古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

791 / 996
第785話

 ウルム王国、王宮攻略戦はエムデン王国側の完勝に近い勝利で終わった。徹底抗戦を唱えた、バンチェッタ王を側近が捕らえてエムデン王国に引き渡した呆気ない終わり方だ。臣下の裏切りに、バンチェッタ王は正気を失った。

 ローラン公爵の手の者が扇動し王宮内に噂を流していた。『前大戦でコトプス帝国に唆されて共謀し今回はバーリンゲン王国に唆された。バンチェッタ王に王としての器が無い、今回は聖戦。降伏しても殺される事は無い』と……

 完全な負け戦に付き合わされる事は無い。徹底抗戦を騒ぐのは旧コトプス帝国から逃げて来た連中だけ、命大事に無理をするな。アウレール王は慈悲深い名君、暗愚な王の首を差し出し許しを請え。

 武門ローラン公爵は戦争に勝つ事を主眼に置いているので、搦め手も厭わない。それが公爵五家の第二位、武門の家だが武力だけに頼らない。同じ武門でも、バーナム伯爵達との差を見せた。

 そして王宮を占拠、隅々まで捜索し色々な人や物を探し出した。国内の地図・各地の生産品や生産量、戸籍等の統治に必要な資料。そして隠し部屋などに潜んでいた生き残りの王族。

 ウルム王国を完全に支配下に置いた、アウレール王が旧ウルム王国の王宮に入城した。旧ウルム王国の貴族達がこぞって臣下の礼を行うべく各地から集まってくる。早期に臣従した者、敗戦後に臣従した者。

 アウレール王の完全支配の声明を聞く為に、王宮内はごった返している。そして今回の聖戦で活躍した者達の論功行賞も行われる。人外の野獣、狂戦士三人に年若い魔術師が最も多い勲功を稼いだのだ。

◇◇◇◇◇◇

 改装された謁見の間に今回の聖戦に参加した貴族達が全員集まっている。上から順番に公爵四家、侯爵三家。宮廷魔術師六人、両騎士団団長。伯爵以降の爵位を持つ貴族達、それと爵位は無いが活躍した面々。

 今回の聖戦に参加した武官・文官が勢揃いしている。エムデン王国風に改装された大広間の壁面には、エムデン王国の国旗とアウレール王の紋章が垂れ下がっている。

 今回の論功行賞は、アウレール王自らが臣下に与える名誉あるもの。評価対象者は多いが、国王自らとなるのは上位数名。最も勝利に貢献した者達だ。残りは上級官吏が読み上げるだけ、それでも名誉な事なのだ。

 奥の扉が開き、近衛騎士団員達を従えた、アウレール王が謁見の間に現れるタイミングを見計らい頭を垂れる。マントを翻す音が聞こえる、その後に座ったのだろう。

「皆の者、頭を上げよ」

 その言葉に従い頭を上げる。満足そうな、アウレール王の顔を見て安心する。今回は気分良く論功行賞を行えるのだろう。『約束された活躍』が微妙な男も居るが……

 視界の隅に見える、その問題の男は疲労困憊を隠そうともしていない。周囲から散々説教されて、暫く周辺の残党狩りをしていたからな。論功行賞の後、旧ウルム王国全土を回る事になる。

 各地を回り成果を見せて、今広まっている悪い噂を打ち消す為の残党狩り。つまりアウレール王の配慮、『少女の背中に隠れる屑男』は流石に不味い。

 戦地における死の恐怖を打ち消す事は難しい。バセット公爵でさえ、その恐怖に抗えず馬鹿な行動をした。だが同じ官僚系でも、ニーレンス公爵は平気だったぞ。

「皆の活躍により、前大戦より我が国に不利益を強いていたウルム王国を完全に掌握する事が出来た。これで旧コトプス帝国の残党共も一緒に滅ぼす事が出来た事を嬉しく思う」

 此処で一旦言葉を止めて周囲を見回した。これで三国分の領土に属国が一国。大陸最大最強国家の国王となったのだ、喜ぶなと言う方が無理だな。

 だがこれで周辺諸国に更に警戒された。連合を組んで攻められたら負ける……いや、軍隊規模の相手に単独で挑める切り札が四枚も有る。

 しかも最強の切り札は、その日の内に単独侵攻が可能。一人なのに軍団を用意出来る、補給も不要な敵対した相手からすれば悪夢みたいな男が抑止力となるか……

「今回の聖戦で特に活躍した者をこの場で称えよう。先ずは鬼神の如く複数の砦を攻略した、バーナム伯爵とデオドラ男爵!」

「「はっ!」」

 遊撃部隊として、ザスキア公爵とリーンハルト殿の政治的な立場により飼い殺し状態から解き放たれた人外の化け物。リーンハルト殿は魔術師として魔法を使うから未だ理解出来る。

 だがこの脳が筋肉に浸食された連中は、己の鍛えた肉体のみで人外の戦闘力を得た理解出来ない連中だ。人の理(ことわり)の枠外に居る、戦鬼と悪鬼か……

「遊撃部隊としての任務を良く全うした。プロコテス砦とバラカス砦、ビヨンド砦の攻略。裏切り者である、バセット公爵等の討伐。ジウ大将軍率いる増援部隊の壊滅、見事である。

二人には黄金片剣翼章と報奨金、及び旧ウルム王国領の領地を与える。本国の領地とは飛び地になるが、善政を心掛けるようにしろ」

「「ははっ!」」

 黄金片剣翼章とは予想よりも一段階勲章が低いな。黄銅双剣翼章は与えると思ったが、第四級か。報奨金に旧ウルム王国領の領地か。収益を上げる迄に暫く掛かるだろう。

 基本的に本国と違い元敵地の領地の経営には苦労する。今回は領民が協力的ではあるが、相応に反発する連中は居る。彼等を宥め賺して取り込むのには時間が掛かる。

 だが将来的には収益が見込める。貴族は見栄を張る生き物だから、資産は幾ら有っても不足気味。そして領地を持つのは貴族のステイタスでも有る。まぁ最初としては順当か。

 二人の満足そうな顔を見れば分かる。飼い殺し状態から脱却し手柄を立てて評価して貰えた。領地を賜るのは貴族として誇るべき事、だが彼等の領地は反抗勢力が根付く場所だろう。

 聖戦の功労者、戦場で悪鬼羅刹の如く活躍した奴等が領主となる事で抑止力となる。何か有っても鎮圧出来る武闘派を配置する、そんな感じだろう。

 まぁ本人達も戦う事が大好きだし同類達の集まりでもある。何かしら反乱を企てても直ぐに潰される、奴等の異常な力を考えれば反乱鎮圧とか大好物だろう。

「次に宮廷魔術師第十二席、フレイナル卿。及び助力し成果を上げさせた、ウェラーよ。前に……」

「はっ!アウレール王」

「えっ私?はっはい」

 威勢良く声を張り上げ前に進み出た兄貴分と驚いた声を上げた妹分。だが周囲の視線は微妙と言うか両極端だな。広まっている噂と実際に目にした連中が居るから、どうしても兄貴分の評価は下がる。

 呼ばれた順番は下から二番目、王宮攻略の要となる筈だった城門の破壊しかしていないからな。盛りに盛っても下から二番目、最下位じゃない事は配慮の内だろうか?

 ウェラー嬢を一緒に呼んだのは、この後は第二陣と第三陣の指揮官の表彰だからだな。流石に現役公爵と聖騎士団団長を差し置いては無理。

 だがウェラー嬢の評価は高いのだ。従軍すれども無冠無職の未成年の彼女が、この場で呼ばれるだけでも異例中の異例。彼女も自分が呼ばれるとは思っていなかったので、年相応に慌てている。

 ふむ、微笑ましい。武官連中も、ウェラー嬢を見る目は優しい。兄弟子と同じく、お守りを必要とせずに最前線で戦う事が出来るのだ。近衛騎士団員の連中など、我が子か孫を見る視線だぞ。

 だが彼等も彼女と、リーンハルト殿の関係を考えて無理な婚姻関係は推し進めないだろう。政略結婚と幼女愛好家を嫌う、リーンハルト殿の反感は買いたくないからな。

「フレイナルよ。王命を果たした事、評価に値する。宮廷魔術師の席次を一つあげ、第十一席とする。それと新貴族男爵位と旧ウルム王国領に領地、あと黄銅片剣翼章も与えるので、残党討伐に励むが良い」

「ははっ!有り難き幸せ。ウルム王国の残党討伐、しかと承りました」

 元気良く頭を下げたが、アウレール王の言葉は微妙だな。王命の達成が見事でなく評価に値する、そして王命の内容を言わない、言えなかった。つまり満点採点じゃなかった。

 最低限ギリギリの結果だった訳だ。領地を貰うので最下位の爵位を与えられた。だが与えられた領地は、貴殿に嫁がされる淑女の実家の領地を安堵したに過ぎない。領主には違いないが、紐付きだな。

 勲章も第六級、バーナム伯爵とデオドラ男爵よりも順番は上だが、評価も報奨も低い。今後に期待だと思うから、残党討伐は何としてでも完遂した方が良いぞ。

 宮廷魔術師の席次は上がったが末席には変わりない。フローラ殿は第七席になる事は聞いている、新人が入らない限りずっと末席だぞ。情けないとは思わないか?

 その新人の最有力候補は貴殿よりも活躍……いや面倒を見てくれて活躍した、ウェラー嬢だからな。成果・能力・行動力を見ても最初から第八席でも不思議じゃないぞ。

 初めて論功行賞に参加し国王自らが声を掛けて評価してくれた事は、確かに名誉ではある。将来的にも誇れる事に違いは無いが、条件付きだと忘れるな。

「ウェラーよ、フレイナルを補助し王宮攻略に助力した功績を称えて新貴族男爵位を与える。これで王宮への出入りに許可は要らぬ。父親と師、兄弟子の執務室への出入りも許可する。

良き師等に恵まれているのだ。今後も精進し、三人に認められたなら宮廷魔術師に任命する。ウェラーよ、今回の活躍は見事で有った。白銀片剣翼章を与える。早く一人前となり、宮廷魔術師の一翼を担うのだぞ」

「は?えっと、はい。有り難き幸せです」

 ほぅ?破格の評価だな。『守護天使ウェラー嬢』の活躍を称えて拍手をする。驚いた顔で俺を見た後、真っ赤になって慌てた。その様子を見た他の者達も拍手をする。

 今回の論功行賞の主役は間違い無く、真っ赤になり照れて挙動不審な彼女だ。俺やニーレンス公爵、聖騎士団団長のライル殿でもない。確かに成果と言うなら我等の方が多いかも知れぬ。

 だが戦いには流れが有り、その流れを最良にしたのは誰でもない彼女だ。ウルム王国の王宮攻略の要は未成年の軍属でもない少女。驚かされてばかりだが、認めよう。

「ウェラー嬢よ、今回の聖戦で一番輝いたのは君だ。此処に居る全員が認めているからの拍手だぞ、誇れ」

 アウレール王も鳴り止まぬ拍手を止めない。つまり、そう言う事なのだ。

◇◇◇◇◇◇

 大盛り上がりの論功行賞だが二番目がライル団長で、黄銅双剣翼章と報奨金と領地。一番は俺とニーレンス公爵で白銀双剣翼章と報奨金と領地を貰った。

 順当だが貰える領地は問題を含む他国と隣接している場所だ。国防も担えって事だが背後には王家直轄領が有り、直ぐに援軍を寄越す算段なのだろう。

 警戒と諜報、それと第一波を防ぐ事。比較的に広い領地を貰えたが、収支を考えたらトントンか微増だな。まぁ我等の力を削ぐ意味も有るのだろう。

 その他の従軍した連中も大小の差はあれども領地を賜った。村複数や街一つとかも多いが、これからエムデン王国に取り込んでいく関係上、隅々まで良く管理出来るようにだな。

 今回活躍したが役職を持たない、バーナム伯爵とデオドラ男爵も他国と隣接している領地だった。突出した武力が抑止力となると見込んだのだろう。だが悪い領地じゃない。

 今回は直接的に抵抗はしなかったが、旧コトプス帝国の残党共を迎え入れていた連中は軒並み領地を没収し残党共は全て捕まえた。情報を洗いざらい吐かせた後で処刑だろう。

 そして残党共の引き渡しに抵抗した連中を討伐するのが『屑男』のレッテルを貼られた、フレイナル殿だ。討伐を完了させないと、本妻も側室もお預けだから鬼気迫る勢いで任務に勤しんでいる。

 アウレール王が選定しているリストを見たが、旧コトプス帝国の残党を引き込んでいた貴族だが有能な家の令嬢達だ。彼女達は実家の為に、フレイナル殿を囲い尽くすのだろう。

 そして『屑男』とまで蔑まされた旦那の尻を蹴っ飛ばしてでも働かせる有能な淑女だが、思考調査は念入りにしている。旦那を唆して悪事に手を染めさせるのは嫁の専売特許だ。

 だから本妻と側室が相互に監視する体制になるのだろう。フレイナル殿よ、良かったな。色々な思惑が絡み合うが、容姿には一定の基準を設けて貰っているぞ。

 誰もが羨む美人・美少女のハーレムじゃないか!だが彼女達は、フレイナル殿に只従う連中じゃない。貴殿の再教育を担う連中だからな、成果を出さないと手も触らせないかもな。

 嗚呼、あと戦後の復興支援の為に、リーンハルト殿が来るのだが場所と順番の調整が難航している。領民達が待ち望む『参戦しなかった英雄』殿の扱いは、我等でも考えねばならない。

 まぁ調整は上級官吏共の仕事だが、奴等は内心はリーンハルト殿を疎んでいる。その彼に仕事を押し付ける訳だが、要望全てを叶えさせる訳にはいかない。

 リーンハルト殿を酷使する訳にはいかず、期限も最大三ヶ月以内と決められている。相当の苦労をするだろうが、頑張れとだけ言っておこうか。

 リーンハルト殿を説得させて無理なスケジュールを押し付けられなければ、各所から陳情を上げた連中に恨まれる訳だ。妥協するのも大変だが、リーンハルト殿なら状況を利用し上級官吏共の抱き込みもするかもな。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。