古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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今日で投稿を始めて満五年が過ぎました。沢山の人達に読んで頂けて感謝しています、有難う御座いました。完結も見えて来ましたが、未だ続きます。これからも宜しくお願いします。


第676話

 王宮警備兵達が練兵場で派手にやらかした選抜戦、その尻拭いを水属性の宮廷魔術師団員と彼等を纏める、ラミュール殿にさせた。

 争いの理由が、短期とは言え僕の配下になりたいだから文句も言えない。正直嬉しかった、人付き合いが苦手な僕の下に来てくれるのだから。

 セシリアに御礼と謝罪をする為に、ラミュール殿に訪問の許可を取って貰い向かっている。何故か案内は、セシリアが張り切っている。

「リーンハルト様は、王宮の西側は初めてですか?」

「バセット公爵の執務室に近いけど、この辺に来るのは初めてかな。宮廷魔術師といえども、用も無く勝手に王宮内を動き回れないからね」

 見慣れない景色、僕の執務室からは中庭や城下の街の様子が見えるが、この辺は王宮内に有る果実園?が見える。前に貰ったプラムのジャムの産地だな。

 専属の庭師が手入れをしているが、収穫は侍女見習い達の仕事らしい。収穫して直ぐに見栄えの悪い物は加工するからかな?今は数人の庭師が剪定しているだけだ。

 宮廷魔術師は王宮の防衛の要なので、僕等の執務室は均等に離れている。ラミュール殿の隣は、リッパー殿か。彼も定期的な力比べには参加しているらしい。

 力は有るが問題児でもある彼の配下の風属性魔術師は親族だけ。残りは全て、ユリエル殿の配下としてハイゼルン砦に半数近くが配属された。

 同期でもある、フレイナル殿も十人程の火属性魔術師達を連れて行ったが、宮廷魔術師団員の運用は難しい。同じ系統を配下にしてるから、他の系統との連携は少ない。

 ラミュール殿の配下の水属性魔術師達は攻撃魔法よりも、治療系統の魔法に力を入れている。両騎士団や王宮警備兵達の治療も担当しているので、多方面に顔が利く。

「此方が、ラミュール様の執務室となります。専属侍女も私達の、仲良し派閥のお茶会仲間です。前回のお茶会で、リーンハルト様も会ってますわ」

「む、あの情報交換会か。フレイナル殿は羨ましく思うかも知れないが、謀略絡みの場で婚活会場じゃないんだぞ」

「フレイナル様を御招待する予定は、今後も有りませんわ」

「そ、そう?本人には言わないでくれ。落ち込まれて僻(ひが)まれても嫌だし……」

 他愛ない毒舌を含んだ会話の中に、色々な情報が埋もれている。当主の性癖まで暴露する恐ろしい集いなのに参加したがるとは、怖いもの見たさにしても無謀だ。

 セシリアが扉を四回ノックすると、確かに見覚えの有る侍女が出て来た。彼女は舞踏会で誰が誰に言い寄り、くっ付いたとか振られたとかの色事方面の情報に詳しかった。

 つまり言い寄られた相手が受ければ貴族二家の結び付きが強くなり、断れば中立か敵対寄り。同じ舞踏会に参加出来るメンバーならば、派閥内での関係の良し悪しか……

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様。我が主がお待ちしていますので、どうぞお入り下さい」

「ん、有り難う。世話になる」

 扉を大きく開いて招き入れてくれた。対応は一人だが、中にもう一人居た。ラミュール殿の専属侍女は二人らしい。僕は五人だが、本人の希望が通れば増減も可能らしい。

 通された執務室は、青色のグラデーションで統一された何とも寒々しい感じがする。夏は良いけれど、冬は嫌だな。飾られた花も青色って、そんなに青色が好きなのか?

 壁紙に絨毯、布張りのソファーもカーテンも青色。家具は木製だが、本棚の蔵書の背表紙も青色。水属性魔術師だからか?水属性魔術師の知り合いは少ないが、火属性魔術師のアンドレアル殿やフレイナル殿の執務室は赤くないぞ。

「あら、リーンハルト卿。随分と王宮警備兵に慕われているみたいですわね?」

 向かい側に足を組んで座る。威嚇じゃなくて女性らしさを押し出した感じだが彼女も独身で、ザスキア公爵の新しい世界に傾倒しているらしい。

 イーリンが嬉しそうに教えてくれたが、要らない情報だ。年下趣味に嵌まっても、僕は対象じゃないらしい。従順で大人しく儚い感じが好みらしく、僕は対極だな。

 本人は淑女然とした御姉様なのだが、夫婦になった場合は主導権を握りたいのだろう。爵位も役職も上なら、家でも夫に従うのも微妙か?

「今回の件は申し訳なかったです。要らぬ手間まで掛けて頂き、有り難う御座いました」

「ふふふ、構いません。負傷兵の治療も修行の内ですし、彼等も手加減はしていたので最悪の状況も有りませんでしたわ」

 簡単な挨拶の後で、ラミュール殿から少しの嫌みを貰った。王宮警備兵に慕われるは、お世辞か警戒か分からない。まぁ修行になるから構わないと許しては貰った。

 だが最初の頃よりも表情も態度も柔らかくなっている。初期の頃は中立で値踏みもされていたし、最近の行動と成果によって軟化したんだ。僕はエムデン王国への貢献度が高いから……

 その後は特に練兵場での件には触れず、近況報告みたいな内容の会話をする。僕の行動は結構な頻度で公(おおやけ)に発表されているが、彼女の行動は余り知らない。

 ハイゼルン砦に詰めている、マリオン将軍の情報は良く知っている。彼女は『雷光』と『毒付加の槍』を売ってから、定期的に新商品の情報を催促してくるんだ。

 二人は仲が良いらしく、マリオン殿からの親書に良くラミュール殿の事が書かれている。最近変な趣味を勧めて来るのが困るとか何とか……ヤバい、布教してるよ!

 マリオン殿は年上も年下も含めて異性への興味は薄いみたいで、結婚はせずに後継者は親戚から養子を迎える予定らしい。それも一つの家の存続方法だし、将軍職は世襲制じゃないから問題は少ない。

「リーンハルト卿の主導する王都の治安維持の為の巡回ですが、私達も協力したいのです」

「ラミュール殿の配下の水属性魔術師達をですか?」

 そろそろ切り上げて帰ろうとしたタイミングで、結構な大問題を言い出した。現役宮廷魔術師と配下の宮廷魔術師団員達を勝手に手伝わせて大丈夫か?

 戦力的な意味でも、僧侶と同じく治療出来る水属性魔術師は心強い。賊相手に王宮警備兵や聖騎士団が後れを取るとは考えられないが、犠牲者はゼロじゃない。

 だが色々と問題も有る。アウレール王からは、聖騎士団と王宮警備兵に話を通して貰ったが、宮廷魔術師関連は無い。故に許可と手続きが必要で、勝手に許可は出来無い。

「それは嬉しいのですが、許可が必要ですよ」

「リーンハルト卿を手伝うと言えば、アウレール王は許可しますわ。もっとも私が回れるのは、出陣する迄ですが……」

「え?ラミュール殿も巡回に参加する気ですか?」

「はい、不謹慎ですが少し楽しそうですよね。うふふふ」

 その前に、アウレール王は僕に甘いからって言われたけど……僕は国王に過保護にされていると、対外的に思われてるのか?いや、それは一寸考えさせられるのだが?

 それと僕は巡回の計画も手配もするけど、実際に巡回には参加しない。非常事態が発生したら駆け付ける予定なのだが、ラミュール殿は参加したいのか?

 不謹慎って言うか、現役宮廷魔術師第三席本人が貴族街や新貴族街を巡回?いや、それは色々と不味いぞ。いや、計画は僕が決められるから昼間安全なルートで参加して貰おう。

「不謹慎と言うか、ラミュール殿が参加して貰えるなら良い圧力となります。日程やコース、メンバーは僕の方で全体を調整しながら決めますが宜しいでしょうか?」

「責任者は、リーンハルト卿ですからお任せしますわ。私達は兵士達の治療が主なので、市井(しせい)の民との交流が少ないのです。貴方は領民との接触が多いのに、私は全く有りません」

 え?市井との交流?僕が主導するのは、貴族街と新貴族街の治安維持だぞ。王都の民は僕の帰国で落ち着いたけど、出陣による男手不在の不安を訴えた淑女達対策なのだが……

 ラミュール殿は勘違いをしている。王都全体の治安維持は……あれ?それは僕の仕事だな、だから勘違いしたのか?今回の特別巡回は、貴族絡みだけなんだけど。

「あの、ラミュール殿。勘違いかもしれませんが、今回の任務は貴族街と新貴族街の巡回が目的です。当主や後継者達男手が戦争に行くので、残された淑女達が不安になり訴えたのです。つまり、王都の市井の民との接触は無いのです」

「でも、リーンハルト卿は貴族街以外の王都全体の治安維持も仕事ですわ。其方の方の巡回に、私も同行させて欲しいのです」

 私も?私だけって事か。配下の水属性魔術師達は貴族街を巡回させて、自分は僕と市井の巡回をしたいって事かな?

「うん?そっちの方の巡回は、ですか……」

「はい。市井の民との触れ合いに、憧れています」

 定期的にはしないのだが、ラミュール殿の希望は市井の民とも触れ合える商業区とかの方か。だが僕は王都の巡回はした事が無い、凱旋は巡回じゃない。

 ラミュール殿は宮廷魔術師第三席、つまり侯爵待遇で本人は子爵。実は凄い身分だから、気楽に平民達の区画には行けない。

 僕が同行すれば可能だと考えたのだろうが、同行する護衛達のストレスは最高潮だろう。彼等との事前協議は、ラミュール殿抜きで必須だぞ。

 あと多分だけど、僕に触れ合いたい連中で逆玉狙いの女性陣の方が多い。それを不快に思わないで欲しい、その対策は事前告知無し。

 だが巡回ならば騎乗しての移動、つまり直ぐに情報は広まり人々は集まってくる。僕に用事が有る連中ばかりだが、それは彼女が望む触れ合いじゃない。

 ラミュール殿は当然だが騎乗出来る、巡回が馬車に乗ってじゃ意味は薄い。僕とラミュール殿が並んで騎乗し、王都を巡り領民と触れ合う。

 駄目だ、不味いよ。圧倒的に駄目だよ、混乱して全然駄目で不味いよ!

「先ずは許可を取って下さい。その後で実務者会議を重ねて、それから日程を組みます。ですが僕もラミュール殿も身分や役職の関係で、軽々しく街には出れません。実際に巡回出来る回数は少ないですよ」

「それは……でも可能性はゼロじゃないですから、構いませんわ」

 ええ、貴女が望めば殆どの人は駄目とは言えないですからね。これがザスキア公爵なら安全面で反対出来るけど、宮廷魔術師は国家の力の象徴。

 危ないから駄目です!なんて言える訳がない、だが回数は最小限で護衛を増やす事も可能。実際は護衛要らずだから、領民の誘導がメインだな。

 僕やラミュール殿に殺到されず、混雑で混乱せずに適度に市井の民と触れ合える場を用意するのは大変だが仕方無い。これも仕事の内だと諦めよう。

「では許可が貰えましたら教えて下さい。各派閥の警備の者達とも調整が必要なので、少し時間を下さい。多分、半月後以降になると思います」

 一ヶ月後以降は、旧コトプス帝国の残党共の謀略が始まる。半月後位で終わらせないと、リーマ卿の謀略の後手を踏みそうで怖い。

 だが半月後以降と言われても特に不満はなさそうだが、何故に市井の民と触れ合いたいんだ?彼女の地位と役職なら、殆ど接点など無いのに。

 だが理由を聞ける雰囲気でもないし、聞いてしまって断り辛くなるのもヤブ蛇っぽいからスルーしようかな……

「有り難う御座います。楽しみにしていますわ」

 会話の区切りが良いので、此処で退室の旨をラミュール殿に伝える。謝罪だけのつもりが、重たい仕事(お願い)を頼まれてしまった。

 ああ、そろそろ六時だしに入浴の為の侍女達が来る。早く自分の執務室に戻らないと間に合わないぞ。胃が痛くなるロイヤルファミリーとの晩餐会の始まりだ……

◇◇◇◇◇◇

 時間丁度に何時もの侍女達が現れ、僕を上級浴場に連行し身体を隅々まで入念に洗ってから晩餐会会場に放り込まれた。全身ツヤツヤ、ムダ毛も剃られたし香油も塗り込まれた。

 用意された貴族服は毎回新品で、使用後はそのまま下賜される。無駄に豪華な装飾は無いが、生地は上等で仕立ても素晴らしい。多分一着金貨百枚以上だろう、僕も用意してるけどそれは駄目らしい。

 前に自分の執務室に礼装一式用意しているから使いたいと言ったが、問答無用で拒否されたんだ。つまり用意された衣装を着るしかないし、僕に拒否権も無い。

 晩餐会の会場に到着したのは僕が最初で、サリアリス様が直ぐに来たので壁際に並んで立つ。会話したくても駄目で、無言で待つしかない。

 今回の参加者は、アウレール王にリズリット王妃。ロンメール殿下にミュレージュ殿下、それと招待してくれたセラス王女。ロイヤルファミリーと豪華絢爛だよ。

 セラス王女は詰めが甘くて晩餐会の招待状が来なかったが、レジスラル女官長に連絡し用意して貰った。口頭で招かれたが、手間でも招待状は必要だ。

 国王夫妻が参加する晩餐会は最上級クラス、少しでも問題は無くしておきたいし用心に用心を重ねる位が丁度良い。さて、近衛騎士団が先導して来た、ロイヤルファミリーの登場だな。

「よう、ゴーレムマスター!セラスの機嫌は回復したみたいだな」

「王家主催の晩餐会にお招き頂き、感謝致しますぞ」

「本日は王家主催の晩餐会にお招き頂き、有り難う御座います」

 家族を引き連れた、アウレール王が気さくに声を掛けてくれた。だが最初は上位者の、サリアリス様が挨拶を行う。その後で貴族的礼節に則り、続いて挨拶をする。

 サリアリス様は苦笑い、役職下位者の僕が優先されても不満は感じていない。だが、セラス王女は不満そうです。アウレール王、気付いて下さい。

 彼女は自分が主催で僕を招いた晩餐会に、何故に国王だけど父親が仕切る事に不満を持っています。多分ですが、アウレール王が言う父娘の距離感が遠い理由です。

「お前は真面目で固いな。今夜はお前と馴染みが深い者達しか呼んでない、気楽にしろ」

「御父様!今夜は私が、リーンハルト卿を晩餐会に主賓として招いたのですわ」

「おお、済まんな。そんなに怒るな」

 アウレール王が素直に謝るとは、年頃の娘を持つ父親の気持ちは微妙だな。僕も義理の娘が三人も出来たので、色々と考えさせられた。

 流石に席順は、レジスラル女官長が手配しただけあり、セラス王女が向かい側に座る。セラス王女を挟む様に、夫妻が左右に座り更に左端に、ロンメール殿下。

 此方側は、サリアリス様が右側で僕が真ん中。そして左側に、ミュレージュ殿下だ。豪華絢爛なロイヤルファミリー参加の晩餐会、緊張はピークだよ。

「今夜の催しは楽しみです。太古の魔法の復活、私が初めて見る事の出来るライティングの魔法。数百の光球の乱舞、幻想的でしょう」

「そうですね。直ぐに池の畔と、水面に写る事を考え付いて指示出来る、セラス王女は素晴らしい機転を思い付きますね」

 話題を振ってくれたので、あざといが持ち上げる。本人は持ち上げられて御満悦だが、周囲は生暖かく見守っていますよ。

 隣に座る、ミュレージュ殿下もナイフとフォークを持ったまま見詰めていますね。つまり此処に参加したメンバーは、セラス王女に特別な感情を持っているのか……

 あっ?アウレール王が何か言おうとしたが、リズリット王妃に視線で止められた。セラス王女を中心に左右で牽制と警戒を視線だけでするとか、このロイヤルファミリーの行動は知らない方が良かったな。

 




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