古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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本日から5/6迄の5日間はGW特集として連続投稿致しますので、宜しくお願いします。


第720話

 自分の配下の土属性魔術師達の中遠距離攻撃手段の習得具合の確認の為に、王宮内の練兵場に来ている。セイン殿達の他に当然の様に、カーム殿が一緒に居るが誰も指摘しない。

 まぁ良い。節度有る付き合いをしてくれれば、仲の良い男女と言う事で不問にしよう。だが対外的な面で、早めに婚約者として関係は明確にして欲しい。

 未婚の貴族の付き合いには実家の思惑が強く反映するから、当人同士だけが盛り上がるのは対外的にも拙い。要は両家に認められてる関係です!と知らしめた方が良い。

 特にセイン殿は跡継ぎだから、付き合う女性には気を使う必要が有る。本妻・側室・妾のどれか?下手に遊びの関係とか邪推されると両家に被害が及ぶ。

 僕だってまさかこんなにラブラブで周囲の視線に関係無くイチャイチャするとは思わなかった。カーム殿は強気な性格だから、周囲など関係無い位に思ってるのか?

 後で本人達にも注意と祝福をしてあげよう。両家公認、上司も公認。立場上、結婚式の新郎側代表は僕で新婦側代表はユリエル殿だな。

 宮廷魔術師団員同士の結婚式には上司の宮廷魔術師が代表になるのが通例。因みに僕の場合は、サリアリス様でジゼル嬢は派閥当主のバーナム伯爵だな。

 ウルム王国に勝って成人式を迎えたら即日結婚式を挙げる。これは決定事項であり、切実な問題として早く本妻を迎えないと周囲が煩いんだ。本妻さえ迎えれば、後は側室か妾を強要されるのだが……幾らかマシだ。

 最悪何らかの事情で側室や妾として迎え入れても、本妻程の影響力は無い。僕に干渉出来る立場になれる者は、エムデン王国としても無関心じゃいられないからな。早くイルメラ達も側室に迎えて、彼女達の立場を固めるぞ!

 まぁ上司が未婚だと配下も婚姻し辛いとかも有るのか?だがもう少し同僚と世間の目を気にしても良いと思うよ。凄い妬みの籠もった視線だからね……恐ろしきは嫉妬心だよ。

 カームさん?ドヤ顔で交際相手の同僚達を見るのは止めてあげて下さい。デスキャンサー君が歯を食いしばり過ぎて、口の端から血を流してます。

 カブトムシキング君は御札を握り締めて一心不乱に何かを呟いているが、あれは呪符じゃないよな?セイン殿を呪っているのか?もしかして彼等も、貴女を狙っていたのかな?

◇◇◇◇◇◇

 気を取り直して指導を再開する。先ずは100m先に目標となる敵兵に見立てた、普通の強度の鎧兜を百体錬金してランダムに並べる。範囲は縦10m幅30m、本来は密集するが矢を射られると散開するから。

 100mの距離は最終防衛ライン。この距離だと完全武装の兵士なら二十秒で接近するし、騎馬なら半分だな。足の速い身軽な雑兵なら、十五秒位か?熟達した弓兵でも狙えば一回に十秒前後は掛かるから、迎撃も難しい。

 しかも敵の弓兵の射程距離範囲でも有る。セイン殿達のゴーレム制御距離は一番短い者で20m、つまり敵兵との距離は合計120m。最終攻撃をしてゴーレムを防衛に使い逃げ出すにしても厳しい距離だ。

 いや、撤退するにはギリギリの距離だな。勿論だが味方の兵士による護衛も含めてで、彼等だけなら馬車を用意しなければ200m以上でも追い付かれて全滅の危険だよ。体力が無いから全力疾走で、果たしてどれだけ走れるか……

 宮廷魔術師団員一人を倒すのに、雑兵三十人なら御の字。いや敵側が有利だろう。宮廷魔術師団員は運用方法によっては、一人でも雑兵三十人位は簡単に全滅させられる。

 熟達した騎士だって護衛を付ければ何人でも倒せる。だが防御力が低い、体力も低いから移動は遅いしスタミナも無い、魔力が尽きれば雑兵以下。攻撃力は高いがデメリットも多い、乱戦の場合は只のお荷物で役立たずだろう。

 これが火属性魔術師だと殺傷能力の高い魔法を多く使えるから、多少はマシになる。ファイアボールを連射すれば、有る程度は接近されても広範囲に対処出来るから。

 まぁ増長した理由もソレだけどね。騎士でもファイアボールが一発当たれば火達磨だから、自分達は最強とか勘違いしたんだ。範囲攻撃魔法なら避けられる事も少ないし……しかし犠牲覚悟ならば、火属性魔術師達でも雑兵四十人位で囲まれると負けるんだぞ。

 犠牲覚悟の玉砕攻撃をしてくれる雑兵を用意するのが平時は難しいが、戦争みたいな極限状況だと割と簡単に用意出来る。生きるか死ぬか、ヤルかヤラれるか。

 戦争は善悪のタガが外れ易い、お前達がヤラなければ代わりにお前達をヤルとか脅迫したり。集団心理とか褒賞に目が眩むとか、敵兵憎しで自己を犠牲にしても倒す敵討ちとか。

 その辺の煩わしさが嫌で、転生前の僕は人間の兵士を嫌いゴーレムを多用した。人間関係の面倒臭さや、変な正義感や自己保身とか色々有ったんだよ。

「先ずは現状の確認をする。的のゴーレムは動かさないから、三回一斉射撃してくれ。だが間隔は狭めてだよ」

 三回斉射で何秒必要か?その掛かった時間により撤退する距離を測り決める。二回以下なら120mでも足りないかも知れない。

 だが彼等の態度には迷いが無いから、それなりに自信が有るのだろう。この練兵場の広さからいって、もう少し距離を長くして練習していたかな?

 習熟度が一定以上ならば、次は野外で更に距離を伸ばして練習しよう。実戦では雨や風、逆光や地形の高低差と条件は千差万別。環境が一定の室内練兵場とは難易度が桁違いだから。

「分かりました。お前達、ゴーレムを錬成するぞ。大丈夫、普段の練習の成果を見せる!」

 セイン殿の力強い言葉に、他の連中も声を張り上げる。こんなに肉体言語が好きそうな感じだったか?カーム殿も腕を組み頷いているが、何故に教官的な立場?

 素早く左右に一列に広がる。全速力とは言わないが、それなりにキビキビしている。軍隊の新兵位の練度だろうか?

 最初は酷かったが、今は随分と態度が変わった。思わず期待が膨らむ位に……良かった、これなら何とかなるか?

「「「おぅ!俺達の新しい力をリーンハルト卿に見せ付けるぜ」」」

 彼等の錬金するゴーレムの配置も問題になる。僕は何列かに分けて配置するが、二十本と数が少ないと横一列かも知れない。視覚情報によりゴーレムを操る場合、一列じゃないと見え難い。

 でも横一列だと一斉に矢を放った場合に狙いが付け難いんだ。密集させた方が大まかに当たる場所を設定し易い。一列だと全てのゴーレムが同じ操作で的を狙わせると微妙に角度が違う。

 密集した場合は大まかならば全員同じ角度で射る事が出来る。どの道、彼等には精密射撃など無理だからな。有る程度の範囲に矢を射れれば合格、数を頼む攻撃の利点だ。

「ふむ、各自ゴーレム二十体の錬成に掛かった時間は最大で十八秒か」

 心の中で数えたが僅かにタイムは縮まっているし、速い者は十五秒だった。しかし全員が目の前に十体二列で配置した。十一人が横並びだから左右から狙う連中は角度がキツくて難しいから、もう少し密集させたい。

 正面なら距離も測り易いが……左右に配置されたゴーレムが身体の向きを変えて、的に対して正面を向いた。微妙に扇形になったが、悪くは無い工夫だよ。上半身だけ向けるより、身体全体を向けた方が制御は楽だ。

 弓は左腕の手首から直接生えている。最初の助言通りに、指で掴む複雑な構造を止めて簡略化したのかな?矢を掴む右腕も五本指じゃなくて二本指、いや幅が広いからペンチみたいだ。矢を挟む事だけに割り切ったのか?

 幅が広いから矢を掴み易いが、弦につがえて引く操作は出来ないぞ。挟み込むだけじゃ弦に矢をつがえる時に……む?弓に矢が貼り付いた、何故だ?

 そうか!磁石だな。全金属製だから、弓に磁石を仕込めば矢は磁力で貼り付く。だから一旦矢を弦に接した状態で離して持ち替えて、弦に矢をつがえた状態で引ける。

 考えたな。一工程多い分、多少の時間は掛かるが複雑な指の動きを簡略化出来るから、制御に余裕が有り照準に思考を割り振れる。しかし水平撃ちだと、飛距離は山なりより短いか。いや、微妙に水平じゃない?バラつきが有るぞ。

「よし、一射目……撃て!」

「「「おぅ!」」」

 十一人の宮廷魔術師団員が操る二百二十体のゴーレムから放たれた矢が、的であるゴーレムに向かっていく。速いしタイミングも乱れてない。

 だが放たれた矢の三割は上下にブレた。手前の地面に刺さったり的であるゴーレムの上を通り過ぎたり。残り七割の内、当たったのは半分以下。

 三十本前後が当たり装甲に弾かれたのは十本位か?湾曲した肩や盾に当たったから仕方無いが、二十本近くは刺さった。だが当たったのは十六体で致命傷は七体か……

 目標百体の内、行動不能にしたのが十六体。致命傷を与えたのは七体、二百二十体のゴーレムで初撃が二割以下は微妙だが未だ一回目だ。矢が当たったゴーレムは地面に倒した。

「二射目、行くぞ……撃て!」

「「「了解、照準を調整する」」」

 二射目迄十三秒、照準を調整したなら悪くない。だが実際の命中率は?今回は距離感を掴んだのか全員が水平撃ち、二百二十本の矢が無傷の八十四体のゴーレムに向かう。

 連携の悪さが出た。全員が散らばった的の中心に向けて撃った、集中放火なら及第点だが接近する敵兵の足止めを考えたら適度に散らすべきだぞ。

 中央に居た十体に七割の矢が当たった、的のゴーレムは針鼠みたいになった。間違い無く致命傷だが、百体中行動不能にしたのは合計二十六体。今回矢が当たったゴーレムも地面に倒す。

 この時点で接近されていたら接敵してダメージを受けて壊滅だな。だが今回はゴーレムの制御の確認で運用は評価外、合格範囲ではある。

 三射目は残り七十四体の内、十八体に当たった。三回斉射で四十四体を行動不能にした、約半数ならば良い方だ。人よりも力が強いから当たれば威力も高い。

 悪くは無い。エムデン王国の正規弓兵より命中率と速射力は低いが、威力が高く射程距離も長い。上手く使えば良い戦力になる。運用次第だが、嵌まれば大活躍だな。

「やった!半数を倒せたぞ」

「今後の課題は命中率と目標の割り振りか?」

「いや、それはそうだが他人との連携は無理だぞ。誰が何に当てるとか事前に相談しないと分からないし、その場で指示し合えるか?」

「声を掛け合うとかで対応出来ないかな?でも結構なタイムロスだぞ。各自で好きにした方が、速射出来る。手数を増やした方が良いんじゃないか?ゴーレム集団戦の強みって数だろ」

「事前に攻撃範囲を割り振っておくとか?セインを中心に左右に分かれて、敵が目標位置に来たら攻撃するとか?」

「いや、それじゃ待ちの時間が無駄だろ?やはり各自の判断で……」

 ふむ、円陣を組んで反省会を始めたが良い傾向だな。その場で問題点を洗い出し対策を練る、錬金関連は魔力が尽きるまで何回でも行える。強くなるには必須だぞ、その気持ちを忘れないでくれ……

◇◇◇◇◇◇

 あの後、魔力が尽きるまで四回程訓練を繰り返した。僕が助言するよりも、自分達でトライアル&エラーを繰り返し少しずつ成果を上げた方が力になる。

 何でも教えて貰うのは成長の妨げになる場合が多いんだ。自分で考える事は大切だ、例えそれが間違っていても。助言として先ずゴーレムの配置は十体二列で統一した。

 命中率の悪さは最初に前列十体が矢を放ち、次に後列十体が微調整を行う事で改善した。的を散らす事はさんざん悩んだ、セイン殿を司令塔にして左右に割り振ってみたが咄嗟に全員に指示など出来ない。

 指示されても行動が間に合わないので却下。司令塔が一人では無理だからと、次は三人に分けてみた。だが最初に三人の意志疎通がなっていないと結果は同じだった。命令系統の細分化は細かい部分まで意思伝達が可能だが、反面時間も掛かる。

 トライアル&エラーの結果としては事前に基本行動を決めておいて、後は各自で判断する事になった。僕は単独だから全て自分で決める、ゴーレムは命令に従順だから可能な単独侵攻。欠点は全ての責任をとる事。

 まぁ役職や爵位の関係で、責任範囲は多く重いんだけどさ。そもそも魔術師は個人プレイが大好きで、足並みを揃えるのが苦手な人種。集団運用は土属性魔術師だけか?その土属性魔術師も連携には四苦八苦してる、魔術師とは困った人種だ。

 あと何回か訓練状況を見て助言する事にするが、セイン殿とカーム殿の熱愛振りは見ている此方も恥ずかしくなる。訓練後、直ぐにタオルで首とか額を甲斐甲斐しく拭いてるとか。

 同僚達の嫉妬の視線に気付こう、何時か刺されるぞ。これが男女間の失敗って事で、我が身に振り替えて注意しよう。僕も割と人目を気にせずイチャイチャしてるからな……

 


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