古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第771話

 ジュラル城塞都市の攻略を条件付きで先鋒一騎駆けを行った。バーナム伯爵の派閥で俺だけが多対一の戦いをしてない悔しさからだ。第二陣の聖騎士団の団長が、敵に一人で突っ込むとか普通なら有り得ない愚行だ。

 だが数回の前例が有り、アウレール王も論功行賞で認めた。故に条件さえ揃えば実行は可能。その条件に合った強さが大前提だが、その強さを持つ者はエムデン王国でも片手で足りる。

 まぁその内の一人が複数の城塞都市を単独ないし少数で攻略し平地での合戦では、ザボン殿下率いる三千人の正規兵を討ち破る快挙(頭が狂ってる)を成し遂げた。

 俺もそれに続きたい。武人としては本懐だが、指揮官としては失格だがな。まぁジュラル城塞都市の住民達の安全を考えれば仕方無い範疇だな、うん。強引に突入しなければ、平民達の危機だった。

 実際に単騎突撃してみれば、強大な個体を集団で攻撃する見事な布陣を敷いた、ザンビア将軍を賞賛する。マジックアイテムで強化する前の俺だったら、正直少しヤバかった。

 城門に近付く前に、何らかのダメージを食らっていただろう。そして奴等は城塞内部に籠もり防衛戦をせずに、堂々と城門を開けて突撃陣形で俺を迎え撃つつもりなのだろう。

「俺はウルム王国の将軍ザンビアだ!貴殿はエムデン王国聖騎士団、ライル団長だな?指揮官が単騎で敵陣に突っ込むとは愚かなり!だが俺達も意地を通す為に籠城せず討って出た馬鹿だ!ウルム王国の武人の心意気、受けてみるがよい!」

 見事な口上を述べて、槍を構えた。ザンビア将軍か、面白い男だな。俺を愚かと罵りながら、自分は馬鹿だと言いやがった。お互い戦馬鹿って事か、気が合うじゃねぇか!

「俺はエムデン王国所属、ウルム王国攻略の第二陣を率いる聖騎士団団長のライルだ!貴殿の言葉は誠に以て正論、反論する意志など無い。愚かな戦馬鹿の愚行と笑ってくれて構わない。俺は俺の意地の為に、貴殿等に単身挑む大馬鹿者だ!」

 リーンハルトが錬金してくれた、ひたすら丈夫で自動修復機能だけ有る槍を構える。戦争で戦うに必要な機能のみを与えられた槍。見た目は地味だが手に良く馴染む。

 ザンビア将軍は俺の口上を気に入ってくれたみたいだ。ひとしきり大笑いした後で、真面目な顔をした。此処からは言葉は要らない、行動で示すだけだ。

 相手は完全武装の歩兵が約五百人、ザンビア将軍自らが先頭に立っている。いきなり頂上決戦か?それとも最初は配下の連中からか?

 此処まで来たのならば、相手の流儀に合わせるのが武人としての誠意だろう。数が多いと面倒だからと、ザンビア将軍に襲い掛かるのは避けたい。

 どうやら動き出したのは配下の連中だが、最初は奴等からか?いや、そう簡単じゃないな。槍兵が前列に集まっている、先ずは槍衾で面攻撃か。

「行くぞ。我等の心意気、生き様をその目に焼き付けろ。突撃!」

「受けて立つぞ。掛かって来い」

 先鋒は槍を低く構えた連中が横並びに二十人、それが四列……いや五列か。上手く身体で後列の連中を隠している。途中から後列の連中が左右に分かれた。

 これは、リーンハルトの円殺陣と同じ包囲網だ。確かに多対一では有効な包囲陣だが、俺はこの包囲網には戦い慣れているんだぜ。厄介なゴーレムを相手にな。

 全員で包囲網の円を縮めながら槍を突き出してくる。合計二十本の槍の穂先を槍とロングソードを使い叩き切る。手数を増やす為の両刀使い、慣れれば有効だ。それと長物は突き出した時に横に払われると体勢が崩れ易い。

 隣の奴とぶつかったり槍が絡んで二撃目が遅れたりと、俺の馬鹿力に驚いたみたいだな。そんな体勢を崩した連中を槍とロングソードで一突きにする。

 首を狙うのが確実だ。本来は全周囲から槍を突き出されれば、槍に身体が邪魔されて身動きが取れなくなる。俺はソレを嫌い右手に持つ槍を横殴りにして動ける空間を作った。

 百人が連携しながら全周囲から攻撃をするが、未だ甘い。リーンハルトの円殺陣は前列を足場に後列が飛び掛かってくるし、後列は相討ち上等で弓を射って来るんだぜ。前後左右と上からの五方面攻撃に慣らされたから比べたら温いぞ。

「オラオラオラオラァ!そんな槍じゃ俺は貫けないぜ。大技を食らえ、秘技五月雨!」

 空間制圧用の大技、複数の斬撃を飛ばし体勢の崩れた槍兵を一掃する……いや左手だけで振るったから、半数以上は防がれたか。気付かなかったが、包囲網の背後に隠れていたんだな。

「大盾兵か。一回だけとは言え、俺の五月雨を防ぎ切るとは驚いたぞ」

 両手持ちのタワーシールドを構えた連中が前に出て来て、五月雨を防ぎやがった。だがタワーシールドはボロボロ、二回目は防げない。

 最初が槍兵、次が大盾兵、そして三番目は投網かよ。動きを封じるのは有効だが、そんなモノに絡め捕られるか!四方八方から網が投げられる。

 投網に合わせて短槍まで投げて来やがった。まぁ多対一の戦いに飽和攻撃は有効だ、攻め続ければ何時かは防ぎ切れずにダメージを受けてしまう。

 包囲網を食い破れば、関係無いけどなぁ!

「チマチマした攻撃は飽きた。大将戦と洒落込もうぜ!」

 兵士達の隙間から見えた、ザンビア将軍に視線を送る。絡み合う時に僅かな怯えを感じた。まぁ普通の感情だろう、俺の事を異常な怪物位に思ったな。

 当然だ。俺は俺達は人外の化け物、人の範疇など既に越えている。そんな人外の化け物が三人掛かりで倒せない呆れた奴もいるんだぜ。義息子だけどな。

 世界は広い、探せば未だ居るんじゃないか?楽しいなぁ、どんな人外の化け物が居るのか考えただけでワクワクが止まらないぜ!ロングソードをキツく握る、弱い奴等の相手は終わりだ。

「これ以上は抑えられぬか、この化け物めっ!」

「時間稼ぎは無駄だぜ。準備体操位にはなったがな。無駄に兵を殺すなよ」

 数歩の助走でも包囲網を飛び越えられる。必死な奴等の包囲陣に付き合ってやりたいが、無駄に死傷者を出さずに大将を倒して終わりにする方が良いだろう。なぶり殺しは趣味じゃない。

 コイツ等は死兵、集団で行動し仲間が死んでも怖れずに立ち向かって来る。だが大将が倒されれば動揺する、目的が薄れて無駄死にになるからだ。

 ザンビア将軍の為に、決死隊として俺に挑んだ筈だ。だが奴を倒せば、殉じる奴と諦める奴に分かれる。だから派手に倒して敵討ちを挑む手強い兵は殺しておきたい。

 だがその他は少しでも生き延びて欲しい、投降を呼び掛けるが……果たしてどうだろうか?まぁ今は戦いだ!ザンビア将軍に対して槍を手放し、ロングソードを両手持ちにして振り下ろす。

「食らえ!」

「うわっ?マトモに受けられるかっ!」

 技でも何でもない、ただ力一杯振り下ろしただけの一撃を横に転がるようにして避けたか。正解、真後ろに跳べば斬撃で真っ二つだったぞ。

 叩き付けた場所を中心に衝撃波が広がる。一寸した隕石が落ちたみたいに陥没する。土砂が舞い視界が悪くなる、調子に乗り過ぎたか?

 気配が二つ、左右からだ。土砂を煙幕に奇襲とは手段を選んではいられないってか?全てを承知で単騎で突っ込んだ、俺は文句を言えないがな。

 すまぬ、これで終わりにする。

「回転連斬!」

 ただ己を回転させながらロングソードを水平に振るだけの単純な技。だが連続して高速回転をする事で、自身の周囲を切り裂く事が出来る。まぁ五秒も回ってたら目も回るがな。

 最初に飛び込んで来たのは、ザンビア将軍の側に控えていた副官か?真っ直ぐ槍を突き出して来たが、刃に毒を塗っていやがるな。テラテラと黄色く光っている。

 先に穂先を切断し二回転目で首を刎ねる。驚愕の表情なのは瞬きする間も無く、穂先と首が切られたからか?僅かの差で、ザンビア将軍が盾を構えて飛び込んで来た。

 一撃目を盾で防ぎロングソードで突き刺すつもりだな。分厚いタワーシールドだが力負けすれば防げないぜ。思いっ切りタワーシールドの縁をロングソードの腹の部分で叩く。

 そのまま構えた盾を強引に吹き飛ばす。一瞬目が合った気がしたが、二回転目で無防備な首を刎ねる。ザンビア将軍か、苦戦はしなかったが別の意味で手強かったぞ。二撃で倒してしまったが、手間を惜しんだ訳じゃないぜ。

「ザンビア将軍、討ち取ったり!このまま俺に殺されるか降伏して生き延びるか選ばせてやる」

 ザンビア将軍の首を掲げて周囲を見回す。悔しそうに武器を握る手が震えているが、勝てない相手に無謀にも飛び掛かる奴は居ないみたいだな。残念だが敵討ちは無しか?

 或いは自分が負けたら投降するように言い含められていたのか?その憎しみが籠もった目には力が有るが、持っていた武器を手放し膝を付いた。やはり言い含められていたのか……

 ガシャガシャと周囲から、その少し後に矢倉や城壁の上からも同じ音が鳴り響く。つまりジュラル城塞都市が降伏した訳だ、俺一人で攻略した訳だな!俺もバーナム伯爵達に負けない戦果をあげた訳だ。

「我等は降伏する。一般の民には慈悲を頼む、彼等は悪くない。罪は我等、軍属が償う」

 一番近い奴が降伏を宣言し頭を下げた。決死隊として最前線に居たのだから、それなりの役職なのだろう。誰でも良い、その言葉さえ聞ければな。

 これで既成事実は出来た。奴等は降伏すると公言し、俺はそれを受け入れる。建て前は必要で、一旦降伏したならば反抗する奴等は問答無用で害せる。

 平民達にも反抗する奴等は降伏宣言を反古にして、自分達を危機に陥れようとしているんだと言える。有る程度は反乱する奴等に対する協力も抑えられる。

 地下に潜りゲリラ戦を仕掛ける奴等の最大の協力者を抑える建て前だが、そもそも俺達は占領政策は融和路線だから受け入れられ易い筈だぞ。モア教絡みだ、無理強いなどするかっ!

「降伏を受け入れる。武装を解除し大人しく此方の指示に従え」

 黙って全員が頭を下げた。悔し涙を流す奴も居るのは、ザンビア将軍が慕われていたのが分かる。男気の有る良い奴だった、同盟国なら友になり得た男だが戦争で敵味方に分かれた。

 後は後方に控える味方を呼び寄せれば終わり、第二陣がジュラル城塞都市を攻略した。結果を早く、アウレール王に伝えなければな。これでウルム王国の王都迄の攻略ルートを確保した。

 だが我等だけでは王都攻略は難しい、第三陣と合流し協力するしかない。つまり陣替えも有り得る。バーナム伯爵達遊撃部隊と合流し、指示が出る迄は待機だな。周辺の街や村にも結果を伝え傘下に加える迄はしよう。

 先ずはジュラル城塞都市と周辺を完全に掌握する。占領政策は苦手だがやるしかない。幸いだが、モア教の協力を仰げば問題は無いだろう。既に同行している僧侶達が動き始めたな。

 部下が手放した槍を拾って渡してくれた。百人以上の攻撃をいなしても傷一つ付いていない。鈍い光を放っている、ロングソードも同じく傷一つない。手荒に扱っても勝手に直るんだよな。

 一振りして刃に付いた血を吹き飛ばす。替えの武器を用意しなくて済むのは助かるのだが、副団長達も欲しがって困るんだ。リーンハルトは自作の錬金した武器は少数にしか渡さない。

「む?我等が救世主様の為に!とかは聞かなかった事にする。義息子の胃に穴が開かなければ良いのだが……狂信者とか嫌だぞ。その辺は、ザスキアの女狐に報告しておくか。我等はお前の指示通りに、リーンハルトに畏怖が固まらない様に活躍したのだから……」

 この後、ザンビア将軍と軍師が仕掛けた悪辣な罠(宝探し騒動)に苦労させられた。最後まで俺達に嫌がらせをするとは、大した男達だったぞ。何だよ、街中で宝探しイベントとか聞いた事が無い。

 金に目が眩む奴等が意外に少なかったのが救いだったがな。金貨を見付けるも供出してくる連中が多いので、半分は発見した者に渡した。普通はネコババだろ、宝探しは探し当てた者に所有権が有るのが普通だ。遺跡探索とかと同条件だな。

 だが全部没収などをしては善意の平民達を虐げる事でしかないのだが、返した半分を殆どの者達がモア教へと寄付している。聖戦、救世主、崇められた義息子だが本当に大丈夫だろうか?

 大分沈静化したみたいだが、未だに奴は救世主扱い。モア教関係者まで同じ様に扱う。モア教の教皇にとって、自分以外に信仰を捧げられる相手を放置出来るのか?

 余り考えてはいなかったが、確かに前例の無い異常事態ではある。俺も奴とは親戚関係になるのだから、理解出来ないから放置は駄目だ。先ずはバーナム伯爵達と情報を共有し、全員でザスキアの女狐に相談だな。

 アレは全く信用も油断も出来ないが、リーンハルトに対する思いは本物だ。怖い位に本物なのだが、奴はアレを姉と慕っている。恋愛感情など無いのだが、俺は性的に狙われていると今は感じている。

 現役公爵家当主と侯爵待遇の次期宮廷魔術師筆頭、今回の件でも巨大な戦果を挙げた。もしかしなくても特例で侯爵になれば、立場は釣り合うが……

 王位継承権とかどうなんだ?準王家の血筋の妻を娶るとか、生まれた子供はどういう扱いになる?側室の親族として王位争いに協力とか嫌だぞ。下手をすれば国が割れる。

「まぁリーンハルトがエムデン王国に不利益などしないが、ザスキアの女狐は分からないのが不安なんだよ」

 


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