古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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メリークリスマス、皆さん楽しいクリスマスを!


第696話

 アウレール王とネクタルの件について相談したが、即答は無かった。だが予想より大分譲歩してくれて協力的であり、ザスキア公爵を交えた三人で暫くの間は検討する事になった。

 だがレベルアップ目的で肉塊を倒し、序でにネクタルを入手する事は許可を貰えたので時間を見付けては挑んでいる。目標は女性陣が全員レベル40以上だが順調、僕もレベル55になった。

 オバル殿にはネクタルを十本渡した。理由は若返って身分を偽り、他人として新しい人生を過ごしたいから。十代前半まで若返ってから計画的に失踪した。

 若い頃から盗賊ギルド本部の幹部として忙しく働き、気が付けば三十代後半。フッと虚しさだけが心の中に溢れかえる、今から同世代の旦那とでは、失われた青春は取り返せないらしい。

 理由は恋愛をした事が無いし興味も無かったが、ザスキア公爵の広める新しい世界に感化して若い旦那が欲しい。自分が若返ったら、同い年位の若い旦那が欲しいと熱弁された。

 彼女はエムデン王国内の何処かで、第二の人生を歩み始めた。後任人事は問題無く済ませており、引き継ぎは問題無い。それと新しい代表には第十階層の隠し部屋の件は伝えていない。

 つまり盗賊ギルド本部は、今回の件について知る者は誰も居なくなった。オバル殿の計画的失踪も国家の闇絡みかも?と思わせ関係者の引き締めと情報の断絶を行えた。

 オールドマン殿とレニコーン殿には悪いが、国家の闇に触れるからと厳しく箝口令を敷いた。これで、ネクタルの入手経路の秘密は守られたが、マジックアイテム絡みで状況的に一番怪しいのは僕だろうな。

 ザスキア公爵はネクタルを二本飲み、五歳程度若返ったそうだ。元々若く見えるので多少の違和感位なのだが、本人曰わく肌の張りや艶が全く違うらしい。

 モリエスティ侯爵夫人やメラニウス公爵夫人には秘密にしている、彼女達の協力は必須だが未だ巻き込むタイミングじゃない。だが必ず欲しがり使いたがる、だから未だ話すのは早い。

 ネクタルは既に三百本を超えている。だが熟女達が若返りたいと求め始めれば直ぐに無くなる、一人十本でも三十人。高貴なる者達の中で、欲しがる連中はもっと居る。

 定期的に社会問題にならず、何とかネクタルを流通させたい。イルメラ達が必要になる時には、問題無く使用出来る様にするには問題が山詰みだよ……

◇◇◇◇◇◇

 ネクタル騒動が一段落し、毎週二回定期的に魔法迷宮バンクの攻略が可能になったので次は仕事を進めなければならない。貴族院から貴族街と新貴族街の地図を貰えたので、巡回コースと巡回時間の摺り合わせだ。

 アウレール王の勅命により公爵五家と、没落したクリストハルト侯爵を抜かした侯爵六家に通達を出し各自の巡回コースを取り寄せた。流石に勅命だけあり、反発している連中も素直に提出はしてくれた。

 だが連携も協力もせずに独自で行うので不干渉にして欲しいと、遠回しに言ってきた。これは妻や子供しか残っていない屋敷に、敵対派閥の連中が出入りをする可能性の拒絶だな。

 戦争から帰って来たら家族が敵対派閥の連中に籠絡されていたら堪らない。または家族が気になり戦いに身が入らないとか、色々理由は理解出来るから了承した。

 まぁ実際は不干渉と言った連中の派閥構成貴族達の屋敷の前も巡回コースに含まれている、派閥同士が固まって住んでる訳じゃないから。声掛けや不審者捜索はしないが、何か有れば対応は出来る。

 僕は臨時で配下になった聖騎士団と王宮警備隊の連中を班分けして、手薄な場所に巡回させれば良い。後は応援の予備人員を確保しておけば大丈夫だ。

「そう、貴族街や新貴族街の巡回の段取りは問題無い。この内容を関係者に配布し、了承を貰えれば明日からでも実行出来る」

 関係者全員に知らせるのは自分達を守ってくれる連中が、例え敵対派閥だとしても何か有れば頼れる為の保険だ。自前の派閥だけでは数に限りが有り、手薄な場所や時間帯も有る。

 有事の際には派閥の垣根を超えて活動出来る為にも、事前の根回しと了承が必要。最悪の場合、賊が逃げ込んだ屋敷に派閥絡みで突入出来ず逃がしたとか笑えない。

 そして仲間以外の連中にも頼る事が出来ると、残された家族が理解し遠慮無く助けを求め易くする理由作り。逆に此処までしないと、派閥違いだからと非協力的になるからだよ。

「問題は、もう一つの商業区や平民達の居住区の巡回。これに、ラミュール殿が同行したいって頼まれた件だよ」

 自分の執務室で頭を抱える姿は他人には見せられない。人払いはしてるし、ザスキア公爵も事情により居ない。専属侍女達は控え室で待機、リゼルは朝から不在だ。

 宮廷魔術師第三席の侯爵待遇の子爵、水属性魔術師ラミュール殿の願いを断れる連中など数える程しか居ない。僕としても敵対していない先輩宮廷魔術師には配慮が必要だ。

 何故、彼女が平民達との交流を求めるのかが分からない。彼女は貴族としては平民達に優しいが、積極的に援助したりはしていない。

 まぁエムデン王国の大抵の貴族はそうだな。虐げないだけマシであり、多少の配慮をすれば良い方だ。彼女は領地を持っているが、代官任せ。だが治安も暮らしも良い。

 平民達と交流するなら、領主として領民と触れ合うのが一番簡単だし自由に振る舞える。なのに何故、王都でなのか?その謎は分からないし、本人にも聞けない。

「リーンハルト様、ラミュール様の配下の方々がいらっしゃいました」

「ああ、通してくれ」

 配下と言うが、腹心の水属性魔術師団員と彼女の私兵部隊の隊長だ。私兵部隊と言えども、ラミュール殿と共に護衛として参戦するし爵位持ちも居るだろう。

 言い換えれば親族部隊だな。彼等と巡回の件についての初めての顔合わせと打合せ、何回か行わないと恐ろしくて実行など出来ない。

 因みにだが、ザスキア公爵には既に説明済みで席を外して貰っている。要らぬ警戒を買う必要もないが、ラミュール殿はザスキア公爵の布教する新しい世界の信奉者だしな……

 逆に僕の居る時に会わせる方が不安なんだよ。意気投合って言うか、同僚のマリオン将軍にも布教する程に彼女は、ザスキア公爵の理想の世界に入れ込んでいる。

 最近は独身の御姉様方だけでなく、結婚しているが夫婦間の立場が上の御婦人方が愛人や若いツバメを囲うケースも増えている。悪くは無いって言うか貴族的には普通なのだが、相手が若くなる傾向が強いのがね。

 この件については今は無関心無関係にしておきたい。彼女達が一番欲しがる物(ネクタル)を大量に所持し販売ルートの構築を計画しているとか、バレたらどうなるか想像するだけで怖い。

 多分だが、ザスキア公爵は彼女達を巻き込む……ん?巻き込む?金も権力も有る連中を集団で味方に引き込める。彼女達が一斉に平均十歳位若返ったらどうなる?

 今後もネクタルを定期的に入手したいと考えて、最古参の購入者達として協力してくれるだろう。新規の顧客になれる条件は、色々と考えられる。

 ザスキア公爵の怖さはコレだよ、協力者の人脈作りの為の布教活動とか考えてしまう。流石にネクタルの件は予想外だろうが、公爵四位も間違い無く三位に繰り上がるだろう。

 その彼女の企みの補助の為にも、ネクタルは五百個は入手する。勿論だが、イルメラ達の使用分は別に確保する。ザスキア公爵は五歳ほど若返った、肌の張り艶だけでも分かるらしい。

 つまり彼女がネクタルを使用した疑いは……これは早い段階で、ウルム王国に勝った後辺りが怪しい。戦勝気分に配られる報奨金、家族の為に散財する者も居るだろう。

 だがしかし、全てを売り捌けば僕の資産がトンでもなくヤバくなる。国家が危険視する位にだ、金貨一万枚で売っても五百万枚。定価の五万枚だと二千五百万枚?小国の国家予算だよ。

 大量供給すれば価格は下がる、金貨五千枚位でも利益は出る。初回は無料配布、明確な味方として立場を表明しないと二回目からは売らない。

 それでも巨大派閥が出来る、国家に匹敵する欲望で雁字搦めに結束した集団?駄目だ、これも危険視される。薄利多売も駄目、ニーレンス公爵とローラン公爵を巻き込むか?

 いっその事、王立錬金術研究所で複製に成功した事にするか?全てをセラス王女の功績にして、アウレール王に成果を献上し国家が対応してくれる。うーん、これも穴が有りそうだよな……

◇◇◇◇◇◇

 執務室に入って来たのは、見覚えの有る宮廷魔術師団員と見覚えの無い騎士だ。多分だが、ラミュール殿の子爵家の子飼いの騎士だろう。

 魔術師殿はレベル30前後で騎士殿はレベル40前後、共に三十代かな。双方鍛え抜かれた精鋭、彼女の配下の層は厚そうだ。歴史有る魔術師の家系だし、譜代の家臣とか羨ましい。

 取り敢えず会議用の大テーブルに案内し、リゼルが紅茶を用意して……ん?リゼル、何してるんだよ!君は侍女でもメイドでもないのに、何故メイド服を着て此処に居る?

「召集に応じて頂き感謝します。僕はリーンハルト・フォン・バーレイ。宮廷魔術師第二席の任に就いています」

「宮廷魔術師団員水属性魔術師の、パペルニ・フォン・ヒーツです」

「ラミュール様の騎士、ガトラム。我が姫の我が儘に応えて頂き、感謝しています」

 二人して揃って頭を下げたが、相談の内容は理解しているみたいだ。ラミュール殿の我が儘か、この二人は日常から苦労してるのかな?

 いえいえ、お気にならさずとも言えないので曖昧な笑顔で誤魔化す。この手のタイプは仕えし主に苦労しているが、甘やかす事が多い。

 ラミュール殿の事が好きなのだろう。だから苦労を買っても役立ちたい、その気持ちは尊重するが駄目なモノは駄目と言わねばならない。

 まぁ僕も彼女のお願いは、立場上断り難いんだよ。断った場合のデメリットがね、大き過ぎるから。何とか希望を無難に叶えたい。

「堅苦しい挨拶は抜きにして本題に入りましょう。ラミュール殿の希望は商業区の巡回と、平民との触れ合いで間違い無いですよね?」

 目的を曖昧にしては駄目で、はっきりと相互理解が必要。目的の理解度の違いは、この条件だと致命傷だぞ。平民と触れ合うレベルの線引き、挨拶し軽い会話で終了が望ましい。

 この言葉に、パペルニ殿は深く頷き、ガトラム殿は思案した。前者は僕と同じ無難に巡回を終わらせたく、後者は更なる触れ合いを考えている。

 だが軽い会話以上の触れ合いって何だ?陳情を聞いて解決したいとか?まぁ大抵の陳情は金貨と権力で何とかなる。事前にサクラを仕込んだ方が良いかな?

「ラミュール様には問題の発生しない触れ合いが、非常に望ましく思います」

 僕も、パペルニ殿に全面賛成です。

「だが姫様の希望は、簡単な会話程度じゃないぞ。リーンハルト様みたいに、領民の陳情を解決したい筈だ。慈母の女神の二つ名に賭けて、リーンハルト様の様に活躍したいのだろう」

 ガトラム殿、それは甘やかし過ぎです。僕の様に活躍とか言うけれど、僕は直接的に対応していないぞ。

「それは無理、それに陳情も自分で対処してないから。配下任せだよ、時間も暇も無いから無理だから」

 まさかの拒絶に驚いて固まった。だが僕が直接、平民達に配慮するのは政敵に付け込まれる隙なんだ。だから配下任せ、しかも陳情した者の裏事情も調べ唆した者が居れば対処する。

 ラミュール殿は優しいのだろう。だが一度でも平民達の陳情を聞いたら、継続的に行う事になるけど大丈夫なのかな?一回だけとか一日だけとか、その評価は微妙になる。

 上級貴族様の気分次第の善行でも良いけれど、貴女は『慈母の女神』が二つ名だから良く考えないと駄目だと思うんだ。

「そんな!姫様の願いが叶わないなんて……いや、だがしかし治癒魔法のスペシャリストだから治療系の陳情が必ず来る筈だ。未だ望みを捨てるのは早い」

「いや、商業区で巡回中に治療の陳情とか無いでしょう。事前にラミュール殿が巡回する情報を公開する事は、警備上の理由で許可出来ません。簡単なのはモア教の教会に視察し治療を手伝うのが、安全且つ確実でしょう」

 上級貴族が巡回に同行するだけで異例なんだぞ。しかも条件的には騎乗しての巡回、その身を危険に曝す事になる。彼女の顔を知る者は、平民階級では少ない。

 いや、殆ど居ないだろう。そんな貴人が巡回とか事前に情報を流せば、街は混乱する。しかも僕が同行すれば、更に大混乱だ。その混乱に乗じて、悪さを考える奴は必ず居るだろう。

 だから事前告知はしない。知名度は高いが顔を知られてないから、彼女が『慈母の女神』だとは分からない。だから治療してと頼む者は居ない、悪循環だな。

「ですが教会での治療の協力は……神聖魔法と水属性魔術は似て非なる物ですから、イマイチ仲が良くないのです。モア教の協力が得られるか疑問ですよ」

 ペパルニ殿から衝撃の事実を聞いた。水属性魔術師達とモア教って確執が有ったのか、知らなかったがお互い治療特化だからか?

 ガトラム殿は我が姫様を蔑ろにする、モア教よ滅べとか言い出した。この人は駄目だ、優先順位が明確過ぎて使えない。問題を率先して起こす、典型的な悪気は無いがって奴だよ。

 だが確かに問題が有ると聞いて、モア教に協力は頼めない。ならばサクラを用意するしかない、僕宛に治療の陳情をしている人達を斡旋するか?

 だが僕も同行してるし、口止めしないと関係が拗れる気がする。陳情者を宛てがうみたいに感じられたら、上から目線とか言われそうだ。

 だが生の陳情を情報非公開の巡回中に引き当てられるかと聞かれたら、無理って言うしか無いだろう。治療が必要な地域は治安も悪い、言い方は悪いが貧民街かスラム街だぞ。

 難しい、最初の実務者会議で躓いた。僕の前で、パペルニ殿とガトラム殿が言い合いを始めちゃったよ。ラミュール殿至上主義で常識は二の次の、ガトラム殿を納得させる材料も手段も無い。困ったな、どうしようか……

 




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