古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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UA1600万達成有り難う御座います。自分が一番驚いてます。これも読者の皆様のお陰です。本当に有り難う御座いました。


第783話

 おぃおぃ、フレイナルよ何をやっている?安全を確保した簡単な仕事(王命)の筈だろ?建て前上は王命だが約束された活躍を惰弱な精神で失敗寸前、そのフォローを妹分に頼るなよな。

 お前という偽りの英雄の活躍を際立たせる為に、単独で前に行き城門を破壊させたかった。他の連中も騒がず様子を見ろと厳命した。今回の戦争は、他にも英雄級の活躍をした連中が多い。主にリーンハルト関連の奴等だが……

 普通に城門を破壊しましただけじゃ、戦後に旧ウルム王国の有力貴族から有能な本妻と側室をお前に与えるのは条件的に納得させる理由が厳しいんだぞ。重要な活躍をした相手だからこそ、奴等は娘を差し出し忠誠を誓うんだ。

 年下の少女に手を引かれて戦場に赴く情け無い馬鹿を旦那に迎え入れろ?強権を発動すれば我慢して受け入れてくれるかも知れない。だが宥和政策の引き抜きじゃない、それは罰だぞ。

 戦勝国の有力な貴族と親戚関係になれるからと娘を差し出すんだ。幾ら保身も有るとは言え、差し出す相手が無能とかだとだな。肉欲の対象として要求されたと思うんだぞ。

 嫌な奴に娘を差し出して安全を確保する、その安全を保証する相手は直ぐに不祥事を起こして落ちぶれるかもしれない。そんな扱いを命じたエムデン王国に忠義を尽くすか?

 無理だ、どうせ肉欲の対象なら相手は、リーンハルトに差し出したいと言い出すだろう。婚姻外交の駒はリーンハルトの義理の娘が三人、嫁にやるだけで嫁を貰う相手が居ない。

 今回活躍したのは既婚の中年(獣脳筋)ばかりなんだぞ!流石に年齢差もそうだが、暴れた野獣に美女を与えるとか外聞悪過ぎだ。聖戦を挑んだエムデン王国は慈悲深い紳士の国なのだぞ。

「いや、一人で歩き出したな。未だ頼り無いが何とかなるか?国王に失敗するかもって心配される臣下ってなんだ?」

「いや、どうじゃろうか?フレイナルめ、戦場の殺意に飲まれたみたいじゃな。歩き方も危うい、左右に揺れているし足も震えている。逃げ出したらエムデン王国は赤っ恥じゃ済まぬぞ」

 サリアリスの言葉に考え込む。戦場の殺意か、確かに新兵にはキツい洗礼だが仮にも末席でも宮廷魔術師だぞ。そんな禊ぎは既に済ませてるだろ?

 いや、駄目か?立ち止まりやがった。この状況で単騎で差し向けた奴が戦意喪失で逃亡?エムデン王国は周辺諸国にまで恥を曝すぞ。奴の精神力を見誤ったか?

 嗚呼、リーンハルトを基準にして評価を下げたつもりだったが未だ下げ足りなかったのか?奴なら一人で城門どころか城塞ごと破壊するからな。門の破壊だけなら大丈夫と思ったが、未だ高いノルマだったのか?

「ウェラーが走り寄りおった。あの馬鹿、我が愛弟子の腰に抱き付くじゃと?氷柱に閉じ込めてくれるわ。離れろ、ゲスがっ!ウェラーはな、リーンハルトの嫁なのじゃぞ。汚い手で触るな!」

 サリアリスの激昂を見て気持ちが幾分か収まる。いや、リーンハルトの嫁って初めて聞いたぞ。お前基準で、ウェラーを任せるのが奴しか居ないって事だよな?そうだよな?

 ユリエルが暴走するから止めろ。いや、横目で見たユリエルは、サリアリスの言葉を聞いていない。血涙を流しながら、フレイナル殺す!殺してやる!を連呼してる。まぁ公の場で未婚の娘に抱き付かれたら誤解を受けるからな。

 俺の国の宮廷魔術師って、こんなのばかりだったか?違うよな?左右に控える、サリアリスとユリエルが仲良くフレイナルの殺害方法を検討し始めやがった。急に仲が良くなったな?俺は止めないぞ。

 それをゴミを見るような目で、フローラが眺めていやがる。病んだ女の目は背筋が凍る恐怖が有る。この女の精神の回復は、誰に押し付けるべきだろうか?能力的には及第点なので長く雇いたいんだよな。

「落ち着け、二人共。フレイナルの情け無い態度は……あの馬鹿、攻撃されて固まりやがった。それをウェラーが守るだと?攻撃は『魔法障壁の護符』が防ぐ段取りなのに、何故怯える!」

「フレイナル!貴様、俺の愛娘を盾にしやがったな。屑が、男の屑が!説教じゃ済まない、半殺しにしてやる」

「いや、公開処刑で氷柱の中に閉じ込めてやるぞ。男なら女を守らんか!妹分に縋ってどうしたいんじゃ?」

 魔法と弓矢の総攻撃に曝されたが、リーンハルト謹製の『魔法障壁の護符』が十分間だけ完璧に攻撃を防いでくれる。敵の魔術師のサンアローさえも防いだ。

 だが圧力は防げずに後ろに押されて倒れた。フレイナルめ、腰を抜かしやがったな。ウェラーが立ち上がり両手を前に突き出して防いだ。お前、早く呪文を唱えてサンアローを撃ち込め!

 耐えかねた、ユリエルが飛び出そうとしたが近衛騎士団員数人が取り押さえた。未だ奴の活躍を御破算にする訳にはいかぬ、未成年のウェラー頼みとか最悪だ。だが未だ攻撃さえすれば何とかなる、何とかしてやる!

「ほぅ?火属性宮廷魔術師団員達が自分達で盾を持ち、防御を固めてファイアボールで敵魔術師を牽制し始めたか」

 ふむ、宮廷魔術師は駄目だが宮廷魔術師団員は中々どうして使えるじゃないか。立場が弱くなり腐っていたが、挽回する意志は強いみたいだ。

 目的の一つは微妙、一つは達成だな。宮廷魔術師関連の立て直しと引き締めは、サリアリスとリーンハルトに頼むか。元々は奴が急いで改善した事だ。

 正に英断だった。前の状態だったら、こんな漫才みたいな事をされても笑える余裕などなかった。評価を上乗せしてやろう。

「自分達も後が無い事を理解しての行動、いや年下のウェラーの勇気に感化されたのじゃな。腰は引けているが冷静に攻撃している……ウェラーめ、魔法障壁の護符の他に自分の唱える魔法障壁で、火属性宮廷魔術師団員達も守っているな」

「流石は我が娘だな。うん、だらけていた火属性宮廷魔術師団員達の見本となり奴等を改心させたのか。これが終わったら大々的に甘やかしてやろう」

「子供なのに……何故、そこまで頑張れるの?」

 俺には魔力が無いから分からぬが、ウェラーの行動が如何に凄いのかは分かる。未だ十二歳の少女の取れる行動じゃない、リーンハルトに感化されたにしても化けた位の変わりようだぞ。

 ユリエルが感動で男泣きし始めたが、戦場で泣くな。それとフローラも神妙な顔をして微動だにせずに、ウェラーを見詰めている。ギフトで聞いた彼女の心音は激しく鼓動している。

 つまり無表情に興奮している。まさかいたぶられる少女を見て興奮とかじゃないよな?味方殺し同僚殺しで精神が病んだんだよな?サドか?サドなのか?俺の国の宮廷魔術師は本当に何なんだ?更正待った無しだ!

「良し!フレイナルが、サンアローを撃ち込んだぞ。上手い具合に城門に当たった、馬鹿でも屑でも腐っても宮廷魔術師。破壊出来たみたいだな。良かった、これで役目は終わりだ。恥の上塗りをする前に後ろに下げろ!近衛騎士団から何人か、ウェラー達を迎えに行ってやれ」

「はっ!気高き少女を助け出し、屑を矯正して連れて参ります」

 思わず拳を握り締めて声を上げてしまう。配下の行動に、こんなにもハラハラさせられたのは久し振りだぞ。嫌な意味でだかな。これで奴の未来も首の皮一枚で繋がったぞ。

 後はライルが突っ込んで城門周辺を制圧、第三軍が突入して王都を制圧すれば終了だ。残り三方に待機している連中にも通達し、総攻撃を掛ければ問題無く勝てる。

 ライルもウェラーを認めたのだろう。素早く飛び出して馬鹿と共に守る為に側に居る。攻略部隊も前進した、後は油断せずに手順通りに進めれば勝ったな。全く冷や汗ものだったぞ。

「ライルが居ればウェラーの安全は問題無いから、ユリエルも落ち着け。フレイナルめ、呼び寄せたら説教だぞ。国王に心配させるとか、なってないな……って、オィオィ」

 ウェラーの奴、破壊した城門から飛び出して来た騎兵隊を山嵐で倒しやがった。リーンハルトに教えて貰って、嬉しそうに鍛錬していたのは知っている。

 だが直接的に自分の魔法で人を殺した事は無かった筈、ウェラーの精神は大丈夫か?戦場の洗礼を浴びせるのは少し早かったんじゃないか?いや、生き残りも続けて黒縄で倒しやがった。

 ウェラーめ、戦場の洗礼を越えやがった。大した少女……いや魔術師じゃないか。右手を天に突き出して何かを叫んだ後、全軍から雄叫びが上がった。

「何を言って鼓舞したのか気になる、後で聞くか。ユリエルよ、大した娘じゃないか。ウルム王国王都攻略の裏の勲一等は、ウェラーだ。表の勲一等は……フレイナルは普通に考えても厳しいぞ」

 困ったな。敵味方大勢に見られている奴を勲一等に扱うのは無理だぞ。国王とは配下を正当に評価し信賞必罰を行うのだ。フレイナルを優遇出来ないし、ウェラーを不当に扱えない。

 暫く待っていると近衛騎士団が、ウェラーとフレイナルを馬に乗せて後方に移動させて来たか。予定を変更するしかない、火属性宮廷魔術師団員達は十分に活躍した。

 従来なら他に護衛が必要だったのに、今回は自らが盾を持ち自分達だけで前線に向かった。そして敵魔術師の魔法攻撃を牽制する役目も見事に果たした。だが城門こそ破壊したものの、フレイナルの評価は微妙だぞ。

 どうする?評価に下駄を履かせるにしても大勢が見て真実を知っているんだ。下手に脚色などして評価を盛れば、エムデン王国は正当な評価をしないと思われる。本当にどうするか……

◇◇◇◇◇◇

 大役を終えた二人が本陣に戻って来た。ウェラーは一皮剥けたみたいに良い方向に雰囲気が変わったな。覚悟と自信に満ち溢れている、人を殺す事を自分なりに飲み込んだな。サリアリスもユリエルも自慢気だ。

 だがフレイナル、お前は駄目だ!謎の自信に満ち溢れて女騎士に馴れ馴れしく話し掛けているが、お前あれだけ醜態を曝して女を口説くのか?女関係だけは強メンタルだな。

 サリアリスとユリエルを見ても同じ事が出来るか?俺はな、お前を無理にでも評価を盛れるだけ盛って誉める苦行をこれからするんだぞ。もう火属性宮廷魔術師団員達は活躍したから、コイツは普通に実績評価すれば良いか?良いよな?

「アウレール王。このフレイナル、見事に大役を果たして戻って参りました」

 ローブをマントみたいにはためかせてから頭を下げたが、誰に対して格好を付けているんだ?馬鹿め、先輩宮廷魔術師二人の表情を見ろ。今にも殺します的な雰囲気を醸し出しているぞ。

 本陣で国王の前で殺害事件とか止めてくれ。その証拠を残さずに戦場で抹殺も却下、定数を満たない宮廷魔術師を減らされては困るのだ。フレイナルでもな。やはり、ウェラーは早期に宮廷魔術師にしよう。

 だが保護者三人をどう説得するかだが、ユリエルとサリアリスは普通に喜びそうだな。愛娘と愛弟子の出世だ、同じ職場だからフォローも出来る。未成年だが前例も有り成果も有る。

 だが、リーンハルトはどうだ?奴は十四歳で宮廷魔術師となり活躍しているが若い事による苦労も多い、ウェラーは十二歳。未だ早いと反対するか?

「出過ぎた真似をして申し訳有りません。罰は一切の文句を言わずに、甘んじて受けさせて頂きます」

 いや、全く問題無い。よくぞ馬鹿をフォローし王命を達成したな。お前のお陰で最後の最後で詰めを誤らずに済んだ、賞賛こそすれ罰など与える訳が無い。

 謙虚な態度も好ましい、論功行賞は期待しろ。新貴族男爵位に勲章もやる、希望し保護者達が同意するなら宮廷魔術師にも任命しよう。

 第八席を与える、フローラが第七席だ。流石に様子見で近くに置いているが、問題無さそうだから任命する。フレイナルもお情けで第十一席にしてやるが末席は変わらないぞ。

「ウェラー様は悪くは有りません。我等が不甲斐ないばかりに、叱責は我等に与えて下さい」

「ウェラー様は我等も魔法障壁で守ってくれていたのです。その負担は魔術師にしか分からぬと思いますが、相当の負荷が有った筈なのです」

「そうです。我等大人の為に、幼い子に負担を強いた情け無い我等を叱責して下さい」

 国王の前に飛び出して並んで頭を下げた、殆ど土下座に近い。普通は不敬案件だが、傲慢だった火属性魔術師達が偉い変わり様だな。普通は俺に意見など出来ぬ、それが謝罪でもだ。

 それが不敬で罰せられる危険を省みずに、ウェラーの為に大の男達が地に擦り付ける位に頭を下げるか。もう火属性魔術師達の意識改革も終わった、これで悩みの一つは無くなった。

 勿論だが、お前達にも褒美をやる。昇進や勲章は無理だから金銭的な物になるが、俺が認めて評価したのだから禊ぎ期間は終了だ。

「うむ、見事な心意気だな。安心しろ、お前達も立派だったぞ。ウェラーとお前達に罰など与える訳が無い、火属性魔術師達の下がり捲った地位や待遇も回復するに足る行動だったぞ」

「「「「ははっ、有り難き幸せ」」」」

 うむうむ、ウェラーも奴等に感謝したのか共に喜んでいるな。宮廷魔術師団員達の意識改革も順調、後は個々のレベルアップだな。フレイナル、お前なに偉そうに頷いている?

「さて、フレイナルよ」

「はっ、アウレール王!」

 何故に得意気なのだ?お前に誉める要素有ったか?無いよな、全く無いよな。

「お前は一応だが王命を達成した。約束通りに恭順した、ウルム王国の貴族達の淑女から厳選した本妻と側室を与える。だが達成経過がすこぶる悪い、この意味は分かるな?」

 俺の言葉と態度にニヤニヤからガクガクに変わったな。お前は王命を達成した、俺も約束は守る。だが結果は出せたが途中経過がすこぶる悪い、殆どウェラーのお陰だろう。

 宮廷魔術師団員達は何も言わずに下がった。とばっちりは嫌だろうし、そもそもフレイナルの評価は最低だろうからな。一応は火属性魔術師の派閥構成員で配下だが、敢えて弁護もしないだろう。

 ウェラーは額に手を当てて首を振っている。散々自分にフォローさせて、未だ何も礼を言ってないらしいし。公衆の面前で抱き付かれたし、誤解は解くから安心しろ。

「いえ、その……確かに、ウェラーの助力は有りました。ですが、それは彼女の俺に対する愛が成したっ痛い止めろ!照れ隠しにしても痛いぞ」

 ウェラーの見事な蹴りが、フレイナルの尻を叩いた。確かに否定しなければならぬ妄言だ、国王の前での痴態だが許すぞ。余りに酷い妄言だ、何故に自分に好意的だと勘違いした?

 近衛騎士団員が駆け寄り取り押さえようとしたが止めた。ウェラーはフレイナルを蹴るに足る理由が有る、俺が認める全力で気が済むまでやれ。しかし中々の体捌きだな、切れも良い。

 十回ほど蹴り上げた所で肩で息をし始めたが未だ気が済んだ訳じゃないな。だが漸く周囲に気が回ったのだろう、呼吸を整えて頭を下げた。気にするなと軽く手を上げて応える。

「違います!幼馴染みであり一応兄と慕う駄目男に腐れ縁と同情と親愛なる、リーンハルト兄様の描いた作戦を達成する為に仕方無くです。フレイナル兄様に対して恋愛感情など砂一粒も有りません、限り無くゼロです!止めて下さい迷惑です」

「そんな、俺を好きじゃないのかよ……」

 四つん這いになり慟哭しているが、そろそろ茶番は終わりにして良いか?流石に呆れを通り越して哀れになったぞ。フレイナル、お前本当に三枚目が似合うな。

 戦場の殺伐とした雰囲気がだな、駄目男に呆れた視線を送る微妙な空間に変わってしまった。俺を護る近衛騎士団員はな、リーンハルトの飲み仲間なんだぞ。

 お前、男としての評価は最低値まで落ちたぞ。近衛騎士団関連から、お前に嫁ぐ淑女は居なくなったな。お前は暫く反省しろ、痴態を挽回するチャンスはやるから安心しろ。

「フレイナル、ウルム王国の残党討伐を命じる。アンドレアルと共に従事し見事に殲滅してみせろ。成功の暁に約束通り、本妻と側室を与えてやる。今度は男として恥ずかしくないようにしろ!」

 親の監督責任不足と言う事で、父親と共に旧ウルム王国内を巡り残党共を討伐しろ。そして本当に一人で王命を達成し、下がった評価を盛り返せ。これで一件落着だな。

 


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