古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第774話

 ダーダナス殿の屋敷で定期的に催される御茶会に招かれた。実際は僕が月末に自称『本妻様の下部組織』なる構成員達と、定期的な会合を開く為の方便だ。

 だが今回の新人参加者である、ウルティマ嬢は非常に興味が有る。古き良き伝統の髪型、縦ロールの持ち主にして僕を鼻で笑う胆力。傑物揃いの才女達の中でも異質な感じがする。

 そんな彼女は、アヒム侯爵家とモンテローザ嬢の近状について何かを掴んだみたいなんだ。わざわざ御茶会の話題にするだけのネタを掴んだ。それは、ザスキア公爵達の暗躍も関係している筈だ。

 だから僕が裏工作を知らずに興味が有りますと装った事に対して鼻で笑った。白々しいですね?オホホホホッ、私はネタを掴んでいますのよ。位な感じがした。

 思わず楽しくなり、良くない感じの笑みを浮かべてしまいドン引きされた。自覚は有りますが、結構気にしているんです!品行方正で慈悲深く優しい、そんな偽りの仮面に騙されていたんだな。

 僕は自分と大切な人達との幸せな生活の為ならば、建て前を用意して何でも実行する自分勝手で我が儘で強欲な男なんです。まぁ詐欺みたいなモノですが、偽善も行ってますから相殺って事です。

 微妙な空気になってしまったが、咳払い一つで誤魔化す。この際、僕の黒い笑みなど関係無いんです。そのアヒム侯爵家とモンテローザ嬢の事を貴女が思っている事を教えて下さい。

「それで?侯爵七家筆頭殿と秘蔵っ子殿の動向に、何か不審な点でも有りましたか?」

 僕を自分のギフト『感情増幅』を使い陥れようとして上位互換の能力である『神の御言葉』を持つ、モリエスティ侯爵夫人の逆鱗に触れた愚か者の末路は……

 無能な一族を率いて、エムデン王国に反旗を翻す事。ハーフエルフである事が身の破滅に繋がるので、最大限の努力で隠していたのにだ。そんな彼女を洗脳し僕にけしかけようとした。

 元々彼女をエムデン王国の未来には不要と判断し、ザスキア公爵達が排除しようとしていたのに、モリエスティ侯爵夫人までも参戦した。もう大惨事じゃ済まないだろう、栄光有る侯爵七家筆頭の没落か……

「ふふふ。自分に味方してくれる淑女達を探して奔走していますが、既に怖い怖い御姉様が通達済みなので誰も引き込めません。故に次善の策として他の男性貴族を当たり、最後に親族や派閥構成貴族の殿方達にまで手を伸ばしていますわ。愚かではしたない事……」

 吐き捨てるように言った。ウルティマ嬢はモンテローザ嬢の事が本当に大嫌いなのが分かる。感情に侮蔑も籠もっているし、同じ才女として過去に何かしら因縁有りか?

 嫌な気持ちを振り払うように首を振ると、両側の縦ロールがフルフルと揺れる。この髪型は似合う者が限られる、懐かしさがこみ上げてきて自然と口元が緩くなってしまう。

 因みにだが、マリエッタがしようとして頑張って止めた。彼女には似合わないし、何より貴族令嬢達の中で流行った髪型だったし。僕も嫌いではなかったが、日々の管理と維持が大変そうなのは理解している。

 ん?ウルティマ嬢が僕をガン見しているが、そんなに自然に笑った事が不思議か?僕は苦笑か黒い笑みしか浮かべないとか思ってないか?それは大変失礼だぞ。

 年相応は無理でも、それなりに笑う事は有る。まぁ家族か親しき者達限定だから、珍しいのは認める。やはり信用の薄い連中の前だと警戒するから中々ね……

「そうだね。僕は彼女をエムデン王国には不要と判断し、協力者達も賛同した。アヒム侯爵とモンテローザ嬢が頼れるのは、親族と派閥構成貴族だけだ。だが聖戦に参戦中の連中が多い、居残り組に引き込む価値の有る者が居るかな?」

 怖い怖い御姉様、ザスキア公爵の事だろう。彼女が紡ぐ『新しい世界』の賛同者(信者)達に通達済みだから王都に住まう淑女達の中に、モンテローザ嬢に好意的な者など居ない。

 だが仮面を貼り付け本性を悟られない者も居る。彼女達にギフトを使えば、嫌悪感が増大し殺意に変わる。モンテローザ嬢は、その見せ掛けの仮面を察知するだけの能力が有った。

 淑女達は無理、ならば次は男性貴族をターゲットにした。だが居残り組みに謀反に荷担する程の剛の者が居るか?居ないだろう、彼等は家の存続の為の予備と保険。故に用心深く消極的だ。

 モンテローザ嬢の甘言になど乗らない。はしたないと言われても、多数の男性貴族に会ったのに結果は散々だ。最後に頼るのは同じ境遇の親族と派閥構成貴族達だけ、つまり予想の範囲内だな。

「モンテローザさんが頼ったのはクロイツエンの街の領主である、カルマック伯爵よ。悪徳の街の強欲領主を何とか取り込んだみたいなの。父親も巻き込んで色々と悪巧みの最中、馬鹿みたいに戦力を集めているのだけれども……」

 言葉を濁した。この時期に戦力を集めれば直ぐにバレて僕に報告が来る。つまり彼女の持つ情報網は優秀らしいな、ザスキア公爵の手の者より早く掴んだのか?

 いや、ザスキア公爵も掴んでいるだろう。彼女の場合は確証を得る事と、対策の報告迄がセットだから直ぐにも相談という報告が来る筈だな。だが、モンテローザ嬢の対策は彼女達に任せたんだ。

 直接的な武力行使なら一番効率が良く早くて安価な僕に頼むのは、任されたプライドと責任感の関係で対策を講じている時間の差が出たのかな?

「この時期に兵力を動かすなんて、既に悪巧みから謀反の疑い有りに切り替わってますよ。近日中に僕の元に報告が上がって来て、事実確認から討伐の流れですね。追い込み過ぎての暴発にしてはお粗末だな、何の捻りも工夫もない。才媛と言われても切羽詰まれば、こんなモノなのか?」

 いや予想通りだよ。エムデン王国に害を成す連中を巻き込んで謀反しろって命令を忠実に守っている。だが他人から見れば行動がザル過ぎるので、一応疑った振りをする。

 僕の疑いの振りを真に受けたのか納得するように何度か頷いたのは、此処までは想定通りで此処からが本題の掴んだネタだな。今迄の話は才有る者なら情報さえ有れば予測出来る程度、彼女の自信の根拠にはならない。

 しかし、ターニャ夫人もクラリス嬢達も黙って聞いているだけなのだが……気になるのが僕が嘘を言ったり惚けたりする時に微妙に反応する、レイニース嬢の態度だ。彼女と視線を合わせたら、慌てて逸らした。

 あの態度は恥ずかしいとか照れ臭いとかじゃなく、気まずいか心苦しいとかだな。ふむ、つまり彼女は僕の嘘を見抜く何かを持っている。思考を読まれた訳じゃなく、言葉を聞いて正誤が分かるとかか?

「嗚呼、真実の目のギフトかな?レイニース嬢、僕も他人には公開出来ない情報が有るので受け答えに真実を含まない場合が有る。それは理解して欲しい、騙している訳じゃないんだ」

 言葉にしなければ嘘か誠か判断出来ない。珍しいギフトだが対策出来ない程でもない、嘘を言葉にして言わなければ良いだけだ。そして正解だったみたいで、彼女の顔は真っ青から真っ白に忙しく変化した。

 不敬と言えば微妙に不敬だが『真実の目』は使い勝手の良いギフトで、審議官には必須のギフトだよな。まぁ彼等はプロだから、ギフトも騙せる技術の持ち主も多いらしい。

 成る程、毎回彼女が参加していた理由が分かった。僕や紹介する新人達の言動を確認していたのか。別に怒る程でもないが、確保したい人材ではあるな……ザスキア公爵がさ。リゼルと組み合わせれば万全、彼女のギフトの隠れ蓑的な扱いも有りだ。

「すっ、済みません。申し訳有りません。リーンハルト様を疑っている訳じゃないのですが……その、大変失礼な事を致しました」

 何度も深く頭を下げて謝罪してくれたが、僕は怒ってなどいない。あの手この手で色々と仕掛けてくれる、彼女達の手数の多さと人脈の広さを再確認した。

 この状況でも動じず腕を組み皮肉な笑みを浮かべている、ウルティマ嬢もザスキア公爵好みの逸材だな。彼女の持つ諜報力も気になる、実家の手の者か?

 世界は広い。自国だけでも多種多様な人材が居るなんて、僕も領地からの人材発掘に更に力を入れないとな。今後も人手は幾らでも必要になる、だが側室に迎えての補強は嫌なのだが……

「そんなに動揺しなくても大丈夫ですよ。罰するとかしないですから、少しは落ち着いて安心して下さいね」

 貴女は引き抜く。側室じゃなくて、リゼルの補佐として有効だから。彼女の思考を読むギフトの隠れ蓑的な役割で、嘘を見抜くギフト持ちとしてエムデン王国に登録したい。

 リゼルとジゼル嬢の為ではあるが、彼女と実家を納得させるだけの材料を揃えて交渉だな。まぁ僕やザスキア公爵の頼みという圧力には逆らい難いから、見返りと身の安全の保障はするから安心して下さいね。

「リーンハルト様は、レイニースさんが気に入ったみたいですわね?」

「効果の高いギフト持ちを確保したい。そう認識して下さい。それはウルティマ嬢、貴女もですよ。その情報収集能力込みで、是非とも雇いたいですね」

 私との話し合いの最中に、他の女を気に掛けるな!的に責められたが、君にも興味が有り雇いたいと言ったら……物凄く嫌な顔をした。キツ目な感じだからか、相応の圧力を感じる。

 まぁ義父達の戦いたい暴力的な圧力に比べたら微風みたいに爽やかだけれど、レイニース嬢は萎縮してしまった。彼女達の関係性って、どうなんだろうか?

 空気と化した、クラリス嬢達も何か言おうとしているのだが何も思い浮かばないのか?それとも仲間だけどライバルが、側室じゃなく雇用希望だから良しとした?

 淑女の気持ちを理解するのは難しい、もう永遠の謎で良くないかな?僕には理解する事は無理だと思う、魔術の深遠より更に深そうだ……

「私は貴方の側室希望、雇用関係など望んでません。それと一番大事な情報は、モンテローザさんがクロイツエンの街に居ないという事です。彼女は父親に後を任せて姿を隠したのですわ」

 腰に手を当てての指差しポーズ。セラス王女みたいな事をする、妙に似合うけど。改めて、ウルティマ嬢を見る。金髪碧眼、左右対称縦ロール。

 身長は160㎝位、バランスの取れた体型。表情はキツいが美少女なのは間違い無い。年齢は僕よりも少し上か?大人びているので見た目より若いかな。

 彼女からは魔力を感じる。上手く制御され隠蔽されているが、レベル20以上の一人前だな。貴族の中には無職の凄腕魔術師が隠れているんだよ。

 才能が有り高度の教育を受けられる環境が有り、仕事として働かなくて良いから実力が広まり難い。あと貴族という色眼鏡で見られるから、本当の実力が伝わらない。

 残念ながら属性は違う。多分だが火属性と風属性、攻撃的性格は属性によるものか?属性性格判断も割と該当するから馬鹿にならない。でも実戦経験は無さそうだな……

 実戦、人を害する経験を積むと独特の雰囲気を纏う。一線を越えた事による心構えの変化が、身体から滲み出ると思う。割り切れれば強くなり、無理なら病んで終わり。

 国家に仕える戦闘職の者ならば、誰もが経験し超えなければならない最低限で一番辛い事。ウェラー嬢は大丈夫だろうか?

「成る程、つまり次の手を仕込む為に姿を眩ませた。そう考えた訳ですね?だがもうエムデン王国内では彼女に手を貸す相手も匿う相手も居ないでしょう」

 モンテローザ嬢が保身に走り、逃げ隠れる事は絶対にない。ギフトにより謀反を起こせと強制されているからには、新たなる火種の確保に動いたのだろう。

 なまじ有能だから方針を強制的に示されたから暴走したんだ。ザスキア公爵の諜報部隊でも捕らえ切れられないとは予想外だな。

 少し厄介かも知れない。早急に潜伏先を調べて強襲し身柄の確保、いや討伐するしかない。時期的にも不味いし、未だ余裕が有るとか言ってられないぞ。

「バーリンゲン王国との国境線に監視の網を張りました。リーンハルト様を嫌う連中が多数居るのは、ウルム王国とバーリンゲン王国でしょう。でもウルム王国は王都陥落も秒読み、ならば潜伏し蠢くならば操れる愚者の多い国の方でしょう」

 何故に立ち上がり腕を組み身を仰け反らせて上から目線?何故に口元を扇で隠して高笑い?本人的には本日一番の見せ場なのだろう、クラリス嬢達も驚いているし。

 この娘さんは悪役っぽく振る舞うが根っ子は可愛い子だな。自慢気だし褒めて欲しいのがヒシヒシと伝わってくるし。きっと頑張って調べてくれたのだろう。だがモンテローザ嬢も頑張る、謀反の根を他国にまで伸ばしたか。

 バーリンゲン王国、確かに僕の事が大嫌いな連中の宝庫で馬鹿な事を平気でする愚か者の巣窟だ。やっと平定し国内情勢が落ち着いてきたのに、新たな厄介事が芽吹くのか。だが両殿下が目を光らせているから、王都での暗躍は無理。

 ならば必然的に地方で騒動を起こして、エムデン王国の介入を招くのか?だがバーリンゲン王国には、両殿下が滞在しているし護衛の戦力も貼り付けている。

 使者を出し警戒を促すだけで何とでもするだろう。故に地方に行くしかないが、伝手の無い若い令嬢に何が出来る?何も出来ないだろうし、下手をすれば捕まって終わりだ。

 だが一抹の不安が有る。あの腐った馬鹿者共が大量に居る末期の国の最低な連中は、必ず最悪の選択を当然のように実行する。もしかしなくても、モンテローザ嬢の甘言に乗る奴は多い。

 つまり、モンテローザ嬢を御輿として担いでバカ騒ぎする愚か者が必ず居る。つまり今度は反乱軍の討伐に、バーリンゲン王国に行く事になりそうだな。

 


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