古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

736 / 999
第730話

 傭兵団の謎の動き、わざわざ不利を承知で王都に集まる意味。効率を考えたら下策なのに、何故実行したか?この件は協力者の公爵三家と話し合う必要が有り急遽集まった。

 場所は僕の執務室にしたのは公爵三家に差を付けない為、誰かを優遇する訳にはいかない。僅かな差が小さな不満の芽となり、何時か大きな不満になる。

 最初に来たのは、ローラン公爵。次がザスキア公爵で、アーバレスト伯爵達に処罰を伝えていたニーレンス公爵が最後だった。全員集まるまで無言だったのは、傭兵団の対処で僕だけに秘密の部分が有ったからかな?

 イーリンとセシリアから報告が行ったから、気まずいのだろうか?その計画が破綻した状況だから余計にか?オリビアが全員に紅茶を配り退室した。

 イーリンとセシリアは自分達にも関わりが有るので同席、何故か僕の後ろには、リゼルが控えている。彼女は、ザスキア公爵が急遽呼んだらしい。

 彼女のギフトをニーレンス公爵とローラン公爵は知らない。だから彼女を見て僕を見たのは、何故居るか説明しろ!だろうか?いや、僕だって知らないですよ。

「全員集まりましたので話を進めたいと思います。国内に潜伏していた傭兵団の動き、どうにも合理性に欠けていると思うのです。ああ、リゼルは僕の補佐として同席して貰いました」

 適当な理由を付けて紹介したが、実際に彼女のギフトに頼る事になるだろう。僕等の知らない裏切り者が未だ居る筈だから、その炙り出しに必須なんだ。

 説明を終えて全員の顔を順番に見る。ローラン公爵は目を閉じて腕を組んで考え、ニーレンス公爵は僕の後ろ当たりに視線を向けている。つまり、リゼルを見ている。

 最後に視線をザスキア公爵に向けると、見つめ合った後で微笑まれた。問題を議論する場所に似つかわしくない、綺麗で艶やかな笑顔だな。まさに大輪の花、ネクタル効果で二十代前半の若さを取り戻している。

 ザスキア公爵主催の秘密の会合、厳選された淑女達の鋼の結束力は物凄い。そして彼女達は旦那の操縦技術を心得ていて、ザスキア公爵の意向に添って誘導するんだよ。本人達は自分が選択したと思っているから余計に怖い。

 既にネクタルは五十本渡しているが、何人が手に入れられる資格を得る事が出来るのか?その会合に参加しているメンバーの名前は、ザスキア公爵から口頭で聞いている。

 正直ヤバい、派閥を超えたドリームチームだよ。簒奪すら可能なメンバー揃い踏み、美と若さの為ならば抜け駆けは有れども裏切りは皆無だろうな……

「ふむ、リーンハルト殿の腹心。出自が謎の才媛殿ですな」

「リゼル殿は、アウレール王がリーンハルト殿の家臣不足を心配して送り込んだそうだが……噂では、リーンハルト殿が在野の彼女を探し出して引き入れたとか?」

 あれ?僕は二人から責められてる?尋問とは言わないけれど、得体の知れない女を側に置いているのは何故だ説明しろ的な?いや、真実を伝える訳にはいかないから……

「その話は両方正解よ。リゼルさんは、元バーリンゲン王国の諜報担当だったのをリーンハルト様が能力を認めて引き抜いて、アウレール王に差し出したのよ」

「私は、リーンハルト様に仕える為だけに祖国を捨てましたが後悔は全くしていません。アウレール王も私の覚悟を認めて下さり、正式にリーンハルト様の配下に組み込んで頂きました」

 おぃ!思わず振り返って見れば、思いっ切りドヤァ顔を浮かべていやがる。その話は秘密なのに何故バラしたんだ?味方の公爵様に秘密は無しとかじゃないだろ?

 ジロリと睨めば笑いやがった。ザスキア公爵も秘密を自らバラした割りには複雑な顔をしている。ニーレンス公爵とローラン公爵は何となく納得したみたいな顔だ。

 真実を知っているのは、アウレール王と王宮女傑三人衆と直属の腹心だけ。例え公爵と言えども、リゼルのギフトは危険で有効だから秘密なんだ。勿論だが、裏切り行為じゃないから。

「ふむ、ラビエル子爵とミズーリ嬢もそうだったな。汚職塗れの掃き溜めみたいなバーリンゲン王国に、唯一居た清廉潔白な一族。その政務能力は中々らしい」

「バーリンゲン王国の宮廷魔術師フローラ殿も妖狼族もそうだったな。リーンハルト殿は引き抜き工作が上手い、引き抜かれた者は皆貴殿に心酔している」

 うーん、確かに今回はバーリンゲン王国の主要な連中をエムデン王国に引き抜いたな。フローラ殿は別だが、他の人達とは懇意にしている。まぁ色々有ったけど、暗殺騒ぎとか……

 彼女以外は全て自分の配下として組み込んだから、自国の貴族を雇わずに何故他国の貴族を雇うのか?って事だな。バランスを取る為にも、自国の連中も何人か雇う必要が有るかな。

 ジゼル嬢やリゼルが厳選しているが、未だに合格した者が居ないんだよ。グンター侯爵やカルステン侯爵絡みの没落貴族達が狙い目だが、採用基準を満たした者が居ないんだ。

 急いで変な奴を配下に組み込む訳にもいかないから、仕方無いからと採用基準を下げる事はしないから。まぁ焦らずゆっくりと、だな。自分の領地から在野の有能な人物を探すのも良いな。

「結果的にバーリンゲン王国の弱体化に繋がっていますので良かったかなと……フローラ殿の引き抜きは提案しましたが、実行したのは僕では有りません。それに彼女からは、僕に若干の恨みを感じています。あと、何やら彼女に悪意有る話を聞かせた者が居ます」

 彼女はロンメール殿下が交渉という名の強制をしたが、特に反発せずに引き抜きを受けた。祖国に対する愛着が薄れたからだろうか?

 損得勘定だけじゃ移籍には応じない性格だと思うが、ロンメール殿下が上手く交渉したのだろう。今回の彼の成果は色々と多い。

 アウレール王が重用するのは、グーデリアル殿下とロンメール殿下の二人。他国への使者として、十分に国王の代理をしている。アウレール王の後継者問題は心配無い。

「そうね。フローラさんはアウレール王がロンメール様に指示して引き抜きを実行させたのよね。つまり王族の成果に異を唱えた者が居る、下級官吏達よね。ニーレンス公爵、彼等の引き締めは急いだ方が良いわよ」

「ふむ、確かにコソコソと集団で嫌がらせを繰り返していると聞いていたが……一度締めた筈ではなかったか?」

 え?ザスキア公爵はフローラ殿に悪意有る話を聞かせた連中を既に掴んでいるのか?ローラン公爵も、下級官吏の嫌がらせを知っていた?

 ニーレンス公爵は苦虫を纏めて噛み潰した感じの表情だ。政務系下級官吏の管轄は、ニーレンス公爵だから。だが僕はニーレンス公爵に相談せずに独自に対応した。

 それは余計な貸し借りを作りたくなかった事と、この程度の事で泣き付くのを良しとしなかったから。これ位は自分で何とかするべきだし、有る程度の成果は有った。

 だが事ある毎に色々とコソコソネチネチ仕掛けて来る。一度キツい対応をして分からせないと、止まらないのだろうか?敵対するなら容赦はしない、敵国だけじゃないんだぞ。

「む、それが事実なら何とかしよう。少し調べる時間をくれるか?最近は官吏達の不祥事が多い、確かに再度引き締めるべきだな」

 それが事実なら、か……ニーレンス公爵も情報は掴んでいるだろうに微妙な言い回しだ。アーバレスト伯爵達もそうだし、下級官吏もか。

 色々と忙しいのに大変だろう。でも自分の範疇は他人には頼らない、自分で何とかするのが正しいんだ。下手な借りは作りたくないし、負い目も嫌だ。

 ニーレンス公爵が本気になれば、下級官吏の総入れ替え位は出来る。そして大量の失業者が出て、その恨みの矛先が誰に向かうか考えたくもない。

「僕の件は自分で対処します。余計な手間を掛けさせる訳にはいきませんし、これ位の対応が出来ない訳では有りません。ですが、フローラ殿への対応は早急に引き締めが必要かと思います。

彼女は追い詰められて……いや、自分で自分を追い込んでいます。何時爆発するか分かりませんから、余計な手出しは控えねば火傷では済まないでしょう。彼女は病み始めていますから……」

「ふふふ、女の怨みは怖いわよ。フローラさんは同僚殺しを実行したから、敵味方の線引きが曖昧になっているわ。注意しないと思わぬ行動に出るかも知れないわよ」

 えっと、同じに聞こえるけど意味が違くないかな?恨みですよね?怨みってニュアンスに受け取れたんだけど、違いますよね?

 ニーレンス公爵もローラン公爵も、過去に何かしら同じ様な事が有ったのか微妙に顔を引きつらせている。いや、額から汗が……過去に何が有りましたか?

「側室や妾じゃなく内緒で火遊び(不倫)して本妻殿が病んで激怒して、お仕置きされた事を思い出していますわ」

「おわっ?リゼル、耳元で囁くなよな。驚いただろ!」

 浮気は節度を守れって事らしいから、不倫は相手の旦那や本妻殿と事を構える事になるから推奨されない。そもそも浮気は駄目だし、そんな火遊びをニーレンス公爵やローラン公爵がしたのか?

『いくら直属の配下でも仲良しさんみたいな事はしないでくれ!ニーレンス公爵達が、物凄く疑いの籠もった目で見ているぞ。リゼルは側室候補じゃない、信頼している配下だから!』

 後ろから耳元で囁くとか、男女の距離が近しい相手としかしない行動だぞ。ザスキア公爵も片方の眉を上げて睨んでいるが、あの仕草は呆れと怒りの両方だ。

 またしても、リゼルがドヤァ顔を浮かべやがった。私と仕えし主は仲良しです的な感じなのか?それを公爵三人の前でやるか?普通はやらないぞ。

 弁解や言い訳、誤魔化す事は余計に誤解を招くから何も言わずにスルーする。とっくに冷めた紅茶を飲んで気分転換、もうマナー無視で一気に飲み干してやる!

◇◇◇◇◇◇

 気持ちを切り替えて今後の対策を話し合う。問題点は各地に配置している兵力の再配置をするかだ。監視対象の傭兵はバラバラに散らばり、半数以上は追跡を逃れた。

 もう様子見など言ってられず、監視者達は散らばる傭兵を捕えて尋問した。結果、ただ王都に集まれとしか指示をされていない。取り敢えず、城門の取り締まりの強化と周囲の巡回を指示して様子見にした。

 裏切り者の元侯爵に騙された手薄な領地という極上の獲物から警戒厳重な王都に目標を変える。何が有った?何がしたい?目的に合理性が無い。錯乱でもしたか?

「すみません、話を戻します。傭兵団の動き、一見無意味で合理性に欠けると思います。それと行動が同時期なのは事前の予定通りか?

途中で変更指示を受けたか?指示を受けるにしても敵国内では不自由な筈です。簡単に伝達出来る訳じゃない、それが可能ならば……」

「私達の配下の監視は甘くないわ。傭兵団に接触した連中の監視もしているけれど、同時期に一斉に指示を伝える者は居なかったわ。つまり団長クラスには事前に指示が出されていた事になるわ」

 ザスキア公爵が僕の言葉を遮る。監視下に置いている傭兵団と接触する伝令も把握しているから、リアルタイムで指示を受けるのは無理って事か。

 腕を組んで、ザスキア公爵の言った事を考える。事前に行動を指示していたとして、僕等は傭兵団が手薄な領地を襲うと考えて対策を練って来た。

 だが手薄な領地を襲わずにバラバラに王都に向かう指示が出ていた事になるのだが、じゃあ何故最初から襲わない計画だったんだ?無意味だろ?

「だが元侯爵共の裏切りがバレたタイミングで王都に集まれとは何故だ?普通は守りが手薄となり略奪しやすいだろう?まぁ先に決めていたにしても、傭兵共が素直に従うか?」

「確かにな。目の前に無防備な獲物が有るのに、敢えて警備が厳重な王都に向かうか?傭兵の質など底辺だから、目の前に毒入りの餌が有れば構わず食い付くぞ。それが大人しく従ってか……確かに変だし、合理性も無いな」

 そうだ。合理性が無いっていうか、行動に意味が無い。勝手に略奪する者も出ずに、素直に王都に向かうか?傭兵団など傍若無人で弱い者を虐げて略奪をする連中だぞ。

 偏見じゃなく傭兵団とは金の為に戦争をする連中で、信念など無く金さえ積めば簡単に裏切るし汚れ仕事も厭わない連中だ。略奪するチャンスを見逃すとは考えられない。

 まぁ稀に志の高い傭兵団も居るが、今回の監視対象の連中の中には居ない。金の為なら何でもする様な連中なんだよ。ソイツ等が素直に従うとか、行動がおかしい。

「取り敢えずは城門の監視を厳しく出入りには制限を掛けて、周辺の巡回を強化する。もう傭兵団も此方の監視に気付いたし、有無を言わさず捕縛から尋問に変えるか」

「そうだな、王都の安全が第一だ。だが少数の傭兵では王都は落ちぬ、警備を厳重にして外側で対処すれば良い」

 ニーレンス公爵とローラン公爵の意見が最も効果的なのだが、ザスキア公爵は何か釈然としない感じだな。未だ見付けていない裏切り者の事か?

 それとも王都の守りを亀みたいに固めて出入りの制限を掛けて領民の不安や不満を煽る事か?王都は広い、外部の巡回警備を行うならば相応の兵力を割かねばならない。

 それは王都の内部の兵力を割いて外の巡回警備に回すって事だから、必然的に王都内の警戒態勢にも影響を及ぼす。だが敵は外に居るから……

「申し訳有りません、リーンハルト様!緊急の伝令です」

「何だ?大事な打合せ中だぞ。緊急とは何だ?」

 何かが思い浮かぼうとしていたが、オリビアの声で霧散してしまった。だが公爵三人との話し合いの最中に伝えねばならない事って何だ。

 相当な内容じゃなければ話し合いが終わる迄待つ筈だから、僕が対応しないと駄目なんだよな。オリビアは悪くない、脅かす様な口調は反省だ。

 軽く笑い掛けて叱ってない事を伝える。オリビアも理解したのか安堵の表情になったので安心した。無闇に偉ぶっても無意味なんだよ、そんな恥ずかしい事など出来ない。

 だが彼女の報告を聞いた後、再度怒鳴ってしまったのは仕方無いと思うんだ。オリビア、済まなかった反省するよ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。