古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第685話

 久々の魔法迷宮バンクの攻略、待ち構えていたのは増改築された豪邸並みの貴賓室に王都三大ギルド本部の代表達。

 彼等の提案により魔法迷宮バンクは、双方の思惑により二日間の貸切となった。僕は偶然を装い接近する連中の排除の為に、彼等は魔法迷宮バンクの攻略とドロップアイテムが目当てだ。

 一番利益が高いのが冒険者ギルド本部、二番目に王立錬金術研究所により利益を得ている魔術師ギルド本部。盗賊ギルド本部は、競売に掛ける中層階のドロップアイテムだけしか旨味が無い。

 だからだろうか?抜け駆けみたいに盗賊ギルド本部の代表、オバル殿が僕に提案とお願いを申し込んで来たが、オールドマン殿とレニコーン殿は知らされていない。

 だが、エレさんは事前に知らされていたか予測が出来たのだろう。この場で、イルメラとウィンディアに教えたみたいだ。

 そしてその内容は良い話ではなかったのだろう、イルメラさんが物凄いプレッシャーをオバル殿に向けて放っている。彼女が挙動不審になる位の強力なプレッシャーに、応接室の空気が重く感じる。

 しかも僕の真後ろに移動して来たぞ。まぁそれはそれとして、取り敢えず聞いてみるか……

「話は聞きますが、受ける受けないは別問題ですよ?」

「は、はい。有り難う御座います」

 どもった?あの曲者(くせもの)と感じた、オバル殿が心を乱している。さて、最初の予定通りか今の圧力で内容を変えてくるか?

 横目で見た、ウィンディアはオロオロして、エレさんは頭を抱えてうずくまっている。これは僕に対して非常識な提案なのか?

「その、提案は魔法迷宮バンクの攻略の手助けとしてメンバーに我が盗賊ギルド本部の精鋭を加えて欲しいのと、お願いは最下層の罠の解除を一任させて欲しいのです」

 嗚呼、なる程ね。イルメラが怒ったのは僕らの秘密を探りに来る奴を仲間として受け入れろって事と、エレさんでは力に成れないと言ったも同然って事だな。

 イルメラもウィンディアも、エレさんの事を信頼している。実際に彼女はクロスボウを使い中距離援護射撃も上手いし、未だ一度も罠の解除に失敗していない。

 オバル殿は何かしら焦っているのか?臨時のメンバーなど入れたら連携が難しくなる。それに僕のレアギフト『ドロップアイテム確率アップ』を知らないし知られたくない。

 これは冒険者ギルド本部が徹底的に隠しているからだ。他にもボスを連続十回倒すとドロップするレアアイテムの事も知らない。同行を許すとは、この秘密を教えると同じ事だな。

 未だ秘密を教える程に信用も信頼もしていないし、エレさんの能力を疑っているとも捉えられる。または全く自分達に貢献していないから圧力を掛けたいのか?イルメラが本気で怒る訳だ、調査が全く足りないよ。

 僕等は既に第九階層を攻略しているし、パーティ内の結束も高い。提案とか言って僕等の実情を探りたいって思惑が透けて見えるのだが、僕との縁が薄いと危惧してるだけか?

「僕等ブレイクフリーは今のメンバーがベストであり、他に増やす気はないし予定も無い。最下層を目指すのに急に人員を増やしても、連携が上手く行かずにマイナスでしかない。

何より彼女達には多数の希少なマジックアイテムで、能力の底上げもしている。悪いが信頼していない者を例え高レベルの凄腕盗賊でも、パーティに同行させる気は全く無いよ」

 因みに既に知己の有る、ギルテックさんやベルベットさん、ティルさんでも駄目だからと言っておく。彼女達なら性格も能力も申し分ないが、完全に此方の味方かは分からない。

 オバル殿の気持ちも理解出来なくはない。王都三大ギルドの一角なのに、他の二つのギルドに圧倒的に差を付けられているから。だが僕個人は、盗賊ギルド本部に求める事は殆ど無い。

 競売にドロップアイテムをかけるのは、エレさんの為にだ。諜報員としては、ザスキア公爵が居るし彼女に頼らない事の方が不味い。力になれないのかと、逆に落ち込ませる事になる。

 対価も無く要求するのは悪手だぞ。自分達が圧倒的に有利な条件を突き付けてどうする?もう少し交渉の材料を用意しなかったのか?確かに魔法迷宮バンクは貸切にしてくれた。

 だが冒険者も魔術師も立ち入らないから、盗賊職だけで攻略は上層階しか不可能。ゴネても立ち入り禁止措置をしなくても、自分達だけでは無理なんだよ。

 最初は筋の通らない提案とお願いだから断られるのも予想の範囲内。最初に無理を言って、次に本命を妥協案として提示するのかな?でも交渉術としては下の下だぞ。

「実は私達の仲間が第十階層で何人も犠牲になっているので、敵討ちの意味も込めて攻略のお手伝いをさせて欲しいのです」

 そう言って頭を深々と下げた。敵討ちか……感情的には協力してあげたいし、貴族だったならば敵討ちは極力協力する義務も有る。

 まぁウィドゥ子爵の敵討ちについては、自分の理由を優先してさせなかったけどさ。場合によりけりで、今回は対象外だ。

 それに攻略に失敗したとして、モンスターに倒されたのか罠に引っ掛かって亡くなったのか分からない。どちらも何をもって敵討ちとする?曖昧過ぎて分からない。

「モンスターに負けたにしても、迷宮内でポップする連中を特定して敵討ちなど不可能でしょう?敵討ちの相手が曖昧過ぎます。他に何かしら目的が有るのでは?どちらにしても同行は許可出来ない」

 訳の分からない問答を繰り返しても時間の無駄だ。オールドマン殿やレニコーン殿も彼女を睨んでいる。理屈に合わない理由で同行させろ!じゃ無理だ。

 他に思惑が必ず有るが、それを正直に教える気も無い。そんな態度じゃ協力なんて無理、まだ冒険者ギルド本部に依頼を出して高レベルの冒険者を雇った方が良いよ。

 時間も無いし、そろそろ攻略を始めたい。押し黙る彼女から、オールドマン殿に視線を移す。話はこれで終わり、僕等は魔法迷宮バンクの攻略を開始する。ソファーから立ち上がろうと……

「お待ち下さい。実は第十階層について、私達盗賊ギルド本部のみが掴んでいる情報が有るのです。その場所に連れて行って貰えれば、莫大な宝物を得る事間違いなしなのです。その情報を教えますので、宝物は折半で……」

 なる程、他のギルドを出し抜くネタを持っていたのか。単純な攻撃力では劣る盗賊職の連中だからな、他のギルド連中に協力は要請出来ない。

 かといって全員の前で正直に話せないし、僕にだけ直接相談を持ち掛ける程の関係を結んでいない。焦って変な要求をしてボロが出たか……

 宝物ね?具体的に言わないのも未だ悪意を感じるな。金銀財宝じゃない、それも宝物には違いないが魔法迷宮の最深部の宝物だぞ。そんな在り来たりな物じゃない。

 もしかしてバーリンゲン王国攻略の時に、向こうの盗賊ギルドの連中がブレスの街をストレイスの甘言に乗って売り渡した事の処分の事で僕に反抗的になったか?

 他国とは言え同じ盗賊ギルドを没落に負い込んだからな、逆恨みだが感情論としてなら仲間を不幸に追い込んだかな?

「嗚呼、その情報は不要だよ。僕等は自分達で調べるし、仮に見つからなくても構わない。第一目標はボス狩りだし、宝物庫や武器庫には基本的に行かないんだ」

 ドロップアイテムとは相性が良いが宝箱とは相性が悪い、ダガーばかりしか入っていない。僕等の行動は有名な筈だが、もしかして知らないのか?

「な?私達が何人も犠牲を出して漸く掴んで調べた情報を要らないと言うのですか?」

 感情的になったが、これも不敬の範疇だぞ。もし同行させてたら、知らない内に宝物庫に誘導されて対処させられた訳か。僕を利用しようとは、大したモノだな。

「魔法迷宮バンクの最深部の宝が只の金銀財宝な訳がない。オバル殿は宝物としか言わないが、本当は何か知っているか予想しているのだろ?何も知らされずに協力しろは無理だな。さて、時間も限られているし攻略を始める。まぁ今日は第九階層でボス狩りをして、勘を取り戻すのが優先だな」

 今度こそソファーから立ち上がる。怪しい情報に訳の分からない宝物など要らない。この状況でも内緒にする宝物など碌な物じゃない、下手したら古代の厄災級の代物だろ?

「お待ち下さい。私達が掴んだ情報によれば、最深部のある場所のガーディアンを倒せば……『全能者の王冠』と『ネクタル』が手に入るのです」

 は?全能者の王冠?名前だけは聞いた事が有るような、何だったかな?

「な?それは伝説のマジックアイテムじゃないか!」

「他者を何人も問答無用で支配出来る王冠に、若返りとも不老不死とも言われる薬。権力者が望む究極のマジックアイテムにポーション、それが有るだと!」

 オールドマン殿とレニコーン殿が興奮気味に説明してくれたが、物凄く胡散臭い話だぞ。それに『全能者の王冠』が多数の人間に言う事を聞かせる?そんな強制的な洗脳魔法なんて、エルフ族の禁術でも無理だと思うぞ。

 転生前に同じ名前のマジックアイテムが有った。確か自分が世界の支配者になった妄想に浸れる、現実逃避のジョークアイテムと同じ名前だ。アレは不幸な者が一時的にでも幸せな夢が見れる為にと作られた、別名は『愚者の王冠』だ。

 依存者が多く一般生活に支障が出たので禁製品になった曰く付きのマジックアイテム。本来の目的じゃなくて金持ちが更に権力者の夢を見て現実社会から逃避し部屋に籠もり、最終的には衰弱死すると言う恐ろしい呪われたマジックアイテムだったかな。

 もしかしたら別物かも知れないが、精々が弱い催眠効果の有るマジックアイテム程度だろ?あれ?そうすると、モリエスティ侯爵夫人の『神の御言葉』のギフトって実は物凄くヤバくない?

 いやヤバいのは、オバル殿の思惑だな。最初の提案、罠の解除は一任して欲しいと条件を付けた。つまり最初に『全能者の王冠』を手に入れられる。もしも伝説の通りなら、そのアイテムの存在を知らなかったら。

 僕は盗賊ギルド本部の言いなりになった訳だな、やってくれる。もしかしたら同行者は、オバル殿本人だったかもしれないな。配下に任せても裏切られる事は十分に考えられる。

 いや、普通なら裏切る。何でも言う事を聞かせられる道具が有るなら、手に入れた奴は直ぐに自分の為に使うだろ!

「もし本当ならば、アウレール王に献上するマジックアイテムですね。だが、アウレール王に『全能者の王冠』は不要。他人に強制せずとも名君には変わらない、その場で破壊する不要品。問題の火種になるのは間違い無い、やはり見付けたら直ぐに破壊すべきだな」

「そんな馬鹿な事をするなんて……古代の貴重なマジックアイテムですよ!」

 弱々しいが反抗したな。やはり良からぬ企みを考えていると思って間違い無さそうだ。

「なら誰が何時どういう目的で誰に使用する?他人を洗脳出来るマジックアイテムを誰が誰に使う?そんな馬鹿な火種を手に入れてどうする?オバル殿は神にでもなりたいのか?」

 殆どの確率で言い伝えは間違いで、有っても『愚者の王冠』だろう。まかり間違って本当に『神の御言葉』と同じ効果なら、即破壊か空間創造に死蔵するしかない。

 因みにだが、僕も『愚者の王冠』は使った事はないが幾つか持っている。ネクタルも忘れていたが結構な数を持っているが、不老不死にはなれない。ランダムで一歳から三歳程度、外見が若返るが寿命は延びないんだよ。

 まぁ『治癒の指輪』のポーション版であり、僕も未だ若かったから集めただけで飲まなかったんだ。これは世の女性達にとっては垂涎の的で、流通しても混乱はすれど問題は少ないだろう。

 誰かが少しだけ、見た目が若返るだけだし。一本程度じゃ実感も湧かない、三本位のんで十歳位若返ると違うと思うけどね。ネクタルは製作していた一族が独り占めにしていたが、権力者に狙われて滅んだ筈だ。他にも他国で稀に魔法迷宮から見付かるとか、どこの国だったかな?

 人間の欲望により犠牲になった哀れな一族。だが全てを奪った権力者も、周囲の同じ考えを持つ連中に攻め滅ぼされた。争いの中でレシピも消失、完全に新規に作る事が出来なくなったとさ。

「ではネクタルは!ネクタルは、どうです?不老不死に若返りの妙薬ですよ!それも国王に献上ですか?」

 む?必死さが違う。つまり本命はネクタル、不老不死よりも若返りの効果狙いか?女性なら一度は望む永遠の若さの為に、この茶番を仕掛けたのか?

「うーん、本当に不老不死になるなら同じく処分かな。不老不死で幸せになれると思いますか?壮絶な奪い合いになるでしょう。若返りならば、まぁ許容範囲内ですね。どちらにしても国が混乱する物など、僕の立場で放置など出来ませんよ」

 鑑定して若返りだけなら処分せずに王家に献上かなって追加説明もしておいた。多分だがネクタルは、僕の持っている物と同じだろう。

 一本飲めば外見が最大三年程若く見える。女性の王族の方々が欲しがるだろうから、セラス王女に献上するのが良いか。多分だが喜んでくれる、美容関連は女性の最大の関心事だ。

 アーシャもジゼル嬢も未だ十代だし、本当に必要になるのは二十代後半からだ。今は未だ不要だろう、慌てて使わせる必要は無いが何時までも若々しい妻は男の理想でも有る。

「美に取り憑かれただけなら未だ許せますが、他人をマジックアイテムで支配したいとなれば……分かりますね?」

「くっ……治癒の指輪は手に入らず、ネクタルは王家に献上だと!リーンハルト様は、女性の永遠の夢を壊すのですかっ!」

 逆ギレされたが、多分あれか。冒険者ギルド本部に渡した『治癒の指輪』の争奪戦が凄かったらしいが、オバル殿は争奪戦に負けたのか。

 三個渡したのだが、二個は優先的に王族の方々が非公式に争奪戦を繰り返したそうだ。三個全て王族に渡す事は流石に勘弁して貰ったらしいが……

 残りの一個を貴族と平民とで競い合ったらしく、最終的には某公爵家が財力にモノを言わせて勝ち取った。買取値段を上げた訳じゃなく、他の連中を金の力で黙らせたんだよ。

 未だ六個持っているんだけど、もう冒険者ギルド本部は要らない勘弁して下さい買い取れませんって懇願された。成る程、美に対する女性の執念は馬鹿に出来ないか……

「理解はする、だが納得するかは別問題だ。他人を出し抜いたり利用したりしてまで、手に入れたいのは分かる。だが相手が悪かった、僕の立場で許容出来ると思うな。今回は見逃すが、次は無いと思ってくれ」

「くっ、なんて事に……」

 両手を床について号泣とか勘弁して欲しいし、更に両手で床を叩いて絶望感を滲ませるな!盗賊ギルド本部との関係が微妙になるのは少し困るかな、そんなに困らないか?うーん、まぁ仕方無いか。

「治癒の指輪を冒険者ギルド本部に納品したのは僕です。第九階層で稀にドロップするのですが、改心するなら優先的に売っても良いですよ。多分ですが、今日頑張れば一個は手に入るでしょうから」

「ほ、本当ですかっ?嘘じゃないですよね?分かりました、改心します!改心しますから、是非とも譲って下さい。金貨十万枚迄なら払えますからっ!」

 おぃおぃ、飛び付いて足に縋り付かないでくれ!物凄く食い付いたけど金貨十万枚は凄いな。いや、金貨十万枚でも手に入れられなかったんだよな。某公爵は幾ら使ったんだか考えたくもない。某って言うが資産的に考えれば、ニーレンス公爵かローラン公爵だろう。

 これでイマイチ距離感が掴めなかった、盗賊ギルド本部とも関係が強固になったのか?あとはネクタルを三個ほど渡せば、もう裏切りや下手な企みもしない理想的な協力者になるだろう。

 王都の三大ギルド本部との連携は強固にしたいので、ある程度の妥協と歩み寄りは必要と割り切ろう。女性の美容と若さに拘る感情を甘く見てはいけない、それが分かっただけで良い教訓だったかな……

 

 イルメラさん?その氷の様な視線で僕の足に縋り付いていた、オバル殿を見ないであげて下さい。両手を上げて降参していますから、もう勘弁してあげてね。

 

 




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