古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

717 / 999
第711話

 裏切り者、グンター侯爵を成敗する為に奴の野営地に向かった。悪事を働く者は用心深い、バレた時の為の護衛を用意していたのは予想の範疇だ。

 国内にいる、それなりの武芸者はチェックしていた。武力が高い連中は、敵側に裏切る可能性も捨てきれないので監視を張り付けていた。

 敵国の冒険者ギルドから引き込んでいたとは、しかもモンスターよりも人間を殺す事を好む『ケルベロス』と呼ばれる三人組の槍使い。

 まぁまぁの強さだが特に苦戦もしないし脅威でもない。身体の慣らしに丁度良いレベルで、十分に身体が暖まったから先ずは一人を倒した。

 残りは二人、後は魔術師の三人組。男二人に女が一人、火属性魔術師と思うが三人組なのかバラバラに雇われたのか?エムデン王国には三人組の火属性魔術師は居ない。

 残り二人を片付けたら魔術師共も倒す。敵対した相手だし、貴重な魔術師でも手加減などしない。金で雇われただけかもしれぬが、雇い主は国家反逆罪の裏切り者。

 この時点で俺と敵対しているのだ、同じく裏切り者として始末して構わないだろう。味方を殺されて言い争う残り二人に視線を向ける、流石に不味いと思ったのだろう。

 槍を構え直して睨み付けてくる。だが二人や三人で槍を構えても脅威でも何でもない、俺達は円殺陣と言う二重三重の包囲網を破って来たんだ。

 弓・槍・剣と全ての間合いからの連続攻撃を受けた後ではな、欠伸を堪えるのが辛いレベル。まぁ一般人の枠内では手強いのだろうが、人外相手じゃ温いぜ。

「流石は伝説の化け物!貴族だから話を盛っていた訳じゃなかったな」

「まさか俺達ケルベロスのトリプルアタックが通用しないとは……」

 トリプルアタック?必殺技ならもう少し捻った名前にしろ、適当感が凄くて笑える。まぁ大層な名前を付けても、威力がショボければ逆に笑いのネタか?いや、奴等の表情は本気だぞ。肩を竦めると苛立ちが増した、煽りには弱いのか。

「これで終わりにする!」

 バニシード公爵とバセット公爵の野営地から兵士達が向かって来るのが見えた。下手に邪魔をされる前に片付けよう、横槍は御免だからな。

「「「ファイアボール!」」」

「お前等!味方ごと焼き尽くすつもりか?」

「なんだと?裏切ったのか?」

 背後の魔術師共が一斉にロッドを振り下ろし、生き残りのケルベロスの二人共々焼き殺すつもりだ。だが長い詠唱だったのに、只のファイアボール?

 ケルベロスの二人は掛け声を聞いて後ろを振り返ったが、目の前の敵から目を離すのは愚行だぞ。三発のファイアボールの内一発は、ボイドと名乗った男に当たり盛大に火花を散らした。

 残り二発は俺に向かって来るが鈍い、ファイアボールは当たらなければ弾けないので避ける。切り払えば、その場で爆ぜるから厄介だ。熟練者は目隠しの為に……

「何だと?」

 ケルベロスの生き残りの一人の身体が胸から切り裂かれた!高威力の斬撃系の魔法だが、それは風属性魔法。奴等二属性持ちか?だが威力が高い、短い詠唱では無理な筈では……

 切り払いは無理と判断し真上に跳び上がる。軽く15m以上は跳べるのは、身体能力倍化の腕輪と跳躍力倍化のブーツの魔力付加のお陰だ。現代では国宝クラスらしいが、普通に錬金しやがる。

 見上げる魔術師共の驚いた顔が笑える。飛翔魔法などは有り得ないとか言っているが、これは只のジャンプだよ。慌てずに斬撃系の魔法を放って来た、切り替えは早いな。

 目には見えぬ風属性魔法、だが打撃力より速度と切り裂く威力に重点を置いたのだろう。何となく風を切る音で分かる、風の刃は五枚だが全てをロングソードで弾き飛ばして無効化する。

 着地と同時に最後の女魔術師が放った魔法が、土埃を巻き上げて真っ直ぐ向かって来る。これは風圧で打撃力を高めた魔法か。確かな連携プレーは、長年組んで行動していると分かる。

「だが甘い!魔法による打撃攻撃など、リーンハルトの巨岩投石やゴーレムの拳連打で経験済みよ!」

 自ら風の塊に突っ込み拳で粉砕する。風圧と拳圧の真っ向勝負は拳圧の勝利、驚いた顔の女魔術師を袈裟懸けに一太刀。更に右側に居た男も魔法で抵抗したが一刀両断にする。

 普通は魔術師など接近さえしてしまえば勝てるんだ。義理の息子の異常性に改めて驚かされる、接近戦可能な魔術師とか不可解だ。女魔術師は不意を突いた為か自らの魔法が敗れた事が信じられないのか、驚いた顔のまま無抵抗で切られた。

 だが厳つい男の魔術師は手に持っていたロッドを振り下ろして、ファイアボールを撃って来た。あれは確かマジックアイテムの『ロッド・オブ・ファイアボール』か。二属性持ちじゃなくて、マジックアイテムで代用。速攻と牽制用に使ったのか、良く考えてはいる。

「貴様っ!よくも弟と妹を殺したな」

 最後の生き残りが叫んでいるが、逃げるか攻撃するかしろ。敵に話し掛けてどうする?謝るとでも思ったか?馬鹿か、俺達は殺し殺される関係だぞ。

「ふん。殺そうとして返り討ちに合ったからとキレるな、愚か者。戦う者としての覚悟が無いぞ。風属性魔術師の三兄弟、お前達は『忘却の風』だな?」

 エムデン王国冒険者ギルド本部代表、オールドマンから教えて貰った要注意人物。デスバレーでの商隊襲撃の首謀者だと疑われている冒険者パーティ、それが『忘却の風』だ。

 『ケルベロス』に『忘却の風』とは悪評高い連中を集めたものだな。犯罪者は犯罪者を好む、同類の方が安心するのか信頼出来るのか?

 まぁ良いか。殺しても後悔しない連中で良かった、これが脅迫されて嫌々とかだと良心が痛むんだ。今回はハッキリとした悪者、故に手加減は要らない。

 素性を当てられて少し動揺したみたいだ。悪事を働く奴は極力自分の事を隠したがる、逆に誇示する者も居るが今回は前者だな。後者は圧倒的な力が必要、悪名も力と同じ考えだな。

「冒険者は依頼が有れば請ける、これは正当な仕事だ。貴様は許さない、弟と妹の仇だ!」

 エムデン王国の冒険者ギルド本部の依頼じゃない。国を跨いで活動出来るから、大方ウルム王国の冒険者ギルド本部で請けたのか?

 戦後に旧ウルム王国の冒険者ギルド本部には査察が必要だな。戦争に極力介入せずが信条なのに、言い訳出来ないレベルで力添えをしている。

 オールドマンとリーンハルトに情報を流せば色々と動くだろう。負けた国のギルドは戦勝国の傘下となるから、有利な材料だ。つまり今の上層部は軒並み処罰か解雇、支配体制の盤石化には必要だ。

「能書きは良いんだ。魔術師に魔法を唱える時間を与えない、それが鉄則。せめてもの情けとして、俺の必殺技をくれてやる……いくぞ、斬撃波疾走!」

「ま、魔法障壁全開!」

 大地に剣を叩き付ける様に振り下ろす。斬撃が大地をえぐりながら直進、奴の魔法障壁を叩き割って真っ二つにした。その後ろの天幕にも斬撃が当たる様に射線を調整している。

 力を加減して天幕だけ吹き飛ばせば腰を抜かした、グンター侯爵が数人の配下と共に居たが……配下は我先にと逃げ出した、人望の無さが垣間見える。

 慌てて鎧兜を着込んでいた最中だったのか?中途半端に装着している。座り込み鞘に収まったままのロングソードを震える両手で構えているが、両足を使いズリズリと後ろに下がっている。豪華な絨毯が絡まり、まるで蓑虫だぞ。

 逃げたいのか戦うのか、どっちなんだ?嗚呼、恐怖で小便を漏らしたのか絨毯が濡れて変色している。侯爵とは言え、戦場では無力。裏切り者に味方は居ないし誰も助けにも来ない。配下が逃げ出したのが、その証拠だぞ。

「ひひっ!貴様は伯爵の分際で、侯爵の俺に逆らうのか?今なら未だ許すぞ、だから剣を引け。ほら、早くしろ」

「裏切り者め、ふざけた事をぬかすな!証拠は揃っている。王命だ、死んで罪を償え」

「なっ?金か?金なら幾らでもやるぞ。幾ら欲しい?それとも女か?美術品でも何でも言いぞ。他に望みが有れば叶える、遠慮なく何でも言え。早く言え!」

 虚勢の後は命乞いとは呆れる。俺は王命と言った、ザスキア公爵経由だが裏切り者の侯爵二人は確実に始末する様にと言われている。

 あの毒婦が念入りに御願いと言う形で厳命した事を破れと?馬鹿らしい、俺に死ねと言うのか?あの毒婦に逆らえる者など居ない、俺を破滅させる気か!

 次々と聞くに耐えない言葉を吐いているが、その全てが裏切りの証拠なんだぞ。お前は配下の連中の前で、自分が裏切り者だと自白しているんだぞ。

「グンター侯爵!王命により裏切り者として討ち取る、最後位は貴族としての矜持を示せ。その剣は飾りではなかろう?」

「この脳筋の馬鹿野郎がぁ!」

 拙い挑発に引っ掛かってくれた。鞘からロングソードを引き抜くと襲い掛かって……いや、腰が抜けて立てずに前屈みになっただけか。最後まで締まらない終わり方だな、全く嫌になる。

「成敗!」

 ロングソードを真横に一振り、裏切り者のグンター侯爵の首を刎ねる。痛みすら感じない即死だった筈だ、豪華な絨毯の上をゴロゴロと転がって止まった。

 ロングソードを一振りして血糊を飛ばし鞘に収める。人間の筋肉と骨は強固で下手に切れば剣を傷めるが、リーンハルト謹製のロングソードは刃零れもしない。しても自動的に修復する反則的な武器だ。

 バニシード公爵とバセット公爵が配下を引き連れて駆け寄ってくる。少し事情を説明しないと駄目そうだが、残されて武器を放り出し両手をあげて降伏する連中の処分が問題だ。

 グンター侯爵の配下もそうだが残された、カルステン侯爵の配下の連中の処分もだ。彼等は裏切り者じゃなく騙されて連れて来られた被害者でも有る。

「困ったな、話し合いか?」

 何時の間にか、ザスキア公爵の手の者達が現れて、グンター侯爵の首を箱に詰めて塩を充填している。お前等は何処から現れたんだよ?

 頭を下げて消えやがった、俺が感知出来ないってどんだけ手練れなんだ?しかも、グンター侯爵の首級を持って行った。

 まぁこれで裏切り者の片割れの始末は終わった。残りの方は逃げ出したが、直ぐに最前線に押し込まれてくるだろう。裏切り者は裏切り先に成果を示さなければ立場が無い、つまり戦いの先鋒に立たされるんだよ。

◇◇◇◇◇◇

 ウルム王国攻略の第一陣はガタガタだ。グンター侯爵が裏切り者として討伐され、カルステン侯爵は裏切り者疑惑のまま姿を晦ませた。

 王命によりウルム王国の奥深くまで食い込めと言われながら、プロコテス砦攻略に手間取り遊撃部隊を率いる、バーナム伯爵達に手柄を取られた。

 更に連携すべき侯爵二家は裏切り確定、俺かバセット公爵のどちらが第一陣を率いていたのか?公爵二家が連名で率いたのか?裏切り者に気付かなかったのか?管理体制はどうだったのか?

 下手をすれば自分達も処罰の対象になる為に、今後の話し合いは重要。バーナム伯爵は忌々しいが丁重に持て成し待機して貰い、降伏した連中は武装解除し拘束した。

 バセット公爵と今後の動きの打合せをしないと非常に不味い、下手をしたら第一陣の任を解かれて更迭だ。それだけの失態をした、弁解は無理で新たな功績で相殺か帳消しにするしかない。

 笑えない、全く笑えない状況に追い込まれた。だが今回は巻き込む相手が居る、純粋な仲間ではないが一蓮托生呉越同舟。共に泥船に乗り沈むか対岸に辿り着くか……

「そう不機嫌そうな顔をするな、バセット公爵よ」

「ふん、危機的状況を理解しているから呼び出しに応じたのだ。これからの動き次第では……」

 人払いをした天幕の中には俺とバセット公爵だけ。双方の護衛は天幕の周囲を警備している。他人には聞かせられない、公爵が妥協する話し合いなど……

 バーナム伯爵は王命と言った。そして、ザスキアの女狐の配下が動いている。つまりだ、ニーレンス公爵とローラン公爵も忌々しい小僧も絡んでいる。

 つまり目の前で不機嫌そうに貧乏揺すりをするコイツはハブられた訳だな。関係を中立に下げられ、情報も貰えない。味方に引き込みたくはないが利用は出来る。嫉妬は正常な判断を狂わせる、俺も実体験で学んだよ。高い授業料を払ったんだ、生かさないでどうする?

「お互い破滅だな。国王より先鋒を任されたのにだ、全くの役立たず。同じ第一陣の侯爵二人の裏切り、近くに居て裏切り行為を気付かず他人に処罰を任せた。最悪の無能だぞ、俺達はな」

「それはっ!出陣前から裏切り者として疑い証拠を集めていたそうじゃないか?俺は聞いていない、教えて貰ってない。仕方無いじゃないか……」

 最後の言葉が尻すぼみだぞ。そう、お前は教えて貰えなかった。敵対せず中立なのに、ニーレンス公爵達は情報を寄越さなかった。

 それはな、お前を味方に引き込む気は無いって事だぞ。つまりハブられた、お前と俺は他の公爵三家と忌々しい糞餓鬼にハブられたんだよ。

 此処で指し手を間違えれば完全に詰む、既に没落し始めた俺にトドメを刺しに来たと思って良いだろう。だが奴との和解は既に不可能、ならば被害を最小限に抑える。

 目の前で腐っている、コイツを利用してな……

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。