古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第75話

 カミオ村とミオカ村、元々はカミオカ村が相続の関係で二つに分かれたのだが村長は親子、領主は兄弟。

 ミオカ村の村長、モータムからアタックドッグの襲撃が自分の村に集中する事を調べて欲しいと言われた。

 だがモンスター襲撃の原因解明なんてEランクの依頼じゃないし奴の態度も怪しいので断った、明日にでも王都に帰ろうと……

 

 しかしミオカ村を治める領主から、お礼と興味を理由に夕食の誘いが有り僕等は立場上は断れない。

 これがモータムの依頼と関係が有るのか無いのか分からないが、素直に喜ぶ事は出来ない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「着替えを多めに用意しておいて良かったですね」

 

「リーンハルト君の空間創造って本当に便利!貴族の若様に呼ばれたのに汚れた服は嫌よね」

 

「嬉しくない相手に呼ばれたのに着飾るのは変」

 

 流石に嫌な相手でも領主に呼ばれたからには身嗜みには気を遣わなければならない、先方に失礼にならない程度に……

 女心を理解出来ない僕でも女性の着飾りたい気持ちは分かる、領主に夕食に呼ばれるとは改まった場所だからね。

 それに着飾ると言ってもドレスとかじゃなく実戦装備の中で綺麗な物をだ。

 僕は彼女達の着替えを空間創造に収納しているので新しい物を一式取り出して渡した。

 後は宿屋でお湯の入った桶を用意して貰い身体を拭き清めて着替えれば準備完了、迎えが来るまで宿屋で待機していれば良い。

 因みに僕は何時もの革鎧に革のブーツ、腰にロングソードで手にはカッカラ、それに黒色のローブを羽織っている。

 良く考えたら夕食を招待されたのに全員フル装備だな、大丈夫か?

 迎えを待たす訳にもいかないので一階の食堂のテーブルを借りて暫く待つと迎えが来た。

 

「お迎えに上がりました、『ブレイクフリー』の皆さん!」

 

 爽やかな笑顔を貼り付けた村長が呼びに来たか、何となく予想はしていたが当たると嫌なものだ……

 

「お迎えご苦労様です。では案内を頼みます」

 

「ええ、ルエツ様も楽しみにしてますよ」

 

 先入観が悪だと何をされても嫌に感じてしまう、どんな展開になっても冷静な判断が出来る様にしなければ……

 

「ははは、それは我々も楽しみですね」

 

「もう少し気楽な格好でも良かったんですが……」

 

 どうやらフル装備の我々がお気に召さないみたいだ、敵意が有ると思われたか?

 

「冒険者にとっての正装ですよ、さぁ先方を待たせる訳にはいきません。急ぎましょう」

 

 モータムを急かして案内をさせるが案内と言っても近い、元々村の重要施設は中心に集まっているから歩いて直ぐだ。

 案内された領主の館は村長宅より立派で石組の三階建の一寸した砦みたいだ、玄関の両側には篝火が焚かれ警備の兵が二人居る。

 モータムは警備兵に目配せすると玄関扉を自分で開けて僕等を館へ招いた。

 中は油を利用するランプにより明るくなっているがお抱えの魔術師やマジックアイテムによる照明は無いんだな。

 

「ようこそいらっしゃいました。『ブレイクフリー』の皆さん、私がミオカ村の領主ルエツです」

 

「お招き有難う御座います、僕が『ブレイクフリー』のリーダーでリーンハルト。モア教の僧侶イルメラ、魔術師のウィンディア、盗賊のエレです」

 

 ルエツ殿の第一印象は美少年だな、今年十七歳と聞いたが同い年位に見える。金髪碧眼、華奢で女性と見間違える程だ……

 

「ほぅ、リーンハルト殿が羨ましい!こんなに美しい女性に囲まれて自由な冒険者暮らしとは憧れますね」

 

「ええ、自慢のパーティメンバーです」

 

 笑顔のお世辞に笑顔で返す、はっきり言わないと自分の良い様に解釈するタイプだな。

 甘やかされた貴族は大抵この自己中心的で人の話を都合良く解釈する。

 だが貴族間の結び付きや対立関係とかは頭に叩き込んでる奴等が多い。

 

「では此方へどうぞ」

 

 僕の惚気も笑顔で聞き流して食堂へと案内してくれる、モータムも後ろから付いてくるから一緒に食事をするんだな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 案内された食堂は十人用のテーブル、向かいにはルエツ殿が座りモータム、僕とイルメラ、ウィンディアとエレさんの並び順。

 室内の内装は其れなりだが食器類は銀製品と金を掛けている。

 供された赤ワインはミオカ村で作った物だそうだ、葡萄畑なんて有ったかな?

 

「先ずは乾杯、有能な冒険者達との出会いに……」

 

 ワイングラスを胸の高さまで掲げて乾杯する。

 

「「「「乾杯」」」」

 

 前菜はキャベツの酢漬けにルーム貝の白ワイン蒸し、それに小エビのカクテルか……

ルエツ殿の自慢話を愛想笑いをしながら聞き流す、同じ貴族でも僕とは違い音楽や詩、乗馬等の華やかな趣味をお持ちだ。

食事中の会話はマナー違反だが料理の合間等に挟んでくるのは流石だな。

父親が溺愛してると聞いていたが笑顔を絶やさず人当たりも良いし跡継ぎじゃなければ出来の良い息子なのだろうか?

前菜の後のスープはグヤーシュ、これは牛肉・ジャガイモ・パプリカ・トマトを煮込んだシチューでボリュームも有る。

 此処までは良かった、普通に美味しい料理だ。

 

 だがメインデッシュは肉が鳩の香草焼きで魚は殻付オマール海老、どちらも殻や小骨が多く食べ辛い料理で正式な会食で饗されるには不向きな料理だ。

 

 食べ方は海老は頭を左指で押さえ、尾のほうから、殻と肉との間にナイフを入れて肉を静かにはがす。

 鳥肉の方は、骨のすぐそばにフォークをさしてしっかり押さえナイフで肉片を大きく切り離す、切り離した肉は左端から一口ずつ切って食べれば良い。

 

 平民の冒険者に供する料理としては大変食べ辛い、幸いウチのメンバーは育ちが良いから問題は無いのだが意図的なメニューなら意趣返しか?

 

「ふむ、食べ辛い料理で悪いと思ったが皆さんマナーが良いですね」

 

 食後のデザートの時に聞いてきたが、やはり意図的に食べ辛い料理にしたんだな。

 

「マナーについては子供の時から学んでいますから……」

 

「ほぅ、失礼ですが貴族だったんですね?」

 

 初めて笑みを消して此方を見た、この料理は食べ方による身元調査みたいな物かな?

 

「父はディルク・フォン・バーレイ、王都にて騎士団副団長の任に就いています。

イルメラは僕付の専属メイドも兼ねており、ウィンディアは僕のパトロンであるデオドラ男爵から遣わされた魔術師、エレさんは王都の盗賊ギルドから推薦された逸材です」

 

 デオドラ男爵のパトロンの件は公表しても良いと言われている、僕はジゼル嬢の婚約者候補の一人だから問題は無い筈だ。

 僕等の背景を知った時のモータムの顔は歪んでいた、平民の冒険者風情を思っていたんだろう。

 

「ほぅ!ディルク副団長にデオドラ男爵とはエムデン王国でも有数の武闘派の一族です。リーンハルト殿の強さも分かりますね」

 

 救国の英雄である父上や国内有数の武闘派であるデオドラ男爵の名前は有名だな、流石だ……

 父上の名前は出したくないが今回は未だ具体的に仕事の依頼の話も出てないから問題は無いと思う。

 

「有難う御座います。剣と魔術と突き詰める道は違いますが精進するつもりです。

明日の朝一番に王都に戻り冒険者ギルドから依頼されている魔法迷宮バンクの攻略に挑む予定です」

 

 さり気なく明日以降の予定の話を振ってみた、ビックボアの肝の収集の依頼は口頭だがバンク責任者のパウエルさんからのお願いだ。

 

「ほぅ?魔法迷宮ですか!

私は王都に行った事も少なく現地は見た事はないのですが……リーンハルト殿は忙しいのですね?」

 

 表情と口調が少し固くなったな、調査依頼をし辛いだろう、話の流れ的に……

 

「リーンハルト殿達は冒険者ギルドから紹介状を貰える程優秀ですよね?ならばミオカ村の現状をどう思いますか!」

 

 む、話の流れ的にお開きになりそうだから直球で来たな、モータムよ。だがな領主であるルエツ殿との会話に不自然に入り込むのは良くないぞ。

 

 ルエツ殿も顔を顰めているし……

 

「村長の言われたモンスター襲撃がミオカ村に集中する原因ですね。何か根拠がお有りなら本格的に冒険者ギルドに依頼を出す事をお勧めします。

僕が冒険者ギルドから優遇されるのは、前の依頼の時に名有りのオーク『錆肌』と率いていた群れ二十匹を一人で倒したからです。

僕等は攻撃特化パーティなので原因の解明とかの調査は苦手なんですよ。申し訳無いですが……」

 

 そう言って頭を下げる、本当に調査系はした事が無いし冒険者ギルドの依頼はギルドポイントを貯める為と割り切っている。

 時間の掛かる依頼はCランクになってから請ければ良い。

 

「へぇ、凄いですね……オークの群れを一人で?」

 

「流石ですね!尊敬しますよ、僕より若いのに凄いや!」

 

 二人の固まった笑顔を見ながらお開きとなった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「モータム、どういう事だよ?本当に彼等に頼めば解決するの?本当に原因なんて有るの?」

 

「はい、あの……その……それはですね」

 

「名前は覚えてなかったけど噂は聞いてたよ。近年で四番目に凄い新人冒険者って彼等だよ!

本当に一人でオークの群れを倒したんだってさ」

 

 低いランクだが将来有望な冒険者って聞いたからEランク料金で仕事が頼めると思ったが、本当に有名人だったのか。

 だが好都合だ、何とか騙して丸め込んで依頼を請けさせれば……

 

「それだけ優秀なら原因の解明も出来る筈ですよ。彼等はルエツ様の前で謙遜したのです。

何とか依頼を請けさせれば必ず原因を解明してくれます」

 

「でも明日の朝一番で帰るって言ってたよ。

それにディルク男爵とデオドラ男爵は王都でも有力な貴族だよ、お父様が病に伏せっている今は手を出すのは危険だよ。兄さんは絶対に僕を助けてくれないし……」

 

「このモータムにお任せ下さい。必ずやルエツ様の為に私が何とか致します」

 

 お前が居るから村が二分割されたんだぞ、俺達が苦労させられてんだぞ!

 

 少しは自分で何とかする気はないのかよ?全くボンボン貴族様は役にも立たないな……

 しかし予想よりも実力も背後の力も有りそうだが、大丈夫か?他を探した方が?

 いや、残された時間は僅かだ、チャンスは少ない。何とかして奴等を引き止めないと……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お世話になりました」

 

「おぅ、近くの依頼を請ける時はウチに泊まれよ」

 

 ルエツ殿との夕食も無事に終わり何も言われずに去る事が出来た。

 請けた依頼の片方は未達成だがティルさんから貰った地図と資料、それにモータムの怪しい行動を報告すれば良いか。

 正規に違約金を払っても良いか、複数が請ける討伐や採取系の依頼は早い者勝ちで達成出来ない場合も有るから解約は認められてるし……

 『鋼の大剣亭』の夫婦にお礼と別れを告げて乗合い馬車の停留場へ向かう、また長い時間固い椅子に座るのかと思うとうんざりする。

 

「リーンハルト君、あの村長何も言ってこなかったね」

 

「はっきり無理と言いましたし次の予定も入ってます。あの状況で無理強いは出来ませんよ」

 

「そうだね、少し簡単に退き過ぎたとは思うけど……」

 

 ウィンディアとイルメラの言う通り、領主の前で客人に無理な依頼を押し付ける事は出来ないし……もう帰るし関係無いな。

 

「む、停留場が人で溢れてるな。こんなに利用者が居るとは聞いてないぞ」

 

 乗合い馬車は大体十八人位乗れる広さが有るが、停留場には二十人以上の人達が居る。

 行きに御者に聞いた時は精々三人位乗る程度と聞いたんだが……近付いて確認すると冒険者じゃなく村人だ。

 

「すみませんが、皆さん乗合い馬車を利用するのですか?」

 

 もしかして見送りとか他の目的かと期待して声を掛けたが首を横に振られた……

 おかしいな、彼等は商人とかじゃない普通の農民で荷物も殆ど持っていない。

 早朝から乗合い馬車で王都方面に用事が有るとも思えない。

 

「おや、馬車が一杯で今日の便には乗れないみたいですね……

宿屋も引き払ったみたいですし滞在にお金も掛かりますし、良ければウチに泊まりませんか?

村長として馬車に乗り損ねた客人の世話をするのは当たり前なので……」

 

 不意に後から声を掛けられた、振り返って見れば村人の後ろに隠れる様にモータムが立っている。

 彼が現れた途端に停留場に居た農民達が僕等から目を逸らしたり下を向いたりしたぞ。

 

 つまりコレは村長の嫌がらせか妨害って事か……地味に痛いな、一泊金貨五枚近いし滞在する事事態が奴の思惑通りで嫌だ。

 

 小憎らしい笑みを浮かべて僕等を見る村長を睨み返した。

 


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