古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第718話

 盗賊ギルド本部とライラック商会に応援を要請した。前者は微妙で後者は期待出来るが、単独で動かれても困るので採用した方のサポートをさせて勝手な行動はさせない。

 複数が同時に動くと競争心が生まれて、最善策を取らずに出し抜く為に結果は高いが成功確率の低い行動をする。一か八かだな……故に全体の調整が必要で、各自にそれなりの報酬も用意する。

 誰かを優先すれば嫉妬や僻みが生まれて大なり小なり反発する。自分がそうだ、アウレール王に重用されている反動は身に染みて理解している。その経験を生かさないでどうするのさ?

 嫉妬は怖い、平然と最悪の選択をする。大抵は自身にも被害が及ぶし、周囲にはもっと及ぶ。自爆に付き合わされるのは嫌なのだが、嫉妬とは理性を曇らせるのだろう。

 その癖、意欲と行動力は高まる。後で冷静になり後悔するのだが、反省したからと言って許せる訳じゃない。それなりの責任を取らせる必要が有り、関係が悪化する。

 なぁなぁで有耶無耶にすれば、自分達も謝れば大した罪にはならないと甘く見る連中が湧いて来る。だから落とし前は適正に付ける、減刑も周囲が納得する理由を作る必要が有る。

「市民達が自主的に組織した自警団が有るのか。自分達の身は自分達で守る、僕等の不甲斐なさ故にだな」

 馬車の窓から外を見ると、青色の布を身に付けている武装集団が居る。頭や腕に青色の布を巻き、簡易な防具に2m程の棒を持っている。だが冒険者みたいな本職じゃない、動きが素人だな。

 年齢も十代から三十代と幅が有る。彼等は全員が首から笛を下げていて、何か有れば笛を吹き周囲に知らせる事が重要。自分達の武力で対処するのでは無く、主に監視の目を増やすのが目的だ。

 自治組織が良く機能している証拠だな。勿論だが報告は受けているし、僅かながら補助金も支給している。冒険者ギルド本部に依頼するより安く手数も多い、有効だが守るべき市民達に危険な事をさせているジレンマ。

 賊を見付けた場合、最初に被害に遭う可能性が高い。賊だって馬鹿じゃない、仲間を呼ばれる前に倒そうとするだろう。巡回する監視員とはいえ、危険はゼロじゃないだろうな。

「考え過ぎですわ。彼等は自分達の出来る事を積極的に行っているだけですが、根底には余裕が有るからです。自分だけでなく周囲にも配慮出来るのは、余裕が有るからですわ。でも……」

 リゼルが下を向く、バーリンゲン王国では有り得ない光景だそうだ。彼等は自分達が守って貰うのが当然であり、何か有れば直ぐに謝罪と補償をしろと平気で騒ぎ出す恥知らずな連中らしい。

 嘘を平気で吐いて自分達の失敗は認めず集団で騒ぎを起こし、馬鹿げた嘘の証拠をでっち上げる。市民達の行動を理解しているから、王都の警備兵達も自分達の失敗を市民に押し付ける。

 基本的に愚かで失敗ばかりするが責任を取る気持ちなどは全く無く、他人に罪を擦り付ける事で自分は失敗してないと自分自身を誤魔化す。だから永遠に愚か者で始末に負えない、リゼルはバーリンゲン王国と関係を断ち切れて良かったな。

 本心から思っているのだろう、顔を上げた時の表情は嫌悪感でいっぱいだ。凄く実感の籠もった言葉を吐き捨てたし、それには僕も同意見だ。ただ隣国だった事が悲劇、自己中心的で他人任せの連中など縁を切り関わらないのが正解なのだが……僕が属国にしちゃったんだよな。

 前にバーリンゲン王国の王都で感じた、市民達と警備兵の微妙な距離感は双方が何か有れば責任を押し付け合う関係だったからなのかな?てっきり警備兵達が市民に対して高圧的に対応するのを恐れていると思ったのだが……

 市民達も隙あらば警備兵に罪を擦り付ける事も行うのか。逞しいっていうか何ていうか、辺境の民の強かさって単純な話じゃないだろう。国民性か?嫌な風習だ、やはり関わり合いになりたくない、極力避けていこう。

「パゥルム女王からエムデン王国宛てに集団見合いの催促が来ましたが、アウレール王が待ったを掛けました。対象の貴族の三男以降の予備の予備ですが、今は戦争中の為に実家を継げる可能性が出てきた事。

アウレール王も出陣されますので、留守の時に厄介で面倒な事をさせたくない事。国王の不在時に、ミッテルト王女とオルフェイス王女の相手をするのは誰か?リーンハルト様が最有力候補であり、彼女達も望むでしょう。嫌な事を押し付けられる可能性が高いですから、断って当然です」

 それと心の中で女絡みの悪さはしない約束だからと考えていましたわって告げられると、何とも言えない気持ちになってしまう。国王と女性絡みの約束とか普通に考えても変だよな。

 確かにパゥルム女王達絡みは女難だな、病んでいるオルフェイス王女とは正直会いたくないし話したくもない。百害有って一利無し、あの姉妹に絡むのは心の底から嫌だ。

 紳士な僕が女性を拒絶するんだから相当だよ。あの迷惑を掛け捲った癖に平然と協力を求めて来る、面の皮の厚さと図々しさが嫌なのだろう。助力をしたくないと感じてしまう、仕事ならばと割り切るが本心は嫌だ。

「そうだったね。今は戦争中であり、当主と後継者達は戦功を稼ぐ為に危険な戦地に居るんだ。彼等にもしもの事が有れば次男が繰り上げ当主候補になる。

その次男も敵討ちと戦功を稼ぐ為に戦地に向かう可能性が高い。その死が不名誉な場合、予備の者が汚名を返上し新たな戦功を稼ぐ必要が有る。貴族として生まれたならば、命を懸けて成し遂げる事だ。戦争ならば国家に忠誠を示す為にも余計にね」

 バニシード公爵とバセット公爵の構成貴族達は殆どの当主と後継者達を連れて参戦している。カルステン侯爵やグンター侯爵に騙されて残された彼等も全員無事に帰れる保証など無い、既に相当な犠牲が出ているが更なる戦功を稼がないと駄目だ。

 自分達の元当主が進退に関わる大失態を犯したから、連帯責任を問われる可能性が高い。それは公爵二人も同じ、裏切り者のカルステン侯爵を始末出来ずに逃がしたから。

 同じ先鋒を任されながら、裏切りを予想していた筈なのに阻止出来ずに逃がしたんだ。バーナム伯爵とデオドラ男爵が裏切り者の、グンター侯爵とその仲間達を倒した。裏切り者が自国の民を害するのを止めた事も含めて、この功績は極めて大きい。

 サハラル砦群の主要砦であるバラカスにビヨンド、バクーにサフラメンスの内二つをバニシード公爵とバセット公爵が攻略した。ジュラル城塞都市迄の経路を確保したから最低限の評価はされるだろうが……

 これで満足したら戦後の発言権など無いに等しい、小規模な砦を二つ落として終わり?公爵が二人も居て一族郎党率いて結果が小規模な砦二つ?しかも人的被害は裏切り者に騙された者達に押し付けたんだぞ。

 無いな。これで終わりは有り得ないが、残存兵力では逆立ちしてもジュラル城塞都市の攻略は不可能。第二陣と合流して共同戦線を張り、何とか手柄の一部をもぎ取るしかない。

 だがライル団長が彼等と共闘などはしない、無理強いも不可能だな。主力軍を率いる、ライル団長の権限は思った以上に高い。戦時下では、公爵本人のゴリ押しすら拒否出来る。精々が後方待機で予備兵力扱いか?

 それに下世話な事だが、政敵に手柄を立てさせるチャンスなど与えないだろう。バニシード公爵は僕等の政敵であり追い込む対象、バセット公爵は中立だが扱いは同じかな。

 ニーレンス公爵とローラン公爵、ザスキア公爵はバセット公爵を見限った。甘い対応などせずに突き放すだろう。その決定には、僕やライル団長達も逆らえないんだ。哀れな二人の公爵には、気持ちだけ可哀想だと思っておくよ。

「第一陣は全員が進退窮まったね。ライル団長率いる第二陣が、ジュラル城塞都市を攻略するだろう。バーナム伯爵とデオドラ男爵は、ライル団長に協力する。正直三人並べて突撃すれば、ジュラル城塞都市は半日で陥落するし、人数が多いから砦の維持管理も可能だろう。戦力を整えて次の目標に向かう、快進撃だろうな」

 ジュラル城塞都市には多数の市民も暮らしている。攻略した後の維持管理が大変なのだが、第二陣の予備兵力が詰めれば問題は無い。

 敵国内部に補給拠点が出来たんだ。ジュラル城塞都市は最前線基地となる、もうウルム王国軍がエムデン王国に侵攻する事は無くなる。

 ジュラル城塞都市を迂回しても索敵に見付かり対処されるし、実際に防衛が手一杯でエムデン王国に差し向ける戦力なんて殆ど無いだろう。僕が騎士団五百騎を壊滅させたし、七百人近い正規兵も倒した。

 その不足する戦力を謀略と傭兵に頼ったんだ。確かに有効だしエムデン王国の戦力の二割は割いて対処する事になった、リーマ卿の力は正直凄い。

 だがそれも今回で終わり。もう地上に旧コトプス帝国と関わりの有る国家は無くなる、残党狩りを徹底し地下に潜った奴等も一網打尽にする。逃がさない、今回で終わりにする。

 む?考え事をしていたら放置されたと思ったのか、リゼルが不機嫌になった。何か続きが有ったか他に報告が有ったのだろうか?話す様に視線で促す。

「ザスキア公爵の予想通りですわ。バーナム伯爵は勅命を受けた遊撃部隊ですが、同じ派閥のライル団長に協力する事は違反ではない。三人でジュラル城塞都市を盛大に破壊し攻略する指示を出しています。リーンハルト様以外でも少数で城塞都市を攻略出来る事を証明する為にですわ」

 思わず腕を組んで考えてしまう。僕が悪目立ちして味方から排除されない為に、他の連中も常識外の事が出来る証明の為にか。僕に向かう畏怖の分散化、正直有り難いし気遣いが嬉しい。

 だがジュラル城塞都市は補給拠点としての利用価値が高いから、あの人外共が遠慮無く攻撃したら城塞都市の機能が無くなるぞ。少なくとも城塞は崩れ落ちるし正門も破壊される、防御力に著しい被害が及ぶ。

 戦争とは極力味方の被害を減らす事は勿論だが、占領した後の事も考えないと駄目なんだ。奪い取った領地から生み出す金や物が重要なんだよ。今回は建て前の有る聖戦だが、負かした国の復興は戦勝国の義務なんだ。

 如何に被害を少なく領民からのヘイトを減らし、金と物を吸い上げる。ウルム王国に勝てば、エムデン王国は大陸最大規模の巨大国家となる。その為の戦い方が有るんだよ……

「流石は、リーンハルト様です。普通は目先の戦う事で手一杯なのに、勝った後の事まで考えられる。実際に思考を読んだ事と、バーリンゲン王国での実績が合わさって私的に評価は最大です」

 両手を胸の前で祈る様に組んでキラキラした瞳で見詰めるとはリゼルはあざとい、あざと過ぎる。悪い気がしないのが厄介だが、まぁ仕えし主の評価が高いのは良い事かな?馬鹿な主よりは万倍ましだろう。

 うーん、でもザスキア公爵の指示にしては少し問題がないかな?攻略後の城塞都市の維持管理を甘く見ている訳じゃないと思うけど、余りに被害甚大だと領民の恨みを買うんだ。戦後の領地運営に影響が出る範囲で……何か考えが有るのかな?

「そうかい?でも領地持ちの貴族なら誰でも理解している事だし、軍でも士官クラスなら当たり前の事だよ。焦土作戦じゃないんだし、被害を抑えるのは当たり前の事なんだ。そう、当たり前なんだが……ザスキア公爵は何か考えが有るのかな?」

 話し込んでいたら自分の屋敷に到着した。ザスキア公爵の件で、リゼルの意見は聞けなかったが仕方無い。今度会った時にでも聞いてみるか、その時に聞いて何か有って伝令を走らせても着くのは攻略が終わってる頃だから無駄か?

 リゼルは今夜は我が屋敷に泊まるので、溜まった仕事を手伝って貰おう。今回の戦争で没落する貴族も居るだろうし、有能な者が居たら家臣として引き抜く事を相談してみるかな。

 一般募集をすれば希望者が殺到するから、誰かの紹介とかの方が良いけど都合の良い知り合いは居ない。公爵家を頼れば、送られてくる人材は有能なのは間違い無い。だが諜報的な意味では、心の底から信用は出来ないだろう。

 ふむ、厳選する訳でもないが中々信用出来る人材には出会えないよな。だが正直人手が足りない、領地から募集してみるか。折角四つも優良な領地が有るんだ、在野にも人材は居るだろう。

「いえ、私かジゼル様が対象者の思考を読めば問題は無いかと思いますわ」

 え?あーうん、そうだね。表面だけ取り繕う連中も心の中は無防備だから、君達に掛かれば考えなんて丸裸だよな。僕の思考に答えてくれて有り難う。でもさ、もう少し気遣ってくれると嬉しいよ。

◇◇◇◇◇◇

 我が終(つい)の屋敷は心身共に安らげる場所だ。愛しい家族との団欒、心休まる憩いの場所。基本的に来客は少なく限られている、頻繁に泊まりに来るのは妖狼族の巫女と頼りになる配下の女男爵殿位か……

 新しく談話室を設けた。ソファーにゆったりと座り家族とその日に有った事を語る場所。応接室みたいな堅苦しい調度品は無く、十人以上が寛げる場所だ。

 その中央に屋敷の主である僕専用のソファーが有り、正方形に皆が座れる様にソファーが配置されている。この談話室に入れるのは家族以外では、ユエ殿とリゼルだな。

 まぁユエ殿は神獣形態で僕の膝の上で丸まって寛いでいるので、背中を撫でている。ジゼル嬢とリゼルが並んで仕事の報告をしてくれているので大人しく聞いている。

 アーシャはイルメラと皆の紅茶を淹れていて、ウィンディアはケーキを切り分けている。エレさんとニールは緊張しているのか、並んで行儀良く座っているな。

 僕以外は見事に見目麗しい女性ばかりだ。悪意を持って見ればハーレムか?まぁ二人程違うのだが、最近問合わせが多いんだ。特にユエ殿は見た目幼女だし女神ルナに仕える神聖な巫女なのに、何故側室疑惑となる?

「旦那様、聞いていますか?」

「我が主様、聞いているのでしょうか?」

「ん?大丈夫、聞いてるよ」

 二人して僕の思考を読んでいるから分かっているだろうに、言葉にして聞いてくる。まぁ彼女達の話を聞きながら他の事を考えられるのが思考分割で、魔術師ならではの術(すべ)だな。

「没落した貴族に仕えていた連中を引き込む件だろ?僕も考えていたから基本的には賛成だが、思想と背後関係。身辺調査は確実に行ってくれれば良いし、盗賊ギルド本部に手伝わせても良いよ。新しい代表殿は、早く僕の役に立ちたい筈だからね」

「私的には盗賊ギルド本部の信用度は低いのですが……」

「貴族に仕えし家臣とは言え平民階級ですし、簡単な素行調査なら彼等に任せて構わないでしょう。最終的には私とリゼルさんが確認しますから、問題は少ないでしょう」

「そうですが、自分の事を嗅ぎ回る連中が居ると知れば嫌な気分になりますわ。それが誰の命令で動いたのか知られるのは、勧誘時に問題になります」

「そこまで愚かな人員は派遣しないでしょう。それに引き抜きの対象は政務に強い事務方ですから、気配に気付かない確率の方が高い筈ですわ」

 見惚れる笑顔で意見交換をしているが、双方共に目が笑っていないんだよ。牽制し合っているのか?お互いの思考を読み合った上での会話、裏と表の両方を知って話している。

 だが不足している家臣については見通しが立った。裏切り者の二人の侯爵の派閥貴族や配下ならば、僕に隔意が有った元当主の意向になど沿わないだろう。

 逆に裏切り者の汚名を晴らす為にも、積極的に勧誘に乗ってくれるかも知れない。二度目の裏切りは巻き添えでも破滅だから、裏切る事は無いと思うんだよな。

 また彼女達に任せる事になってしまうが、適材適所って事と任せる事は信頼の証(あかし)って事でお願いします。

 


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