古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第762話

 フレイナルを叱咤し気持ちを引き締めさせた。まさか国王たる俺に対して迄、自分の嫁の理想の条件を言うとは驚いて呆れた。リーンハルトと違い、お前は俺に条件など付けられない。先ずは実績を積め、話はそれからだ。

 国内の貴族令嬢達は、お前を旦那候補と見做していない。ニーレンス公爵の愛娘の意向に逆らえる者は少ないのもそうだが、フレイナル本人にも難が有る。欲望丸出しで、既婚の淑女には態度が悪い。横の繋がりが有る淑女の情報網だと、お前の評価は最低だろう。

 だが没落予定の連中は違う。この機会に排除したい連中にとって美女を用意するだけで誑かされる、お前の利用価値は高い。宮廷魔術師の親族だ、排除は無理になる。一応、お前は活躍する予定だから配慮も必要だ。

 しかし、リーンハルト以外でも内容は真逆だが女絡みで俺に要求してくるとはな。コイツは女に盛る童貞だが、最悪の強要行為はしないだけマシだ。リーンハルトの愚弟は兄の威光と身分をかさに女に力ずくで迫った。

 フレイナルも下級貴族の娘なら好き勝手出来る権力は有る、だが三枚目宜しく喜劇で済ませるだけだからな。こう言う奴が、一人の女に嵌まると化けるか堕ちるかする。宛てがうウルム王国の女は要検討か……

 しかし懲りないと言うか、あれだけ叱っても懲りてない。フローラに色目を使っているが、お前ではソレを口説き落とすのは不可能だぞ。病んだ女を立ち直らせる事が出来るか?いや無理だ、手を出すな火傷じゃ済まないぞ。

 ウェラーなら馬鹿兄でも躾けて御せる可能性は高いが、ユリエルが暴走する可能性も高い。宮廷魔術師の不和や暴走は避けるべきだし、ウェラーを溺愛しているサリアリスとリーンハルトも動くだろう。

 アイツは愚弟の対応で苦労した分、優秀な妹弟子を溺愛している。その相手が、フレイナルと知れば絶対に動く。それこそ自分が認める程の男にならねば駄目だと、フレイナルを鍛え直すだろう。

 その選定基準は高く、痺れを切らしたサリアリスも乱入し最悪フレイナルは壊れる。奴を鍛えるチャンスだがリスクが高過ぎて無理だ。この考えは無し、ウルム王国の中から奴を御して尻に敷ける淑女を探す。

 敗戦国の貴族として没落一直線ともなれば、コレでも構わず嫁いで尻を叩いて鍛え直す有能な女も居るだろう。既婚でも未婚でも構わぬ、能力重視だが容姿だけは一定の選定基準を設けてやるか……

◇◇◇◇◇◇

 待望の、アウレール王からの指示書が来た。幾つか送ったが、纏めて返事が来たみたいだ。今回は、ザスキア公爵の執務室に呼ばれた。防諜対策を施した部屋で話し合う為にだな。

 参加者は僕とザスキア公爵、リゼルにイーリンとセシリア。ロッテにオリビア、ミズーリは参加していない。ロッテは会話には参加しないが内容は聞きたかっただろうが、ザスキア公爵の執務室には招かれなければ用も無く来れない。

 ミズーリには重たい内容だからまだ早い、中立派で後ろ盾の弱いオリビアは不用意に知ってしまうと危険だから遠ざけた。この参加しているメンバーが、現状のエムデン王国の最高決定機関だ。

「先ずは、バセット公爵絡みだけど……」

「リーンハルト様の提案通りね。現状を維持し相続や婚姻絡みは全て凍結、処罰は戦後の論功行賞の時に知らせる。つまり戦争に活躍した者達の報償として、領地や役職を取り上げる可能性が有る訳ね。

旧ウルム王国領を与えずにエムデン王国領を与えるとなれば、相当の活躍をした者ね。正式な王命だから逆らえば反逆罪が適用、その執行に対する全権をリーンハルト様に与えるとあるわね」

 ザスキア公爵の言葉に頭を抱えそうになるが、何とか耐える。留守居役としての権限が右肩上がりで増えている、討伐の全権って事は王都に常駐する兵力だけでなく、貴族が抱える兵力も動かせるって事だ。

 それは非常に強大な権力で、公爵の抱える私兵にも命令権が有る。前は王都の貴族街と新貴族街に住む連中だけだったが、今度はエムデン王国内全ての貴族が対象だよ。駄目だ、胃がシクシクと痛くなってきた。

 頭も抱えられず腹も押さえられず、喉は渇き目眩もしてきた。僕に対する、アウレール王の信頼が重い重過ぎる。普通は爵位や貢献度、能力から言ってもザスキア公爵だよ。

「ラデンブルグ侯爵はお咎め無し。戦場での突発的な凶行だから計画性も無い。故に現場に居て止められなかった連中は処罰対象、居残り組は不問にする。だが未だ発表は控えろと指示されています。これは安易に安心させずに緊張感を持たせる為かな?」

 リゼルが冷たい水とタオルを用意してくれた。僕の心を読む迄もなく、見ただけで分かるからな。有り難く頂くと、仄かに柑橘系の……これはライムかな?

 額と首周りの汗を拭くと大分心が落ち着いて来た。何度か深呼吸もすれば、平常に戻った。気付けば皆さんが注目していたので恥ずかしくなる。

 要は僕が落ち着くまで待っていてくれたんだな。リゼルが追撃で肩が凝ってますから揉み解します!ってニギニギしていたが、それは色々と拙いから断る。

 イーリンとセシリアまで同じ態度で迫って来やがったが、ザスキア公爵の咳払いを聞いて直立不動になった。彼女の配下に向ける視線は、それはそれは凄く冷たかった。

「んんっ!バセット公爵夫人の提案も実行中ですし、正式に権限を与えられたのですから最大限利用しましょう。アヒム侯爵とモンテローザ嬢への牽制と威嚇。下手に暗躍すれば処断する、そう分からせましょう」

 暗躍というか仕込みの段階だから、完全に敵として処断するのは抵抗が有る。先ずは警告し、それでも止めなければ対応する。対外的な建て前でも意味の有る必要な措置だから……

 それでも拒否するか反発すれば敵対の意志有りとして、相応の対応をする。僕は困惑した振りをして誤解だと誤魔化してから手を引くと思う。向こうも現状は攻め倦ねている感じだし、関係を見直す為には良い機会だろう。

 アヒム侯爵も僕と公に敵対するメリットとデメリットを理解している筈だが、長年侯爵七家筆頭としてのプライドが原因だよな。普通はポッと出の子供の下には付けないだろう。

「モンテローザさんへの対応は私が行うわ。女には女の対応の仕方が有るから、殿方は極力距離を置いた方が良いのよ。状況が変わったし、アウレール王の御墨付きも得たから問題は何も無いわ。全て私達に任せて下さいな」

 ニッコリと笑っているけど、コッペリスさんの教訓を生かすから大丈夫ってさ?絶対にヤバい方法だし私達って事は、レジスラル女官長やサリアリス様にリゼルも巻き込むのだろう。

 もしかしたら『新しき世界』に傾倒している信者達にも協力を仰ぐのかも知れない。モンテローザ嬢のギフトは強力だが、団結した才女の群れはもっと強力で危険だ。最初から敵意しか持ってないから、ギフトによる懐柔も無理。逆に使えば『どんな手を使っても絶対殺しますわ!』になる。

 前言撤回、モンテローザ嬢の件は任せた方が良い。僕の知らない内に処理されるだろう……僕は口出しせずに結果だけ聞けば良い。それが正解、君子危うきに近寄らず適材適所で任せよう。最初は悩んだが最終的には見通しが立ち問題は無くなった。

 調べ尽くしたら結果的に対処は簡単だった。ギフト対策さえすれば、危険度は低い。だが嵌まれば危険だった、ロジスト様を味方にされれば此方も正直ヤバかったよ。王族と敵対なんて、ヘルカンプ殿下だけで懲り懲りだよ。

「モンテローザ嬢の件はお任せしますが、バセット公爵派閥の令嬢達の保護については、ニーレンス公爵とローラン公爵の両夫人達にも助力をお願いしましょう」

「利益供与?手柄を分け与える必要は……私達は彼等より先に引き抜き工作を行うから、まぁ有るわね。両公爵夫人にも、彼女達との接点を作れば一方的な引き抜き工作にはならない訳ね。リーンハルト様も悪どいわ」

 バセット公爵夫人が根回しした彼女達が、リーンハルト様よりも両公爵夫人の引き抜きに応じるとも思えないのだけれど?とか言われてしまった。

 だがニーレンス公爵夫人よりも、メディア嬢の協力が役立つ筈なんだ。彼女は派閥を超えて若い淑女達に影響力が有る。そして彼女の名声を上げる事は、ニーレンス公爵への借りを返す意味も有る。

 不幸に追い込まれた淑女達を外敵から物理的に守る事は可能だが、精神的なケアは無理。若手淑女のトップである、一応謀略系令嬢なら可能。ジゼル嬢に補佐を頼めば完璧だよ。

「出来うる限りは公平に……それと、メラニウス様とメディア嬢の協力は必要です。特に若い淑女達の取り纏め役として、メディア嬢は適任です」

「メディアさん?確かに若い世代の取り纏め役としては役立つかしら」

 ザスキア公爵もその気になってネクタルを飲めば、今の二十代半ばの見た目から十代後半の見た目となり十分に若手淑女達の取り纏め役も出来るけれど……

 若過ぎる外見は根拠も無く軽く見られるから、相応の外見的年齢は必要。二十代半ば位が丁度良いのだろう。相当数の御姉様方が、ザスキア公爵の若返りに気付いている。

 未だ王族の女性陣からの接触は無いが、時間の問題だろう。アウレール王に早く凱旋帰国して欲しい。今彼女達に動かれたら面倒だ、時勢も読まずに欲望に忠実な方々が多い。王族の思考は貴族とも微妙に違うんだよな……

「ニーレンス公爵の名目上の後継者は、メディア嬢の旦那でしょう。ですが、それは表向きの事で彼女が裏から実権を握ると思います。だから箔を付ける為にも活躍の場を与えれば喜ぶでしょう」

「そうね。現当主は傑物だから引退しても婿殿に実権の全ては渡さない。適齢期の入り婿候補達は小粒だから、公爵家を切り盛り出来るとも思えないから父娘の操り人形かしら?その反発を抑える為の実績作りね」

 黙って頷くが、勿論だが善意だけじゃない。ニーレンス公爵とメディア嬢とは協力体制を構築しているが、それを乱す可能性が有るのが彼女の旦那だ。

 政敵も旦那の取り込みを働くだろう。そして現当主が引退か何かしらの不幸が有った場合に名目上は、メディア嬢の旦那が新しい当主となりニーレンス公爵の名を引き継ぐ。

 そこで継続的に友好的な関係を構築出来るとも思えない。押さえ付けられていた入り婿殿が反発する可能性は高い、在り来たりだが割と前例が多く有り得る未来なんだよ。

 ローラン公爵は次期当主である、ヘリウス殿とは友好的な関係……いや、有る種の尊敬を受けているから大丈夫。ザスキア公爵も問題無い、公爵三家の協力体制は次代でも揺るがない。

「次に、ロジスト様とアンジェリカ様、ヴェーラ王女の件ですが……アウレール王もロジスト様とアンジェリカ様宛に親書を認めてくれましたが、内容が少し問題ですかね?」

「そうね。ロジスト様には養子縁組みの件は認めないが、詳しい話は帰国後に話し合うと完全拒否ではなく、話し合いの余地を残したわね。御自分が不在の時に反発して動く事を封じたのでしょう。親書には詳しく書いてあると思うけれど、私達に中身は確認出来ないのよね」

 ロジスト様宛の親書を指差して話すが、国王の紋章の蝋封がなされている親書を開けて中身の確認など臣下の僕達に出来る訳が無い。現状却下、帰ってから話し合うから大人しくしていろ?

 だがギフトの効果で、ヴェーラ王女に対して膨張した孫娘愛を抑える事が出来るだろうか?話し合いの余地が残されたなら養子に迎える可能性が有る。

 つまり今も叔父として姪っ子に干渉する事は可能だ!とかこじつけな思考を抱いたら、ヴェーラ王女に会おうとする。それを止める事は難しい。親族間の交流ならば、止める理由は無い。

「時間稼ぎの一手でしょうか?アウレール王には、モンテローザ嬢のギフトの件も伝えましたから……ロジスト様の暴走を抑える為に、交渉の余地有りと受け取らせた」

「まぁギフトの被害者が理性的に行動するとも思えないから、暴走を抑える意味ならば有りかしら?」

 これで、ロジスト様への対応も固まった。アンジェリカ様?罪は問わず、お里下がりとして小さい領地を与えるから帰国するまで何もするな!だな。

 ヴェーラ王女の親権は取り上げるが、貴族として裕福な暮らしは約束するから大人しくしていろって事か。アンジェリカ様も条件を飲むだろう、下手したら連帯責任で処罰されていたのだから。

 アンジェリカ様への報告と親書は、レジスラル女官長に任せる。国王の寵姫に直接会うとか無理、僕はロジスト様に親書を届けて今後の行動の確認かな。

 


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