼から発する言葉に固まる。敵に対して容赦無いのは知っていましたが、私が護衛対象になるとこんなにも心強いのね。

 リーンハルト様は身内に対しては優しい、優し過ぎる事を弱点だと思っていたけれど実際は違ったわ。自重しない、この常識外の異常魔術師が自重しないのよ。

 東洋の諺(ことわざ)を借りると『逆鱗に触れる』だわ。ジゼル達に危害を加え様とすれば、彼が用意した護衛達に倒される。それこそ慈悲無く容赦無く……

「あの、リーンハルト様。これ程の護衛を用意されても、対価が払えませんわ」

 流石に対価無しでは貰えないわ。喉から手が出る程に欲しいけれど、最初は嬉しいだけだったけれど……落ち着いて考えれば、エルフを受け取れば相応の借りを返さなければならないわ。

「メディア様が傷付くと、ジゼル嬢が悲しむのです。勿論ですが、口にはしないし表情にも表さないと思いますが……悪友とは、そう言うモノらしいので気にしないで下さい」

 悪友、私とジゼルは悪友なのですね。まぁライバルより悪友の方が良いのかしら?気にしないでと言われても、それは無理ですわ。

 エルフが私の右後ろに立ち、パンターとレオパルトが左右に侍る様に寝転んだわ。でも彼女達の命令権は、リーンハルト様が握っている。

 お父様、物欲しそうに見ないで下さい。私だって、こんな凄いゴーレム達を貸し出してくれるなんて思ってもいなかったのです。

 しかも話の流れでは無償で……いえ、違うわ。魔牛族の件の対価?でも貰い過ぎよ。あの非常識な乳デカ女の仲介役の対価にしては貰い過ぎだわ。

「エルフ、君の主人はメディア様だ。何人たりとも彼女以外に君に命令出来る者は居ない。例え僕でも主人に危害を加えそうなら排除しろ」

「り、リーンハルト様?駄目ですわ、エルフ達は貸し出しにしないと駄目です。私を主人に設定出来ると知れ渡れば、他にも欲しがる者達が一斉に……」

 少し待って!話が急展開過ぎて着いて行けないわ。製作者さえも排除対象とか、実質的に主が私になってしまう。

 これ程のゴーレムを支配下に置けば、確実に私に手出しをしようとしている連中は手を引くでしょう。ですが新たな問題も引き寄せてしまうわ。

 下手をすれば国王よりも強固な護衛を侍らすのよ。取り上げるとか……いえ、献上しろとか騒ぐ馬鹿達が必ず湧いて出るわ。その矛先は私と、リーンハルト様に向かう。

「勿論ですが、対外的には貸し出しです。そして護衛対象者は優れた土属性魔術師でなければならない。この条件なら、対象者は殆ど居ないでしょう」

「それは、それなら……でも貴方に迷惑な連中が群がってしまうわ」

 言葉を遮られてしまったわ。リーンハルト様は仮に自分が敵対しても、エルフ達は私側に付いて私を守れと言ってくれた。

 これは重い。私のナイト様は本当に困った殿方、この私に御礼を何も思い浮かばせないなんて本当に困った殿方よ。

 未だ呆けている、お父様の膝を突っついて正気に戻させる。貰いっぱなしは駄目なのだけれど、金貨十万枚?二十万枚?いえ、もっとかしら?

「構いません。あとこの二つの腕輪を身に付けていて下さい。一回だけ魔法障壁を張れる使い捨ての魔法障壁の腕輪と、毒回避100%のレジストリング。これで防御は完全ですが、この二つは貸し出しです。秘匿して欲しいのと、事が済んだら返して下さい」

 100%回避のレジストリング?単発で魔法障壁が張れる腕輪?間違い無く国宝級、見た目は地味で機能重視だけど国宝級、公爵令嬢でも所持は無理。国王クラスが装備すべき逸品。

 確実に暗殺を防げる、敵の多い私達には必須のマジックアイテム!ですが少しだけ自重して、完全回避とか有り得ないわ。バレたら私でも、どうなるか分からない。

 お腹が、お腹がシクシクと痛んできたわ。断っても勝手に置いていくでしょうし、お父様に仲介役以外の対価の支払いをお願いしなければ駄目なのよ。

「リーンハルト殿。確かに嬉しい提案であり感謝すべき事なのだが、少々貰い過ぎだと思うのだ。魔牛族の仲介役にしては破格過ぎる、それは駄目なのだよ」

「いえ、ゼロリックスの森のエルフ族との関係を悪化させる程の問題を持ち込んだのです。これ位はさせて下さい」

 これ位?国宝クラスを幾つも渡しておいて、どの口が言うのですか?いえ、嬉しいのですが、口元が緩むのを抑えられませんが、こんなにも手厚い対応をしてくれるなんて……

 普通なら、この後で俺のモノになれ!か結婚して下さいなのだけれど……

「む、リーンハルト殿は頑固だな。魔牛族の女は、既に王都とゼロリックスの森の中間に位置する我が派閥の貴族の屋敷に足止めして持て成している。馬車で半日の距離だが、俺も同行しよう」

 まぁ妥当な提案ね。リーンハルト様は恐縮していますが、私達の方が恐縮するべきなのです。場所は、クロチア子爵のブルームス領地。

 自然豊かな湖畔に領主の館が有り、クロチア子爵も有能でお父様の信頼も厚い。魔牛族の失礼な女も、上手く扱っているでしょう。

 私も同行するわ。秘密裏に抜け出し直ぐに戻ってくる事になるので、夜に王都を発ち明朝会談し、その日の夜に戻る。強行軍になるけれど、受けた恩は返すのが常識ですからね!

 


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