古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第793話

 クロイツエン領の反乱鎮圧も完了。首謀者である、アヒム侯爵とカルマック伯爵は討ち取られた。商人ギルドの支部長と幹部連中は降参したので捕縛し、裁きを受ける為に王都に向かっている。

 王都の商人ギルド本部から嘆願書が送られて来たが、読まずに返した。汚職塗れの責任の一端は、商人ギルド本部にも負わす。色々と調べているが、上納金(賄賂)欲しさに違法行為を見逃していた可能性が高い。

 クロイツエン領の復旧作業については、全面的にモア教が請け負ってくれた。民の心を癒やすのにモア教は最適、復興費用は当座は補助金で賄い本復旧は特別予算を組む。本来は領主の仕事だが、領主と派閥の当主が討伐されたから無理なんだ。

 クロイツエン領の商人ギルドは関連組織も含めて解体、復興物資は彼等を頼らず国から支給し補充は入札する。また財務系の仕事が増えるのだが、緊急性の高い仕事だから嫌とは言えない。好き嫌いで仕事は選べない。

 捕縛した連中の護送は、ハミルトン子爵とビルゲイム子爵。それとメンテス男爵自らが少数の部下を率いて王都に向かっている。当主自らが移動するのに護衛が少ない?

 いや、近衛騎士団六十四家の精鋭達も同行するから過剰戦力を嫌ったんだ。暫定的に、ハミルトン子爵にクロイツエン領の代理領主を任命しておいたが、代理で親族が取り仕切っている筈だ。

 アウレール王からも一時的な管理は、ハミルトン子爵家に任せるように言われている。その本人は領地に残らず、僕に報告を直接したいからと王都に向かっている。通過する領地の領主達には急いで事前通達したよ。

 武装兵五百人の移動だぞ。討伐完了後は各々の領地に帰るかと思っていたのだが、全員が王都に向かうって何故だ?報告は書面と各責任者だけで大丈夫なのだが……

「リーンハルト様が書いているのは感状かしら?」

「そうです。ハミルトン子爵とビルゲイム子爵、それとメンテス男爵には達成通知書の他に感状も送ります。近衛騎士団六十四家には達成通知書だけですが、能力アップ系のマジックアイテムも合わせて渡す予定です。

正式な報酬は、アウレール王から論功行賞の時に改めて評価して渡すでしょう。今回は僕が依頼書を出したので、一時的な報酬は負担します。まぁ自作ですから実費は殆ど無いんですけどね。

それと討伐に参加した全員が王都に向かっているので、彼等に報いる為にも何かしらの褒美は必要でしょう。幸いですが人的被害は少なく参加した貴族連中は全員無事です」

 その言葉に、ザスキア公爵は僅かに眉をひそめた。自作のマジックアイテムは簡単にバラ撒くなって事だと思うが、30%程度の一般流通品だから問題は少ない筈だ。もっと壊れ性能の物も少数出回っちゃったし……

 錬金と言えば少し問題なのが、バルト王国からの使者殿の要望だ。あの国には姫将軍なる王族の女傑が居るらしく、ドレスアーマーの錬金を懇願された。基本的に他国からの錬金依頼は却下なんだ。

 マゼンダ王国の魔力砲は、リズリット王妃絡みでアウレール王も許可したから手伝っただけだし他国には知られていない筈だ。だが他国ながら王女が剣を取り最前線で戦うってどうなんだ?

 バルト王国の国王も愛娘の安全の為にと法外な報酬も用意したが、心配なら最初から愛娘を戦わせるなって矛盾だらけだよ。仮に敵対した場合は彼女が対エムデン王国攻略の先兵として向かって来るんだ。

 敵に塩を送る訳にもいかない。まぁ使者殿には国防の要のマジックアイテム関連は他国には供与しないと、アウレール王から厳命されているからと断ったのだが全く諦めていない。実際に要望は三度目だし。

 条件の中に姫将軍と僕との婚姻外交まで有ったから、友好国として絆を深める為に頼むってか?ザスキア公爵の調査によれば王女は十八歳の美人だが、デオドラ男爵級の化け物らしい。

 彼女の旦那への条件は一つ『自分より強い事』だけらしい。なので絶対に会わない、関わらない、ドレスアーマーは錬金しない。何となく本人が戦勝祝いに来そうだが、模擬戦は絶対にしない。

 如何にデオドラ男爵レベルの武力が有ると言っても、マジックアイテムで狂化した義父三人と引き分けられる僕が負ける確率は低い。まかり間違って勝っても問題、負けたらもっと問題。

 お互い国家の力の象徴なのだから、勝った負けたは双方が困る事になる。引き分けなら?いや、大陸最大国家の力の象徴が隣国と引き分け?駄目だ、絶対に勝たねばならぬ。

 だが勝つと婚姻絡みの話が持ち上がる。他国の王女と政略結婚?嫌過ぎる、止めて下さい出奔するレベルの嫌がらせですから!

「何を上を向いて黄昏ているの?筆が止まっているわよ」

「いえ、バルト王国の要望ですが後々で問題になりそうなんですよ。他国に高品質のマジックアーマーは渡せない、常識な筈なのに断っても三度も要望する。普通は国交に差し障るから止める筈なのに、今回も諦めた感じが全くしなかったのです」

 此方も国交の関係で強い言葉では拒絶はしなかったのだが、それでも非常識な要望だぞ。国力はエムデン王国の方が約四倍、隣接する国の中では比較的豊かな国だし輸出入の関係も良好だ。

 因みに不足の食料の購入予定国であり、豊かな農地を持ち軍事力も高い。富国強兵、そして軍事の要に居るのが『姫将軍』だ。しかも王女以外に他にも貴族令嬢の『姫将軍』が二人も居るらしい。その二人は二十代後半で既婚者だ。

 つまり脳筋軍団を擁する武闘派の国家らしい。前大戦時はウルム王国よりも国力は低かったが『姫将軍』の台頭で軍事力を高めてきたらしい。だから余計にドレスアーマーは渡せない。

「嗚呼、姫将軍さんね?残り二人は一段低い戦闘力だけど、ベアトリクス王女はデオドラ男爵級の強さよ。リーンハルト様が狂化する前のですけどね」

 サラリと言ったが諜報を得意とする、ザスキア公爵が認める程なんだ。デオドラ男爵級の情報は事実、性格は不明だが脳筋軍団だから申し訳ないが大体分かる同じだな。

 バルト王国は今回の不足物資の買付をする相手、余りゴネると輸出入に影響が出そうだな。アウレール王に伺いを立てておくか。仮想敵国じゃないが、個人の判断だと危うい。

 断ったから一旦差し戻した状態だ。戦勝祝いのパーティーの時が怪しい。国賓として招く相手は大臣級、まさか姫将軍本人は来ないと思いたい……来ないで下さいお願いします。

「やはり噂は事実ですか。世界は広い、義父レベルの戦闘狂が居るなんて……」

 マジックアイテムで強化前と同じ?つまり十代で円熟した義父と同等の強さなの?正しく化け物だな。だが王女故に出撃には制約が多いのが付け込む隙か?いや未だ敵じゃない、敵対していない。

 世界は広い。戦士としての壊れ性能の人外が、普通に他国にも居る。ウルム王国はジウ大将軍だけだったし、バーリンゲン王国には一人も居なかったな。賄賂と汚職の国には居ないか……

 今後のエムデン王国は占領地と自国内の強化になるだろう。縮小傾向になる軍の再編と強化、軍事費を使い過ぎたから色々と大変だが遣り甲斐は有る。漸く訪れた平和な時、次の戦争までだが……

「素で強化前か、強敵ですね。まぁ戦っても負けない自信は有るけど模擬戦はしない、勝っても負けても面倒臭くて大変だから」

「向こうは敵対する意志など無いでしょうけど、娘に甘いバルト国王の動向が読み難いのよね。模擬戦は私も反対、リーンハルト様が勝ったら求婚してくるわよ。何たって結婚の条件が自分より強い男らしいから、確かに面倒臭いわね」

 む、ザスキア公爵が溜め息を吐いた?彼女ですら予測不可能の親馬鹿、いや子煩悩?王女本人も淑女から求婚?そんな常識外れなの?父親はユリエル殿みたいな子煩悩な感じで、本人は貴族の常識を破る非常識なの?

 流石に他国とは言え国王から陳情されれば、アウレール王も条件付きで折れるだろうか?拒否だけでは外交は纏まらないから、摺り合わせて妥協点を見付けるのか?今から腹案を考えておくか?

 後宮警護隊のドレスアーマーより何段階か性能を落として、外見のデザインは凝った物で誤魔化すとか?流石に浮遊盾(フロートベイル)は駄目だよな。再来週には帰国されるが、急いで伺いを立てよう。

 そう言えば、アンドレアル殿から詫び状が来ていたな。魔法障壁の護符を託された息子のフレイナル殿がやらかした件について……禊(みそ)ぎの残党狩りは順調なのだろうか?予定では、そろそろ終わる筈だけど……

◇◇◇◇◇◇

 ウルム王国の残党狩り、実際は敗戦後に潜伏した旧コトプス帝国の連中を主体とした奴等だ。謀略好きな連中だけあり、リーマ卿が指導し分かり辛く暗躍してやがった。

 地方貴族に摺り寄り中央に伝手が有ると甘く囁いて反エムデン王国派に洗脳していく。実際に国の中枢に潜り込んでいたから可能だったが、今回で根絶やしに出来て良かった。

 俺の残党狩り任務も、このエデンバラ砦に逃げ込んだ連中を倒せば最後だ。漸く王命を達成し、アウレール王から嫁を与えられる。そう、複数の嫁をだ!

 本妻に側室が複数、つまりハーレムでウハウハ!ラブラブチュッチュの退廃的で淫靡で爛れた性活の始まりだ。妄想だけで、どうにかなりそうだ。

「フレイナル殿、エデンバラ砦は包囲した。逃げ出す場所はもう無いぞ」

 ヤバい、妄想していた事がバレたか?いや大丈夫そうだ。後一息だし、無様な失敗などしない。咳き込んで誤魔化す。

「コホン、あー御苦労だった。後は俺に任せてくれ」

 厳つい中年の騎士が報告してくれた。彼は聖騎士団員であり、俺の護衛と残党狩りの協力者だ。配下ではないので、俺に命令権は無い。

 聖騎士団員を部下みたいに命令するなと、父上からも厳命されている。立場は同列、だが今回は俺の王命に協力してくれる関係だな。

 リーンハルト卿が進めている宮廷魔術師と宮廷魔術師団員と聖騎士団や一般兵との関係改善の為にも、馬鹿な対応は出来ないのだ。

 俺はそう考えて歩み寄っているが、奴等は俺が女の腰に縋る情け無い屑男だと蔑んでいる。なので敵に対しては苛烈な対応をして、俺が屑男じゃないと証明している最中だ。

 まぁ初めての大規模戦争だったから、多少の怯えは大目に見て欲しいのが本音だ。ウェラーは『守護天使』で俺は『屑男』とは泣ける、情け無くて泣ける。

 徐々にだが、聖騎士団員達も一般兵達も俺を見直してくれている筈だ。兎に角、最前線で敵に突っ込む。無謀で蛮勇だが、脳筋達には一番の男気の見せ方だな。

「父上とは別行動になったが、最後だし問題は無いだろう。他国に逃げ込まれても面倒だし、此処で全員倒す」

 最初は父上と協力して残党狩りを行っていたが、奴等も仲間が減らされて不利になってきたら逃げ出すようになった。仕方無く追っ手も分けるしかなくなったのだ。

 残党共は全滅が理想だが、俺は追い込み過ぎるのも捨て鉢で暴挙に出るから不味いと思っている。だがそれを言うと弱気と取られるから言えない、言える雰囲気じゃない。

 残党狩りの任務を任された連中は気負っている。責任者の俺も、未だ見ぬ妻達の為に頑張っているからな。やる気が無いよりはマシだと思う。

「そうですな。敗残兵は野盗と変わらない屑共だから見つけ次第、全て殺して後腐れを無くすのが最良だな。残党死すべし、慈悲など無い」

「はぁ、そうですね」

 聖騎士団員のマジなトーンで皆殺しとか言ったのでドン引く。蛮勇とは言わぬが背を向けて逃げ出す連中まで追い掛けて殺すのはどうなんだ?

 アウレール王も残党共は全滅しろと言ったが、状況を考えて臨機応変に柔軟な対応をするべきじゃないか?女子供は見逃すべきだ、我等は紳士なのだぞ。

 青臭い理想論と馬鹿にするが、弱者をいたぶる事は正義じゃない。故に俺は女子供は見逃し、男だけを選んで全滅させている。紳士だから、それが正義だから。

「フレイナル殿も女だから子供だからと、情けを掛けずに迷わず攻撃してくれ。これは王命、逆らう事など出来ぬのだからな。奴等の中にウルム王国の王族の生き残りが居るらしい、出来れば殺して最悪は捕縛だ。逃がす事は後々の禍根となる」

「五月蝿いな、ちゃんと分かっている。敵は全滅させる、分かり易い勝利の為に……それが例え王族でもだ」

 わざわざ目を見て言う事か?コイツは俺が女や子供を見逃した事を知っていやがるのか?俺達は貴族だぞ、人殺しじゃない戦争しに来ているんだ。

 敵と味方と中立と、守るべき領民達との区別をつけるべきだ。女子供だけを助けるのは差別じゃなくて区別だ!それを嫌味を言って責めるな。

 王族の生き残りか……王都に居た連中は抵抗した連中以外は全て捕らえたらしいし、処刑は未だしていない筈だ。融和政策に血生臭い処刑は悪影響だからな。

 他国でも王族、だが反乱軍の御旗としては十分だから何としても殺すか捕らえろって事か。嫌になるが、これが戦争って奴なんだろうな……

「嫌なものだな。早く嫁を貰ってイチャラブチュッチュして癒されたいものだな」

 さて最後の残党狩りだ。エデンバラ砦の城壁は石と木で出来ているが、城門は木製だ。サンアローで破壊して中に乗り込み、建物をファイアボールで燃やし尽くす。

 最初に魔法で大ダメージを与えて反抗心をブチ折ってから、聖騎士団と一般兵が突撃。俺は弓兵等を潰して白兵戦の補助、砦内部に突入する時は魔法障壁で盾となる。

 この先頭で盾となる行為こそが英雄的行動、これをする事で評価が上向いている。良い噂が広まれば、嫁達の初期愛情度は高いだろう。正に一石二鳥!

「良し、行くか。俺の栄光と嫁達の愛情の為の礎(いしずえ)となれ、敗残兵共よ!」

 


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