古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第667話

 ニーレンス公爵と、魔牛族のミルフィナ殿の対応について話し合えた。既に彼の派閥構成員である、クロチア子爵の館に客人として招いているそうだ。

 勝手に王都に押し掛ければ、僕の不興を買い謝罪どころじゃない。そう説得してくれた事には感謝が尽きない、本当に有り難う御座います!

 クロチア子爵の領地ブルームス領は、自然が豊かで領民は山林を管理し伐採した木材を加工して販売し生活しているそうだ。

 狩猟も盛んで、王都では珍しいジビエ料理が有名らしい。ジビエとは野趣溢れた料理だと記憶している。熊や猪、鹿や兎を使った料理で最近人気で、王都でも専門の料理店を出したそうだ。

 そして、クロチア子爵の館は湖畔に建つ歴史有る建物らしい。湖も豊かな幸が取れるらしく、肉も魚も自慢だそうだ。ニーレンス公爵が賓客を持て成すのに良く使うとなれば、クロチア子爵は相当信頼されている。

 だが僕は今回初めて会う。数回の親書の遣り取りはしたが、基本的には挨拶程度だった筈だ。領地経営が得意で、余り王都には来ないらしい。

 秘密裏の会談なので、二日後の夜に王都を発ち翌日会談し当日の夜に王都に帰る強行軍になる。だが、ニーレンス公爵とメディア嬢が同行すると譲らなかった。

 エルフとパンター、それとレオパルトの御礼らしいのだが……因みに、ニーレンス公爵は鎧兜は要らないと言われた。財務系だし直接戦場には行かないので、気持ちは嬉しいが不要だそうだ。

 それにエルフ達の代金として、僕の屋敷に直接金貨三十万枚が運び込まれて驚いた。貸し借り無しにしたかったのに、結果的に借りが一つ出来た訳だ……

◇◇◇◇◇◇

 ローラン公爵とニーレンス公爵との話し合いを終えたが、双方共に僕への気遣いを再確認した。メディア嬢の危機については、ジゼル嬢に詳細を聞いておこう。

 何か有れば手を貸す事は厭わない。エルフとパンター、レオパルトだけでも十分だとは思うが、直接攻撃でなく政治的圧力なら役には立たないから……

 ザスキア公爵には既に専用の鎧兜を贈っているから大丈夫、バセット公爵は中立だから贈らない。既に出陣してるから会えないし、特に問題も無いだろう。

 公爵三家とは良き関係を続けたいので、今回の件は逆に僕の錬金術により貸しを作れたので良かったかな。ハンナは微妙な顔をしていたが、其処は諦めて下さい。

 王宮絡みだと次は、セラス王女とミュレージュ殿下だが……リズリット王妃との関係は微妙になったので、少し距離を置いた方が良い。

 残りは宮廷魔術師団員だ。二ヶ月間で人型ゴーレムの習熟度を上げられたか?僕の指示通りに訓練していたかを確かめよう。

 セイン達は、ニーレンス公爵の派閥構成員だから第三陣として出撃が決まっている。義父達が荒らした戦場を諸侯軍を率いて均す事になるから、セイン達の出番は有る。

 十二人が十体ずつゴーレムを操れば、百二十体の鉄の兵士達になる。三倍程度迄は対応が可能だし、セインのグレイトホーンを攪乱要員にすれば更に活躍出来る。まぁ制御範囲とか連携の慣れとか、問題は多々有るが……

 四属性最弱と蔑まれた、土属性魔術師の地位と名誉の回復の為に頑張って欲しい。それが可能な指導はしている筈だから、僕やニーレンス公爵に恥をかかせるなよ!

 ロッテに伝言を頼み、セイン達を練兵場に集まる様に指示を出した。課題だった人型ゴーレムの習熟度の確認だ。もしも人型以外のゴーレムの改良に勤しんでいたら……説教だ!

「お久し振りです、リーンハルト様。王命の達成、お見事です」

「お久し振りですわ、リーンハルト様。流石は私に辛勝しただけの事は有りますわ」

 二人の距離が近い、それに露出度が高かった筈だが普通に魔術師のローブで隠している。何か心情に変化でも有ったのかな?

 そして未だ辛勝ネタを使うの?勝敗は無いって事で、聖騎士団での問題行動を無しにした筈だぞ。

 高飛車な台詞は変わらないが、態度が随分と軟化しているみたいだな。目がキツくないし、浮かべる笑みも不快じゃない。

「ん?ああ、セイン殿もカーム殿も久し振りだね」

 僕は自分の配下の土属性魔術師だけに声を掛けた筈なのに、何故かカーム殿がセイン殿と並んで出迎えてくれた。他の風属性魔術師は居ない。

 デスキャンサー君に視線を送り無言で説明を求めると、両手の親指と人差し指でハートの形を作り溜め息を吐いた。つまり二人は熱愛中?

 邪気赤子(カースベビー)君と甲虫王(カブトムシキング)君にも視線を向けると、頷いて苦々しい顔をして何かを吐く真似をした。

 つまり砂糖を吐く程に甘々な熱愛中って事だな。前回男を見せたセイン殿に熱い視線を向けていた、カーム殿が惚れたのか?

 ガチの同性愛者を健全な異性愛者に矯正した、セイン殿を誇らしく思う。これで、ジゼル嬢に絡む事は無くなった。

 だが戦時中だし結婚は難しい、今は婚約者として公表し戦勝祝いに便乗して皆から祝福されて結婚の流れかな。

 下手に戦争で活躍してって考えると、無謀な事をしそうで怖い。『この戦争が終わったら、僕達結婚するんです!』は死亡フラグの上位らしいし……

 セイン殿は、ニーレンス公爵の率いる第三陣にて出陣する予定だ。危険は少ないが、戦争に絶対は無い。何か力に成れる事は無いだろうか?

「今日は課題の成果を見せて貰う。君達も第三陣として出陣が決まっているが、我等土属性魔術師の本領はゴーレム。そのゴーレムの集団運用の成果を見せて貰おう」

「つまり模擬戦ですか?今回は簡単には負けませんよ。必ず一矢報いて見せます」

 胸を叩いて宣言する彼に、カーム殿が熱い視線を向ける。やはり惚れたみたいだな。恋は同性愛者も変える、凄い事だ。

「セイン様、日頃の成果を見せ付けるのです。大丈夫、あれだけ鍛錬したのですから自信を持って挑みなさい」

「おうよ!新生ゴーレムの勇姿を見ていてくれ」

 相手を立てつつも叱咤激励をする。エム属性の、セイン殿には理想の嫁か。彼は叱られたり蔑まれたりが大好きな変態だから、相性は良いだろう。

 だが常日頃からコレらしく、他の宮廷魔術師団員達の表情は諦めと嫉妬が混じり合っている。同僚のイチャイチャ現場は見たくないのは分かる。

 彼等だって結婚していたり婚約者が居たり寂しい状況ではないが、貴族として相思相愛が珍しく羨ましいのかな?

『クソッ!俺だって、カーム殿の尻を狙ってたのに』

『僕の婚約者は未だ八歳、手も出せず人形遊びに付き合わされる日々なのに……何故、奴だけイチャイチャ出来るんだ』

『俺は政略結婚、冷え込んだ夫婦関係で別居中なのに、他人の熱愛を見る羽目になるとはな。今夜は妾の家に泊まってハッスルするか』

 後ろの連中の独り言が酷い。特に最後の奴は、仮面夫婦で妾に愛情を求めたのか?八歳の婚約者を性的対象に見てないのは合格、僕は幼女愛好家は認めない。

 ユエ殿?いや、彼女は実年齢は年上だから大丈夫。合法ロリ?そんな言葉は知らない。それに幼女形態の時は、他人に見られてない。

 親しい人達しか知らないから大丈夫、圧倒的大丈夫。だが妖狼族の巫女として、これから表舞台に出る機会も有る。僕の配下の巫女が幼女、騒ぐ馬鹿も居るか?

「では模擬戦を始めよう。手加減も遠慮も要らない、全力で掛かって来い」

◇◇◇◇◇◇

 セイン殿を中心に少し距離を取り左右に一列に広がった。ゴーレム制御は有視界が基本、他人の後ろに隠れては制御が出来無い。

 全員が錬金するのを待つ、心の中で数を数える。1・2・3・4・5……詠唱を始めてから26秒か。悪くないが、もう少し短縮したい。

 自分の前に横に五体縦に二列で合計十体、それが十二人分で百二十体。武装はショートソードだが手首から生えている、盾は無く予備の武器も無い。

 デザインが簡略化されているのは、構成パーツの数を少なくした為だな。良く見れば右手首からショートソードが生えているが、左手首はモーニングスターみたいな鈍器形状だ。

 右で斬り付けて左でブッ叩く、指は制御が難しいから潔く無くしたのか。コレットも同じで、彼のゴーレムはマンゴーシュが生えている。

 構成部材は鉄製だが今は十分だな。制御ラインは一体に対して三本、強さはレベル20前後か?滑らかな動きを見れば相当鍛錬したのが分かる。

 全体的にのっぺりした造りで威圧感に乏しいが、造形も殆ど同じだし集団戦としてならば十分に迫力は有る。リーダーだからか?セイン殿のゴーレムだけ、兜に牛の角が付いているな。

 距離は30m、お互いのゴーレムが走り寄れば十秒と掛からずに攻撃の間合いに入る。出来ればロングボゥで攻撃出来る様にしたいが、今は厳しいか。

 先ずは接近戦に慣れさせ、それからロングボゥや投げ槍を使いこなさせる様にしたい。特にロングボゥは攻撃範囲が劇的に伸びるから必須だな。

「練成速度も早くなったね。十分な成果だが、先ずは接近戦の能力を試させて貰うよ」

「二手に別れて何度も模擬戦を繰り返したのです。今回は楽に勝てると思わないで欲しいです!」

 む、デスキャンサー君の言葉に相当な努力をして自信を付けた事が分かる。だが、君のゴーレム、ショートソードとモーニングスターじゃなくてデスキャンサーの蟹爪じゃないか?

 良く見れば、邪気赤子(カースベビー)君は両方共に大振りのナイフ。甲虫王(カブトムシキング)君はクワガタの角か?部分的に個性を出しているが、まぁ許容しよう。

 練成後に微妙に陣形を変えてきた。僕と同じく前衛・中衛・後衛の三列だ。一列四十体、それが三列で百二十体。ならば僕も合わせよう。

「クリエイトゴーレム!無言兵団よ、集団戦の妙技を見せてみろ」

「相変わらず早い。三秒で同じく百二十体とか、未だ信じられない」

「僕等の十倍早い、一人で錬金して僕等と同じ数をだぞ」

「しかも手加減されてる。最下級のポーンだし、強さも同じレベル20前後。ゴーレムの制御力が試されている」

 ふむ、冷静だな。僕の意図を正確に掴んでも、慌てたり腐ったりしていない。優れた魔術師として良い傾向だ。それと強さを読み取る力も有る。

 力で押し切るのも可能だが、敢えて受け身で成長具合を確認する。彼等は戦場で生き残る為にも、ここで能力を確かめる。

 セイン殿に合図を送り模擬戦を開始する。前衛四十体が進み、中衛は少し距離を置いて動き出した。後衛は動かさない、自分達の守りか予備兵力か?

「小出しの様子見か?それは時と場合によっては悪手だぞ。ダメージを無視出来るのが、ゴーレムの利点だからね」

 一応問題点を指摘する。そして前衛四十体が、同じく僕の前衛四十体と戦闘距離に入る。全てのゴーレムがバラバラな動きで攻撃してきたのは、単調な制御はしていない証拠。

 だが甘い。宮廷魔術師団員は武芸は嗜んでいないから、動きがバラバラだが単調でも有る。最初は右手のショートソードを振り下ろすか突くかだけ、左手は動かさない。

 距離の取り方も微妙だ。近付き過ぎたり、ショートソードの攻撃範囲外だったり……離れて見ているから距離感を掴むのは難しく慣れしかない。

 最初は全ての攻撃をロングソードで払う。レベルは同じ20だが、切り払うタイミングや力の入れ方により何倍も威力が変わる。弾かれて後ろに下がったり、その場に座り込んだり。

 未だ制御が甘い。追撃の為に分かり易くロングソードを振り上げる、受けるか避けるか逃げ出すか……対応は中衛の乱入、前衛が僕のゴーレムに抱き付いての拘束。

 だが正面から抱き付いては、中衛の攻撃が僕のゴーレムに当たらないぞ。中衛のゴーレム達は、ショートソードを突き出して来たが抱き付いて来たゴーレムを盾にする。

 甲高い金属音の後に、攻撃を受けてダメージを負った前衛ゴーレムを中衛ゴーレムの方に蹴り飛ばす。半分は避けたが、半分は絡まって倒れた。

 すかさず後衛ゴーレムが接近。同じくショートソードを振りかぶっているが、単調な攻撃では雑兵には勝てても騎士には勝てないな。

 ゴーレムポーンの方が動きが素早い、ロングソードを振り上げて肘関節を破壊。そのまま振り下ろして胸から袈裟懸けに切り裂く。

 生き残り起き上がった前衛と中衛のゴーレムもロングソードから両手持ちアックスに武器を切り替えて叩き切る。そして模擬戦は終了、セイン殿達は大地に膝を付いた。

 良い傾向だ。悔しさをバネに更なる努力を重ねる原動力となるのだろう。成果は十分に確認出来たが、問題点も多々有る。彼等は武芸を嗜んでいないから、剣の扱い方が悪い。

 だが今更剣術の練習を始めても役には立たない、時間の無駄だし彼等も反発する。だが自分が身に付けないと、イメージが湧かないんだよな。

 僕は聖騎士団副団長の長男として、幼い頃から騎士の鍛錬もしていたから武芸は嗜む程度には身に付いている。対外的にも、そう思われている。

 だが彼等は幼い頃から魔術師として育てられたんだ。純粋に肉体は鍛えていても、武芸は嗜んでいない。ゴーレムが扱う剣技の向上、難しい課題だぞ。

 




今年一年の感謝の気持ちを込めて、12月は毎日投稿を行いますので宜しくお願いします。

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