古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第712話

 嫌な雰囲気だな。公爵二人の話し合いの間は待機して欲しいと丁重に天幕に通された。テーブルに酒と料理が並べられて、天幕の外に護衛という名の監視が二名。

 バニシード公爵とバセット公爵は後が無いから必死なのは分かる。第一陣四派閥の内、二つが裏切り行為により脱退。グンター侯爵も討たれて首級は王都に送られた。

 カルステン侯爵も何れは前線に押し出されて来るだろうし、来なければ逃げ込んだと思われるサハラル高原の砦群を攻めれば良い。問題は複数有る砦の何処に逃げ込んだかだな。

 酒と料理に手を出してはいない。気持ち的にも妙な借りを作りたくないし意地だな、俺も子供っぽいとは思うが男は意地を張る生き物だから仕方無いだろ?

 天幕の外が慌ただしくなった、つまり公爵達の密談が終わりこの天幕に来る。余り得意ではないが、貴族的話し合いの始まりか。拳で語るのは得意なのだが、ままならぬものだな。

「待たせて済まぬ。色々有り過ぎて、手配や打合せが長引いてしまったのだ」

「王命の達成、見事だと言っておこう。だが我等には奴等が裏切り者だと情報は来なかったのが悔やまれる。敵を騙すなら味方からか?」

 気持ち悪い笑顔を貼り付けていやがる。前とは違い上から目線で物申す訳ではないが、妙にフレンドリーに来られても逆に気持ち悪い。彼等は派閥的には敵対と中立、馴れ合いは出来ない。

 情報の秘匿は軍事行動だからとは言ってあるが、信用されてないと思っても間違いじゃない。お前達も国難に対して私欲を捨てて協力出来るか試されているんだぞ。そもそも関係性から信用など欠片もしていない。

 今の所は王命は失敗だろう。連携出来ず成果も無い、味方から裏切り者が二人も出た。一番近くに居て、気付かなかったのもマイナス評価だな。そして何よりも小競り合いにすら勝ててない、最悪だろう。

「裏切り者の対処は密命だったのでな。カルステン侯爵は取り逃がしたが、必ず討伐しろと厳命されている。逃がす事は許されない、何としてでも倒す」

 間接的には王命だが、ザスキア公爵の私的な理由も絡んでいると思ってはいる。どうせ良からぬ事を考えているのだが、俺は関わり合いになりたくない。

 この微妙な言い回しに二人して頷いている。想定内の回答、つまり二人は危機感を感じて漸く手を組んだのだろう。それでも戦力は二千人程度の寄せ集め部隊だが、ウルム王国正規軍の一軍程度の戦力にはなる。

 今は公爵二人が私欲を捨てて、国家の為に協力出来るかだ。今迄は無理だった、我が強い公爵の二人が他人の下に付くのは難しい。特にバニシード公爵は、汚名返上の絶好の機会。

 自分が主導していなくては、胸を張って成果有りとは言えぬ位は思っているな。バセット公爵と共闘するだけの交渉材料を用意出来るのか?バセット公爵も尻に火がついているからワンチャン有りか?

「カルステン侯爵か。逃げ出した方向から考えれば、サハラル高原の砦群だな。その先を抜けて行けるとも思えぬ、裏切り者は信用されない。何かしらの手土産が無ければ、行動で示すしかない」

「主要な砦はバラカスにビヨンド、それにバクーにサフラメンスの四ヶ所。それぞれ最大の五百人が詰めているだろう」

 ウルム王国も後がない。防衛最大のプロコテス砦が落ちたし、次に防衛線を引けるのがサハラル高原の砦群。後は幾つかの城塞都市を抜かれたら王都は目の前、敗北は必至だな。

「カルステン侯爵は手勢約五百人を引き連れて逃げ出した。内訳は騎兵百騎に歩兵三百人、それに荷駄が百人だな。合流すれば、どれか一ヶ所は千人規模になるぞ。まぁ籠城戦で騎兵は無用の長物、歩兵としても戦えるがな。騎兵はプライドが高い、歩兵にしても大した協力はしないだろう」

 残された連中は歩兵三百人に荷駄部隊が百人。彼等は囮として野営地に残された、今は混乱しているだろう。当主には捨てられたが、裏切り者疑惑は晴れてない。

 同じくグンター侯爵の方も同数が降伏している。略奪部隊は裏切り者だが、残されていた彼等は騙されてたのかは知らない……まぁ同じ派閥の構成貴族ながら、有る意味では騙された犠牲者だろう。

 役には立たないからエムデン王国に返すのが最良、国の判断を仰いだ方が良い。指揮官不在の雑兵達など、戦場では役になど立たない烏合の衆だぞ。無駄に死なす訳にもいかないし手に余る連中だ。

 妙な沈黙が二人の間に流れる。お互いがお互いに押し付け合うのか、どちらが先に言うのかを決めていなかったのか?中年共が視線を合わせて何をしている?良く分からないが微妙な空気だ……

「第一陣から出してしまった裏切り者の残り、カルステン侯爵は我等の手で倒したい。だが手勢が足りぬ、サハラル高原の砦群は同時に攻略しなければ互いに連携し合い抵抗するだろう」

 その生温かい笑顔は止めろ、懐柔するにしても武人に向ける顔じゃないぞ。はっきり言おう、気持ち悪い。拾い食いでもして気が変になったか疑うレベルだ、二度言うが気持ち悪いから止めろ。

 それと手柄の一つとして、カルステン侯爵討伐に噛ませろと言って来た。厳密に言えば奴を自分の手で倒さなくても条件的には問題は少ない。ザスキア公爵には、両公爵をけしかけて倒したと言えば良い。

 勿論だが任せ切りじゃなくてフォローもする。この二人は戦争関連はまるで素人だし、お付きの連中も優秀だとは思えない。勿論だが公爵家に仕える連中だから、標準以上の能力は持っている?

 だが我の強い両公爵を説得し動かす事が出来ていない。出来ていれば、もう少しマシな戦果をあげている筈だ。これだけの戦力だが、残り三人との連携が出来なかったのが残念だ。

 まぁ二人は裏切り者で一人はライバル、足の引っ張り合いをしないだけマシだったがマシ程度でしかない。主人を諫めるだけの家臣に恵まれなかったのが哀れだよ。

「我等も各自で一つずつ受け持つ。バーナム伯爵には、デオドラ男爵と一つずつ受け持って欲しい。主要な四ヶ所を同時に攻めれば、成功の確率は高まる。俺は貴殿達ならば各自一つの攻略は可能だと思っているのだ」

 むぅ?いやに持ち上げてきたな。手柄を掠め取る事を少しは悪いと思ったか?腕を組んで考える、自分の進退に関わる真面目な話だし理屈も分かる。俺達は自由に動ける遊撃部隊だが、サハラル高原の砦群を放置して先に進むのは得策じゃないのも理解している。

 後方に纏まった敵戦力が残るのは好ましくない。特にライル団長率いる、第二陣が来る前だと抑えが効かない。下手に暴走し、エムデン王国側に略奪部隊を送られても困る。此処は故に確実に潰しておきたい。

 元々一つずつ潰して不安要素を無くす予定だったのだ、半分受け持ってくれるのは悪い提案じゃない。連中も俺達に全て押し付けては、立場的に不味いと理解しているのだろう。

 悪い提案じゃないが、二人合わせて二千人弱の戦力が二手に分かれて攻略すれば半数の千人だぞ。幾ら小規模な砦でも守備兵の二倍程度の戦力では攻略出来るのか?いや、攻略は出来るが犠牲はデカいな。

 バニシード公爵とバセット公爵は、このサハラル高原の砦群を攻略し一応の成果を出した事にするつもりなのか?忠誠を示すのに多大な犠牲を出しても厭わずなら、まぁ踏み絵としても良しとなるか。

「勿論だが遊撃部隊の貴殿等に命令は出来ない。四つの内、好きな砦を選んでくれ。我等は残りを受け持とう、攻略後は先に進んでくれて構わない。後の面倒事も此方で受け持とう」

「タイミングも此方が合わせよう、連携こそ攻略の鍵だからな。少なくとも第二陣が来る前に、ウルム王国の前線基地となっている城塞都市迄の道は確保したい。それが最低限の仕事だろう」

 腕を組んで難しい顔で考えていたからか?反対すると思ったのか、条件を釣り上げて来た。逆に公爵二人に、これだけの条件を提示されて断る選択肢は……残念だが無いな。

 バニシード公爵もバセット公爵も、自軍の多大な損害を飲み込んで提案して来たんだな。予想通り、疑われた忠義の示し方……それは自らの血を流す事だから。

 そして自分達はエムデン王国への忠義を示し、第二陣が直ぐにサハラル高原を抜けてジュラル城塞都市を攻略出来る様に道を作る。悪くない未来予想図だな、協力するのも吝かではない。

「物資の援助もしよう。我等は此処まで、後の攻略は第二陣に任せる事になるだろう。残念だがな」

「しかり、成果としては忸怩たるものが有るが現状出来る事は限られる。最大限の事をして、後は第二陣に委ねよう。俺達は此処まで、後は任せるしかないな」

 第二陣も俺の派閥構成貴族である、ライル団長が率いる聖騎士団を主力とした部隊。もう彼等の活躍の場は無く、犠牲を受け入れ忠義を示す事にしたか。

 良かろう。ゴネても拒否しても無意味だし、この提案を飲もう。俺とデオドラ男爵は、ライル団長と連携して更に先に進み手柄を立てる。

 多分だが王都の近くまで侵攻すれば陣替えになる。後方主力部隊が王都攻略を担う事になり、我等は後方に下がるだろう。その前に出来るだけ手柄を立てておく。

 プロコテス砦の他にサハラル高原の砦群の二つを攻略、初戦の成果としては申し分無い。どの道、俺達は少数精鋭の遊撃部隊だし城塞都市の攻略は不得手だ。

 城門を破壊し敵兵を倒せても街を占領し支配下に置くには人数が足りない、リーンハルトは現地勢力を取り込む事で単独攻略を可能にしたが普通は無理だぞ。

「了解した。中央に近いバラカスとビヨンドを任せて貰い、バクーとサフラメンスの攻略はお願いする。主要街道を挟む配置の二つの砦は、第二陣以降の進軍にも影響するから粉砕する」

 どの道攻略しても戦略的価値が無いから放置だし、野盗や敗残兵達に居座られても困る。故にプロコテス砦と同じ様に破壊し、二度と使えなくする。

 腹を括った公爵の決意を無駄にしない為にも、デオドラ男爵と合流したら速やかに目標を破壊すると約束し自分の野営地に戻る。

 彼等は侯爵二人に捨てられた連中の対処も残っているし大変なのは分かる。政敵ではあれど、戦争では同じ敵に対して協力も必要。サハラル高原の砦群を破壊し、更なる敵を求めて侵攻するぞ。

 ザスキア公爵に頼まれた、カルステン侯爵の討伐の確率は五割。最悪の場合、両公爵殿が取り逃がす事も考えられる。いや、戦力から言えば逃がす確率の方が高そうだ。

 早めに砦を攻略し、二手に別れて増援として見張る算段になっている。居なければ手を出さず、居れば助力し確実に討伐。手柄を渡せば五月蝿くは言うまい、お互いに利が有るからな。

◇◇◇◇◇◇

 俺達の受け持ちの砦は、バカラスにビヨンド。どちらも主要街道を見下ろす場所に構えた岩石を利用した天然の要塞、だが規模は小さく籠城に最適ではない。

 入り組んだ岩石は攻め入るルートと人数を限定し防衛し易いのだが、所詮は小規模だから力押しでも犠牲を無視すれば何とか落とせる。逆に言えば限られたルートを抑えれば、補給を断ち干上がらせられる。

 複数の砦が互いに連携し、一つが攻められても他の砦から援軍を出して包囲している敵軍の背後から攻める。場合によっては籠城から攻撃に転じて、前後から攻める。

 そう言う立地を生かし敵軍を貼り付けて本隊到着迄の時間稼ぎをするのが、この砦群の本来の運用方法だろう。だが今回は主要な四ヶ所を同時に攻める、連携はさせない。

 バーナム伯爵はバラカス砦、俺はビヨンド砦。攻め入る時間は日の出と共に、立地上夜間攻撃だと暗く障害物が多いから逃げ出す連中を見逃してしまう。

 早朝攻撃は戦術の基本、悪くはないが基本故に敵も理解し準備をしている。プロコテス砦が落ちたならば、次は自分達だと分かっているだろう。

 現にウチの斥候部隊が敵の偵察部隊を発見し、何とか逃がさずに倒している。他の砦に情報が行けば、連携しているなら全ての砦に情報が渡る。

 俺やバーナム伯爵の部隊なら大丈夫だと思うが、両公爵殿の部隊の練度を考えると既に我等が攻略に向かっているとバレているな。それに偵察部隊が帰らない事でも予測出来る。

 まぁ基本籠城するだろうし、結果はそれ程変わらない。準備万端迎え討とうが、最大の武器である連携が潰されたら只の中規模な砦だ。恐れるものも無い、問題も無い。

「ふむ、あれがビヨンド砦か。確かに攻め難い立地だな、正門前の両側に巨岩が有りやがる。細い道を進んで攻め登るしかないのか……」

 見上げた先には緩やかに蛇行した坂道の両側に張り出した矢倉と巨岩、ご丁寧に鼠返しまで設置してあるからな。よじ登る前に弓矢で撃ち落とされるか……

 破城槌も正面の道が蛇行しているから助走距離が短いし、あの曲がりくねった道を押して登るのも重労働だ。梯子を掛けられる場所も少ない。

 魔術師の魔法で正門を破壊するのが手っ取り早いが、ファイアボール程度じゃ何発も当てないと無理か。この砦の設計者は大した者だ、良く考えられている。

「まぁ常識の範囲内の敵ならば、時間稼ぎには最適だが籠城するには心許ない。そして俺達は常識の埒外に居る、悪いが徹底的に破壊させて貰う」

 身体能力と跳躍力が倍化しているので、障害となる巨岩の上に軽々と飛び上がれるんだ。今回は単騎で砦の中に飛び込み、カルステン侯爵を探してから殲滅する。

 プロコテス砦は絶対的な力量差を見せ付ける為に破壊したが、物資の補給や溜め込んだ軍資金も頂戴する為にも奪った後で破壊する。

 バーナム伯爵とも話したが、戦争は兎に角多くの金が掛かる。それに派閥構成貴族も連れて来ているので、彼等にも旨味を与えねばならないんだ。

 そう考えると柵(しがらみ)や制限、足枷の少ないゴーレム兵団は軍属の指揮官クラスからすれば垂涎の的だな。文句も言わず飯も食わず、言われた事は確実に行う無言兵団。

 リーンハルトの快進撃の秘密と言うか理由は、桁違いな数のゴーレムの集団運用に間違い無い。孤独な軍団長とか自らを揶揄したが、それはトンでもない間違いだぞ。

 


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