古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第689話

 魔法迷宮バンクの最下層、第十階層を攻略している。単調な通路に仕掛けられたワープトラップ、強制転移の罠を調べるのに結構な時間を消費した。

 敵として現れるのは、レイスとゴーストだけだが倒してもドロップするアイテムの確率が低過ぎる。レイスは『古代魔術師のローブ』が四つと『状態回復のポーション』が六本。

 ゴーストは三十体以上倒したが、ドロップアイテムは出なかった。第九階層のボス狩りでは『デモンソード』が三十八本に『デモンリング』が三十個。

 オバル殿が欲しがっている『治癒の指輪』は九個に十回毎のボーナスアイテムの『身代わりのネックレス』は八個も手に入れている。

 迷宮探索のドロップアイテムの数としては破格だ。売れば一財産だろう、だが第十階層の見入りが少ない。だからブリザードランサーが攻略し、宝箱から高価なアイテムが出た小部屋の探索を始めた。

 そこで最初に宝箱から見付けたアイテムがヤバかった。『即死の短剣符』という確率20%で即死させる暗殺用アイテム、こんなモノを流通などさせられない。

 この階層の小部屋は合計七ヶ所、宝箱の出現率は二割。一巡すれば一回は宝箱が現れるのだが、僕は宝箱とは相性が悪い。大抵が最安値のダガーだ。

 『即死の短剣符』もダガーの括りだろうか?元々短剣符とはダガーを模したタリスマンの事で意味や使い方は、生物の名前の前後に付ける。この生物は絶滅していますって意味なんだよ。

 僕の知る使い方は、戦場で参加者リストの戦死者の名前に付ける。貴族は参戦者名簿が有り、名誉の戦死者が一目で分かる様にかな。

 名の有る戦士や傭兵も名簿に載るのだが、戦争は兎に角人が簡単に死ぬからな。誰が何時、何処で誰に倒されて亡くなったって情報は大切なんだ。

 そんな有る意味では縁起の悪い短剣符だから、暗殺用マジックアイテムになったのか?しかも書かれた文字は、懐かしいルトライン帝国の正式文字だよ。

 このマジックアイテムの制作にはルトライン帝国所属の魔術師が絡んでいるのだが、当時の宮廷魔術師筆頭の僕が知らないんだ。僕の死後に作られたか、秘匿されていたか……

◇◇◇◇◇◇

「リーンハルト様、宝箱です。やはり小さいですね」

 隣に寄り添う、イルメラから厳しい指摘が入る。前と同じ位の大きさの宝箱、嫌な予感が脳裏に浮かぶ。

 また処分に困る短剣符か?価値は普通のダガーに比べて格段に高いが売れないし教えられない。そんなアイテムしかないのか?

 横で僕等の会話を聞いていた、エレさんが心配そうに見上げてくる。気にしてないと言ったが、信じてなさそうだ。

 でもダガーばかりを引き当てるのは、誰の所為でもない。そう、誰も悪くない。強いて言えば、魔法迷宮自体が悪いんだよ。

「うん、小さいね。またダガー系かな?だけど七部屋目で宝箱が出現とは、悪くない確率かな。そう、宝箱が良く出る事は良い事だね」

 約二割、七回で二回なら中身は別として確率的には良い方だ。エレさんが手早く鍵を外し中身を取り出しているが、やはりダガーだ。握りの部分や鞘に施された装飾は見事だけど、ダガーだ。

 エレさんも鑑定出来る筈だけど、そのまま手渡された。僕に鑑定しろって事ですね?全長30㎝握りの部分は10㎝、片側に反り返っている割と珍しい形だな。

 両手で握り締め意識を集中して鑑定する。中々分からないのだが、一分程で結果が出た。『隼(はやぶさ)の短剣』素早さが30%アップする付加が付いている。良かった、ダガーだが性能は悪くない。

「ふむ、『隼の短剣』だな。素早さを30%もアップする、盗賊職には必須のアイテムだね。特に能力アップ系は希少だから、高値で引き取ってくれるだろう」

「これは魔法迷宮バンクなら、第八階層より下の宝箱から希に見付かる。盗賊職の垂涎のダガー」

「ん?ならエレさんが使ってくれるかな。パーティ唯一の盗賊職の、エレさんの能力強化は必須だからね」

 そう言って彼女に渡すと、両手で抱き締めて頬擦りを始めた。盗賊職の垂涎のダガーとか、希少なのだろう。持ってるだけで凄い的な?

 ダガーばかりを引き当てるけど、今回は大正解だな。表情の乏しい彼女が、あんなに喜ぶと僕も嬉しくなる。

 嬉しくなるのだが、鞘から抜いて刀身を舐める様に見詰めてニヤけるのは怖いから止めて欲しい。キチ○イに刃物的な言葉が頭の中に浮かぶ。

「二周目行こう」

「ああ、そうだね。未だ時間も有るし、第九階層に戻ってから降りるかな」

 流石は第十階層、ダガー関連でも初めて見るようなアイテムばかりが見付かる。調べて解析すれば錬金で複製出来るし、夢が膨らむ。

 だが、オバル殿の握っている情報。『全能者の王冠』と『ネクタル』を手に入れる場所がヒントすら分からない。他は通路だけだし、ワープトラップばかりだからな。この右側のゾーンだと思うんだけど……

 全く分からない。交渉材料の『治癒の指輪』は手に入れたから、一つ渡して情報を手に入れるのも良いな。前者は危険度を計る為に、後者は交渉材料としてネクタルを使える状況にする為に。

 まぁ時間の許す限り、宝箱を見付けてアイテムを手に入れよう。新発見ばかりで、楽しくなってきたよ!

◇◇◇◇◇◇

 結局三回往復して二十一回、小部屋にチャレンジして出現した宝箱は六個。確率約二割らしいので、運は良い方なのかな?内容は微妙だったが……

 呪殺用の短剣符が二回出て十枚、一枚約二割の確率で対象者を即死させる。素早さが三割アップする『隼の短剣』に、斬り付ける度に魔力を一割ずつ奪い自分に還元する『強奪のダガー』。

 斬り付ける度に動きが鈍くなる『怠惰のダガー』に、最後に手に入れたのが『腐食の短剣』だ。まさにダガー短剣祭り、宝箱の中身全てがそうだった。

 まぁ『隼の短剣』は、エレさんが喜んだから良しとしよう。残りの三本は解析してから、冒険者ギルド本部に売る。僕が解析し新しく錬金した物をクリスに渡す。

 魔力を奪う・素早さを奪う・腐食させると、研究意欲が湧く効果が有るので楽しみだ。因みにだが『即死の短剣符』も解析する、対策手段を構築する為に。

 何時までも秘匿や独占は出来ない。必ず誰かが手に入れるだろうし、通常手段で殺せないが憎くて仕方無い相手の候補に僕の名前も有るだろう。

 少なくとも魔法障壁じゃ防げない。即死無効のレジストアイテムを早急に作らないと、『身代わりのネックレス』しか対抗手段が無い。

 第十階層の攻略を終えて一旦第九階層に上がる。そこから第一階層に直通のエレベーターに乗り込む、時刻は既に五時を少し過ぎたが予定の撤収時間だ。

 エレさんは疲れたらしく目を擦っていたので、アインにお姫様抱っこをさせて休ませている。今日は一番活躍したからな、疲労困憊なのだろう。一階に到着した事を知らせるベルが鳴り扉が開く……

「お帰りなさいませ、リーンハルト様。出口迄の露払いをさせて頂きます」

「む、手間を掛けるが頼む」

「はっ!お任せ下さい」

 予定時間を少しオーバーしたが誤差の範囲だったが、エレベーターの扉の前に聖騎士団員が整列して待機していたが数が問題で三十人も居る。

 その後ろには冒険者ギルド本部が巡回要員として派遣していた、高レベルのパーティが居心地悪そうに控えている。完全武装の聖騎士団員の威圧感の所為か?

 前衛二十人後衛十人に護衛されて移動する、何処の重要人物だ?ああ、僕は国家の重鎮だった。でもやり過ぎだよ。通路にポップするゴブリン達を切り捨ててもドロップアイテムは拾わないのは、僕を待たせない配慮だろう。

「実は我々は王都の治安維持の為に一時的ですが、リーンハルト卿の配下となります」

「王宮警備兵達と同じく全部隊無差別選抜戦に勝ち抜いた猛者共ですので、遠慮無くお使い下さい」

 は?無差別何だって?聖騎士団でも上位の精鋭は問答無用で、アウレール王の護衛として同行だと思ったけど?全部隊無差別って何やってるの?

 妙にドヤ顔だけど、王都の守護は聖騎士団の重要任務だけど、それはライル団長が選別すべき事で団員に丸投げの自由選択は駄目じゃない?

 王宮警備兵は四十人、十人編成で四班。聖騎士団は三十人、五人編成で六班。合計十班、昼夜二部に分けて各四班。残りの二班は予備と休息。

 ニールとメルカッツ殿、それに信頼出来る者を二人選んで十人編成で四班。だが自分の屋敷の警備も有るから動かせるのは二班、昼夜一班ずつか。

 主力は公爵五家から出させて、補助として動ける人員が百十人で十四班か。何とかなりそうだが、あくまで貴族街と新貴族街だけだ。

 王都全体の警備体制は敷けない。それは従来の警備体制で行うしかなく増員が必要な場合は、メルカッツ殿達に出張って貰う。

 元カルナック神槍術道場の連中の名誉回復と汚名返上の為にも、貴族街の警備より市井の民を守る方が良いだろう。まぁ潜伏している傭兵団の殲滅が最優先だけどね。

「そうか。君達の武力は疑っていない、宜しく頼むよ」

「「「はっ!お任せ下さい」」」

 何故、ギラギラした目を僕に向ける?異様な迫力に、エレさんとウィンディアがイルメラに両方から抱き付いた。僕に抱き付かなかったのは立場故だよね?

 少し寂しい思いをしたが、彼女達が他人の目の有る場所で僕に抱き付くとさ。身分差云々で騒ぎ出す連中も居るから不用意な事は出来ない。

 うん、寂しくは無い。何となく横目で見ていたんだけどさ、躊躇無く僕に抱き付こうとしたイルメラを二人が左右から抱き止めたみたいな……イルメラさん、不満そうな顔は止めなさい。

「半日振りの地上か。夕日が燃える様に眩しいとか思ってしまうのは、詩的な表現か?ロンメール様に毒されているのかな?」

「いえ、普通かと思います。王都三大ギルド本部の代表が、お待ちみたいです」

 イルメラさんの指摘に豪華な建物を見れば、既に左右に聖騎士団員達が整列して花道を作ってくれているが……恥ずかしいから止めて欲しいかな。

 扉の前には、パウエルさんと何故か朝は居なかったミランダさんが並んで待っている。今日は支部の仕事は無いから、ずっと待っていたのだろう。

 これから、オバル殿との交渉と、オールドマン殿に『ブリザードランサー』の戦利品で危険な物が無かったか確認しなきゃ駄目なんだよな。

 もう少し頑張るか。今夜は久し振りに自分の屋敷で夕食を食べれるし、夜は皆で添い寝も出来る。これが平和な一時ってヤツだよね。

◇◇◇◇◇◇

 先ずは全員がレベルアップしたので、更新の為にギルドカードをミランダさんに渡す。そんなに駆け足で処理しに行かなくても大丈夫ですよ。

 ドロップアイテムの買取は、パウエルさんの仕事だが物が物だけに、オールドマン殿に相談しないと駄目だろうな。流石に全部売れば買取金額が金貨十万枚を超えるよ。

 大人しく応接室に向かう。中で待機していた三人がソファーから立ち上がり、作り笑顔で出迎えてくれたが……待ってる間に三人で色々と話し合ったのだろうな。

 特にオールドマン殿が疲労困憊なのが分かる。一番恩恵を受けるから、他の二人から責められたのか?他に何か有るのか?王都三大ギルド本部の代表が集まって世間話もないし、色々と話し合ったのだろう。ご苦労様でした。

「お疲れ様でした、リーンハルト様」

「全員がレベルアップするとは、さぞや激しい戦闘が有ったのでしょうか?」

「心配はしていませんでした。何か新しい発見は有りましたか?」

 簡単な社交辞令の後で紅茶と焼き菓子が用意されたが、僕も気に入っているパティストリーワイズのクッキーだ。ソファーに座って落ち着いたのか、急に空腹感が……

 一枚食べればバターの風味が濃いが、食感がサクサクしていて重く感じない。紅茶で流し込んで気分を切り替える、気遣いで出された物を食べるのもマナーだよ。

 向かい側に座る三人の顔を順番に見る。オールドマン殿はやはり疲れた感じで、レニコーン殿は好奇心が溢れている?未発見のドロップアイテムでも見付けたとか思ってる?

 オバル殿はニヤニヤが止まらない。『ネクタル』は無理でも、『治癒の指輪』は手には入ると思っているな。あれは老化を緩やかにするが、現状の維持だけどね。

「午前中は第九階層でボス狩りをしました。デモンリングとデモンソードが各三十は有るが買い取れますか?ああ、『治癒の指輪』も手に入れたよ」

 デモンシリーズの話をした時に、オールドマン殿は拳を握り締めた。これは買い取るな、心配は無用みたいだ。疲れが一気になくなり、口元がにやけている。

 デモンソードは金貨三千枚、デモンリングは金貨三千五百枚。各三十個を買い取れば、金貨二十二万五千枚だ。流石は王都のギルド本部、問題無く捌くのだろう。

 国内の支部に流しても良いし、交渉材料として他国のギルドに売るのも良し。下手したら、エムデン王国が買い占めるかも知れない。春雷は雷光の量産により、全て国家の買取制限はなくなった。

「宜しければ全て買い取らせて頂きたいので、お願い致します」

 おお!太っ腹だな。だがデモンソードは第十階層の攻略に必要不可欠だし万年品薄状態だから、直ぐに売れるだろう。デモンリングも王都に住む裕福な魔術師達が買うから大丈夫かな。

 値崩れする程は流通していないし、明日も頑張って確保して売るかな。資金は幾ら有っても足りない、上級貴族の見栄って酷い散財を招くんだよ。

「分かった。各三十ずつ渡すので……」

「白金貨も用意して御座いますので、本日支払わせて頂きます」

 あーうん、用意が良いって言うか準備万端っていうのか。さては僕が幾つ手に入れるか予想して準備していたな?デモンシリーズは、もう少し集めても売れそうだ。

 買取話は一旦終えて、第十階層の情報を公開しよう。レニコーン殿が詰まらなそうな顔をしたし、話題を変える方が良いだろう。地図をテーブルに広げる。

「第十階層だが、大ホールの正面はワープトラップが沢山仕掛けられている。特定の場所、同じ場所に転移するのは一ヶ所だけ。後は全て転移先はランダム、下手をすれば壁の中で即死だな。有る意味、ブリザードランサーは運が良かったな」

 テーブルに広げられた地図を食い入る様に見詰める三人を見ながら、クッキーをもう一枚食べる。大分甘党に変化しているのは、バルバドス師の影響だな。

 バルバドス師の所にも顔を出したい、使いを出して今週お邪魔しよう。優れた土属性魔術師が少ないから、同じ属性の魔法談義の相手が限られるんだよ。

「ワープトラップは全滅の確率も高い危険な罠ですが、どうやって調べたのですか?」

「ん?ゴーレムを罠に引っ掛けて調べた。僕のリトルキングダムは遠距離操作が基本、バンクの中ならラインが繋がっているから何処に飛ばされたか分かる。

逆に僕じゃないと、このワープトラップの正解ルートは分からなかっただろう。まぁ転移先が固定なのは一ヶ所だが、これが正解かは不明。これすら罠の可能性も有る、飛ばされたら帰れないかも知れない」

 先ず有り得ないと思うが危険を覚悟で調べて欲しいと言い出さない様に、このルートも危険な罠の可能性が高いと言っておく。

 皆が興味津々に地図を見ている。自分のギルドの精鋭部隊でも行かせるつもりか、オールドマン殿が秘匿する前に記憶しておくのか?

 僕を待っている間の彼等の駆け引きの様子が知りたくなって来たけど、知れば知ったで藪蛇になりそうだ。さて第十階層のドロップアイテムだが、魔術師ギルド本部に調べさせるのも有りかな?

 




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