古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第675話

 セラス王女の御機嫌伺いを無事に達成した。空を飛ぶか地に潜るか高速戦艦で川を下るか、巨大なセラス王女像に乗るか。

 普通なら有り得ないネタ的な提案をして、セラス王女の不機嫌さを好奇心に塗り替えた。結果的には安全策を取り、ライティングの魔法で光球の乱舞を見せる事で合意。

 但し条件は、今夜は王宮に泊まり晩餐会に出席。月見を兼ねた夜会で、ライティングの魔法を少数に披露する。大々的にじゃなく、セラス王女の為だけに……かな。

 その準備を任されたのが後宮の裏の支配者、レジスラル女官長だ。彼女は僕の最初の非常識な提案に御不満らしく、少し機嫌が悪い。

「リーンハルト卿、おふざけが過ぎました。危険を伴う提案は、私的には許可出来ません」

「セラス王女は凄く不機嫌でした。彼女の機嫌を回復するには、非常識な提案で気持ちを切り替えて貰うのが一番。その為のネタ的な提案で、本命のライティングの魔法に繋げる振りだったんです。兎に角、セラス王女には楽しんで貰いたい。その為の提案で、本気では無かったですよ」

 隣を歩く、レジスラル女官長に話の流れの為に仕方無く非常識なネタを振り気持ちを切り替えて楽しんで貰う。そんな気持ちで提案したんですと説明する。

 実際は、リズリット王妃への牽制と嫌みを含んだが、セラス王女は分かっていない。リズリット王妃も、僕が嫌みを言ったとは思わないだろう。

 レジスラル女官長は微妙だ。もしも空を飛びたいとか頑固に拘れば、前例も無いし安全対策など分からないからだ。慣例や前例って、大事ですよね?

「まぁ実際に、空も飛べるし地にも潜れる。高速戦艦での川下りも、巨大セラス王女像に乗るのも可能。安全対策も、大丈夫でしたよ。目的は、セラス王女に喜んで貰い機嫌を回復する事でしたから」

「貴方と言う人は……ですが高速戦艦の話は、セラス王女からリズリット王妃に伝わります。あの方は祖国マゼンダ王国の海軍増強計画に拘りが強い、あのゴーレム動力源の軍艦の話は……」

「僕が高速戦艦に乗り込まない限りは意味が無く、エムデン王国の海軍に僕が手を貸す事は限り無く低いでしょうね。他国ならば更に低くなるでしょう」

 横を歩く、レジスラル女官長の表情を盗み見る。僕がリズリット王妃に嫌味な仕込みをした事を口の端を僅かに上げるが笑ったよ。

 つまり、レジスラル女官長に取っては、リズリット王妃の価値は低い。王妃とは言え、アウレール王のエムデン王国の王家の血は継いでいない。

 コッペリス新女男爵の件で色々やらかしたから、レジスラル女官長の心の中での優先順位は限り無く下がったな。サリアリス様やザスキア公爵と連携し始めたし、王妃相手でも対立出来る。

 この段階で確認出来て良かった……

「晩餐会に出席するならば、何時もの通り入浴し身を清めて下さい。後で人を送ります」

「え?あの侍女達ですか?その、遠慮したいのですが……それに、アウレール王との謁見の時だけの特別なのじゃないでしょうか?」

 思わず歩みを止める、あの侍女四人の入浴介助は拷問なんだぞ。国王に謁見だから特別だと諦めたのに、王女との晩餐会でも適用されるのは辛い。

 レジスラル女官長が嬉しそうに嗤った、いや嗤いやがった!嫌がらせだな、クリスの件を根に持っているんだろ?

 身嗜みを整える事は理解出来るが、風呂に入る必要は無いんじゃないか?いや、無いだろう。僕は一人でも入れる、介助は要らない。

「晩餐会は、アウレール王とリズリット王妃、サリアリス様も参加します。本日は、ロンメール殿下とミュレージュ殿下も王宮に居ますので参加します」

「え?ロイヤルファミリー揃い踏み?それは……くっ、仕方無いですね」

「分かれば宜しいのです。では私の先導は此処までです。午後六時に使いを送りますので、執務室で待機していて下さい」

 立ち話になってしまっていたが、どうやら王族の生活区の外れに着いていたみたいだ。レジスラル女官長の同行は此処まで、後は一人でも大丈夫か。

「分かりました、指定の時間には待機しています」

「ライティングの魔法、私も楽しみにしています」

 ロンメール殿下の側室である、キュラリス様が参加しないのに臣下である僕が主賓として晩餐会に参加とは胃が痛い。ロイヤルファミリーの中に、何故混ぜる?

 当然だが、そのメンバーの前でライティングの魔法の御披露目となる。キュラリス様は、ライティング魔法の御披露目には参加になるだろう。

 サリアリス様が同席してくれるだけでも気休めになるけど、僕と王家が親しい関係だと知らしめる為にしては大袈裟だと思うぞ。

◇◇◇◇◇◇

 執務室に戻り最初にした事は、今夜は王宮に泊まるので帰れない事をアーシャに伝える手紙を書く事だ。嘘は書かずに正直に、王家主催の晩餐会に呼ばれた為と書く。

 帰国してからは夕食は皆で一緒にと決めていたが、セラス王女からの晩餐会の招待を断る事は不敬だ。アーシャ達も納得してくれるだろう。貴族的常識から言えば、名誉ある事だから。

 変に誤解さえ招かなければ大丈夫、だけど明日以降も魔牛族絡みの件で、ニーレンス公爵とメディア嬢と共に夜からブルームス領に行かなければならない。一泊二日の隠密強行軍と大変な日程だ。

 クロチア子爵の所に滞在している、ミルフィナ殿に会わねばならない。謝罪を受ける側が苦労する、彼女は僕の苦労など気にもしていない。

 姉と慕う、レティシアに叱られた事を悲しんで早く謝罪して報告したい。その程度だ、本気で謝罪するなら相手の事を調べて配慮する。

「楽しみは自然豊かなブルームス領の湖畔に領主の館での会食だけだ。山と川の幸が豊富だと聞く、食べる事だけが楽しみとは苦行だな……」

 愚痴りながらも手紙を書き終えたので、オリビアを呼び出して屋敷へ届けて貰う。リゼルは公休を取って僕の屋敷に遊びに行った、ジゼル嬢と意気投合したから。

 ユエ殿もアーシャを母様みたいと慕い懐いていて、今日も遊びに来ている。新しい妖狼族の里の件は、ウルフェル殿が一任されたみたいで嘆いていたよ。

 妖狼族連中には万能である、女神ルナが僕との縁を強めろと御神託を下したそうで、ユエ殿は僕の屋敷に入り浸っている。まぁ妖狼族の繁栄的には間違いではないのか?

「ふぅ、親書の返信書きが漸く終わったよ」

 トレイに乗せておけば、専属侍女達が届ける手配をしてくれる。これでバーリンゲン王国に行っていた時の親書は全て処理出来た、後は毎日数通来る分だけで良い。

 執務室に待機と言われたので、みっちり籠もって親書の返信が書けたが肩は凝るし指は痛い。目も微妙に疲れた、少し休むか。

 椅子の背もたれに身体を預ける。両手を上げて身体を反らすと、ゴキゴキと嫌な音が鳴る。上半身が凝り固まっていたみたいだ。

 首と肩をグルグルと回すと少し楽になる、転生後の十代半ばの肉体は疲労回復が早い。前は二十代後半、少しずつ肉体的な衰えを感じ始めていた……いや、肉体的には円熟期だったか?

「夕焼けか、空が燃える様に真っ赤だな……」

 窓から見る夕日が地平線に沈みかける一時、差し込む夕日で執務室が燃える様に真っ赤になる。ウィンディアは白亜の王宮に夕日が当たり炎上してる様だと評したっけ。

 王宮が炎上したら王都陥落だな、縁起が悪いが若い淑女の感性は僕には分からないし結構どうでも良いみたいな?他人に聞かれなければ、特に問題も無い。

 窓際に近付き、窓の下の景色を見る。警備兵の鎧兜が、夕日を反射して煌めいている。彼等は常に鎧兜をピカピカに磨いているから、余計に眩しい。

「リーンハルト様、王宮警備兵の方々がいらっしゃいました。お通ししても宜しいでしょうか?」

 セシリアが伺いに来たが、少しだけ緊張している?厳つい男達だし、淑女には厳しい相手か?いや、あのセシリアが警備兵程度には怯まないだろ。

「ん?方々?構わない通してくれ」

 王宮警備兵か、ロンメール殿下の護衛として、アドム殿とワーバッド殿を思い出す。配下の連中も鎧兜に固定化の魔法を掛けたから、全員と面識は有る。

 もしかしなくても、アウレール王が話を通してくれたのだろう。本当に動きが早い、此方も資料の作成を急がないと駄目だ。

 貴族街と新貴族街の地図の用意だが戦略性の高い物だから、流用するには手続きが必要。保管は確か貴族院だった、貴族絡みの資料は全て管理している。

 王都に住む貴族の住所は厳重に管理しているし、逐次更新もしている。僕も二回の引っ越しで、必要事項を書いて渡したな……

「失礼致します、リーンハルト卿。王命により、王都の特別警備担当になりましたので上官に挨拶に参りました」

 上官って……臨時の配下って事だと思うけど、相変わらず固いなって?

「何故に傷だらけ?」

 おぃおぃ、一戦交えて来ました的に傷だらけじゃないか!口の端から血を流したり痣とかも、大捕り物の後か?

 そんな治安に不安が出そうな事件とか作戦の報告が上がってない、もしかして見落とした?いや、そんな事は無い。

 セシリアの肝が据わっていても、厳つい男達が傷だらけで四人も居れば怖じ気づいても仕方無いな。うん、悪い事をしたよ。

「アドム殿にワーバッド殿それと、ジェクド殿にペシア殿。何故に傷だらけなんだ?治療の為に水属性魔術師を呼ぼうか?」

 大怪我じゃないけど、生身で殴り合ったみたいな傷だな。喧嘩か?王宮警備兵が?いや、厳しい対人訓練の後か?

「いえ、大丈夫です」

「誰が、リーンハルト卿の下で王都の治安を守るのか?」

「実力無き者は不要!」

「己の肉体のみを武器に戦い、勝ち残った四十人が配属されました!」

 いや、ビシッと整列されて敬礼されたけどさ。四十人って事は、一班十人で四班か?アドム殿達が小隊長か?

「再び、リーンハルト卿の下で戦える喜び。だが募集は半数以下」

「ならば正々堂々ハンデ無しで戦うのみ」

「我等、王宮警備兵の中から勝ち抜いた真の戦士です」

「リーンハルト卿の指示に従い、エムデン王国を害する者共を殲滅します」

 いや、サリアリス様の専属侍女達みたいに台詞を分けて続けて話さなくても良いんだぞ。つまり王命が下されたが、参加出来るのは四十人。

 王都の治安を守る誇らしい仕事、しかも王命だし譲り合いなど無かった。完全に己の力で勝ち取って、そのまま此処に突撃して来たのか。

 彼等の実力は確かだし、仕事を任せるにしても不安は無い。いや、前は無かったが今は不安だ。不安しかない。

「先ずは怪我をした全員、治療してきなさい!此処に居ない怪我をした者もです。セシリア、悪いがラミュール殿に頼んで宮廷魔術師団員に治療させて下さい」

 パンパンと手を叩いて、アドム殿達を執務室から追い出す。怪我としては軽いし、ポーションを飲めば全快する程度だけどさ。

 治安維持部隊が傷だらけも問題だし、居ない連中が大怪我をしているかも知れない。

「あの、リーンハルト様」

「ん?セシリアか。怪我だらけの男達で驚いたと思うけど、根は良い連中だから大丈夫だよ」

 

やはり困った顔をしているな。何か理由が有るみたいだ。

「えっと、他の侍女が教えてくれたのですが……」

 セシリアの話を纏めると、アウレール王が命を下したのは僕の下で王都を守る人員を四十人選抜しろってだけで、選ぶ方法は指示されなかった。

 僕の人気もだが、アドム殿達は既に僕と仕事もして鎧兜に固定化の魔法まで掛けて貰った狡い連中で同僚からも妬まれていた。

 更に今回は王命であり王都の守りと守備兵としての本懐、他人に譲る事など出来無い。手の空いた者から練兵場に殺到し、壮絶な選抜戦が勃発。

 相当数の怪我人が出たが、ラミュール殿が配下の水属性の宮廷魔術師団員を率いて治療し順次通常任務に送り出し、業務に支障が無い様に対応してくれた。

「えっと、ラミュール殿に御礼と御詫びに行かないと駄目だよな。セシリア、悪いが……」

 

ラミュール殿には、一応認められたが、接点は少ないし苦手なタイプなんだよな。だが迷惑を掛けた上に手間まで掛けさせてしまった。

「はい、ラミュール様は既に執務室に戻られましたので、面会を申し入れてきます」

 うん、王宮内で騒ぎを起こした責任は、僕と隅で恐縮し縮こまっている王宮警備兵達だな。先ずは、ラミュール殿に会って詫びよう。

 レジスラル女官長辺りにも、説明と謝罪が必要だろうな。まさか配下の選抜で、通常業務に支障が出る騒ぎとかさ。

 悪気は無いしヤル気は多いけど、もう少し考えて欲しいんだ。割と切実に本気で……まぁ嬉しかったのは事実だけどね。

時間も六時迄には余裕も有るから大丈夫だが、早めに切り上げるつもりで行くかな。

 




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