古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第725話

 ダーダナス叔父様の屋敷に巡回警備で立ち寄る情報を入手し、お茶会に偶然参加して貰う様に企み成功させました。ターニャ夫人の協力により、私達五人は彼と会う事が出来ましたわ。

 兎に角不思議な殿方で、私達は翻弄されっぱなし。才女だ才媛だと持て囃されていましたが、全くのポンコツと化し最低の行動と結果。後で猛省が必要なレベルです。

 ですが、ステファニーの放った相談が状況を一変。リーンハルト様は何か思う所が有るのか、色々と調べました。それはそれは真剣に、そして齎された結果は……

「この魔力石に込められた魔力は質も量も最上級、買取価格は一つ金貨三枚。ステファニー殿は一日に何個でも魔力を込められるとなれば……」

 え?一個が金貨三枚?私の自由裁量で使える金貨は毎月十五枚、それ以上は御父様と相談する必要が有るのに?数秒で魔力を込めただけで金貨三枚?

 唖然となる。私達は下級貴族の娘、それ程裕福では有りません。少ない資産を遣り繰りして、何とか流行に遅れて恥をかかない程度に身嗜みを整えているのです。

 私がみすぼらしい格好をしているのは、実家が貧乏だと思われてしまう。まぁ実際に貧乏だから、娘を着飾らせられない訳です。それを短時間で収入を得る事が出来るとなれば……

 手の平の上の魔力石を弄ぶ態度と言葉の内容と表情の食い違い、何が本心なのか悟らせない為なのか重たく取られない為なのか。でも真剣な表情と言葉の内容からすれば……

「なる程、女性が一人で金貨を稼げる事が出来るとなれば、私に干渉してくる存在が現れると言うのですね。私では魔力石を売る伝手は有りませんので、誰かに利用される危険が高いでしょう」

 それが親族でも……ステファニーが最後に小声で付け足した事が、リーンハルト様が懸念していた事。彼女の両親は強欲な部分が有りますから。一個金貨三枚なら、魔力を込めれば幾らでも稼げる。

 実際は空の魔力石の確保と販売経路、需要と供給のバランス、ステファニーの安全と機密保持。彼女が自分や人に頼んで魔力石を売りに出しても、直ぐにバレてしまうでしょうね。

 簡単に十個に魔力を込められたのだから、一日百個は可能。毎日金貨三百枚?一ヶ月だと金貨九千枚?危険だわ、監禁されて働く事を強要される。例えそれが血の繋がった親族でも……

 リーンハルト様の目がスッと細まったわ。まるで私達の有り得るかもしれない金銭的な未来計画、他国の諺(ことわざ)で『捕らぬ狸の皮算用』でしたか?

 友人を売るかもしれないとか思われているなら酷い誤解ですわ。確かに打算で集まった仲間(ライバル)ですし、抜け駆け上等の酷い淑女とも言えない。でも戦友には違い有りませんので。

「少なくとも、ターニャ夫人と貴女達五人は、ステファニー殿の危険な秘密を知ってしまった。彼女の安全を考えれば、口封じ……いえ、口止めが必要ですね」

 あの、口封じって言いましたよね?確かに、ステファニーにとっては重大な秘密で将来に関わる大事なのは分かります。ですが秘密を知った私達は、そうでもないですわ。

 確かに金儲けのネタは知りましたが、リーンハルト様と仲間を相手に裏切り行為など出来ません。する意味すらないですし、秘密を知っても我が身の為なら教えます。

 例えば脅迫されたりして聞き出されたら、自分の安全を優先して抵抗しないで教えますわ。それこそ教える私を口封じで殺される程の事でもないでしょうし……

「リーンハルト様、ターニャ夫人とクラリス達は信用出来ます。私達には強い絆が有るので大丈夫ですわ」

 ドヤ顔で大丈夫とか言われても、私達って打算以外で結ばれてましたか?ステファニーは金貨が稼げると分かりながら、危険が身に迫ると理解しながら助けを求めず大丈夫と言いました。

 リーンハルト様が苦渋に満ちた顔をしているのは、大丈夫と言われても危険には変わりないので見捨てる事になると悩んでいるのでしょう。なんだかんだ言っても優しい殿方ですからね。

 ステファニーもそれを理解しているみたい。目配せしているけれど、もう少しバレない様に気を付けて下さい。此処は何も言わずに、リーンハルト様の判断を待つべき。

 何故なら必ず助けてくれると思うから。それは無条件でなく対価か条件は付けられるでしょうけど……

「ふぅ、仕方無いか。ステファニー殿に提案ですが、魔力石は僕が定期的に買いましょう。空の魔力石も此方で用意しますが、生産数は限らせて頂きます。毎月百個を金貨三百枚で買い取ります」

 え?空の魔力石も用意してくれるのなら、金貨三百枚は丸々純益。リーンハルト様が持ち出しになりますわ。百個に限定したのは需要と供給のバランスかしら?

 年間金貨三千六百枚、新貴族男爵の年金以上。普通に暮らすには十分過ぎる、でも甘え過ぎ。ステファニー、どうするの?断るの?受けるの?

 チラリと見た、ステファニーは固まっているわ。自分の役に立たないと思っていたギフトが、思わぬ高収入を得る事になったから?でも、それを受けてしまったら側室話は……

「ステファニー殿、上手くすればもっと稼げるかも知れない。だが僕でも毎月百個の上級の魔力石に魔力を込めるのは厳しい。これ以上だと疑われるから、無理無く市場に流すなら適量だと思う。

それと、ターニャ夫人を含めてクラリス殿達とも良く話し合って協力すると良い。はっきり言えば口止めかな。君達は共犯者、バレたら皆が色々と問題を抱えるからね。

ステファニー殿の秘密を守る事が、クラリス殿達の安全確保の為でも有る。急に羽振りが良くなる相手を調べるには周囲から、尋問の手段が手緩いとは思えませんよ。何故なら僕絡みですからね」

 割と強めの口調ですが、私達の身を案じてくれた提案なのは分かります。リーンハルト様にとっては年間金貨三千六百枚など大した負担ではないのでしょう。

 ですが定期的に私達との縁が出来てしまったわ。それはリーンハルト様にとって好ましい事ではない、余計な手間と苦労を強いてしまいました。

 今回の件で、リーンハルト様に利する事は無いでしょう。それ程、上級とはいえ魔力石が貴重で必要と言う事も無いでしょうし用意する魔力石分損していますし。

 ステファニーは黙って頷くしかない。本人も理解して微妙に辛そうな、でも少し嬉しそうな顔をしているわ。でも口元が変、笑いを堪えているの?

 でも私達も危険に晒されると考えていたのは少し驚きました。私の予想と違うのは、リーンハルト様絡みだから彼の政敵が動いた時の危険性を抜かしてたから。

 言われてみれば、リーンハルト様に会った事の有る私達に注目が集まらない訳が無く、その内の一人の羽振りが良くなれば怪しんで調べるわね。

「クラリス殿」

「はっはい!な、何でしょうか?」

 思案中に、いきなり呼ばれたから驚きました!またどもってしまったわ。恥ずかしい、心臓に悪いです!

「このお茶会には定期的に参加します。時期は月末、参加者は……クラリス殿に決めて貰おう、君が皆のリーダーだと思うから。毎回五人でも良いし減らしても他の誰かを代わりに呼んでも良いが、君とステファニー殿は毎回参加して貰う。ターニャ夫人は場所の提供をお願いします」

 定期的に?その提案をするから私達が毎月、リーンハルト様に会う事になるなら。確かに危険度は跳ね上がるわ。是が非でも理由を知りたがるし、参加したがるわね。

 ステファニーの収入ですが、私達全員の安全対策で大半を使ってしまいそうだわ。でも定期的に、リーンハルト様に会えるメリットの方が遥かに高い。

 しかも私がリーダー的な役割を担っていると見抜いたのは、観察眼が鋭いのよ。有能過ぎる、でも私達に有利過ぎる。善意だけとは思えないけれど、私達を欲しがっているとも思えないわ。

「何故でしょうか?余りに私達に有利な提案であり、リーンハルト様には全く利が無いですわ。素直に受け入れる事は躊躇してしまいます」

 理由を聞かないと違う意味で危険過ぎて飲めませんわ。リーンハルト様は確かに優しいでしょうが、政敵絡みの場合そんなに甘い訳が無い。善意だけで、こんなに甘い提案をするならば諫めねばならないわ。

 魑魅魍魎溢れる王宮で勝ち抜いている、リーンハルト様の事を考えれば有り得ない。必ず御自分に利する事が有るから、多少不利益でも言ってくれたと思う。でもその理由が分からない、それが不安で怖いのよ。

「クラリス?貴女は何を言ってるのですかっ!」

「そうですわ!折角の御厚意を無下に断るなんて……」

 空気だった巨乳コンビ、シャルロッテとヤーディが文句を言ってきたけれど……素直に受けるには此方に都合が良過ぎるのです、それを分かってますか?

 確かに、リーンハルト様は優しいし面倒見が良いのかも知れません。ですが不思議に思わないのは、思考を止めてしまった事。安易に流される訳にはいかないのよ。

 リーンハルト様が目を細めてからフッと笑いました。まるで面白いモノを見付けたみたいに、それはそれは嬉しそうに。矢張り裏が有る、当然ですわね。私は彼の判断基準で、きっと一定のラインは超えたのでしょう。

「ふむ、たいした事では有りません。僕の婚約者である、ジゼル嬢を困らせないで欲しい。僕の望みは、それだけですよ。なにやら選抜メンバーを組んで、ジゼル嬢に相談に行っているとか?僕は彼女を本妻として迎え入れる迄は、他に側室を迎えない。クラリス殿ならば、近衛騎士団関連の淑女達を止められると見込んでいるのです」

 嗚呼、釘を刺す代わりに見返りを用意したのですね。ステファニーの件は私達が協力して秘匿する必要が有り、仲間と言ってくれた責任も有る。

 定期的なお茶会の参加者を私に決めさせるのも、面倒事の調整は頼むって事。確かに可能、出欠の決定権を貰えるなら何とかなるわ。そして、ジゼル様を本妻に迎える迄は側室の件は保留。

 結婚した後で側室の件を進めるとかの言質は取れてない、有耶無耶にされる可能性も高い。しかしプライドの高い、ジゼル様が側室候補選抜の件をリーンハルト様に相談していたのは驚きですね。

 あの手の女は自分の弱味を相手に悟られずに処理するのですが、やはり才媛と言われ彼の本妻にと望まれても付け入る隙は有るのが分かっただけでも大収穫だわ。

 リーンハルト様の目を見詰めて力強く頷く。今は無理強いせずに止めますが、私達は絶対に諦めませんから!

◇◇◇◇◇◇

 これ以上は引き止める訳にもいかず、リーンハルト様は帰られました。色々と問題が発生し対処に追われる事になるけれど、全体的には納得出来る結果でしたわ。

 ステファニーの独断でしたが良い方向に転がりました。謎のギフトでしたが、リーンハルト様的には御自分の制御下に置いておきたかったそうです。

 宮廷魔術師であり王都の魔術師ギルド本部と冒険者ギルド本部を支配下に置いているので、出所の不明な上級魔力石が大量に出回るのは不都合だったとか。

 リーンハルト様側にも、それなりの理由とメリットが有ったならば安心です。一方的に有利な条件など、後が怖くてたまりませんから……

「リーンハルト様も愛しの婚約者からの陳情には過剰な位に配慮するのね。少し安心しましたわ」

 今後の事を話し合う為に、ターニャ夫人を交えてお茶会を延長しました。リーンハルト様の愛しの婚約者、ジゼル様は私達と同等以上の才媛。

 何度か選抜メンバーで交渉に伺いましたが厳しい相手だと痛感し手をこまねいていた時に婚約者である、リーンハルト様を頼った事は大きい意味を持つ。

 あの手の女はプライドが高くて弱味を見せないのだけれど何度となく攻めた結果、リーンハルト様に泣き付いた……いえ、相談したか報告したのね。

 リーンハルト様としても今日のお茶会で情報を探るか釘を刺すかしたかった、故にステファニーの相談は渡りに船だったのでしょう。結果的に月末に定期的に会えるチャンスを貰えたのです。

「クラリス?それは早計よ。ジゼル様を甘く見るのは駄目だし、リーンハルト様を甘く見るのはもっと駄目よ。あの方は諜報を得意とする、ザスキア公爵と懇意にしています。彼女の諜報部隊も動かせる筈ですわ」

「政治、軍事、諜報と各々得意分野の分かれた公爵三家と懇意にして協力体制を敷いています。ザスキア公爵の諜報部隊が協力すれば、今回の件も婚約者に知られずに調べられたでしょう」

 シャルロッテとヤーディに指摘されて気付きましたが、確かにそうです。ザスキア公爵の諜報部隊ならば、私達の動きなどお見通しでしょう。ザスキア公爵本人が私達の事を調べている筈ですから、予想出来る事でしたわ。

 無駄に胸だけに栄養が回っている訳じゃなく、頭も回るのね。いえ、今回私達は全員が舞い上がっていたのかポンコツでした。反省しましょう。つまり、リーンハルト様は自主的に愛しの婚約者の為に私達の動きを牽制したと言う事ですか……

 羨ましい程に気を使って貰ってますわね。

「近衛騎士団関連の選抜メンバーに、今日の事を知らせるとしても……言い方を考えないと恨みを買いますわ。今日の事も厳密に言えば抜け駆け、何度もすれば連携と調整など出来る訳がないわね」

「ステファニーのギフトの件は秘密厳守は当然として、定期的なお茶会の参加者の選定だってそうよ。貴女とステファニーは確定、残り三枠はどう決めるつもり?」

「私とシャルロッテ、ヤーディだけ毎回参加出来ないのは我慢ならないわ。でも私はギフトで嘘を見抜く事が出来るから必要だし、実際の空きは二枠よ」

「そうだわ!レイニース、どうだったの?リーンハルト様は嘘をついていたのかしら?」

 私に非難が集まる。確かにギフト持ちの、ステファニーとレイニースは参加確定。今後の新しい参加者の嘘を見抜く為にも、レイニースは外せないわ。

 残りは二枠、無駄に肉と脂肪を胸にぶら下げている連中だし本物の子爵令嬢だし、不参加でも私の心は痛まない。でも秘密を守る仲間なのだから、ハブる訳にもいかないわね。

 リーンハルト様ってもしかしなくても、最低限の交代枠しかならない様にしたのかしら?本来三枠ならば新人を一人二人入れても何とかなったわ。

 でも、レイニースのギフト『真実の目』は外せない。嘘を見抜く手段は手放せない。ならば巨乳令嬢は隔月参加にすると新人は一人しか呼べない、十人以上いるのよ。全員参加させるとなると一年以上?

「駄目だわ。私達以外の近衛騎士団絡みの淑女は十五人、交代枠は一人だと一年以上かかる。リーンハルト様は三枠交代で半年程度のつもりだったと思うのよね。半年有れば戦争は終わるし、成人するから本妻を娶れるし」

「近衛騎士団絡みだけじゃないのよ。各侯爵達も縁者で有能な淑女を集めてますし、アヒム侯爵の愛娘で秘蔵っ子の、モンテローザが動いているわ」

「あの嫌な女ね。私は大っ嫌いなのよ、あの中年好きは参戦して来ないで欲しいのです!」

 モンテローザ、ウルム王国に嫁いだ淑女達を開戦前に帰国させた立役者。何かしらの魅了系か操作系のギフト持ちだと思うのです。

 彼女に味方する方々は普通じゃない態度を取るので分かります。あの女は危険なギフトを持っているから、私達も会う機会を極端に避けています。

 しかも隠していますが極端な年上好きの変態的嗜好の持ち主、そんな女が未だ未成年のリーンハルト様を狙うのが怪しい。凄く怪しいのです。大人しく老人相手の後妻でも狙いなさいな。

「どうせ父親の、アヒム侯爵が焦って焚き付けたのでしょう。公爵三家に囲まれた、リーンハルト様と懇意にするには政略結婚が最善。ですが……」

 枠に限りが有るのです。領地持ちの侯爵待遇の伯爵、本来なら本妻と側室を合わせて十人前後は普通。リーンハルト様は既に、アーシャ様を側室にしています。

 これで本妻を含めれば二人。そして所属派閥の二人、バーナム伯爵とライル団長からも側室を娶る、派閥の結束力に関わるから必須。これで四人、ローラン公爵が縁者のニールさんを押し込んだ。

 これで五人、残りも五人。ですが今後の事も考えて二人か三人は余裕を持たせるから、今回上手く側室になれるのは二人か三人。私達の半数が無理なのです。

 この事は皆が気付いていながら言わないと思っています。五人仲良く全員側室になれるのならば、もっと協力的だし抜け駆けなんてしないわよ。

「さて話を纏めたら、ジゼル様に報告に行きましょう」

「私達は、リーンハルト様が認められた本妻様の下部組織。ジゼル様を立てて協力しながら、他の側室希望者達を弾かなければならない」

「これからは忙しくなるわね。上手く本妻様を煽てて動かしましょう。本妻様の下で動く事は、側室になった時の予行練習になるわ」

 ふふふっ、リーンハルト様の思惑とは違うかも知れません。ですが少し早いですが、内助の功の練習と思って頑張りますわ。

 


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