古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第719話

 快適な睡眠を約束するという、セールストークに騙されたみたいな巨大なベッドが寝室の真ん中に鎮座するのは圧巻だ。確かにクッションの効いた最高級品だろうし、枕も布団も同じく最高級品。

 頭が埋もれるが、しっかりと首を保持する枕に凄く軽くて暖かい羽根布団。そして両手両足を拘束する愛する女性達、幸せな一時だが身体が全く動かせない。

 左手は本妻予定のジゼル嬢と側室のアーシャ。右腕は、イルメラとウィンディア。左足はニール、前回は右足にユエ殿が抱き付いていたが今回はフリー。リゼル?参加はさせずに来客用の寝室に押し込んだ。

 唯一自由な右足だが、右手をイルメラに独占されたウィンディアがズルズルと下がって抱き付いた。幸せな温もりとピンク色の柔らかさに包まれている、嗚呼幸せだ。

 時刻は日付が変わった位だろうか?彼女達と一緒に寝たのが十時過ぎ位で色々と話し込んでいたが最初に脱落(オネム)したのは、ウィンディアだった。

 次が混浴した時に愛情の確認作業で疲れさせてしまったアーシャ、その次がジゼル嬢。ニールは最後まで頑張ったが、次第に会話も無くなりそのまま寝てしまった。まぁ元々口数の少ない娘だったけど……

 僕も肉体的には疲れているのだが、精神的には興奮状態なのか中々眠気が来ない。良い匂い(体臭)がミックスされて気分が高揚してきたが、魔香の効果じゃなく単に性的興奮だな。

 ハニートラップ笑えないバーリンゲン王国では禁欲生活が続いていたが、特に我慢出来ない程じゃなかったが実際には溜まっていたのだろうか?良く分からないが、浴室でアーシャにシた事を考えれば溜まっていたのだろう反省だ。

 寝返りが出来ないので首の動く範囲しか見る事しか出来ない。暗さに目が慣れたのかボンヤリと室内の様子が……クリスが部屋の隅で毛布にくるまり寝ていた!気配に全く気付かなかったが、朝には女性陣に気付かれずに居なくなるんだよ。

「嗚呼、幸せだ。願わくば、この幸せがずっと続くように。その為ならば僕は……」

 敵対する者達には相応の対応をする。モア教の教皇の思惑が分からず不気味なので、謎多き教皇の思惑を調べる事を『無意識』に依頼した。彼の提示した対価は金貨二十万枚、勿論だが即決した。

 理解出来ない恐怖に怯えて過ごす位ならば、金貨二十万枚など安いものだ。『無意識』は自分もモア教の教徒だと言ったが、その信仰対象の最上位の聖人の身辺を調べる事に抵抗は無いと言った。

 この依頼は冒険者ギルド本部を通したが内容は教えていない。高額だが周辺諸国の事を長期に多岐に渡り調べて貰うと濁して説明をしたが……オールドマン代表は曖昧な表情をして納得していなかった。

 だが『全能者の王冠』と『ネクタル』の件で貸しが有るので大人しく従ってくれた。何代も前の代表が仕出かした失敗だが、最悪は冒険者ギルド本部の存続に関わる程の大問題だ。

 その尻拭いの対価としてならば、依頼内容の詳細に口を出さない程度なら十分だろう。『無意識』は依頼主に対して守秘義務は厳守するので安心出来る。勿論だが、イルメラ達にも秘密にしている。

 大陸最大の宗教の頂点の思惑を探る。この難解なミッションの報告内容は、一体全体どんな事だろうか?藪を突いて蛇が出るか?だが僕の今後の行動を決める為にも必要な事なんだ。

 『無意識』には危険ならば踏み込まずに撤退しろ!と指示している。彼が失敗したならば次は対価を用意し、ユエ殿を通して『女神ルナ』の御神託に頼る予定だ。

 異教とは言え女神様にお願い出来るって凄い事だ。女神ルナは僕の転生の秘密や子種の薄さも知っていた、教皇とはいえ人間だし女神の力ならば問題無く思惑が分かるとは思うが……

 運任せの神頼みじゃなく、本当に女神ルナに巫女であるユエ殿を通して頼めるんだ。凄い事だが頼り過ぎると危険だから、本当に困った時にしか頼まない様にしなければならない。

 最悪の場合、対価が改宗とかだと絶対に飲めない。だが女神との対立とかは避けたい、他に何か対価を考えておかないと駄目か?今は妖狼族の里の整備の手伝いで良いだろうか?

◇◇◇◇◇◇

 家族団欒をしたいのだが、戦時下なので外で派手に遊ぶ事は出来ない。まぁ派手に遊ぶは語弊が有るが、高価な物を買ったり食べたりは自粛って事だ。

 オペラはあの戦意高揚の恥ずかしい題目しか上演していない。しかも幾つかバリエーションが有るらしく、一月程度で微妙に上演内容を変えているらしい。

 調べた限りでは、僕と思われる人物の活躍内容が変わっているらしい。色々やらかしているから、お題には困らないってか?見に行くのも恥ずかしいし他に外に出れないならば、家の中で家族団欒をするしかない。

 残念ながら我が屋敷には踊れる広さの池が無いので星屑のドレスでの水上ダンスは保留、家族での音楽会にした。これで満足なのかと思ったが、聞くだけのイルメラやウィンディアは大喜びだ。

 演奏者は僕とジゼル嬢、アーシャにクリス。飛び入り参加のリゼルの五人、全員がバイオリンを得意としている。リゼルは初参加だが、バイオリンには自信が有るそうだ。

 前に教えて貰ったのだが、バーリンゲン王国に居た時には、特殊なギフト持ちとして皆から距離を置かれていた。故に独りでも楽しめる趣味として、楽器の演奏を選んでいたらしい。

 そう寂しそうに言われたら何とも言えない気持ちになってしまい、今回の家族の演奏会に招いた訳だ。ジゼル嬢は知っているが、アーシャ達は彼女が『人物鑑定』のギフト持ちとは知らない。

 教えないのは双方の安全の為にだが、多くの人が知れば秘密がバレる可能性が高まる。ジゼル嬢とリゼルの安全の為には、極力リスクを減らす必要が有るんだよ。

 実は僕がバーリンゲン王国に行っている間に、新しい方の屋敷は改修工事を行った。草案は僕が纏めた庭の整備の他に、新しく私設の音楽室を作ったんだ。防音措置を施した事と演奏する場所を一段高くして客席を設けた。

 僕は音楽室の改修工事にはノータッチだが、ジゼル嬢が監修したので満足出来る仕上がりになっている。上級貴族たる者、芸術にも造詣が深くなければならない。ダンスと楽器演奏くらいは、普通に習得しろって事らしい。

「それじゃ始めようか。先ずは皆も練習している曲から、次は各自の得意の曲を単独で披露していこうか」

 僕が対ロンメール殿下用に練習した曲をアーシャ達も練習し習得していた。僕と一緒に演奏したいからと可愛い理由だった、正直嬉しい。

 嫌々ではないが楽器の演奏の習得は優先順位が低いのだが、こういう嬉しい催しが有るのなら励みになる。何より気楽なのが良い、本来音楽とは楽しむ事だ。

 だが王宮内で王族を相手にとなれば全然違う。失敗即評価が激減、王族に恥を掻かせたとかになれば厳罰すら有り得る緊張感溢れる催しなんだよ。だが今は家族の団欒として楽しめるんだ!

 この後、皆でメチャメチャ演奏した。

◇◇◇◇◇◇

 ニーレンス公爵とローラン公爵が率いる第三軍の出陣準備が着々と整いつつある。僕の配下の宮廷魔術師団員の土属性魔術師達は、ニーレンス公爵軍に従軍する。

 彼等が戦場で生き抜く為には中遠距離攻撃手段が必須、宮廷魔術師団員レベルだと雑兵二十人に囲まれたら負ける。騎士数人に接近されても負ける。敵に近付かれたら負けるんだ。

 常時展開型魔法障壁が使えれば生存率は高まるが、呪文を唱えて張る魔法障壁では咄嗟の対応は出来ない。体力的に惰弱で防具も貧弱、ダガーでも倒される。

 だから彼等には統一化されたゴーレムの集団運用による、ロングボゥによる中遠距離攻撃を教えた。最初は集団運用として接近戦用の装備、ショートソードとモーニングスターの頭部だけの武装。

 その接近戦仕様のゴーレム達を集団で操れる様になったので、次の段階としてロングボゥを使いこなせる様に練習させている。出陣迄に時間が無いから、習得具合の確認をする。

 セイン殿を中心にアドバイザーとして、カーム殿が手伝って彼等を鍛えているらしい。カーム殿は土属性魔術師ではないが、セイン殿と男女の良い感じになっているので王宮内では一緒に居る機会が多いらしいな。

 あの同性愛者で露出狂の下着姿で彷徨(うろつ)く慎みの薄い恥ずかしい痴女が、言葉使いは悪いが外見だけは淑女を装っている。これが愛の力なのか?愛は露出狂を淑女に変えたのか?

 実は親書でカーム殿の父親であるジョシー副団長と、セイン殿の実家には彼等を婚姻させてはどうか?と助言している。上司として部下の幸せに微力ながら協力したんだ。

 ジョシー副団長は痴女な娘を更正させた、セイン殿の事を大層認めて誉めていた。自分が幾ら口を酸っぱくして注意しても全く言う事を聞かなかった娘が、恋を知り普通になった。

 感謝こそすれ反対などしない!そう力説された。ジョシー副団長には息子も居るので嫁に出しても後継者問題は大丈夫、セイン殿の実家も同じ宮廷魔術師団員ならば力量は問題無いと理解を示している。過去の噂が積極的に賛成出来ない原因かな?

 セイン殿は魔術師の家系の長男、後継者問題として嫁が魔術師なのは必須条件だ。幸いだが、カーム殿は魔術師としての力量は標準以上だから魔術師の家に正妻として嫁いでも問題は無い。良い素質を持った子供を宿すだろう。

 上司であり宮廷魔術師第二席の僕から持ち掛けた話だから大事になってしまった。両家の親族も僕に配慮しているが、派閥も家格も魔術師としての素質も問題無いし何より彼等の相性が良い。M男とS女、最高の相性だろう。

 後は世情が……戦争に勝ち欲を言えば、セイン殿が戦場で活躍すればスムーズに結婚出来るだろう。手柄が無くとも参戦した事、生き残った事は評価出来る。生きてさえ、無事に生き残れば……いや、これって死亡フラグか?

「待たせたかな?」

 色々と彼等の未来を考えていたら練兵場に到着していた。今日はセイン殿達しか居ない、客席も疎らだし他に鍛錬している連中も居ない。宮廷魔術師団員達は、派閥の事情で個別に参戦している。

 彼等の集団運用は難しく今回はバラバラの参戦も許可された。それはマグネグロ殿が好き勝手して宮廷魔術師団員達も増長していた時に、彼等が戦いの役に立たなかったからだ。

 騎士団の指揮系統に組み込まれず指示も聞かなかった事が長かったから、使い辛く役に立たないと思われていたんだよ。無理に嫌な思いをしてまで使う必要性を感じられない。

 無用の烙印を押されてたんだぞ!個人が隔絶した強さを持たない宮廷魔術師団員の運用方法は集団戦、数にモノを言わせた中遠距離魔法攻撃だ。

 接近されたら簡単にやられるから護衛が必須、だが増長し我が儘を言う。平時に彼等が必要な事は少ない、野盗やモンスター程度なら騎士団で十分だ。

 結構な脅威でも、マグネグロ殿が出れば何とかなった。勿論彼の護衛は必須だが、攻撃魔法という派手な効果の為に畏怖され好き勝手させてしまったんだよ。早急に改善すべき問題だ。

「いえ、時間通りです。問題は有りません」

 代表で、セイン殿が一歩前に出て答える。その隣に当たり前の様に並び立つ、カーム殿は僕の派閥構成員じゃないが大丈夫か?普通に混じってるが?

 あと普通に貴族の子女が着る仕立ての良いドレスの上から、魔術師のローブを羽織っている。前は下着丸見えだったのに、今は肌の露出は全く無い。

 後ろに並ぶ連中の残念そうな顔が何とも困った連中だと思うぞ。確かに前は尻が丸出しだったから目のやり場に困った、懐かしい思い出だ……

「セインさん達は待ち切れなかっただけです。早く自分達の成果を認めて貰いたいのですわ」

 練兵場に整列する僕の配下の土属性魔術師達に混じって、何故かカーム殿が普通に居るのが改めて不思議だ。それを誰もが不思議に思っていない。デスキャンサー君とカブトムシキング君に視線を送る。

 二人共に胸の前で手を合わせた。親指と人差し指でハートの形を作り首を振って何かを吐く仕草をした。つまり砂糖を吐きたくなる甘々なラブラブ振りは健在、熱々カップル振りにお腹一杯ってか?

 まぁ僕も望んだ結果だからな。相思相愛なら大いに結構だが、部隊の風紀を乱さない事が必要。前は下着丸見えのスケスケで本来の意味で風紀を乱していた。懐かしい、だが悔しくも勿体ないとも思わないぞ。

 今は普通の気の強い淑女だから良いか……

「今日は前回の課題の進捗状況の確認に来た。ゴーレムによるロングボゥの中遠距離攻撃の習熟だが……セイン殿、どうかな?」

「はい。ロングボゥ自体の錬成とゴーレムの制御についてですが、矢を射る迄は出来る様になりました。課題は速射性と命中率です」

「決まった距離の的でも命中率は二割、速射性は毎分五回かしら。複数のゴーレムに射させる的の割り振りは難しいのよね。二十体のゴーレムが一つや二つの的に一斉に矢を射るのは非効率よ」

「複数の……三ヶ所の的にゴーレムを割り振り制御し射る事は何とかなりますが、所詮は動かない的です。実戦では敵は動いている、これでは心許ないのです」

 ほぅ?悔しそうな顔で拳を握り締めるとか、向上心が高くて良い傾向だ。予想よりも進んでいる、しかも悩みは過去の僕も悩んだんだ。

 漠然とした場所に射る程度かと思ったが、複数の的を同時に狙うとかさ。それは普通なら思考を分割出来なければ無理なのだが、僕は予め幾つかのパターンを作り組合せた。

 だがこの方法は習得迄に時間が掛かるので、現状の彼等に教えても間に合わない。だから駆け出しの頃に同じ悩みにぶつかり考えた対処方法が……

 いや、仮にも上司に報告している最中にさ。手を繋ぐとか配下としてどうなの?しかも指を絡ませ合う恋人繋ぎだよね。僕も偶にやるし、アーシャやイルメラは喜ぶけどさ。

「今は駄目だと思う。自重して下さい」

 


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