古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第74話

 夜通しアタックドッグを狩り続けて漸く宿屋に帰って来た。

 アイントプフ(農夫のスープ)とライ麦パン、それにチーズとオレンジジャムの朝食を食べて部屋に戻ると湯の入った桶とタオルが用意されていた。

 風呂は無いからコレで身体を拭けって事だな……

 

『ウィンディアさん、肌が綺麗……エレちゃんの方がプニプニじゃない……イルメラさん意外に胸が大きい……』

 

 壁が薄いのか隣からの会話が聞こえて……いや、僕は聞こえない、聞いてもいない。

 

 女三人集まれば何とやらって奴だが『ブレイクフリー』も華やかになったな。

 彼女達の部屋には護衛のゴーレムポーンが四体居るから不埒者が現われても大丈夫だ。

 僕も手早く身体を拭き清めてからベッドに潜り込む、昼過ぎに起きてミオカ村の村長を訪ねる為に……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ミオカ村の村長はカミオ村の村長の息子、親子で分割した村を纏めている。

 領主の都合で分割されたが実質的な村の運営形態は変わらないのだと思う。

 宿屋の主人に教えて貰った道順を歩いて行くと直ぐに村長の家に着いた、本当に近い。

 他の民家よりは大きく立派だが王都に居ると簡素な建物に思えてしまう、でもカミオ村もミオカ村も貧富の差は無さそうだ。

 どちらの村人も元気だしモンスターに襲われている悲壮感は無い……

 一応木の柵で囲われていて庭には鶏が放し飼いになっていて何人かが収穫した野菜を洗ったりしている。

 

「村人達も安心と言うか落ち着いてるな、これが辺境に住む住人の強さか?いや、辺境って程でもないか……」

 

 辺境とは生活が困窮する程に厳しい自然環境の事だし、此処は温暖で暮らしやすい地域だ。

 因みに村長を訪ねるのは僕だけで残りのメンバーはカミオ村側の放牧地に向かって貰った。

 向こうのエリアでアタックドッグを十匹狩らないと依頼が達成出来ないんだよね。

 玄関ドアを叩こうとしたが既に開いているので中に向かって声を掛ける。

 

「すみませーん、村長いますかー?」

 

 声を掛けると中から返事がして未だ若い男が出て来た。

 

「はい、何ですか?」

 

 簡素だけど清潔な服を着た二十歳位の男だが鍛えられた肉体をしている、戦うよりも労働に従事する筋肉の付き方だな。

 

「冒険者ギルドから依頼を請けて来ました。ノルマを達成したので手続きをお願いします、討伐証明部位も有ります」

 

「ああ、噂の冒険者の方ですね?僕がミオカ村の村長のモータムです。でも君は未だ若いなぁ……中に入って下さい」

 

 噂?今朝のアタックドッグの販売の事かな?モータムさんの後について部屋に案内された、大きなテーブルの置かれた集会スペースみたいだ。

 

「依頼書と討伐証明部位を出して下さい」

 

 テーブルの上に依頼書とアタックドッグの牙を並べると数を数えはじめた……

 

「はい、依頼達成ですね、ご苦労様でした。依頼書に討伐数も書いて置きますから最寄りの冒険者ギルドに一緒に提出して下さい」

 

「有り難う御座います」

 

 討伐数を重複して申請しない様にかな?確かにミオカ村で狩ってカミオ村に討伐しましたって言えなくもないからな……

 依頼書を畳んで牙と共に空間創造に収納する。後はカミオ村でエレさんの索敵に引っ掛かってくれれば……

 一礼して部屋を出ようとしたら呼び止められた。

 

「君達は不思議に思わないのかい?どうしてミオカ村だけに被害が集中してるかを?」

 

 顔に笑みを貼り付けながら聞いてくるが、少し胡散臭い。

 

「気にはなります……ですが原因解明は依頼書には無かったので」

 

 依頼に無い事はしない、Eランクの依頼にモンスターの襲撃してくる原因の解明など無理だ。

 モータムさんも理解はしてるのか、顔を顰めるだけで何故とは言ってこない。

 

「原因を解明してくれと依頼したら請けてくれるかい?」

 

「いえ、効率が悪いので請けないと思います。今はギルドポイントを稼ぐ為に頑張っているので、利益より効率が優先なんです。

調査系は時間が掛かるし経験も必要、僕等みたいな駆け出しは手を出さないですよ。必要ならば冒険者ギルドに依頼をしてみては?」

 

 冷たい言い方だが今回の依頼は実入りも少なく移動時間も多い。今晩頑張って依頼達成が無理なら帰る予定だ。

 

「冒険者ギルドから推薦状を貰う割には随分と消極的なんだね?依頼を請けてはくれないんだ」

 

 嫌な笑みをして僕を見るが挑発のつもりかな?何故、僕等に調査をさせたいんだ?

 

「消極的って言うか僕等のメインは王都に有る魔法迷宮の探索なんですよ。実入りも段違いだし効率も良い、経験値も多く貯まる。

冒険者ギルドの依頼を請けるのはギルドランクを上げる為だけですから……では失礼します」

 

 特に引き止められなかったので部屋を出た、だが最後に見た顔は……感情が籠もってなかったんだ。

 憎いとか悔しいとか怒りとか哀れむとか、そんな感情は感じられなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ミオカ村の村長、モータムさんの態度が気になったので宿屋の主人に相談する事にした。

 彼は冒険者ギルドから委託されているので、村長の態度について話しておくべきと感じたから……

 

 幸い宿屋も朝食の時間も終わり暇が出来たのか夫婦共に話を聞いてくれる事になった。

 食堂のテーブルに向かい合わせで座る、周りに客は居ない……

 因みに息子さんを初めて見たが僕より年下の美少年だった、母親に似たんだな。

 

「それで話しておきたい事って何だ?」

 

「実は……先程ミオカ村の村長に依頼達成の報告と手続きに行って来ました。

手続き自体は順調に済みましたが、その後に村長がウチの村だけアタックドッグに襲われている事を不思議に思わないかって……」

 

「モータムがか?

不思議にって言ってもな、モンスターが村を襲うのは珍しい事じゃない。アタックドッグは群が大きくなると幾つかに別れて移動するからな。

確かに二百匹近く討伐されるのは珍しいが無くはないし、家畜の味を覚えた奴等が執拗に襲ってくるのも不思議とは思わない。

何故、ミオカ村ばかりかと言われると謎だがカミオ村も襲われているからな。全部がミオカ村じゃないから何とも言えないぞ」

 

 本でしか知らない知識だが王都の周辺でも野生のモンスターに襲われる事は有るし群の規模も大きい場合も有る。

 家畜の味を覚えた奴等が執拗にミオカ村を襲うのも変じゃない。

 なら何故、村長は『ミオカ村にだけ襲ってくる原因を解明しろ』って言ったんだろうか?

 

「でも村長はミオカ村だけ襲う原因を解明して欲しいって挑発混じりで依頼して来たんです。

勿論、断りましたよ。そんな怪しい依頼を請けたくは無いし調査系の依頼がEランク相当かも分からない。だが村長は僕等に依頼を請けさせたかった……」

 

 僕の説明を聞き終えると主人は腕を組んで考え始めた。ティルさんは顎に手を当てて考えている、似た者夫婦だな……

 

「モータムの奴、今回の襲撃の原因を知ってそうな口振りだな。偶然じゃなくて……」

 

「他に理由が有ると思えるだけの根拠が有るのね。しかもウチを通さず直接依頼を出そうとするなんて……怪しいわね」

 

 冒険者ギルドの委託先を通さずに直接僕等に依頼を持ち掛けて来たのは……

 冒険者ギルドには知られたくないのか?何故だ?

 

「分かった、それとなく調べてみる。

お前達も変な依頼は請けない方が良いぜ、奴も断られたっきりじゃ済まないから条件を吊り上げてくる可能性も有るしな。

それにモータムは有能だけど腹黒い一面も有るんだ、奴が動くと毎回厄介事になるんだよ……」

 

 凄く深いため息をついたよ、この夫婦……

 何度か苦労させられたんだろうな、あの若い村長に。コレはアタックドッグ討伐は早めに切り上げて帰った方が良いかも知れない。

 有能って事は僕等が断り辛い状況を作り上げる可能性も有るな……

 

「話は以上です、宜しくお願いします」

 

 礼を言って宿屋を出てイルメラ達と合流する為に放牧地へと向かう。

 厄介事に巻き込まれる前に早く王都に帰ろう、嫌な予感しかしないや。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 カミオ村側の放牧地は麦畑の先、真っ直ぐ細い農道をひたすら歩く。麦畑を抜けると漸く放牧地だが左右を見渡しても……

 

「牛と牛追いの人しか見えないな……いや、居た」

 

 牛の陰で見えなかったが小柄な三人娘が岩か何かに座っているのが見えた。どうやらアタックドッグは見付からないみたいだ……

 

「お待たせ、ミオカ村の方は手続きを済ませて来たよ」

 

 後から声を掛ける前に気付いたのか振り返って笑顔で迎えてくれた。

 

「お疲れ様でした、リーンハルト様。私達の方は収穫無しです」

 

「リーンハルト君、コッチの村には領主様の私兵が巡回に来てて声を掛けられたんだ。

カミオ村の領主はお金持ちだから私兵を巡回させるけどミオカ村の領主は財政難だから冒険者に依頼したみたいな事を教えてくれたわ」

 

 兄弟の仲が悪いって噂は本当なんだな、隣接してるのに自分の相続したカミオ村しか守らない。

 でもカミオ村に被害は殆ど無い、ミオカ村に集中している……そしてミオカ村の村長は何か原因が有ると感じて僕等に依頼しようと?

 

「この村は……きな臭いね、嫌な予感がするよ。成果は有った明日の朝一番の乗合い馬車に乗って帰ろうか。

変な事件に巻き込まれるのは嫌だし、仮に原因解明の調査なんて何日掛かるか分からない依頼は嫌だな」

 

「そうですね、Eランク相当の依頼では有り得ません。モンスター襲撃の原因解明なんて……」

 

 冒険者として先輩のイルメラも変だと思うなら間違いないだろう。

 

「その村長って依頼料を安くする為に直接交渉してきたのかな?」

 

「Eランク依頼にギルド推薦の強いパーティが来たから、問題事を押し付けたい……」

 

 ウィンディアとエレさんの意見は両方有りそうだな、冒険者ギルドを通さない依頼なんて疾(やま)しい考えが有りそうだ。

 ラコック村の時と違い緊急性も無いから無理に請けなければならない状況じゃないし……

 

「どう考えても怪しいな。早く王都に帰るか……」

 

 王都への便は朝一番しかない、夕方に到着する乗合い馬車がカミオ村で一泊して折り返す一便しかないんだ。

 だから今日は一泊するしかないし夜の討伐は早めに切り上げるか……

 

「それが良いですね、今夜の討伐はどうします?多少でも討伐数を増やす為に頑張りますか?」

 

「いや、無理せず早めに切り上げるよ。僕等が抜けても他にも冒険者は居るから問題は無いだろ?

彼等は殲滅は出来なくても追い払う事は出来る。最低限、村に迷惑は掛からない」

 

 方針は決まった、だが夕方迄粘っても結局カミオ村の方にはアタックドッグは現れなかった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

 『鋼の大剣亭』に戻る、結局モンスターは現れず長閑な放牧地で半日和んだだけだった。

 

「おぅ、お帰り。

なぁ……悪い話だがミオカ村の領主のルエツ様から夕食を招待したいって言ってきたぜ。

ミオカ村の村外れにルエツ様の館が有って良く来てるんだがな。

何でも一晩でアタックドッグを百匹近く倒す冒険者達にお礼と興味が有るそうだが、どうする?」

 

 主人の困った顔を見れば良くない事なのが分かる……あの村長、一度断られたら今度は領主とグルか巻き込んだかしたな……

 しかも冒険者達って事は全員だ、リーダーの僕だけって訳にはいかない。

 

「どうするも何も断れない、行きますよ。そのルエツ様ってどんな人ですか?」

 

 村長の単独か領主までグルなのか単純に言葉通りのお礼と興味なのか……領主の性格や人となりが分かれば判断出来るかな?

 

「ルエツ様か……単純に言えば天真爛漫だな。悪い人では無いが子供っぽい悪戯で村人を困らせる人でも有る」

 

 腹黒と天真爛漫か、会話で誘導させられたら領主の我が儘で押し切られるかも知れない。

 これは余程会話に気を遣わないと駄目だな、無理な依頼を押し付けられそうだ……

 


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