ライラック商会の会長、マーレック・ライラックさんと依頼についての打合せに来たのだが……
僕のゴーレムに興奮した彼が店の裏庭で従業員達に生暖かい目で見られている、多分だが普段は冷静沈着な会長なのだろう。
「リーンハルトさん、早くゴーレムを出して下さい!」
裏庭の真ん中で手を振って催促する姿は子供みたいだな……
「落ち着いて下さい。では、錬成します……クリエイトゴーレム!」
普段の青銅製ゴーレムポーンと素材の配合を変えて錬成する、錫の割合を多くして銀色に近付ける。
六体を四列で整列させると表面装甲に太陽の光が当たり輝いた、眩しいな……
因みに表面が輝いているのは派手さの演出でなく通常の鎧兜も同じだ、太陽の光を反射させる事により温度上昇を抑えている。
金属は太陽の光に当たると熱を持つ、要は暑さ対策だ……
「凄い、凄いぞ!これならエレメスの馬鹿にも負けないぞ!」
整列したゴーレムポーンの周辺をグルグル周りながら何かを呟いてるけど、エレメスって誰だろう?疑問に思い護衛の人に聞いてみた。
「ん?エレメス殿ですか?ライラック様の商売仇ですね。同じコーカサス地方出身の幼馴染みの方で共に王都で出世をしたのですが……」
「去年だがエレメス殿は長女をコーカサス地方の貴族の側室として嫁がせた。
先に故郷に錦を飾られたので悔しいのですよ。だからエレメス殿の花嫁行列よりも豪華に煌びやかにしたいのです」
なる程……ライバルに先を越されたから、せめて花嫁行列だけは負けたくないのか。
だから花嫁本人よりもライラックさんの方が気合いが入ってるんだな。
「去年の花嫁行列の目玉は武者行列だったんですよ。
しかもゴーレムを十体だったかな、複数の魔術師に頼んで用意させたらしいですが、リーンハルト殿のゴーレムとは比べようも無い簡素なデザインでしたし姿形も不揃いでした。
ですが物珍しさもあり好評だったのです」
二番煎じか……質と数を増やしたけど相手と同じ事をするだけか。
財力は見せ付けられるが所詮は相手を真似ただけだから、もう一工夫欲しい所だな。
あれだけ喜んでくれてるなら、もっと何か協力してあげたい……何か……
因みにゴーレムは移動中のみ錬成し宿泊地に着いたら魔素に還して良いそうだ。
維持に必要な上級魔力石は一日に三個支給して貰う事にした、三個も要らないのだが総魔力量を誤魔化す為にも必要だから……
ライラックさんは僕等『ブレイクフリー』と正式契約をするので仮押さえをしていた魔術師数人との契約解除の手続きに行ってしまった。
結婚式直前まで他の魔術師と契約してないのは変だと思ったのだが……
解約する連中の中にはバルバドス氏の名前が無かったので安心した、仕事を後から奪われたとか言われる可能性もあるのでライラックさんにはトラブルの無い様に断ってくれと重ねて頼んだが……心配だな。
◇◇◇◇◇◇
出発は三日後の吉日と決まった、朝十時にライラックさんの屋敷を出発する。
前日は前祝いパーティーを催すので我々も招待してくれた。正式なパーティーなので女性陣も正装させねばならず、ドレス類は自前で用意して貰うがアクセサリーは僕が造る事にする。
このパーティーはリラさんのお別れ会も兼ねているので盛大だ、地方貴族に嫁ぐなら王都に来る事は少なくなるだろう。
せめて友人達と最後の別れをさせたい親心か……
ここで問題が一つ、女性陣のドレスだがイルメラだけ持って無かった。
ウィンディアはデオドラ男爵のお供でパーティーに出席する経験が有り、エレさんはメノウさんが用意していた。
だがイルメラはモア教の僧侶であり僕専属のメイドだったのでドレスを着る機会が無かった。
ライラック商会で彼女に似合うドレスを見立てて貰ったのだが、仕立て直しが必要と当日ギリギリに何とか間に合う様にして貰えた……
値段は比較的安くしてくれたので助かった。
◇◇◇◇◇◇
久し振りのマジックアイテムの作成、核は前回と同じ上級魔力石を使う。
イルメラに渡したのは『回避のアミュレット:毒回避22%麻痺回避25%』だった、苦労して十五回目に成功した逸品だ。
私室に籠もり机に失敗作を並べてみる……
『レジストストーン:毒回避27%麻痺回避8%』
『レジストストーン:毒回避11%麻痺回避35%』
『レジストストーン:毒回避13%麻痺回避15%』
どれも微妙だな……今回用意した上級魔力石は十三個、ウィンディアとエレさんに渡すから二つは成功させないと駄目だ。
イルメラの分は前回渡した物を預かり装飾部分を新しく作り直す事にする。
「さて、始めるか……」
両手で上級魔力石を握りしめ精神を集中する、魔素を大量に掻き集めて上級魔力石に干渉し魔力付加の効果を組み込んでいく……
「出来た、前よりもスムーズなのはレベルが上がった所為か?」
前回苦労した部分が今回は比較的スムーズに出来た、具体的には魔力付加の効力を魔力石から魔力を供給させる事だ。
これが悪いと付加された効力が完全に発揮されず、例えば毒回避の確率が低くなる。
出来上がった物を鑑定すると……
『レジストストーン:毒回避18%麻痺回避21%』
前回よりも性能が良いな、会心の出来じゃないのに数値が高い。
「よし、もう一回試してみよう……」
前回よりも込める魔力を多く長く……もっと、もっとだ……
「よし、出来た。手応えはかなり有ったぞ」
『レジストストーン:毒回避27%麻痺回避34%』
驚きの鑑定結果だ、前回のより数値が高い。
特に麻痺回避は三割以上だ、十分実戦で使える性能だがウチのメンバーは総じて防御力が低い。
物理攻撃の軽減が課題だが重たい鎧は負担が大きい、動きやスタミナを損なう位なら最初からゴーレムを前衛にして守れば……
だがゴーレムの守りを抜いて攻撃された時の最後の頼りは自身の防御力なんだよね。
僕は革鎧と常時展開の魔法障壁が有るから平気だけど、イルメラやウィンディアは修道服にローブだ。
エレさんはレベルが上がり体力が付けば革鎧を着せても大丈夫だろう。
「術者の防御力の底上げ……少なくても胴体だけでも守れて軽くて動きやすい防具か……」
胴体重視ならキュイラス、ブレストプレートだが修道服やローブの下に着込むとなると体型に合わせた形状に……体型に合わせる?
「む、胸か胸の形に合わせるのか?」
いや、ニケさんの時みたいに目測で作り微調整をすれば大丈夫だ、大丈夫の筈だ!
身体の側面湾曲面に合わせて折り曲げた鉄板を組み合わせれば、ある程度の可動性は確保出来る。
素材は鋼鉄、戦士用よりも薄くして軽量化をはかり、且つ固定化の魔法で補強すれば良いかな。
彼女達は戦士職と違い鎧の下に着るギャンベゾンも持ってないだろう。
これはリネンなどを幾層にも重ねて縫い合わせたキルト状のもので、ある程度の防刃と衝撃吸収も期待出来る。
打撃による損傷を和らげ、金属部分とのこすれから皮膚を守る役割も有る。
流石に肌着に近い物だし錬金で作るには無理が有るからイルメラに任せるかな、彼女は裁縫の技術も持っているから……
試しにキュイラスを錬金で作ってみる、ゴーレムポーンの胴体部分だけだから簡単だ。
僕のゴーレムポーンはフルプレートメイル、全身鎧だ!
先ず頭部を保護するヘルメットと喉を守るゴルゲット、肩当てのポールドロンとそれを補強するガルドブレイズ。
肘を守るコーターと二の腕を守るヴァンブレイス……これは上腕を防護する部品をアッパーカノンと下腕部を防護する部品をロウアーカノンに分かれる。
手首を守るガントレットに脇をまもるペサギュ、胸部と背部を守るキュイラス……
これが彼女達の胴体部分を守る鎧として抜き出す。
後は腰部を守るフォールドと吊り下げられた二枚一組の小板金のタセットに臀部を守るキュレット。
チェインメイルスカートに大腿部を守るキュイッスと膝を守るポレイン。
脛を守るグリーブと足を守る鉄靴ソールレットと十七の部品から成り立っている。
女性にフル装備は重量的にも無理だが最低限胴体だけ瀕死の一撃に耐えられれば、イルメラの治癒魔法で何とかなるかもしれない。 頭部も大切だな、でもヘルメットも1㎏近いから何か別の方法を……
「リーンハルト君、そろそろ夕食の支度が出来たよって……綺麗な宝石と上級魔力石の山だね、でもコレってマジックアイテムじゃない?」
机に置きっぱなしのレジストストーンを興味深そうに指で突いているが、ノックをしても男の部屋に入っちゃ駄目だぞ。
「うん、プレゼント用に作ってみたんだ。毒と麻痺を低確率でレジストするよ」
「レジストストーンを作れるの?
うーん、毒回避13%麻痺回避15%か……でも凄いわよ、オークションに出せば金貨三十枚からスタートかな?
でも沢山作ったのねって……コレ……
毒回避27%麻痺回避34%って、エルフの里で取り引きされるレベルの品物だよ!」
エルフの里か、ドワーフ工房もそうだけど身近になり過ぎじゃないか?
「まぁね、首飾りとして装飾を施してからプレゼントするよ。
それよりもキュライス作ってみたんだ、女性陣の防御力アップの為に。でも問題が有って……」
「それよりもって……結構大事なのよ、エルフ並のマジックアイテムを作れるって事はね。もう驚かないけど……」
ため息をつかれてしまいました。でも土属性の魔術師は錬金特化、ゴーレムが作れてアイテムが作れないなんて事は無い。
「キュイラスなら胴体部分は守れると思うんだ。
流石に剣とかの直接攻撃は無理でも弓矢とか飛び道具なら防げる、素材は薄く軽量化したけど上級魔力石を核に固定化と軽量化の魔法を付加すれば……
だが着心地を良くして身体に掛かる負担を減らす為には、その、アレだよ、ボディラインに合った構造にしたいんだ」
身体の凹凸を固い鎧に合わせないと擦れたり潰れたりと負担が大きい。
今回は服の下に着込むので体型に合わせないと見た目が変になる、要は太って見える。
見た目は関係無いと思うかもしれないが製作に携わるなら拘る部分だ、機能美であって過剰な装飾と違うのだから。
「嗚呼、分かったわ。リーンハルト君は私達の為に体を隅々まで調べたいのね?私は構わないわよ、でも裸は無理だからシャツは着させてね」
悪意なくニッコリ微笑んだけど誤解されかねない台詞だぞ。僕はキュライスを着る部分だけで良いんだ、隅々まで調べたい訳じゃない!
「ウィンディアさん、何時まで掛かってるんですか?もう支度は出来ましたよ」
「あっ、イルメラさん。リーンハルト君が私達の防具を作ってくれるので、隅々まで身体のサイズが知りたいんだって。
恥ずかしいからシャツは着させてってお願いしたのよ」
あっ?イルメラが固まった、赤くなった後に震えだしたけど……
「わっ、分かりました。私達の為に防具を作って頂けるなら当然の事です。私は、しゃ……シャツも着なくても……」
「落ち着け、ウィンディアも言い方を考えろよ。
ギャンベゾンを作って欲しいんだ、立体縫製で頼む。その上からサイズを計りキュイラスを調整する」
「ギャンベゾンね、分かったわ。イルメラさん、ギャンベゾンは鎧の下に着る肌着の事よ。キルティングした厚い生地で作るんだけど……」
「大丈夫です、知ってます。作った事はありませんがディルク様のを見た事が有りますから。お互いにサイズを計りながら作りましょう」
流石は騎士団の副団長の家に仕えたメイドと武闘派デオドラ男爵家に仕えた魔術師だな、これなら放っておいて大丈夫だろう。
「上半身だけで良いよ。じゃ夕飯にしようか、お腹空いたよ」
開け放たれた扉から良い匂いが漂ってくるのだが、メニューが楽しみだ。
ウィンディアが家に来てからレパートリーが増えたのか食べた事の無い料理が出るんだよな。
ボリュームが多いのが難点なんだけどね……