古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第68話

 冒険者ギルドとデオドラ男爵は繋がっていた、僕の情報は何れ知る事になるだろう。

 だからウィンディアに僕のレアギフトを教えても問題は無い。

 ボス狩りによる連続十回ボーナスについては、何か冒険者ギルド側に世話になった時に対価として公表するので秘密にして貰う。

 漸く冒険者として専念する準備が出来た、先ずは冒険者養成学校を自主卒業し盗賊職の仲間を決める。

 

 ギルさん達盗賊姉妹かエレさんか悩む所だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「今日からお世話になります」

 

 翌日、ウィンディアが僕の家を訪ねて来た。

 

「同じパーティだし毎日デオドラ男爵家から通うのも問題だから、一緒に住む事にする。イルメラも仲良くしてやってくれ」

 

 彼女の立場は微妙だ、デオドラ男爵に定期的に報告の義務が有るだろうから毎日帰って逐一報告されるよりは同居した方が良い。

 月一とかに報告に行って貰った方が僕としても良いとイルメラに説明した。

 彼女は僕の言った事には従うのだが理由を説明し納得して貰った。

 

「勿論です。ようこそ、ウィンディアさん」

 

 納得すれども感情は別物なのだろうか、無表情で言葉に抑揚が無いから怖い。

 

「パーティの仲間としてお世話になるので、リーンハルト君の妾さんじゃないから安心してね。

当然だけどパーティ内の順位もリーンハルト君とイルメラさんの次で良いわ」

 

 ウィンディア、随分と下手に出るが上手くイルメラと馴染んで欲しい。

 

「パーティ内の順位は分かりました。この家での家事は分担制としますが、リーンハルト様のお世話は私だけが行います」

 

「そうね、イルメラさんは専属メイドですものね。私は手を出さないわ」

 

 妙な雰囲気だ……確かにデオドラ男爵はウィンディアを僕に与えると言ったが身請けした訳じゃない。

 あくまでもパーティの仲間として受け入れたんだ。それに僕の世話って、全てイルメラ頼りだな。 

  だが専属メイドとして雇用してるので仕方ない、いや当然だよ?

 

「玄関で立ち話も何だから中に入ろう。ウィンディア、『ブレイクフリー』加入を歓迎するよ」

 

「今日から私達は仲間です、共に助け合っていきましょう。

ですが貴女の事情も聞いていますがリーンハルト様に害を為すなら全力で排除します」

 

 イルメラ……今までは無表情だったが、此処で真剣な表情で釘を刺したな。

 

「勿論よ、私はリーンハルト君の不利益になる事はしないわ。命の恩は忘れてないから」

 

 ふっと表情を緩めて握手した、何かの合意が得られたらしい……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、定刻に起きて食堂に行くとイルメラとウィンディアが食事を作っていた、謎の合意の後、仲良くなったらしい。

 

「リーンハルト君、おはよう」

 

「リーンハルト様、もう暫くお待ち下さい」

 

 急に華やかになった、気恥ずかしい感じがする。

 

「む、分かった」

 

 大人しく食卓に着いて暫し待つと朝食が運ばれてきた、今朝はライ麦パンにハムとチーズ、スープは初めて見るな。

 

「スープはウィンディアさんが作りました」

 

「えへへ、マウルタッシェと言って田舎料理なんだけどね、具のパスタの中に挽肉とほうれん草を刻んで詰めてナツメグを隠し味とフレーバーにしてるの」

 

「ウィンディアさんの田舎の料理は興味深いので、私も教わろうと思います」

 

 何時の間にか仲良くなったらしい、女の子って不思議な生き物なんだな。僕では到底理解なんか出来ないや。

 食後に今後についての細かい話をした……

 

「これから冒険者ギルドに行ってウィンディアのパーティ加入と指名依頼達成の手続きをする。

その後で冒険者養成学校に行って自主卒業だけど、ウィンディアはどうする、まだEランクだろ?」

 

 まだ強制実地研修も残ってるし暫く通って学ぶのも悪くないだろう。

 

「ん、一緒に卒業するわ。リーンハルト君が居ないなら意味ないし、パーティとして行動した方がポイント稼げるわよ」

 

 確かに僕とイルメラがDランクだからウィンディア一人がEランクでもDランクの依頼は請けられる。討伐系の依頼なら短期でポイントを稼げるだろう。

 

「じゃ一緒に卒業だね。後は盗賊職の子を一人加入させたいんだけど……」

 

「候補が三人いるわね。一人ずつ臨時パーティを組んで相性を確かめる?」

 

「む、うん……まぁそうだね」

 

 ウィンディアは一緒に冒険者養成学校に通ってたから彼女達の事を知っているんだよな。

 ベルベットさんにギルさん、それにエレさんだけど能力的には誰を選んでも問題無いと思う。

 エレさんのギフト『鷹の目』は魅力的だが決定的じゃない。『鷹の目』は野外で効果を発揮するので魔法迷宮では使えない。

 

「彼女達の能力は優れているから誰を選んでも問題無いと思う。

後はパーティ内での相性だね、ギスギスしてると能力を全て発揮出来ないし思わぬ危機を招くかも知れないし……」

 

 パーティ行動は基本的に助け合いだ、個々に勝っていても個人主義だと限界が有るから互いの不足分を補って成り立つんだ。

 僕もイルメラと二人では限界を感じていた。

 

「ふふふ、リーンハルト君の『ブレイクフリー』はハーレムだよね。

イルメラさんと私って美少女を抱え込んでるのに、もう一人女の子を迎え入れるんだから」

 

「ち、違うぞ!そんな思惑は無い……」

 

 ウィンディア、真顔で何を言い出すんだ!

 

「そうなんですか?では最後のメンバーは厳選しないと駄目ですね」

 

 イルメラ、凄い笑顔だが何を基準に厳選するんだ?

 

「パーティメンバーの選定は二人に任せる、三人の中から選んでくれ」

 

 無言で目を合わせ頷く二人に全ての決定権を委ねる事にした。

 僕が口を出すと揉めそうなんだよな、選んだ子が僕の好みなのね、とか言われそうで嫌だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 王都の冒険者ギルド本部に来た、やはり噂が広まっているらしい。

 正面入口から一階のホールに入った途端に喧騒が消えて、ヒソヒソ話が始まった。

 

「奴等が『ブレイクフリー』か……子供の癖に『口裂け』と『錆肌』を倒したとか……」

 

「ラコック村の英雄様が冒険者ギルドに女連れで来ましたとさ」

 

「一回の討伐で複数依頼を達成してFからDに一気にランクアップとは羨ましい」

 

「何でもデオドラ男爵に取り入って魔術師の女を与えられたとか。自分も魔術師の癖に独り占めすんな!

一緒に居るあの子がそうか?美少女だな、クソが!」

 

「女僧侶に女魔術師かよ。ハーレム野郎はモゲろ、シネ!」

 

  聞くに耐えない罵詈雑言をヒソヒソ話の癖に何とか聞こえる大きさで喋りやがって……

 なるほど、クラークさんが頑張れって言うのが分かる、精神的に辛い。

 これが有名になる弊害の「やっかみ」か、これ位は耐えて当り前だけどね。

 空いているカウンターに向かい用件を伝えると直ぐに手続きをしてくれる。

 大量のビックビーの毒針を出した時に少し騒ついたが、騒ぐのは低ランクで高ランクの連中は我関せずみたいだ。

 所詮は近年の新人では四番目に凄いという微妙な立場の僕だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト様、これからどうしますか?」

 

「そうだな、少し遅れたけどバンクに行こうか。

冒険者養成学校の方にはギルド本部側から連絡を入れてくれるから行かなくても良くなったし……」

 

 ギルド本部の建物と繋がっているので事務処理は一緒に出来るそうだ。短期間しか一緒に学べなったが挨拶位はした方が良かったかな?

 いや、噂が広まってるし彼等も同期生が半月で卒業とか嫌だろう。だからベルベットさん達に言付けだけ頼んだ。

 

「分かりました、乗合い馬車の停留場に行きましょう」

 

「バンクか……今度は頑張らないと駄目ね」

 

 魔法迷宮バンクはウィンディアと初めて会った場所だ、色々と問題が有り詳細は言えないが……

 

「ウィンディア、バンクでは三階層のボスであるビッグボアを狩るよ。レアドロップアイテムの肝を集めているんだ」

 

「三階層のボスか……前はスルーしたのよね」

 

 ん?『デクスター騎士団』ってレベル上げにボスを利用しなかったのか?

 

「階層毎のボスと戦わなかったの?最初の頃にボス部屋で会わなかったっけ?」

 

 確かボス部屋で休憩してて待たせてしまった記憶が有るのだが……イルメラを見ても不思議そうな顔をしているし。

 答えを聞く前に停留場に到着したので会話を止める、知らない奴に聞かれたくない内容だし……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 停留場の待合室には見知ったパーティは居なかった。

 僕達の他にバンク方面に行くのは二組居る、全員がフルプレートメイルを着込んだ六人組の攻撃特化型編成と戦士四人盗賊二人のバランス型編成。

 共に全員が男だが年齢にはバラツキが有る。

 今日の僕は革鎧の上に黒いローブ、イルメラは修道服でウィンディアは白いローブを着ている、後衛職オンリーの魔法対応型パーティだ。

 乗合い馬車に乗り込む迄はジロジロ見られたが話し掛けては来なかった。

 

 だが乗ってから暫くして……

 

「魔術師二人に僧侶一人とは贅沢なメンバーだな」

 

 フルプレートメイルを着込んだ一団のリーダーと思われる青年から話し掛けられた。

 僕も彼等を観察していたが、多分だがボッカ達よりも強い。それに装備品の質も悪くない、中堅のパーティだと思う。

 

「そうですね、でも役割分担も出来ている理想的なパーティだと自負してます」

 

「君だろ?ラコック村の英雄『ブレイクフリー』のリーンハルトって奴は?俺は『黒鉄兵団』のスパイクだ、まぁ宜しくな」

 

 噂の広まり方が予想以上に早い、出会う冒険者ギルド関係者の殆どが知っているって変じゃないか?

 

「お察しの通り、僕が『ブレイクフリー』のリーダー、リーンハルトです。宜しく先輩方」

 

 先輩か、俺も養成学校出だからOBだけどよって呟いたが両方の意味で先輩だったか。

 他のメンバー達も敵意は無いがフルフェイスの兜だから表情が分かりにくい、一応面は上げてくれているが影になってるんだ。

 

「先輩方はバンクを攻略中ですか?」

 

「ん?ああ、今は六階層を攻略してる。六階層に現れる「彷徨う鎧兜」はな、何故か倒すと武器が残るんだ。

大抵は普通のロングソードだが結構な確率で魔力付加された物も残す。

バンク攻略中の連中は、六階層でコイツ等を倒して金を稼ぎ装備を整えて七階層に挑むのさ。

七階層からはモンスターの強さが格段に変わるからな、お前等も準備を怠るなよ」

 

 バンクの七階層、「彷徨う鎧兜」か……

 

 情報としては冒険者ギルドで買った地図に書いてあったが未だ先と思って細かくは調べてなかったな。しかし親切だな、何故教えてくれるんだ?

 

「有り難う御座います。僕等は未だ三階層を攻略中なので七階層に降りるのは先ですが、参考になりました。でも何故教えてくれるんですか?」

 

 対価の無い善意を疑う訳ではないが、今迄の事を考えると親切過ぎて怖い。すると少し考えた様な顔をして教えてくれた。

 

「お前等なら直ぐにCランクまで上がってくるからな。俺達冒険者は周りが皆ライバルだが、敵というわけではないんだぞ。

下の奴等は知らんがCランク以上の連中は極力協力するのが暗黙のルールだ。

だからこそ、貴族や他の圧力を跳ね返せる。

勿論、自分達優先の連中や貴族様が二足の草鞋宜しく冒険者をやってる連中も居るけどな。

個人じゃ勝てないなら団結すれば勝てる事も有る。助け合いの精神だな、まぁ頑張れよ」

 

 そう教えてくれた……

 

 そう言えば今迄は高ランクの人達からの接触は殆ど無かった、それは僕等が未熟な低ランクのパーティと思われていたからか。

 バルバドス塾生やデクスター騎士団とかにしか絡まれなかったから周りの連中の程度が低いと傲っていたかも知れない。

 でも実際は彼等が僕を相手にしてなかっただけだ……やっと周りから認められ始めた、そして今迄と違い関係してくるのは高ランクの連中だ。

 

「漸く冒険者として周りに認められてスタートラインに立てたんだな……」

 

 これからが冒険者として本番って事なんだ。

 


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