古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第691話

 魔法迷宮バンクの最下層攻略が終了した。程良い疲れが身体を包む、やはり身体を動かす事は良いな。出仕して事務仕事、いや親書の返信ばかり書いていると身体が鈍る。

 ボーッと考えながら馬車の座席に身体を預ける。これから皆で夕食を食べて風呂に入って、順番だとアーシャの番だから子作りか。僕の第一子は、イルメラらしいのだが……

 昼間は忙しいが夜は比較的ゆっくり出来る。だが明日はヤバいマジックアイテムを見付けたら、そのまま王宮に直行だな。ヤバくなくても身の潔白の為に、アウレール王に謁見か。

 洗脳系マジックアイテムの疑いが有る物の所持など出来ない。実際はジョークアイテムだと思うし、本物でもすり替えて僕の持っている『全能者の王冠』を渡す。

 ネクタルは言い伝えが本物なら凄いが、これも寿命が伸びずに外見が若返る美容薬だろう。それでも効果は絶大で、世の中の淑女が騒ぎ出すだろうな。

 まぁ魔法迷宮バンクの最下層を攻略出来る連中は限られる、必須アイテムのデモンソードはそれなりの数を冒険者ギルド本部に売ったからな。

 騒がしくなるだろう。情報統制を王命で頂き、一定数を王家に献上で提案するか。実際に、どちらも国家転覆など出来ない。有る意味では無害だが、欲しい人達は多いし無理をするかもね。

 イルメラ達に使って貰うのは少なくとも二十年は先だから、今は問題にしなくても数だけ抑えるだけでも良い。ザスキア公爵は……面倒を掛けるけど、アウレール王への説明の為に若返って貰おう。

「リーンハルト君、ネクタルって本当に不老不死の妙薬なのかな?」

 ウィンディアがワクワクを隠し切れません的なテンションで話し掛けて来たけど、もしかしなくても不老不死に興味が有るのかな?

 永遠の若さと美貌は理解出来るけれど、永遠の命は理解出来ない。それは孤独を生む毒薬だと思う、転生して生き長らえた僕に言う資格は無いんだけどね。

 彼女の気持ちも分かるが、変な期待をしない様に釘は刺しておくかな。有り得ないけれど、先走って確保とか笑えない。困った時の、レティシア先生だ。

「ネクタルについては、エルフ族から聞いた事が有るよ。不老不死は長寿で魔法特化種族の彼等でも不可能だったけど、外見だけ若返る秘薬は有るらしい。効果はランダムで、一本で一年から三年若返る。その秘薬の名前もネクタルらしいから、言い伝えが途中で変化したと思うよ」

 レティシア先生の効果は抜群だ。信憑性が高まった、不老不死は無理でも短期若返りなら可能。その情報には、未だ十代の彼女達にはピンと来ないかな?

 そうなんですかって、意気消沈したけど不老不死になりたかった?でも死ぬまで常に二十代なら可能だから、安心して良いよ!

 君達分は既に確保してるし効果を知らしめるのには、ザスキア公爵に協力を頼むから大丈夫。不老不死より永遠の若さだよね?

「全能者の王冠も同じ?」

 今度は、エレさんか。彼女は他人を支配出来るマジックアイテムに興味津々なのか?それはそれで駄目な好奇心だぞ。

「そんな危険なマジックアイテムの存在は確認されていない。もし本当なら巨大な帝国を一代で築いた王が居る筈だけど、そんな話は聞かないよ」

「確かにそう、大陸制覇も出来そうなのに噂話にもなっていない。変な話だった、有り得ないのかな?」

「盗賊ギルド本部内では、関連する噂話って有った?所謂此処だけの話的な物から、公然の秘密とかネタ話程度の笑い話とか?」

「ない。だから朝の話し合いの時に驚いた、そんな話なんて噂ですらなかった」

「つまり言い伝えはギルドの代表クラスしか知らないのかな。口止めは難しくはないか……」

 小首を傾げている、エレさんを見れば洗脳系マジックアイテムが欲しいんじゃなくて御伽噺を知りたい好奇心かな?

 思わず頭を撫でたくなったがグッと我慢する。それをやると子供扱いだって悲しむんだよな。でも伝説的な話だから、興味は有るよね。

 僕も元ネタを知ってるから落ち着いているだけで、何も知らないか本当に有りそうだったら大慌てしたよ。その場で、オバル殿を拘束する位はね。

「流石は、リーンハルト様です。怪しい話に惑わされずに落ち着いていますが、あの無礼者には適切な処罰が必要だと思います」

「う、うん。そうだね、必要だね。何か考えておくけど、明日の探索の結果次第だね」

 イルメラさん、未だに激おこプンプン状態だった。僕絡みで一度切れると、中々元に戻らないんだよ。嬉しいけど、少し困る。馬車の中にプレッシャーが広まる、エレさんが寝た振りを始めたぞ。

 ウィンディア、何とかしてって目で訴えるな!そっとイルメラさんの手を握る、お互いの指を絡ませ合う所謂恋人握りだ。急速にプレッシャーが弱まる、どうやら危機は回避したみたいだ。

◇◇◇◇◇◇

 屋敷に帰ると何故か神獣形態のユエ殿を抱き締める、アーシャとジゼル嬢にリゼルが出迎えてくれた。後ろに控える、フェルリルとサーフィルの疲れた顔が物語る。

 妖狼族の里の開発だが、ウルフェル殿に全て押し付けてないだろうか?隣に一緒に並ぶ、ニールがフェルリルの肩を叩いている姿を見て大体把握した。

 クリスとベリトリアさんがお揃いのメイド服を着ているのは、また新しい遊びでも思い付いたのか?どうせ僕がメイド服好きだとか、からかうつもりだろう。

 リィナとナルサが手を取り合って笑っている。真面目なリィナに、小悪魔的なナルサに友情が芽生えたのか?女性ばかりで気まずいのか、コレットが一番端で小さくなって控えているけどさ。

 君の服装も、パッと見は活動的な美少女だぞ。本人は女性っぽい姿形だから似合う服装が無いって言って店員のコーディネート任せらしいが、もう少し考えよう。白とピンクって、まるっきり女性の好む……

「お帰りなさいませ、旦那様」

「うん、ただいま。特に問題はなかったかな?」

 神獣形態のユエ殿が、僕の顔に飛び付き頭によじ登る。皆さん、その光景をほのぼのとして見ているけど一応問題行動です。

 アシュタルとナナルのクスクス笑いには、僕の事を呆れてます的なニュアンスは伝わるぞ。睨めば笑顔を浮かべた後で、頭を下げてくれたけど主人を敬って労れよな!

「特に変わりは有りませんですわ。旦那様がバーリンゲン王国から帰って来たので、ジゼルとリゼルさんが良く遊びに来る位です」

「そうか?余裕が出来るって良い事だよな。二人には政務の手伝いを期待してるよ、山積みだよ」

 アーシャが笑顔で毒を吐くのは、ジゼル嬢が泊まる時は大抵が添い寝になるからだ。今夜は二人で子作りの予定だから、邪魔をされるのが嫌なのだろう。

 まぁ直接的な妨害をせずに文句だけだから可愛いものだろう。陰湿な淑女の嫌がらせを知る身としては、特に問題にする必要も無い。

 だが今夜は高確率で全員添い寝だろうから、アーシャと一緒の入浴時に頑張れば良いかな。夫婦円満の為には、愛情の確認は必要だからね。

◇◇◇◇◇◇

 アーシャと入浴時に愛情の確認をした後、やはり全員添い寝だった。それはそれで良いものなのだが、身じろぎ一つ出来ないので少し身体が固い。

 イルメラがマッサージをしてくれるのが、最近の流れだ。凝り固まった首と肩を重点的に揉んでくれるのだが、結構慣れているのか上手い。

 気分をリフレッシュして、魔法迷宮バンクの最下層に挑む。昨日と同じ手順と遣り取りをして、同じく三大ギルド本部の代表と簡単な打合せをする。

 今日は最初から右側の隠し小部屋に向かう。言い伝え通りに『全能者の王冠』と『ネクタル』が有るのか調べる。オバル殿も写しじゃない本物の地図を持って来たので確認はしている。

 問題は無いが、探索に取れる時間は今日迄で次は来週になる。ネクタルは数を押さえておきたい、固定の宝箱だから繰り返し確保は可能だろう。

 イルメラ達の若返り計画の為にも、一定数を確保出来る状況だけ作れれば良い。そう、入手先を疑われなければ良いんだよ。

「リーンハルト様、第十階層に到着しました」

「うん、早速右側の秘密の小部屋の攻略を開始する。壁を触る役目は、常時展開型の魔法障壁を張れる僕がするよ」

 危険だからと反対される前に、通路の壁に触れながら進む。ツルツルとした壁なので触りながら動いても大丈夫、指先が擦れて傷付いたりはしない。

 イルメラが僕に寄り添う様に並んで歩くのだが、前後にアインとツヴァイが居るので大丈夫なのだが心配性だな。身体の表面を覆うように常に展開しているから、不意打ちも平気だよ。

 暫く歩くと第一の小部屋に到着、レイスは簡単に倒せるが壁伝いに触れながら歩くのは難しい。一旦中に入り、扉を閉めてから部屋の壁に沿って歩く必要が有る。

 出る時も同様、開いた扉を触りながら移動するのは『触りながら壁に沿って歩く』と取られるかが謎なので、何パターンか変えて挑戦するしかない。

 扉を開けて先に、アインが単体で突撃。レイス四体を瞬殺するが、宝箱は現れなかった。またダガー系のアイテムだろうか?最下層で見付かるダガー、性能は気になる。

「壁に触りながら移動も難しいね。さて、第一の小部屋にゴーレムビショップ六体を残していく。帰りに回収するけど、自動で経験値とドロップアイテムが手には入るからね」

「なる程、貸切だから出来る方法ですね。一ヶ所に留まると次々とレイスが襲って来ますから、ナイスアイデアです。流石は、リーンハルト様ですね」

 うん、その何だ。キラキラした目で見られると反則技で経験値と資金を稼いでいるみたいで心苦しいです。でもレイスは経験値は高いけど、アイテムのドロップ率は低いから。

 少なくとも『古代魔術師のローブ』は宮廷魔術師全員に渡して、防御力を高めたい。戦争だし魔術師は優先的に攻撃されるから、見た目は悪いが強制的に装備だよ。

 ベリトリアさんやコレット、バーリンゲン王国から引き抜いたフローラ殿の分も考えれば予備を含めて十個以上は欲しい。今日だけで集めるには厳しい数だけどね。

「次の部屋に行きましょう」

「あの、イルメラさん?手を繋ぐとだな、両手が塞がるのだが……いや、問題無いね。アイン達が全て倒すからね」

 悲しい顔をされてしまうと反対は出来ない。イルメラさんは、昨日の恋人握りが凄く気に入ったみたいなんだ。ニコニコと微笑み軽く前後に振りながら歩く姿にだな。

 ウィンディアとエレさんが絶対零度の視線を向けて来ますが、此処は微笑ましいですね!って感じでお願いします。アイン、ポンポンと肩を叩いて慰めてくれるのか?

「全く僕の娘達の進化は興味深い、どう言う進化の形態に進んでいるのだろうか?」

◇◇◇◇◇◇

 七番目の小部屋に入ると、昨日は無かった扉が出現している。方法は正解だったらしい、良かった。違ったら最初からやり直しだが、普通はずっと壁を触るなんてやらないな。

 現れたレイスを倒すも宝箱は現れなかった、今回は七部屋共に宝箱は現れなかった。エレさんが八番目の小部屋の扉を調べる、鍵は掛かっていたが問題無く解除した。

 ドライが取っ手を握り、後ろにアインとツヴァイが控える。連携も問題無さそうで、主としては想定外の能力の向上に嬉しくなる。君達は何処に向かっているんだい?

「ドライ、扉を開けろ。アインにツヴァイは警戒!イルメラにウィンディアとエレさんも周囲の警戒をしてくれ、隠し部屋の中も警戒してくれ。ゴーレムビショップよ、突撃しろ!」

 いよいよ秘密の小部屋の戦いだ。どんな罠が有るか分からないので、最初にゴーレムビショップ六体をデモンソード装備で突入させる。

 開け放たれた扉から中を見れば、中央に既に宝箱が見えている。だが襲って来たモンスターはレイスじゃない、天井から落ちて来た物体はなんだ?

 スライム?いや透明感の無い肌色の肉の塊みたいな馬車程の大きさの椀をひっくり返した様な何かだ。一部が盛り上がり飴の様に伸びてゴーレムビショップを殴り付けた。

 腹部に当たり一発でゴーレムビショップがバラバラに弾け飛ぶ。幸い肉塊は一体、残り五体のゴーレムビショップで一斉に斬り付けるが斬撃の効果は薄い。

 切り裂いても直ぐに傷が埋まる、初見でレイス対策の装備で挑んだら負けるぞ。ここに来て実体の無いレイスから、実体の有るモンスターに切り替えかよ!

「強い!レイスと思ってデモンソード装備だったら負けていたぞ」

 デモンソードは物理的な攻撃力、斬撃効果は低い。コイツには鉄の棒と変わらない、武装の切り替えだ。両手持ちアックスとモーニングスター、槍と三種類の武器に切り替えて攻撃する。

 この肉塊は一定の深さまで切り裂けばダメージを与えられるみたいだ。槍は刺さったら抜けず、モーニングスターは衝撃を吸収されて効果は薄い。多様な武器に切り替えなければ、最適な攻撃方法は分からない。

 やはり初見殺しの悪辣な罠だ。オバル殿に見せて貰った写しじゃない地図には、この肉塊の事は書いて無かったぞ。中途半端で使えない、本当に肉塊を倒して宝を手に入れたのか?

「不味い、ゴーレムビショップが押されている。肉塊の回復力がダメージを上回るのか?アイアンランス、乱れ撃ち!」

 幅20㎝長さ2mのブレード状のアイアンランスを五十本、周囲に浮かべて一斉に撃ち出す!流石に蜂の巣になれば倒せただろ……嘘だろ?

「分裂しやがった。物理攻撃で細切れじゃ駄目なのか?核でも有るのか?」

 全体的な質量は変わらないみたいで、分裂したら小さくなったのは幸いなのか?失敗なのか?取り敢えず全ての武装を両手持ちアックスにして攻撃する。

 ダメージは入っているみたいだが、反撃でゴーレムビショップもダメージが酷い。コイツ、本体の動きは鈍いが一部が飴の様に伸びて鞭みたいな攻撃をする。

「リーンハルト様、後ろからレイスがっ!」

「フィア、フンフ!後方の安全確保。ゴーレムビショップをもう六体投入する、押し切るぞ!」

 通路側からレイスが三体、此方にフワフワと浮きながら近付いてくる。目の前の肉塊は四体に分裂、小さくなったが攻撃力は変わらない。

 流石は最下層、ボスでもないのに手こずるとはな。だが未だ大丈夫、落ち着いて対処すれば負けはない!

 


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