古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第749話

 難問、今迄は大抵の事なら対応出来たメンバーが頭を悩ませる問題。洗脳された疑いの有る王族の対応は、後宮の裏の支配者と心を読むギフトを持つ淑女。

 臣下の最上位、公爵本人や次期宮廷魔術師筆頭予定の僕でさえも悩ましく頭を抱える難問だ。タイミングも最悪、戦争中で国王も重鎮達も不在。

 旧コトプス帝国の、リーマ卿の謀略を防いだ後だった事が唯一の幸運か?それでも事後処理が大変なのに、余計な事を企ててくれたものだな。

 ロジスト様との話し合いの内容を現状の留守居役のトップ達が集まって頭を抱えている。対策が纏まらない、受け身に徹するには色々とヤバい気がするんだ。それは全員が感じている、だが妙案は浮かばない。

「擦れ違いになってしまったのは失敗だったけれど、先ずはリゼルさんがギフトで調べた結果を教えて貰いましょう。対策は、その後で良いでしょう」

 謎の根回しに奔走しタイミング悪く擦れ違った、ザスキア公爵の言葉に、要らぬ報告に行って擦れ違いの原因を作った、リゼルが申し訳なさそうに頷く。

 ハンナの引き抜きに余計な告げ口をして大事な時に連携出来なかった件は失態と言えるが、大した事じゃない。あの場で会えても、ザスキア公爵は同行出来ない。

 リゼルも直ぐに隣室に待機出来たから良かった。これが王宮から出掛けてたら問題だったが、今後僕の女性絡みの件で配慮してくれれば御の字だな。浮気、してませんよ。

 だから心を読んで睨まないで下さい!

「その、ロジスト様の内心ですが……ヴェーラ王女とは血の繋がりが、本人も確信は無いのですが有りそうでした。バセット公爵の親族の方と、過去に秘密の男女の関係が有り……」

 またか、また色事か!浮気、してるじゃないか。領地に引き籠もり大人しくしていたとか嘘で、ヤンチャしてるじゃん!

「それ深入りすると危険だから、この場だけで胸に納める話だな。レジスラル女官長もザスキア公爵も宜しいですよね?王家の醜聞など知らない方が皆が幸せになります」

 リゼルの話を止める。それ絶対に浮気だ、アンジェリカ様本人かその母親と関係を持ったんだ。常識的に考えれば母親、だから孫娘の危機を心配し動いた。

 それでも侯爵家の縁者との男女の秘話は問題であり、もしもアンジェリカ様だった場合は不義の娘として、ヴェーラ王女は良くて修道院に悪ければ幽閉。

 国王の寵姫と関係を持ったとか、幾ら何でも有り得ない。つまり祖母の方と関係を持ち、血の繋がりを疑った。でも、ロジスト様は娘だと思う、アンジェリカ様には興味が薄いのは何故だ?

「そうですわね。王家の醜聞など無い事にするのが一番、余計な好奇心は命を危険に曝す愚行。私は何も聞きませんでしたわ」

 両手で耳を塞ぐジェスチャーをするが、ネクタルの効果で二十代に若返ったからか妙に可愛らしい。永遠の二十代、メラニウス様もそうだが高貴なる公爵夫人の若返りの秘密。

 既に噂になっているらしいが、ザスキア公爵の広める『新しい世界』の信者達が結束し対抗している。その勢力は馬鹿に出来ず、その原動力の秘薬の確保をしなければならない。

 まぁレベルアップの序でなのだが、効率的な収入源でもある。横道に逸れた事を読んだ、リゼルに視線で注意された。気を付けます。だが君もネクタルを使ったから共犯者だぞ。

「アンジェリカ様が後宮に入った後で関係を持つ事は不可能です。ロジスト様がお忍びで王都にいらしても、王宮に来た時点で把握出来ます。更に秘密裏に後宮に入り込むなど有り得ません」

 寵姫の不義密通疑惑は晴れたが、その母親の浮気の疑惑が濃厚になった。ロジスト様は浮いた噂が無かった筈なのに、裏では色々とスリリングな事を仕出かしていたのか。

 貴族間の浮気は根深い問題だ。王族と公爵の親族、どちらもバレたら致命傷になり得る。だが証拠は、リゼルのギフトで読んだ思考。追求など出来ないが、交渉のネタにはなる。

 もっとも王族を交渉で脅すなど臣下として出来る訳が無い、故に口を閉じて無き事にするのが最良。本人達が騒ぎ出さない限り、何も言わず聞かず。僕達は知らなかった。

「その件については触れずに、リーンハルト様が敢えて聞いた事。モンテローザ嬢はヴェーラ王女の事をどう思っているのか?ロジスト様はモンテローザ嬢の事をどう思っているのか?その質問の時に心に浮かべた事は……」

「え?予想外だな」

 リゼルの話を纏めると、ヴェーラ王女に対しては純粋に祖父として名乗りは上げないが陰ながら守りたい。直接的に守るには養子に迎え全ての財産を相続させたいが、ヴェーラ王女は女性。

 男尊女卑ではないが、貴族の相続権は基本的に男性。遺産相続人が女性しか居ない場合は貴族院に相談し判断を仰ぐが、ロジスト様には子も孫も居る。故に確実なのは、彼女の旦那を後継者として相続させる。

 その候補の上位が僕であり、今回呼び出したのは意識調査の為だった。ヴェーラ王女に好きな異性は居るかと聞いて、何故か僕の名前を出した。因みに、ロジスト様には違う候補が居る。

 モンテローザ嬢に対しては、彼女との話し合いの時に何故か、ヴェーラ王女への祖父としての思いを再認識させて行動を起こした事への感謝の気持ちと、良く分からない胡散臭さを再認識した。

 因みにだが、ロジスト様は僕に対しても胡散臭さを感じて警戒心を抱いている。短期間に未成年が巨大な成果を出した事に対する、恐怖心を伴った猜疑心。調べれば調べる程、胡散臭かっただろう。

 それは本人と会わず王都の民の反応を直に感じず、報告書の文面のみを判断基準にした結果だ。まぁ普通はそうだし、レジスラル女官長も最初は同じだったな。それは理解出来る、自分だって他人がそうなら疑うだろう。

 だが問題は胡散臭い相手の事を気にしていた、モンテローザ嬢に一応の感謝と胡散臭い者達を纏めて監視・警戒する為に僕に押し付ける気が有るって事が厄介なんだよ。王族による嫁斡旋とか迷惑でしかない。

 ロジスト様の心を読んだ結果としては、ヴェーラ王女の事とモンテローザ嬢の事を同時期に考えていたら彼女のギフトにより感情が増幅されたのか?彼女のギフトは自分に対してだけじゃないのか?

 思ったより使い勝手の悪いギフトだな。使う時に対象者の思っていた感情に対して効果が有るらしい、つまり秘めたる思いを確認しないと予想外な結果を招く事になり最悪致命的な敵を生み出す。

「やはり情報を得るのが最優先、虎穴に入らずんば虎児を得ず。そんなハイリスクハイリターンな愚策でも、実行した方がマシでしょうか?」

 モンテローザ嬢に会って真意の確認をリゼルにさせて、敵対するなら厳しい対処をするって脅すか?いや、それは三流以下の悪手だな。僕は焦っているのか?

 だが父親である、アヒム侯爵や面識の有る上級貴族達に泣きついてギフトを使われたら困るのは此方だ。ギフトで操られた連中は予想外な対応をしてくる危険性が高い。

 王宮に招いて対象を無作為にギフトを使い捲られたら、どんな結果になるか想像もつかなくて怖い。だが真意を確認せずギフトを使えば、自分にも危険が迫る諸刃の剣。

 やはり直接会うのは危険かな?女性陣の表情は、呆れと何故か苛立ち?馬鹿な事を言ってしまった、僕を怒ってる?だが厳密には敵じゃなく同じ国の政敵だし、交渉の余地は……

「何故、わざわざ危険を冒してまで会う必要が有るのかしら?私は反対、敵対するなら然るべき処置をすれば良いのよ」

「ギフトの危険性を知ってしまったら、彼女を王宮に招く許可など出せません。一時期噂になった救出劇の立役者の彼女に好意的な方々は一定数は居ます」

「モンテローザ嬢はアンジェリカ様だけでなく、マリオン様とも懇意にしています。わざわざ敵に回す為に、呼び寄せる意味が分かりません。モンテローザ嬢は後宮内への立ち入りは原則禁止、許可は出しません。万が一接触され洗脳され、リーンハルト卿との婚姻を望み王族の方々が要求したら拒否出来ますか?」

 ザスキア公爵とレジスラル女官長、それにベルメル殿は反対か。ベルメル殿は更に突っ込んだ心配もしている。リゼルは自分のギフトで調査出来るが、特に強行するつもりはなくて話し合いの決定を尊重する的な?

 確かに王族の方々は基本的に王宮の奥に居て出て来ないから、モンテローザ嬢との接触を断つ事は限定期間ならば、このメンバーが動けば可能。親書の遣り取りじゃ、ギフトは発動しない。

 だが後手に回る位なら、此方から接触し真意を問い丁寧に説得(脅迫)すれば良くないか?力関係は圧倒的に此方側が上で、小細工を嫌って悩んでいるのだから……

「仮に有り得ませんが最悪の場合に断れず、モンテローザ嬢を側室として娶っても屋敷の奥深くに監禁して面会謝絶にすれば意味は無い。何か言われても大切にしていますって言えば、アヒム侯爵の思惑は……」

 潰えて何も出来ないのでは?って言おうとしたら、女性陣から絶対零度の視線を浴びせられた。物理的には寒くないのに、心理的には凍える寒さを感じる。舌がね、上手く回らないんだ。

「駄目です!あの女が側室など言語道断、許可出来ません。私が先ですし、有り得ない選択肢ですわ!」

 え?バンって手の平で机を叩いて立ち上がり力説されたぞ。このメンバーだと不敬だぞ、少し控えろ落ち着けって!リゼル、本気で怒っているが、万が一にも有り得ない例え話だから。

 肩で息をして感情を抑えているのだろうか?うっすら涙目になっているけど、例え話でもそんなに嫌だったのか?君なら僕の真意も分かるから、有り得ないと知っただろ?

 うわっ!睨まれたのは、例え話の嘘だとて話すなって事か?いや、僕だってモンテローザ嬢と結婚なんて嫌だぞ。リゼルの方が万倍マシだから安心しろって!

「そうね。その場合、アヒム侯爵家は物理的にエムデン王国から消えて貰う必要が有ります。私の未来設計に、余計な親族など不要ですから」

 リゼルが先って、君を側室に迎える予定は無いぞ。それに僕がモンテローザ嬢を側室として迎えても、アヒム侯爵家とザスキア公爵は親族関係にはならないんじゃないか?

 モンテローザ嬢は女性だから、ザスキア公爵との政略結婚は成り立たないよね?リゼルもザスキア公爵も真剣な表情だから、嘘や冗談では無いみたいだが……

 レジスラル女官長が両手で額を揉んで、ベルメル殿は乱暴に紅茶を飲み干している。非常に居辛いし胃がシクシクと痛んで来た。誰か、僕を助けて下さい!

◇◇◇◇◇◇

 結局、話し合いの結果は現状維持の様子見という結果となった。アウレール王の指示待ち、余計な行動は慎めって念を押された。つまり勝手に会うなって事だな。

 まぁ十日前後で、アウレール王から指示が来るから待機は悪い選択じゃない。余計な事をして状況を悪化させるなって事と、ザスキア公爵とリゼルが何かしら行動するのだろう。

 別れ際の視線が、私達が動きますから大人しくしていて下さいって感じだったし。レジスラル女官長やベルメル殿を含めた女性陣で同じ女性である、モンテローザ嬢に対応するのだろう。

「僕は男だし、女性や後宮の対応には口出しせずに任せて欲しい!かな?」

「何ですか?いきなり話し出して?」

 なので大人しく出仕せず自宅で仕事をする事にする。リゼルは手伝えないが、ジゼル嬢は手伝ってくれる。今も独り言に突っ込んでくれたが、彼女もザスキア公爵から詳細の報告が行ってる筈だ。

 企みは味方にも秘密の場合と味方と連携する場合が有り、洗脳系ギフト所持者に対抗するならば情報を共有し対応すべきだ。知らない内に味方が洗脳されてたじゃ笑えない。

 笑顔で誤魔化すが軽く溜め息を吐かれた。まぁ問題事を女性陣に丸投げして自分は待機だから、貴族の紳士としては情け無い部類かな。僕の出した提案は直接対峙だからダメダメか……

「御祖父様からの領地改革の報告書だが好転している。だが領内の新しいモア教の教会が、誘致を待たずに自主的に出来たって事が問題だ」

 読み進めていた報告書をジゼル嬢に渡す。彼女も読んで途中から微妙な顔をしたのは、普通では有り得ない事だからだ。モア教は基本的に新たに教会を建てる場合は事前に協議する。

 教会の運営は自分達で行うが教会自体は領主が費用を負担し建てる。それに付帯設備、孤児院や炊き出し用の厨房や振る舞う場所の摺り合わせもしていない。そもそも建物を建てる場所は無償提供だ。

 モア教とは原則初期費用は領主負担だが、彼等が領内に居てくれるだけで莫大な利益……いや効果が有る。それを初期費用まで教会負担?有り得ない前例が無い。

「バーレイ男爵は教会が建つまで知らされていなかった。領内の建築物全ての管理など難しく、事後報告であろうとも拒否など無理ですわ」

 そうだ。領民は熱烈に歓迎するだろうから、事前に報告が無いから出て行けなど無理。下手な対応をすれば暴動が起こる、領民にとってモア教とは信仰の対象であり裏切らない味方だ。

 生まれた子供の祝福から結婚式、亡くなった者の葬儀まで行う生活に密着し必要不可欠な存在。その彼等が前例を無視して教会を新たに建てた、僕の御祖父様の領地に……

 なにも思惑が無いなどと気楽に思えたら楽なのだが、宗教相手に無警戒とは大馬鹿者だよ。何故、モア教は僕に絡む?『無意識』の調査報告が待ち遠しい。

「そう、御祖父様はモア教の申し出を受け入れ金貨千枚を寄付し急いで僕に報告してくれた。モア教からの説明は……」

「リーンハルト様のモア教の信徒として日頃の善行と、教義に対する貢献、その行いに対して僅かながらの御礼の気持ちと書かれています」

 ははは、建て前としても酷い。そんな事の対価としてじゃ釣り合わない。そして僕の領地じゃなく御祖父様の領地でか。思惑が透けて見える、暗に脅して来たな。

 モア教の教祖か上層部の連中が僕に何かをさせたくて優遇してきたが拒否れば良くて破門、悪ければ神の敵か?司祭や信徒達は無関係、多分新しく派遣される司祭達も真意は知らされてない。

 胃がキリキリと痛い、血を吐き出しそうだ。流石に転生前の悪名高い時でも、宗教関係者からの接触など無かった。ニクラス司祭に相談する?いや、彼の立場を悪くするか?

「そんな表面上の事じゃないだろうね。教会を建て司祭や僧侶達を派遣する。教会の誘致は順番待ちが発生するほど各領主達が熱望するんだ。領地経営に彼等の協力は必須だからね」

「優先すれば他の貴族達から反感を買う。それを押してまで実行したのは、リーンハルト様みたいにモア教の教義を実践しろと言う意思表示でしょうか?または単純に優遇して貰えた?」

 祖父様の領地は割りと近い、日帰りは厳しいが一泊で足りる距離。ジゼル嬢と共に派遣された司祭殿に挨拶と御礼を言いに会いに行き、思惑を探ってみるか?

 直接派遣された司祭殿ならば、モア教の上層部からなにかしらの指示を貰っている筈だ。黒幕ではないが直接的な関係者だし、手掛かり位は掴めるだろう。

「どちらにしても、一緒に司祭殿に挨拶しに行きましょう。モア教の思惑の手掛かり位は手に入れられるだろうし、それなりの寄付も必要でしょう」

「あら?婚前旅行ですわね。アーシャ姉様は屋敷の女主として留守番、護衛にクリスを伴い明日にでも出発しましょう」

 凄く嬉しそうだけど、アーシャに対して毒を吐かなかったかな?彼女との浴室での子作りに対する嫉妬じゃないよね?

 


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