古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第778話

 エルフ族の200歳児、バイカルリーズ殿と模擬戦を行い勝った。だが自分の負けを認められないのだろう一方的に卑怯だと罵り、ファティ殿の仲裁も聞かずに精霊魔法で攻撃してきた。

 水の精霊、飛魚と言う青い透明で魚の身体に鳥の羽根を持つ30㎝程の精霊が体当たり攻撃を仕掛けて来た。光の如く素早い攻撃力は、デオドラ男爵級の威力が有る。

 だが自爆攻撃らしく、魔法障壁にぶち当たって地面に落ちる。そして身をくねらして苦しみ悶えている。万物に宿る精霊の扱いじゃない、使い捨ての消耗品じゃないんだ。

「止めろっ!精霊を傷付けてどうする?彼等は、お前の為の消耗品じゃないんだぞ」

 今は魔法障壁を斜めにして当たっても滑らせるようにしているので、飛魚達にダメージは少ないが魔法障壁が保たない。注ぎ込む魔力がガンガン減っていく。

 この状況でも、ファティ殿やレティシア、エルフ族の連中も止めるつもりが無さそうだ。どうしても、バイカルリーズ殿を倒して貰わないと困るってか?

 そういう所だぞ!エルフ族の傲慢と言うか他種族を見下す所はな。何でも言う事を聞くと思うな。ファティ殿なんて謎の自信で僕が勝つとか思って、完全に観戦モードだよ。止めてくれよ、諌めろよ。

「馬鹿を言うな。人間だって支配者階級が自分達の権力争いの為に諍いを起こし、兵士達を死地に向かわせているじゃないか!何が違うんだ、何が違うんだよ」

「一方的な命令じゃない。兵士とは戦う事が仕事で、対価として給料も貰っている。一方的に使役して傷付ける事とは訳が違う」

 いや、違わない。過去の僕はそれを嫌い、ゴーレム軍団と魔導騎士団と言う少数精鋭を率いて戦っていた。今だって同じだが、配下の者達には手厚く報いている。まぁ妖狼族や王宮警備隊とか私兵だけだけど……

 だが敵兵は容赦無く殲滅する。相手も僕を殺しに来る。ならば反撃や返り討ちは、お互いに飲み込むべき事だ。やられたら同じ事をやり返す、確かに同族愛が強いエルフには同族間で殺し合う愚かな行為に見えるだろう。

 だが大切な人達を守る為には力が必要で、敵に与える慈悲など無い。そんな傲慢で自分勝手な僕だが、お前の精霊に対する行いは嫌悪感しか浮かばない。自分が定めた越えてはいけない一線をお前は越えたからだ。

 要は自分勝手な思いだが、力ずくでも押し通す。お前は気に入らない、だからこの場でブッ飛ばす!

「ははは、笑えるな。そんな雑魚精霊に同情するとは、何とも愚かな人間だ。私は精霊魔法を極めて、更に上級の精霊達を使役する。そう!我等エルフ族は、選ばれた貴き種族なのだよ。下等種たる人間如きは、我等に平伏し従えば良いのだよ」

 両手を広げて身体を反らし馬鹿笑いを続けるが、飛魚による攻撃は止まらない。自動攻撃なのか制御してるのかは分からない。精霊魔法は未知の魔法、例え下級精霊でも防げない訳じゃない。

 だが、これ以上は僕の魔法障壁が押し負ける。もう会話で矛を収める事は無理で、他の連中による仲裁も期待出来ない。レティシアもファティ殿も、僕が負けないと思って余裕綽々だし……

 エルフ族の若手連中も、野次らしき言葉を投げかけて僕が負ける事を期待している。エルフの王や、その他の連中は静観かよ。だがもう我慢の限界、これが僕の全力全開だっ!

「クリエイトゴーレム!ゴーレムルークよ、奴をブッ潰せ!」

 三秒で全長8mの単騎ゴーレムルークを錬成し、最大限の魔力を込める。右拳に雷を纏わせて、思いっ切りブン殴る。ファティ殿の時は雷光で切り掛かったが、今は奴を拳でブン殴りたい気分なんだ。

「へぶらっ?」

 握り締めた拳の大きさは1m、その雷を纏った鋼鉄の塊を腹に受けて、バイカルリーズ殿は真後ろにゴロゴロ回転しながら吹っ飛んだ。丁度、若手連中が居る場所にだ。

 咄嗟に両手を突き出して、何かしらの障壁を張ったみたいだが硝子が割れる様な澄んだ音を立てて細かな光の粒となり砕け散った。一瞬だけ拮抗したが直ぐに割れた、強度は魔法障壁レベル40程度かな。

 仲間にぶつかり止めて貰ったが、纏っていた雷も受け止めた仲間に流れて共に感電している。プスプスと各所が燃えて白い煙が登っている、だが火傷は酷くない。直ぐに治療すれば大丈夫かな。

 ファティ殿もだが、雷魔法はエルフ族にも効果有りだな。もう少し研究して威力を高めるか。だが今は……

「嗚呼、飛魚が水の精霊達が光の粒子に……死んだ?精霊が死んだのか?僕が殺したのか?」

 バイカルリーズ殿はもう気絶したみたいだから二回目?の模擬戦も終わりだ。僕の周囲に倒れ伏している、飛魚を持ち上げると同時に光の粒子となり指の間から零れ落ちる。

 慌てて掬おうとするが、指の間から漏れてしまう。嗚呼、彼等は死して無に還るのだろうか?僕は水の精霊達を殺してしまったのか?思わず膝をついてしまう。何かしらの禁忌を犯してしまった、不思議な罪悪感が胸を満たす。

 周囲に倒れる飛魚達も一斉に光の粒子となり、僕の周りに漂う。何故だろう、何だろう、何か小さな声が……何語だ?そもそも言葉なのか?悪い気持ちじゃないのだが、理解出来ないもどかしさが有る。彼等の最後の言葉とか嫌だぞ。

「リーンハルト、悲しむな。安心しろ、呼び出された水の精霊達は仮初めの身体に宿る。だから彼等は死んでなどいない、精霊界に戻るだけだ」

「レティシア?でも何かを僕に訴えているみたいだ。恨み辛みじゃないみたいだが……それでも僕は彼等を……傷付けて……」

 何とも言えない悲しみが胸を締め付ける。これは何だ?罪悪感か?いや、もっと違う何かが……レティシアが両肩に手を置いたと思えば、そのまま後ろから抱き締めてくれたって?ええっ!

「ままま、待てっ、レティシア!それは不味いだろ、落ち着けって」

 えええ、エルフ族が人間に抱き付くとか、しかも同族の前だし、エルフの王や重鎮達だって居るだろ!ととと、取り敢えず離れてくれ。

「落ち着くのは、リーンハルトだぞ。物凄く珍しい事なのだが、水の精霊達が話し掛けているのが分かるか?彼等は、リーンハルトに心を開いた。それは凄い事なのだぞ。エルフ族でさえ、二百歳を超えて漸く精霊魔法を学び始められるのだ。

バイカルリーズの馬鹿も未だ二年と学んでいないから未熟なのだが……精霊と語り合う素地を作るのに、二百年位かかるのだ。お前は彼等を心配し、その偽りの死を悲しんだ。水の精霊達は、お前の心を嬉しく思い自分達も心を開いた。

分かるか?彼等の心が?リーンハルトに凄い感謝をしているぞ。お前は多分だが、人間では初めて精霊と心を通わせた。此処に居る水の精霊達は、リーンハルトの事が好きらしいな」

 死んでない?光の粒子になったのに?どう見ても消滅したみたいだぞ。そう思ったら、光の粒子が集まり出して元の飛魚の形を形成した。身をくねらせて元気アピールか?

 そして僕に身体を擦り付けるのだが、暖かく羽根みたいに柔らかいフワフワでモフモフな触り心地。魚なのに?普通はツルツルで固くないか?魚の形だけど羽根が生えてるから鳥なのか?

 段々と数が増えてきて僕とレティシアを埋め尽くす程に集まって来た。これが精霊?エルフ族にしか扱えないと言われた精霊なのか?あと、レティシアが良い匂いで困る。そろそろ離れて欲しい、この子達が見えない様に隠してくれているうちに離れてくれ。

「お前達、もしかしなくても僕を騙したな?普通に消滅しました的な悲しげな演出をしただろ?」

 そう言うと一斉に離れた後で、また集まって来た。言葉は分からないのだが、何となく悪戯が成功した喜びと謝罪の気持ちが伝わってくる。精霊は悪戯好きって伝承は本当だった?

 悪いが僕は精霊語は分からない、エルフでさえ彼等と対話するのに200年近い下積み期間が必要らしい。人間の寿命だと厳しい、だから長寿種しか扱えないのか?そもそも精霊と触れ合う機会が無いか……

 有り難う。そして御免な、傷付けてしまって。だが体当たり攻撃とか、もっと他に攻撃方法が無かったのか?いや、他の威力の高い攻撃なら僕が負けてたけどさ。

「人間の少年よ。いや、リーンハルトと言ったな。感謝しよう、君は我等の傲慢さを知らしめた。それが二百歳の若雛であろうが、我等より一部でも優れていると証明してみせたのだ」

 うわっ!思いっ切り含みを持たせた言葉だな。バイカルリーズ殿は若輩者だから、油断して人間に負けたんだ。自分達の一部だけでも上回る者が居るんだから慢心するなって事だよな。

 流石はエルフ族の王だ。驕り高ぶった同族を諌めたいって話だった筈だが、当の本人が上から目線だよ。だが、あのエルフ族が人間の子供を認めただけでも凄い進歩なんだよな?歩み寄ったんだよな?

 レティシアが漸く離れてくれたが、彼女を見る他の重鎮連中の視線が微妙だぞ。何を人間などに懐いたとか思ってないか?僕は、彼女の立場を悪くしたのか?

そうネガティブに考えていたら、飛魚達が身体を突っついて来た。

 慰めてくれるにしても、首筋とかはくすぐったいから止めてくれ。あとお尻付近も駄目だし、股間はもっと駄目だ。精霊達に人間の常識を教えないと駄目なのだろうか?取り敢えず下ネタ攻撃は止めてくれ。

「いえ、レティシア殿からの依頼を達成出来て嬉しく思います」

 仮にも一種族の王様に対してだから、無礼にならない態度と言葉に気を付ける。だが臣従はしてないので、深く頭を下げる事はしない。僕の行動は、外交的な意味ではエムデン王国の態度と同じ。

 少し無礼と取られるかと思ったが、エルフの王も重鎮連中も特に問題にはしていないみたいだ。バイカルリーズ殿と若手連中は知らぬ間に居なくなっていた。僕の近くには居たくないのだろう。

 レティシアが自慢気に胸を反らし、ファティ殿は満足気に腕を組み頷いている。いや確かに200歳以下のエルフには勝てるって言われたが、結構ヤバかったぞ。あと水の精霊達よ、尻を突っつくな。変な気持ちになるから。

「レティシアが頼んだ通りの結果だが、後は我等だけの問題だ。礼の代わりにだが、精霊魔法を教えよう。レティシアとファティは、彼に教えてやれ。既に下級精霊と心を通わせているみたいだが、扱いを間違えれば自分も周囲も危険に晒すからな。基礎だけでも正式に学ぶが良い」

 そう言って返事も聞かずに重鎮連中を引き連れて去って行ったが、これだけの事をさせておいてそれで終わりか?もう少し何かないのか?精霊魔法とか、人間が扱うには危険過ぎるのは理解した。

 それに飛魚達に戦闘行為などさせられない、自爆攻撃じゃないか!仮初めの身体だからといって、バイカルリーズ殿と同じ事はさせられないししたくない。

 でも飛魚達との触れ合いは、何となくだが心がホワッとする。何故だろう?執拗に尻を突つかれても嬉しく思うとか、変な性癖に目覚めたのか?それは嫌だぞ。あと僕はモア教の信徒だから精霊信仰とか改宗はしないからね。

「リーンハルト、感謝するぞ。私の期待通りに、バイカルリーズの馬鹿をブッ飛ばしたな。いや気分爽快だ、あの馬鹿は本当に気に入らなかったのだ。何かと構おうとするし、気持ち悪いのだ」

 えっと、バイカルリーズ殿は多分だけど貴女に好意を寄せていましたよ。その彼を本当に気に入らなかった気持ち悪かったとか哀れだな。まぁ僕も嫌いだし、仲を取り持つ事などしない。

「全くだ。驕り高ぶった馬鹿も、人間の少年にブン殴られて気絶したとか百年は笑える失態だ。私も清々したぞ、流石は私が認めた男だな。未だ余裕が有っただろ?ゴーレムクィーンも使わなかったしな」

 レティシアもファティ殿もさ。エルフ族全体の意識改革の方の感想は?バイカルリーズ殿が気に入らないけど、僕に負かされて清々したとか違うんじゃない?

「えっと、ディース殿が残ったのは何か有りますか?」

 僕等のやりとりを優しく笑って見ていますが、貴女の態度も非常に珍しいのですが!冷静沈着、冷たい感じすらしていたのに、今日一日でエルフ族に対する認識が大きく変わったぞ。

「ふふふ、報酬の件だ。我が王も余程嬉しかったのだろう、あんなに他種族と長く話すとは信じられないぞ」

 えっと、普段は寡黙だからって事か他種族とは話したくもないって事か、どっち?あれで多く喋った事になるの?それに報酬って、精霊魔法を教える事じゃないのかな?

 300歳越えのエルフの美女三人に囲まれて何とも言えない気持ちになるが、望んでもないし希望も出していない。そして嬉しくもない。

 どうやら報酬の話は場所を変えるみたいだ。立ち話で済ます内容じゃないとなれば、もう少し時間が掛かるのか。先導するみたいに、飛魚達が道を作ってくれるのが妙に可愛いぞ。

 


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