古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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何時も誤字脱字報告有難う御座います。本当に助かります。


第772話

 ジュラル城塞都市を攻略し、周辺の街や村も支配下に置いた。ウルム王国の王都攻略の道筋は開けたので、最前線拠点をハイゼルン砦からジュラル城塞都市に移した。

 第二陣と第三陣、それと遊撃部隊の連中も合流。王都攻略の為の指示を与える為に各陣営の責任者達を召集、兵士達は全員がジュラル城塞都市には入れないが周囲に野営させた。

 英気を養う為の休暇を与え、交代で城塞都市内への立ち入りを許可した。酒場に行くなり飯をたらふく食うなり買い物をするなり好きにさせる。勿論だが、モラルは徹底させる。

 知らぬ間に娼婦ギルドが娼館への増員と周辺の野営地の近くに臨時の天幕を設営し兵士相手に商売を始めている。必要悪故に黙認し、治安維持の為の巡回増員を指示させた。

 酒と女は戦場での精神安定剤の要素を持つので、厳格に取り締まる事は悪影響を及ぼす。色事には固い、リーンハルトでさえハイゼルン砦に娼婦を滞在させ運営させていた。

 奴は利用しないのに必要だからと許可を出し衛生管理も徹底させたそうだが、責任者をニーレンス公爵の実子に任せる無茶をした。奴は娼婦を寄せ付けなかったらしい。

 報告書には、両国の娼婦ギルドに所属する娼婦達は諜報員も兼任し情報収集を行っていたから注意が必要であり、自分の情報収集が最も重要視されているから接触を断った。

 そして彼女達も無理強い出来ない、自分が信用する人物に担当を任せた。そう言われれば、ニーレンス公爵も苦笑いするしかないな。まぁ任された本人も利用していたそうだから、そもそも文句は言えないか。

 諜報員だから注意しろ!って言われたのに、色欲に負けて何度も利用したんだぞ。情事の後の睦言で、どんな情報を漏らしたのか分からんが調べる気にもならない。

 防諜対策を施した会議室に召集したメンバーが集まったと報告が有ったので、そろそろ向かうか。遊撃部隊からは、バーナム伯爵にデオドラ男爵。第一陣からは、バニシード公爵。第二陣からは、ライル団長。

 第三陣からは、ニーレンス公爵にローラン公爵。そして宮廷魔術師達は、筆頭のサリアリス。ラミュール、ユリエル、アンドレアル、リッパー、フレイナル。近衛騎士団は警備の為に参加していない、彼等は俺が直接指示するからだ。

 ウェラーは経験を積ませる為に、フローラは引き抜きに応じてくれたので戦後に正式に宮廷魔術師に任命する為の下準備と顔合わせを兼ねてだ。フレイナル、毎回フローラに色目を使うな。お前じゃ病んだ彼女は御せないぞ。

「待たせたな。では、ウルム王国王都攻略の作戦会議を始めるぞ」

 全員が直立し右腕を胸に当てる。今回は軍事行動だ、公爵も軍属も関係無い。既に万全の体制、この作戦会議後に粛々と行動を開始する。後は手順さえ間違わねば俺の勝ちだ。

「ローラン、状況を説明しろ」

「はっ!では現在の保有戦力の確認から報告します。第一陣ですが歩兵七百人、遊撃部隊が歩兵三百人。第二陣ですが聖騎士団三百人、歩兵二千人。第三陣ですが、騎兵二百騎に歩兵三千人。王家直轄部隊、歩兵四千人。

合計騎士団三百人、騎兵二百騎、歩兵一万人。補給及び輜重部隊、周辺の治安維持部隊は抜いています。宮廷魔術師はサリアリス殿以下四名、宮廷魔術師団員二百名です」

 参加者で最上位公爵の中で武門である、ローランに司会進行を任せる。内政のニーレンスでは難しいだろう。戦力としては十分だ、ウルム王国の王都に籠もる戦力は四千人以下。

 宮廷魔術師及び宮廷魔術師団員の殆どが詰めているのは、火力の高い戦力を自分の護衛として周辺に置きたかったのだろう。臆病者の、バンチェッタ王らしい判断だな。

 周辺の有力貴族は既に懐柔済みで抱き込んでいる。故に籠城し待っていても増援は来ない、領地で待機し負けたら速やかに臣従する手筈となっている。そのまま配下に加えるが、領地替えはする。

「うむ、充実した戦力だな。さて攻略部隊の割り振りだが、そうだな……第一陣と第二陣は北側、第三陣は南側、此処が正門で激戦地となるだろう。王家直轄部隊は東と西側に別れる、本陣の警備は近衛騎士団と遊撃部隊だ」

 四方に戦力を分けた。戦力の分散は愚策だが、王都籠城部隊が大挙して逃げる事は有り得ない。仮に逃げても一時的に抑える戦力を貼り付けた。直ぐに増援が左右から挟み込む、無駄な足掻きだな。

 臆病者の、バンチェッタ王ならば再起を図るとかの理由で逃げ出すかも知れぬ。だが周辺は制圧済みで、本来頼れる筈の諸侯は既に引き抜きに応じている。残念ながら味方は居ない。

 ウルム王国の王家の血筋は絶やす必要が有り、俺には情けを掛ける程の善性は無い。必要だから血を絶やす。モア教対策で女子供は即処刑はせずに幽閉し、時を見計らい事故死か病死だな。

 王位継承権の低い適齢期の女は婚姻外交用に残すが、思考調査は入念にしないとな。旦那を唆して悪さをするのは良く有る事だから、才女は使えない。フレイナルなど操り易いから怖くて嫁がせられない。

 奴には引き抜きに応じた高位貴族の娘達から選ぶしかないな。それも良く言い聞かせた相手を選ぶが、年齢や既婚歴は無理だが容姿は選定基準を設けてやる。奴の性格からして醜女を与えたら放置する。

 政略結婚の相手を疎かにする事はだな、相手の実家も疎かにする事と同義。懐柔相手を粗略にして関係悪化とか笑えない。自分勝手に女達に優劣を付ける事も、お前がモテない理由だぞ。

 リーンハルトも女達には一線を引いた距離で付き合いをしているが、嫌みにならない程度で拒絶はしない。有る意味で興味の薄い連中は平等な扱いをしているが、要所での扱いが上手いので人気が有る。

「アウレール王、それでは第三陣が激戦区です。第二陣は直近にて、ジュラル城塞都市攻略もしていますし、兵達の疲労も蓄積しています。ですが、国家の象徴たる騎士団が後方では示しがつきません」

 ライルの意見は従来では常識だ。国家の力の象徴たる騎士団の突撃は大規模破壊魔法を抜かせば、最高の攻撃力を誇る。いや誇っていたが、今は例外が出来てしまった。お前達の事だぞ。近衛騎士団は本陣に詰めるが、戦局を見て投入する予備戦力でもある。

「ふむ、ライルの意見も一理有るか……」

 ニーレンスとローランが、ライルに鋭い視線を送るが本人は我関せずか。ジュラル城塞都市の攻略はライルが一人で突っ込んで勝ったからな。兵達の疲労は、その後の宝探しの乱痴気騒ぎを鎮めたからだ。

 手柄を得る機会が第三陣には少なかったので王都攻略を任せたいのだが、戦力的には不足か?確かに騎士団は国家の力の象徴、軽んじられたと感じたならば修正は必要だ。

 意見を変える事になるが、こう言う事を甘く見ると足元を掬われるんだ。だが第三陣の二人の不満は解消するしかない。ニーレンスもローランも渋い顔をしているが反対する気持ちは無さそうだ。

 フレイナルに城門を破壊させ、聖騎士団が先頭切って突撃する。城門を抑えたら主力を第三陣に切り替え、内部の攻略をさせるか。王城の攻略も第三陣に任せ、宮廷魔術師達も第三陣に協力させるか……

「ふむ、確かに国家の威信を見せ付ける為にも聖騎士団も突撃陣に参加させるか。では聖騎士団は南側の攻略に参加、当初の予定通りにフレイナルが城門を破壊したら先陣で突入し城門を確保。

第三陣は確保された城門から突入、王城まで突き進め。但し王城の攻略は第三陣と宮廷魔術師達で行う。王城に辿り着いたら残り三方の連中も突入し、王都内部の掌握と治安維持に務めろ!」

 この言葉に最初に反応したのは驚いた声をあげた、フレイナルだ。お前、前から言っている事なのに何故驚く?直ぐに隣に座るウェラーが肘鉄を食らわせて再度呻いた。コイツ、本当に任せて大丈夫か?

 火属性魔術師達の名誉と立場の回復の為に、若手火属性魔術師を活躍させる事の大切さを感じていないのか?お前の『約束された活躍』は必要なのだぞ。前にも説明した筈だぞ。

 父親である、アンドレアルは額に手を当てて仰け反っているが親としての教育がなってないぞ。力は有るのに覚悟が無い、甘やかされて増長した火属性魔術師達の改善は確かに必要だった。

 マグネグロを理由を付けて殺して迄、火属性魔術師達……いや宮廷魔術師団員達の改善を急いだ、リーンハルトの行動は賞賛されるべきだったな。当時は其処まで考えなかったが、ウルム王国と開戦して漸く分かった。

 リーンハルトは戦争の意味を誰よりも深く理解している。本人だけでなく周囲の事も含めてだが、一連の行動の全てに意味が有る。自身の力を付ける為のドラゴン討伐も、セラスのお遊びの王立錬金術研究所も何もかもだ。

 戦後の論功行賞は色を付けてやるか。占領地の回復も、旧クリストハルト侯爵領の大規模潅漑工事で行動力を発揮し周囲に知らしめている。殆ど人件費のみで素早く行える、このメリットはデカい。

 そう言えば土属性魔術師を集めて祖父の領地で潅漑工事の習熟をさせているらしいし、何時の段階で何処まで先を読んだんだ?アイツ、本当に未成年か?ネクタルで年齢詐称してないか?

「フレイナルは落ち着け。前から話しているが、お前には王都城門の破壊を任せる。その為のマジックアイテムも、リーンハルトから貰っているだろう。火属性魔術師達の名誉と立場の回復の為に、お前は大仕事をこなさなければならない。分かるな?」

「はっはい!大役、見事達成してみせます!」

 立ち上がり声を張り上げて返事をしたが、そのにやけた表情は成功した後の事を妄想してるのだろう。これで自分もモテモテとか、それは叶わぬ夢幻(ゆめまぼろし)だぞ。

 同じ時にだな、それ以上に評価される上司が全てを攫っていくだろう。お前には俺が本妻と側室数人を選んで色々言い聞かせた後でやる、モテモテだぞ。利権や諸々の思惑が渦巻く怖い女達だがな。

 旧ウルム王国の残滓が残る女達だが、自己保身や実家の存続の為に尽くしてくれるだろう。良かったな、本妻は未婚の適齢期の美人を選んでやるが、側室は国家の思惑重視だが疎かにするなよ。

 うむ、見回しても不満顔の奴は居ないな。これで王都攻略の道筋は出来た、後は手順さえ間違えなければ問題は無い。この聖戦という過去の因果の清算戦争も漸く終わる。

 後は戦後の復興だが、それもリーンハルトを中心に据えれば問題無いだろう。物凄く使い勝手が良い奴で恐ろしくなるが、絶対に裏切らない事が分かっているから安心だ。

 二年以内に旧ウルム王国領を安定させねば、周辺諸国が良からぬ動きをするだろう。理想的な勝利だが、国内の上級貴族の大量処分が問題だ。派閥を含めて一波乱有る、全くもって厄介だ。

 バセット公爵にグンター侯爵にカルステン侯爵め、馬鹿をやりおって!この尻拭いは一族と派閥構成貴族に償って貰うからな。

◇◇◇◇◇◇

 御前会議が終わり、何となく私と御父様とアンドレアル様とフレイナル兄様とで、フレイナル兄様に割り当てられた部屋に向かう。

 私は御父様と同じ部屋ですが、アンドレアル様とフレイナル兄様は各々個室を貰っている。腐っても宮廷魔術師、特別待遇だわ。

 フローラさんの病みが深くて怖い、病みと言うより闇?あの澱んだ目を見ながら毎回色目を使える、フレイナル兄様って有る意味勇者かしら?

 あの底冷えする目の持ち主の事を少しでも忘れる為に御父様の腕に抱き付く。御父様は訳は分からないが嬉しそうに笑ってくれた。

 彼女は戦後に正式にエムデン王国の宮廷魔術師に任命される。つまりフレイナル兄様の同僚で、私の先輩になる。対魔術師特化魔術師、バーリンゲン王国では同僚の宮廷魔術師を何人も倒した。

 そして深い闇を抱えたと教えて貰ったので、正直同情する気持ちも有るけど……やはり怖い、戦えば負けない自負は有るけど怖い。

 リーンハルト兄様は模擬戦で彼女に二回も勝ったらしい、流石は私の目指す目標!サリアリス様とリーンハルト兄様に学べる事を本当に嬉しく思うわ。

「フレイナル兄様、国王の前で恥ずかしい行動は止めて下さい。フローラさんに色目を使ったり、妄想で鼻の穴をヒクヒクさせて性的興奮とか気持ち悪いです」

 本当に最低、国王の御前で発情するとか信じられない。アンドレアル様の苦虫を纏めて噛み潰した顔を知ってる?公爵様方の呆れた視線を知ってる?

 コレを兄様と呼ぶ、私の評価もだだ下がりよ。本当に勘弁して欲しいわ、恥ずかしいったらありゃしないの。妹分に恥を掻かせないで下さいませ!

「そうだな。我が息子ながら、どうかと思うぞ。リーンハルト卿の半分でも落ち着きが有れば良いのだが、お前は感情が素直過ぎる。魑魅魍魎溢れる王宮内で過ごすには不安しかない」

「ハイゼルン砦に配属されたのは、アウレール王の配慮かも知れないな。お前では、王宮内での行動に不安が有る。暫くは勉強しないと、致命的な恥を掻くぞ」

「俺だって緊張してたんだから、少しは大目に見てくれ。あとフローラさん可愛いな。控え目で優しそうだし、良い奥さんになるんじゃないかな?」

 

「おい、お前それは……」

 アンドレアル様がフレイナル兄様の妄言に頭を叩いたわ。あの病んだ目をした狂女が控え目で優しいですって?フレイナル兄様は絶対に女に騙されるわ。

 アウレール王が厳選した本妻と側室を用意するのって、女性にだらしなくて不用心な阿呆兄様を教育を施した女性達で囲う為だわ。間違い無い、女性関係で国王に心配されるなんて……

 リーンハルト兄様も他国からの厳選された美姫(ハニートラップ)の猛烈な婚姻外交攻勢を断って貰う為に苦労を掛けてるって聞いたけど、真逆の苦労ね。

 確かに万倍も、リーンハルト兄様の方が良いもの。私だって女だから、どちらが良いかって言えばリーンハルト兄様よ!悪いけど妥協するにしても問題が多いのよ。

 改心した後は傲慢さは消えたし根は善人なのだけれど、色事にだらしない殿方の評価なんて下の下なのよ。戦後は本妻と側室を迎えるのに大丈夫かしら?

「リーンハルト卿から貰った『魔法障壁の護符』で防御を固め、サンアローで城門を破壊する。お膳立ては整っている、お前は城門を破壊したら待機だぞ。

後は狂戦士達が突っ込んで終わり、王都攻略と言っても手順を間違えねば勝てるのだ。くれぐれも余計な事はせずに言われた通りにしろ!」

「大丈夫だって。未来の嫁達の為にも、確実に仕事をこなすから大丈夫だって。ふふふ、どんな娘達かな?巨乳が良いんだよな……」

 駄目だわ。最悪は私が同じく貰った『魔法障壁の護符』を使い城門に接近し、黒縄の先端に魔法刃を纏わせて切り刻むしかないわ。

 この王都攻略がウルム王国との戦争の最後の大規模な戦いとなる。この大一番に失敗など有り得ない、エムデン王国の威信に関わる大問題なの。

 馬鹿兄様が失敗すれば、アンドレアル様や御父様にも被害が及ぶわ。エムデン王国宮廷魔術師として、失敗は許されないの。

 勿論だけど、フレイナル兄様の一世一代の最後の活躍を奪う事はしたくないわ。でも浮かれて失敗するならば、私が代わりに……


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