古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第707話

 貴族街と新貴族街の巡回警備の資料を纏めている。公爵五家に依頼する形になるので手続きには気を使う、特に中立と敵対の二家には付け入る隙を与えない。

 その為に、アウレール王から勅命という形で各公爵家に通達した。協力に拒否は出来ないが、粗探しをして攻撃する事は出来る。王都の混乱は、治安を預かる僕の失態になるから、政敵からすれば狙うだろう。

 幸いと言うか、バニシード公爵もバセット公爵も第一陣としてウルム王国に進軍中だ。大変厳しい状況らしく、僕に対する工作をしている暇は無い。

 残された者は自身の身を守る事が不安になり、逆に助けを求めて来た。故に妨害工作の可能性は低く心配は少ないが、バーリンゲン王国の貴族連中みたいに最悪の選択はするなよ?

 各派閥の末端貴族にまで自分達の派閥の巡回警備の予定とルート、それと僕が追加手配した巡回警備の予定とルートを教える。国王にも報告した正式な計画だから、不備は許されない。

 忙しいから手配が出来なかったから聖騎士団や王宮警備隊が巡回してくれるから、自分達は巡回警備を変更したり減らしたりは出来ない様に仕向けた。もし勝手に変更したら、勅命を達成出来ずで処罰対象だ。

 これだけ御膳立てしたのだから、計画通りに実行してくれ。失敗はしないだろう、人員の確保だけ間違えなければ多少の人数の増減は問題にしない。これで貴族街と新貴族街の巡回警備は大丈夫だろう……

◇◇◇◇◇◇

 貴族街と新貴族街の巡回警備が形になったので、王都の巡回警備の方に意識を向ける。ラミュール殿の市井の民との触れ合いイベントだが、率いる人材が微妙で残念なんだ。

 宮廷魔術師団員の、ペパルニ殿は僕と同じく安全確実路線。無理せず無難に終わらせたい派だが、子飼いの騎士ガトラム殿は、極力彼女の希望を何をしても叶えたい派だ。

 だから安全と成功の兼ね合いを考えて、叶える希望を事前に精査し選別する事を提案。中小のギルドに希望を募り内容を確認する事にして、今日リストを提出したいと連絡が来た。

 暴走しがちなガトラム殿を監視する様に、ペパルニ殿を焚き付けたので大丈夫だとは思う。僕も王都にどんな中小ギルドが有るかは知らないので、実は楽しみにしている。

 時間丁度に訪ねて来たのだろう、対応した専属侍女が対応し少し会話している。特に騒いでもいないので、問題が発生した訳じゃないな。

 彼等は、ラミュール殿に心酔しているから、フレイナル殿みたいに専属侍女達を口説いたりもしない。少し騒がしいのは、やる気と元気が溢れているからだよね?

「失礼します!調査の結果を報告に参りました」

「我等の方でも幾つかピックアップしています。我が姫に相応しい陳情が中々無くて難儀しましたが、厳選した陳情を揃えましたぞ!」

 ガトラム殿はドヤ顔だが、宮廷魔術師第三席に相応しい陳情って何だろう?治癒系魔法のスペシャリストだから、誰かの治療とかがベストだ。その場で終わるか訪ねて治療して終わり、それが望ましい。

 自信満々のドヤ顔を振り撒く、ガトラム殿を忌々しそうに睨む、ペパルニ殿の苦労が伺い知れる。さぞや暴走を抑えるのが大変だったのだろう、気持ちは凄く分かるよ。

 取り敢えず座る様に指示し報告書を貰う。ペパルニ殿が清書し纏めたのだろう、目次や見出しが有り大変見易くなっている。ペパルニ殿は内政系が得意なのだろう、それはそれで貴重な人材だ。

「どれどれ、王都に有る中小ギルドの陳情とは一体どんな……」

 店舗を構えない露天商ギルド、サウナや公衆浴場を統括するギルド、薬師や呪(まじな)い師のギルド、手紙や荷物を代行して送り届ける配達ギルド。この四つが厳選したギルドか……

 露天商ギルドの構成員の陳情は、場所取りの公平性に上納金の価格が高いから何とかしてくれ?場所取りは、多分だが売上高の多い店が優先的に良い場所を貰えるのだろう。

 売上げが多いから上納金を多く払える、逆に不人気の場所は売上げも少ない。素人でも分かる原因だが、公平性を望むなら籤引きで場所を選ばせれば良い。

 だが客は買いたい商品を扱う店が不便な場所に有れば文句を言うし、売れない店舗は良い場所でも売れない。まぁ多少は多く売れるかも知れないが、扱う商品の確認と需要と供給のバランスを理解しないと無理だな。

 次はサウナや公衆浴場を統括するギルドの構成員の陳情は、客のモラルの悪さの問題か。何日も風呂に入らず汚れた身体を洗わずに浴槽に浸かる、浴槽の中で身体を洗うし中には洗濯物を持ち込む奴も居るのか?

 平民は自宅に風呂が有る方が少ない。中級でも上位の連中位だろうし、夏場は水浴びで済ませて冬場は蒸しタオルで身体を拭き清める位だな。それが普通だ、毎日入浴するなど貴族か平民でも富裕層だけ。

 モラルの悪さは入浴のマナーを知らないからだと思う。案の定、陳情したサウナや公衆浴場は貧民街の近くの利用料金の安い場所だ。この界隈だと識字率も低い、文字で説明しても無理だから実演する?いや、手間暇が掛かるな。

 三番目は薬師と呪(まじな)い師のギルドの構成員の陳情は、薬が効かない呪いが当たらないと文句を言う客が多い?いや、基本的に文句言うだろ!金を払って効かない薬や当たらない呪いを頼むか?

 先ず薬師だが、基本的に軽めな傷や病気はポーションで治る。重傷でもハイポーションで治る。薬師とは、ポーション類で治らない病気を薬で治す連中の事だよな?薬を与えて治らない、でも文句を言うな?

 呪い師は自分の未来をより良くするにはどうしたら?とか失せ物や自分で解決出来ない悩みを占って貰うのだが……当たらない、でも文句を言うな?この解決方法は簡単だが難しい、病に効く薬の提供と依頼された事を当てる事だ。

 最後の手紙や荷物を代行して送り届ける配達ギルドの構成員の陳情は、客の横暴……特に貴族関連が多いか。これ駄目なヤツだが、何故チョイスした?

 配達日数を短縮するのは何となく分かる、急いでるから早く寝る間も惜しんで走れ!位に思っている困った連中は居るだろう。配達ルートの治安が悪い、これは各領主の問題だ。地方に行く程、予算も人材も少ない。

 治安の悪化は野盗の取り締まりの強化が一番効果的だが、何故野盗が頻発するかの原因は領主の治世が悪い事が多い。エムデン王国はマシな方だが、皆無ではない。

 何故、この陳情をリストアップした?どれも問題を孕んでいて、ラミュール殿でも厳しいし失敗すれば大炎上の大火傷だぞ!

「なる程、良く調べましたね。では四つのギルドの陳情に対して、どう対策するかも考えてますよね?ラミュール殿に丸投げとかは、許可しませんよ」

「え?それは、リーンハルト卿も一緒に考えてくれるのでは?」

「我が崇拝する姫ならば、簡単ですぞ」

 ペパルニ殿は僕に半分投げて、ガトラム殿はラミュール殿に丸投げか?崇拝って宗教みたいで怖い、少しは自分で考えて対処可能な陳情かを判断しろ!

 机の上の報告書を人差し指で何度も軽く叩く。小さな音だが、それを聞いた二人が怯えている。ザスキア公爵が、良くやる仕草だが効果的だな。

 先に調べさせて、ラミュール殿に話す前に確認出来て良かった。この陳情の解決は難しい、即その場で指示して終わりにはならない。既得権の侵害や他の領主への内政干渉の危険を孕む難題だぞ。

「大人しく聞きなさい。後で指示書に纏めて公式に渡しますが、先ずは……」

 最初の陳情、露天商ギルドの場所取りの公平性に上納金の価格が高いについてだが……誰がどの場所で何を売って売上げが幾らで上納金の算出方法を調べる事。

 単純に籤引きとか毎回順番で場所を決めるとか安易な対応は、買いに来る客が不便とか言い出す危険が有るから。ラミュール殿に不満が向かう可能性が高い。

 ギルドにも序列や貢献度が有り、高い者ほど良い場所が選べる現状を変えるだけの理由を探さないと無理。権力で押し付ければ反発するので注意。

 二番目の陳情、サウナや公衆浴場を統括するギルドからの客のモラルの悪さの問題だが……そもそも淑女たる、ラミュール殿を異性も裸で使用するサウナや公衆浴場に連れ込むのか?

 高貴なる貴族の令嬢が近寄るべき場所ではない筈だが、何故にピックアップして連れ込む事を選んだんだ?普通に却下だが、どうしても陳情を何とかしたいなら理由を明確にする事。

 必要な理由が有れば検討するが基本的には却下の方向で。但し陳情の有った場所は低所得者の多い場所、故に識字率が低い。利用方法を文字で書いて掲示しても効果は薄い、その都度口頭説明も現実的じゃない。

 説明用の絵を考えてみなさい、冒険者ギルド本部が新人冒険者達にモンスターの姿形を教える為に活用しているので参考にすると良いでしょう。

 勿論ですが、貴方達が考えてラミュール殿に進言して対応する事にして、彼女は現場には行かせない。淑女たる者が、不用意に行ってはいけない場所ですが配下に指示して対応したなら彼女が評価されるでしょう。

 三番目の陳情、薬師と呪(まじな)い師のギルドの薬が効かない呪いが当たらないと文句を言う客が多い問題だが……基本的に陳情者の能力不足、顧客の要求を満足させられない時点で駄目でしょう。

 下手に彼等に荷担すると、ラミュール殿の評価が落ちます。丁重にお断りして下さい、却下です。そもそも何故、こんな陳情を受けたのか?良く考えないと、大切な姫様の評価が落ちるから気を付けなさい。

 当たるも八卦当たらぬも八卦?薬の効果は個人差が有り、一概には効くとは限らない?馬鹿を言うな、当たらぬ効かぬなら効果が出るまで責任を持て!

 最後の陳情、手紙や荷物を代行して送り届ける配達ギルドの、客の横暴特に貴族関連が多い問題だが……これは対象が平民じゃなくて貴族だ、前提条件が違う。市井の民との触れ合いにはならないし、多くの貴族に無理強いを強要する事になる。

 先ず単純に無理な配達日程を強要するな!って貴族連中に言わねばならないが、そんな事を強要すれば反発されるぞ。次に迅速に届けるには街道の整備と野盗を排除し治安の向上が効果的だ。

 だがそれは各領主の管轄だから、ラミュール殿が強要するのも権限が無いから問題だ。まさか平民から陳情が来てるから、自費で改善しろって言えるのか?この陳情は一番危険だから却下!

「以上、簡単に説明したが問題点は理解出来たかな?後で正式に書面で通達するから、確実に意味を理解し行動する事。それと並行して、他にもマシな陳情が有るか探す事。報告は一週間後にします」

 直立不動で聞いていた二人が、凄い勢いで敬礼した?

「「はっ!了解致しました。直ぐに実行に移ります」」

 いやいや、君達は口頭での説明で本当に理解したの?勢い良く飛び出して行ったけど、本当に分かってる?それと扉は閉めて行ってくれ、一応だが不敬な行動だぞ。

 ペパルニ殿が一緒だから大丈夫とは思うが、今回ピックアップした中では選べる陳情は無い。選んだら対策まで考えてから進言して欲しい。

 指示書の用紙を取り出して、先程の四件について言った事を書面に起こす。言った言わない聞いた聞いてないじゃ駄目だから、書面にして確認のサインをさせれば責任範囲は完璧だ。

「お疲れ様でした、リーンハルト様。今回の二人ですが、裏表なく第三席様を慕ってます。ですが少し知能が足りないみたいですわね」

「ああ、リゼルか。今回の四件、どれも使えない。他に何か探すしかないのだが、最悪は僕が仕込んでおくか。やらせとか言わせない、それだけ宮廷魔術師第三席を動かす事は大変なんだぞ。あ、いや肩は揉まなくて良いよ。未だ若いから、肩は凝らない」

「肩凝りに年齢は関係有りませんわ。回復の程度の差だけで、若くても未成年でも凝る時は凝ります。ほら?ガチガチですわ」

 さり気なく近付き後ろに回り肩を揉む、自然に気配を感じさせずに接近されるとは僕も未だ未熟って事か?それとも、リゼルの技術が凄いのか?

 ガチガチって言うのは、淑女に触られているから緊張して強張ってるだけだから。リゼルも気軽に異性に触らないで欲しい、少しは気を使って下さい。

「あらあらじゃないぞってアレ?もしかしてネクタル飲んだのか?昨日より若く見えるんだけど……」

「はい、その我慢出来ずに一本だけ飲みました。感覚的には二歳は若返ったと思います」

 真っ赤になって照れたが、効果が高過ぎて直ぐにバレそうだな。少し誤魔化す手段が必要なので『治癒の指輪』を渡した。

 これを身に付けていれば、指輪の効果で若返ったとか肌の張り艶が良くなったとか言えば誤魔化せるだろう。

 リゼルは有効なギフト持ちだから、ネクタル所有疑惑で目を付けられたり危険に曝す事は出来ない。それに凄く嬉しそうだから良いが、左の薬指には嵌めるな!

 僕に貰った指輪です!も無しだ。そんな危険な台詞を吐いたら、僕と敵対している連中に狙われるから止めなさい!

 


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