古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第764話

 重たい水壺を持った、ラナリアータと廊下の角でぶつかりそうになり話し込んでいたらペリーヌ様に話し掛けられ気付いたら彼女の私室に招かれていた。仮にも王族の女性の私室に招かれたからと言ってホイホイ入る、駄目だろうな。

 良く分からないが、ラナリアータが壺を持ち歩いていた理由は何となく分かった。ペリーヌ様は占いが趣味で、その方法は突然頭の中に思い浮かんだ器に水を満たして占う。ギフトの類いらしいが、詳細は教えてくれなかった。

 それは素焼きだったり硝子だったり陶器や鉄製だったりと多岐に渡るが、形状は深皿でもコップでも水が満たせれば構わない。それを頼まれた、ラナリアータが指定の素材の壺に水を満たして持って来る。

 その条件で器を壺にするって、ラナリアータが壺好きな事が分かった。カルミィ殿にも報告しなければ、長年の疑問が解けた訳だが……何故、彼女が壺好きかは分からない。聞いたら危険な予感がするんだよな。

◇◇◇◇◇◇

 ペリーヌ様の私室は占い好きと言うだけ有り神秘的な雰囲気を醸し出している。控える専属の侍女二人も真っ黒なドレスを着て顔をベールで隠している。ラナリアータは見習い侍女で専属でなく、複数居る兼任担当の一人らしい。

 占い、特にギフト系は馬鹿に出来ない精度を誇る。古来の王族が国の吉兆を占ったり方針を決めたり何かの決断を決める為にと、国家運営にも絡む事が多い。マリエッタも星読みというギフトを使い、僕等の危機を何度か救ってくれた。

 そんな占いのギフトを持つ彼女と差し向かいで座っている。テーブルには水を満たした鋳銅製の壺が鎮座しているのは、僕を占うのか?聞けば彼女は突然占いを行う為の器を思い浮かぶが、何を占うかは全く指定は無いそうだ。

 その時に一番気になる事、誰かに頼まれた事、全く関係無く明日の天気や夕食のメニューとかも気分次第で占うらしい。使い勝手は悪そうだが、的中率も五割と微妙らしい。僕は原因は、ラナリアータに有ると思う。

 占いの道具を素材は指定通りだが全て壺にしちゃうから、占い精度に何かしらの影響を与えているんじゃないかな?五割だと微妙だが、参考程度にはなる。二回に一回当たるからね。

 ペリーヌ様は壺の中に何か書かれた小さな木製の板を数枚入れた後、その動きを凝視している。だが壺は口が小さいから見難く中も暗いので観察し辛いだろう。小さな魔法の光球を指先に宿し中を見易くする。

「あらあら、まぁまぁ。凄く見易いわ……ふーん、そうなのね。これはこれは何とも、まぁそんな事に?」

 何だろう?不吉な呟きが聞こえるけど、何がそんな事なんだ?対象者の不安を煽るのは似非占い師の常套手段だが、ペリーヌ様のはそんな事が心底楽しそうだから違う。コレって愉悦か?

 懐から紙を取り出し数回折って魚みたいな形にして壺の中に落とした。不思議な事に水面に浮いたが、直ぐにユラユラと沈んでいった。紙が浮かずに沈むのか?今度は暫くして浮き上がって来たぞ。

 そんな馬鹿な!白い紙の魚が浮き上がって来た時には、銀色になっている。染めたり透けて中身に仕込んだ銀色が見えるとかじゃない。本当に銀紙みたいにキラキラしている。

 魔法じゃない、魔法なら僕には分かる。反応は何も無かったし、他の誰かが干渉した形跡も無い。何より目の前で見ていたのだから、小細工など不可能だ。壺の中を覗いたが、木の板以外に何もないからすり替えも無理だ。

「リーンハルト卿、貴方に近しい人の中に銀髪の女性……大人と子供の複数?いえ、反応は一人?でも姿がダブるのは何故かしら?母娘か姉妹かしら?」

 銀髪?美女と幼女の姿を持つと言えば、もしかしなくても妖狼族の巫女であるユエ殿の事だ。妖狼族の巫女の容姿の事は、少し調べれば分かるだろう。だが見た目幼女だが、満月の夜には妙齢の美女になる。

 この事は限られた者しか知らない。つまり、ペリーヌ様の占いは本物だ。だが彼女が妖狼族に悪意が有るかと言えば、無いと言い切れる。もし害意が有れば、女神ルナが知らせてくれるから。

 本物の神に人間が勝てる訳が無い。直接的な干渉はしないが、神託として妖狼族に有効な選択肢を伝えるんだ。未来予知に近く、何をしたらバッドエンドなのかも細やかに教えてくれる。

 いや、もしかしたらこの事に関連した予知を神託として伝えて対応させるのかも知れない。だが今は嘘や誤魔化しはせずに正直に話せる事は話す。後からバレる嘘は関係を悪化させるだけだから。

「銀髪ですと、最近配下に加えた妖狼族絡みでしょうか?確かに女神ルナに仕える巫女殿は幼く銀髪ですが、他にも部族全体では大人の女性も多く居ます」

「そうなの?少数部族だから血の繋がりが近いからダブるのかしらね?その子に危険が迫ってるわ。居てはならない的な悪意、でも結果は入り乱れて分からないの。こんな事は初めてだけれど、気を付けてね」

 結果が入り乱れる?つまり女神ルナの神託の選択肢と同じ数だけの結果が有り、ペリーヌ様は占いで当てた訳だな。妖狼族と言っても、彼女に険悪感は無かった。つまり人間至上主義者じゃない。

 逆に居てはならないは『排斥』の感情の現れ。つまり敵は人間至上主義者って事だ。残念ながら、我がエムデン王国にも人間至上主義者は少なくない数が居るらしい。

 彼等からすれば、僕は人類の裏切り者で妖狼族は滅ぼすべき種族なのだろう。エムデン王国内に人間以外は、エルフ族にドワーフ族位だった。だが彼等は強力で、下手に手を出せば手痛い反撃を食らう。

 妖狼族も同じだが、情報が少ないから甘くみたのかな。僕に負けて臣従したのが真実だが、偽りの情報を流している。僕がバーリンゲン王国に捕らえられていた巫女を助けて返したから臣従したと……

 偽物の情報に騙されずに真実を知って対処し易いと行動したならば、敵はエムデン王国内でもそれなりの力を持っている。そもそも人間至上主義者の殆どが、権力者層なんだよな。

 要は自分達人間が一番偉く、その中でも権力を握る自分達が更に偉いとか?馬鹿だな、人間なんて、エルフの一部族と争っただけでも全滅だよ。現実を知れ、夢を見るな語るな。

「そうですか。ペリーヌ様、有り難う御座います。妖狼族に危険が迫っていると警告し、対策を促します」

「そうね、そうした方が良いかしら。でもどの予想も最悪の未来は無いから、もしかしたら大した事も無いかも知れないわ。参考程度にして下さいね」

 深々と頭を下げる。的中率が半分位って事だけど、僕には本物だって理解しました。貴女の問題は多分ですが、ラナリアータに持って来させる壺が問題だと思います。

 そうすると、ラナリアータが持ってきた鋳銅製の水壺で占われた結果も否定的になると思うけどさ。それでも的中率五割を信じます。有り難う御座いました。

 ユエ殿は確か新しく作った妖狼族の里の女神ルナの神殿に居るんだよな。早く伝令を走らせて警告しておこう。今週末は満月だし、女神ルナから新しい神託が下されるだろうし。

 あとラナリアータの壺好きの件は、もう少し調べる事にする。本人が壺好きなのは確認出来たが、何故好きなのかは未だ不明だから。今後の調査に期待して下さい。

◇◇◇◇◇◇

 思わぬ出会いで時間を食ってしまった。三十分程だと思うが、急いで自分の執務室に戻ると既に関係者全員が集まっていた。やはり自分が最後だったみたいだ。

 ザスキア公爵にリゼル、それとレジスラル女官長の四人がメンバーだが、より防諜対策の整ったザスキア公爵の執務室に移動。王族絡みの対応だから、細心の注意が必要。

 リゼルにギフトを使い、ロジスト様の思考を読ませたとかバレれば不敬問題で処罰される。リゼルの身の安全も危うくなるから、話し合いは最小限のメンバーに限る。

 ベルメル殿や、イーリンとセシリアは不満そうだったが仕方無いと諦めてくれ。そして本題に入る前に、王族に詳しいレジスラル女官長に聞かなければならない事が有る。

「遅れて申し訳ないです。偶然だと思うのですが、ペリーヌ様と遭遇し強制的に占って貰ったのです」

「ペリーヌ様?偶然?あの方はロジスト様の腹違いの妹です。王位継承権が低過ぎて特に問題視はされていませんが、その趣味である占いについては判断に困る事が有ります」

「微妙に当たるか外れるか分からない結果と、どうでも良い事を占うのよね。本人も権力欲など全く無く、王宮内で安穏な余生を送れれば良いと公言しているのよ。

つまり元々低い王位継承権だけど権力争いには参加しません、誰の派閥にも入りません!って宣言したのよね。因みに生涯独身宣言もしている、趣味は食べる事らしいわ」

 王族至上主義の、レジスラル女官長でも少し困る程度の占いか。ザスキア公爵は特に占いの事は危険視していないが、保身の為に中立宣言をした事には評価しているみたいな口振りと表情だな。

 的中率五割、でもそれって敢えて的中率を下げてないか?最初は、ラナリアータが希望の器を壺に曲解するから的中率が低いと思った。だが彼女のギフトは本物、ユエ殿の秘密を悩みながらも言い当てた。

 保身の為に態と的中率を下げて評価を微妙にした。だが保身の為だけなら、占い自体を公表しなければ良い。その矛盾を行って迄、日常的に占っているのは何故だ?下手の横好きとしての評価と、占う事自体は普通と周囲に認識させた?

 そして腹違いの兄である、ロジスト様がヴェーラ王女の件で接触している僕の事を強引に占う。権力争いや面倒事に荷担しないなら無視するか、占う事などしない方が余計な波風は立たないのに……

 今のロジスト様は、モンテローザ嬢のギフトによって変になっている。行動が予測出来ないから、絡むのは危険だと思うぞ。下手をすれば、アウレール王の怒りを買う可能性も有るんだ。

「その、ペリーヌ様の占いですが力は本物だと思います。本人が知り得ない事が幾つか有り、言い当てています。そして妖狼族の巫女殿の身に危険が迫っていると警告してくれました」

「妖狼族の巫女?嗚呼、ユエさんの事ね。彼女の身に危険が迫る?リーンハルト様の庇護下に置かれ、人間より何倍も身体能力の高い妖狼族達に守られている巫女なのに?」

 そう。僕の領地に独自の里を作り上げ、一族に守られている。妖狼族の戦闘力は人間の十倍、普通に里に攻め込み彼女を害するならば三千人規模の戦力が必要。

 だがそんな戦力を僕の領地に乗り込ませるとなれば、それは戦争を仕掛けられた事と同じ。移動途中で全力で全滅させる、だから現実的には無理だ。

 そんな人数が動けば直ぐに察知出来るし、その人数を動員出来るのは公爵クラス。侯爵や伯爵なら複数が最大保有全力を投入しないと無理だろう。そして戦争中だから、そんな余剰兵力など無い。

 つまり正攻法じゃない。成功率は無視して簡単なのは暗殺、少数精鋭による襲撃。政治的圧力なら跳ね返せる、後は他国を巻き込むとか?バーリンゲン王国もウルム王国も無理、あと他は何だ?

「排斥、そう言いました。つまり人外の種族たる妖狼族の排斥、人間至上主義者達が行動を起こそうとしていると考えられます。僕は彼等を優遇し、バーリンゲン王国の平定絡みで彼等に手柄を立てさせた。

人間至上主義者達にとって腸が煮えくり返る位の暴挙でしょう。彼等は今後も僕の配下として優遇されるのですから、排斥したい思考も理解はします。納得はしないし認めない、僕も敵対者は排斥するから……お相子かな?」

 その言葉に微妙に反応したのは、リゼルだった。つまり王宮内の連中の思考を読んだ時に、人間至上主義者が居たんだな。視線を送れば、小さく頷いたが今は話題にしたくないみたいだ。

 つまりその該当者は、エムデン王国内でも無視出来ない爵位か役職か影響力の有る人物。そしてザスキア公爵やレジスラル女官長には未だ知られたくない。そうなると、女官か侍女か?

 リゼルの判断に任せるか。僕なんかより深く考えているだろうし、未だ僅かだが時間も有る。調べて証拠を掴み、敵対するなら対処する。人間至上主義者だからと言って、何もしてない相手の排除は無理だ。

「ユエ殿の件は、僕の方で対処します。手に負えない場合は相談させて下さい。それで、ロジスト様の方だけれど……」

 不自然にならない程度に話題を逸らす。僕の配下で僕の領地の中での事だから、先ずは上司で領主の僕が対応するのが筋だ。頼るのは本当に困った時に、対価を用意してだな。

 多分だが暗殺だろう。暗殺者の直接攻撃か、毒を用いた毒殺か。手段は限られるから対処は出来る、だが守りだけでは解決しない。そして妖狼族の守護女神ルナの神託を期待しよう。

 幾つかの未来予測を行い最良の道筋をユエ殿に伝える筈だが、困った事は僕の事を配慮してくれないか妖狼族優先で二の次なんだよな。その辺を良く相談しないと危険なんだよ。

 




今年一年の感謝を込めて12/30(月)から翌1/3(金)迄の五日間、連続投稿させて頂きます。有難う御座いました。

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