古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

814 / 999
第808話

 同性愛と幼女愛を併発した性犯罪者予備軍とテーブルを挟んで対峙している。妹弟子である、ウェラー嬢に集った害虫が自分の提案で他国から引き抜いた同僚とは泣けてくる。

 先程逃げ出したと思った侍女が仲間を連れて、紅茶とカットフルーツを用意して戻って来た。フローラ殿に配属された専属侍女の二人だろう。まさか仕えし主が同性幼女愛好家とは思わなかったろう。

 フローラ殿と向かい合い、リゼルと並んで座っている。そろそろ袖を掴む手を離してくれないかな?病んだ同僚の視線が袖に突き刺さる、君は自己防衛で既に僕のお手つきとか誤解されたいんだな?

 本音を指摘されたからって怒って抓るなよな!

「先ずは聖戦の勝利と宮廷魔術師の正式な就任、おめでとうございます」

 笑顔で話し掛けてみる。貴族だから腹芸位はして欲しい、上司だし同僚だから円滑な人間関係は必要だぞ。いや、反応は鈍いか……幸先悪いな、大丈夫かな?

「そうですか?有り難う御座いますわ」

 当たり障りの無い話題から様子を見つつ、聖戦勝利と宮廷魔術師の正式就任を褒めた。バーリンゲン王国からの引き抜きだが、正式にエムデン王国に鞍替えした事になった。

 第七席は僕の最初の席次で思い入れが有るが、そんな事を言えば今は第二席ですよね!とか言われかねない。微妙な笑顔だが、内心は嫌われた?理由がアレ過ぎて嫌になるけどさ。

 相手を持ち上げたのに対応は、目は笑ってないし平坦な声で返された。もう少し周囲に気を使っても良くないかな?敵意をバリバリ向けるのはマイナス、敵意を隠さないのは貴族としては二流以下だぞ。

 その理由が色事、しかも同性の年下を取られたとか誤解でも酷過ぎて笑えない。だが嫉妬は危険な感情で、馬鹿な事を平気で行う損得や倫理観を投げ捨てるんだ。没落侯爵三家が良い例だよ。

「時間も少ないでしょうから単刀直入に聞きます。リーンハルト卿は、ウェラーさんの事をどう思っているのかしら?」

 直球で来たけどさ。それを問い質したいのは僕の方なんだけど?同性幼女愛好家の変態め、ウェラー嬢の事をどう思っているのか正直に自白してくれ!

 腕と脚を組んで睨み付けてきたが、自分の方が正しいと思っているのだろうか?いやいやいや、何故に僕が責められる状況になってるの?逆だよ。

 リゼルを見れば、目を閉じて下を向き首を振った。分かり易い仕草、つまり彼女は本気で僕が悪いと責めている訳か……同性幼女愛好家の癖に?

 まぁリゼルの態度は単純な呆れ顔だから、フローラ殿が何かしらの悪巧みを考えている訳じゃないな。どうしようもない変態、だが性癖を拗らせただけで害意は低いか……

「大切な妹弟子ですよ。彼女の才能は僕よりも大きい、僕は彼女に自分の持てる知識の全てを継承します。そして切磋琢磨する関係になりたいのです。彼女を肉欲の対象にはしていない。それは貴女もですよ、フローラ殿?」

 そう!魔術師として育てたい、限界まで育てたいんだ。才能は僕をも凌ぐ逸材、古代知識を噛み砕いて教えれば直ぐに頭角を表すだろう。

 衰退している魔法、劣化している魔術師。経済が力を持ち始めたからか、俗物的な魔術師が増えた。我々は知識探求を是とする生き物だろ?

 やはり彼女も僕よりも大きな才能が有るって言葉に強く反応した。僕は才能豊かではない、転生という反則でズルをしているだけだ。あと衰退した古代魔法を使えるか……

「ですが、ウェラーさんは宮廷魔術師になったら貴方との男女交際が始まると言ったわ。幼女愛好家の変態に、ウェラーさんは渡せませんからっ!」

 立ち上がり右手人差し指をズバッて擬音が聞こえる程の勢いで差された。なんだか彼女は、はっちゃけてないか?上司に対してコレか?爵位も役職も上の相手には、最低限の礼儀は守ってくれ。

 肉欲の対象にはしていないって言葉を選んだのはね、同性の貴女はウェラー嬢とは結婚出来ないからだよ。普通は恋愛対象にはしないだが、同性の恋愛には否定的なんだ。

 しかも僕に対して、幼女愛好家の変態って言ったな。悪いが僕とウェラー嬢は二歳しか離れていない、年齢差により幼女愛好は成立しない。そもそも僕はヘルカンプ殿下みたいな幼女愛好家を敵視している。

「ふふふ、僕とウェラー嬢の年齢差は二歳、幼女愛好は成立しない。それよりも同性で年の離れた、ウェラー嬢に粘着する貴女は何なんですかね?同性幼女愛好家ですか?」

 おおっ!一瞬で真っ赤になったぞ。人間って面白い、あんなに簡単に顔色を変えられるなんて。

「なななな、何て事を言うのですかっ!私はウェラーさんに邪な感情など抱いておりません。姉として妹を愛する気持ちが溢れているだけで健全ですからっ!」

 本人同意無しに姉を名乗るなよ。ウェラー嬢は嫌がっていたのだが、本人に接していながら苦手意識を持たれているのが分からなかったのかな?

 最初は構えて挑んだけど、実際は只の酷い変態なだけで大した脅威も無いな。実力行使で強引に迫る訳でもないし、リゼルとウェラー嬢に邪な思いを抱いて接するなって警告だけで良いか。

 敵意や反発心が僕に集中すれば、リゼルやウェラー嬢は安心出来る。基本的には善人だし、僕には大した脅威に感じない。肉欲の対象に見られてないなら逆に安心、ミッテルト王女達の方が怖いって!

 いっ痛い。抓られた、リゼルに抓られたぞ。横目で見れば不満そうだが、この対応に文句が有るのか?確かに病み女で怖いが、脅威になるかは別問題だぞ。

『リーンハルト様?もっと確実にきっぱりはっきり私に手を出すなって言って貰わないと困ります。その現状維持でも良いか!みたいな対応は悪手ですわ』

『だって本当に大した事なくない?妄想は酷いけど、実行に移すかは別問題だろ?強引に卑劣な行為はしないと思うけど?』

『嫌なものは嫌なんです気持ち悪いんです。しっかり引導を渡して下さい』

 リゼルが顔を寄せて内緒話をしてきたが、フローラ殿の片眉が急角度で持ち上がったし魔力の制御が乱れて滲み出て来たぞ。魔力の放出は敵意の現れ、感情が乱れたは言い訳だよ。

 周囲に魔術師は居ないが、不穏な空気を感じたのだろう。フローラ殿の侍女が嫌な顔をして睨んでから離れた。一応仕えし主だからさ、あからさまな嫌悪は止めてあげてね。本人は気付いてないけれど……

 まぁカーム殿に言い寄られていた、ジゼル嬢の嫌がり方を思えば納得かな。同性愛者、否定は差別になるかもしれないが当事者になるのは嫌だな。僕も同じ様な思いをされた事が有るし、釘は差しておくか……

「リゼルがですね。貴女から向けられる視線は、過去に自分を視姦してきた変態達と同じだと言っています。見目良い淑女は普段から異性に性的な目で見られる事が多いと聞きますが、何故に同性の貴女から同じ様な視線を感じるのか?同性愛者じゃないなら不思議ですよね?」

 そう、女性は異性の視線には敏感らしい。良く胸や尻に視線が向くのを見えなくても感知するらしい。それを何年もやられていては、異性じゃなく同性からでも分かるか。

 そして自分も異性から同じ視線に曝されているのだから、リゼルの気持ちも良く理解出来るのだろうか?額に汗が滲んできたのは、恥ずかしい行動がバレていたのが分かったからだな。

 同性愛の浸食度は未だ軽度か、もしかしたら自覚が無かったのかも知れない。真っ赤になって慌て始めた。意味も無く手をバタバタさせているし、視線も泳ぎ始めた。もう大丈夫じゃないかな?

「そそそ、そんな事は有りませんわ!私は殿方の方が好き……とは正直言えませんが、家を存続させる為には何時かは旦那様を迎えなければ駄目ですから。でっでも、リーンハルト卿は対象外ですから誤解しないで下さいませ。私の好みは頼れる年上の男性ですからっ!」

 いや、僕が振られたみたいな誤解を生む発言は止めて下さい迷惑ですから。頼れる年上男性ね?男性全般に嫌悪感を抱いているみたいだけど、年上好きなら安心だ。

 間違っても、ザスキア公爵が勧める『新しき世界』に嵌まってくれるなよな。年下好きが開花したとか冗談でも笑えない、勘弁して欲しい。割と切実に永遠に……

 まぁ言葉に出して否定しておくか。彼女を慮って否定しないと認めた位の事は言われそうだから、キッパリはっきり否定しよう。僕は貴女に性的な興味は無い!

「いえ、全く全然これっぽっちも誤解していません。ウェラー嬢に対しては節度ある態度で接して下さい。間違っても強引に迫るとかは無しですから、リゼルも同様ですからね」

「勿論ですわっ!お互い節度ある付き合い方を心掛けて下さい。間違っても、ウェラーさんに邪な思いをぶつけては駄目ですからね!」

 だから何故、僕が責められるんだ?僕は止める方で、貴女が止められる方ですからね。本人も恥ずかしがっているし、ウェラー嬢とリゼルの件は一応は大丈夫かな。

 最初は凄い病み女として不条理な狂気の行動を取るかと心配したが、未だ自己を恥ずかしいと思えるのなら安心した。未だ間に合う、大丈夫引き返せる。深みに嵌まるな、引き返せ!

 何時の間にか、フローラ殿の専属侍女が戻って来て深々と頭を下げて感謝の意を示してくれた。まさか主が同性愛者とか、自分の身体も心配だったのだろう。マグネグロみたいに、専属侍女に手を出しては捨てる悪い主も居るのだから……

◇◇◇◇◇◇

 舞踏会まで暫くは自由時間、だが書類が山積みなので執務室で仕事をする。舞踏会の精神的疲労を考えると明日は午前中は休みたいから、幾らか仕事を片付けておきたいんだ。

 先ずはウルム王国関連の最新の報告書を読む。終戦後に纏められた最終的な報告書になる、人的被害の総数や消費した物資に予算。有りとあらゆる項目が纏められている。

 参加した近衛騎士団や聖騎士団に人的被害は無いが、参加した貴族達の戦死者リストには二桁の被害が有る。殆どが前線で戦った下級貴族だな。戦果を求めて無理をしたらしい。

 貴族の死亡者リストには出来るだけ亡くなった時の状況が記されている。名誉か不名誉か、その死の価値が分かるようにだ。怯えて逃げて後ろから斬られたとかは最たる不名誉だろうな。

 祖国の為に戦う事は貴族の義務であり、義務を果たせば恩賞が貰える。その恩賞の多寡を決める重要な項目だから、出来るだけ調査し精査されている。今回は不名誉な戦死者は無しか……

 派閥の関係で葬儀に参加する必要が有る者も多い。悲しいかな、これが戦争の現実だ。アレ?裏切って行方不明だった、カルステン元侯爵と同行した連中の死体が発見されたのか。

 裏切り者の上位貴族の扱いは面倒臭いから、最初から殺す気だった訳だ。裏切りの対価が大き過ぎるから、後腐れ無く処分した。戦争のどさくさで、エムデン王国側に裏切り者として殺された事にすれば良い。グンター侯爵みたいにね。

 あとグンター侯爵に雇われていた『ケルベロス』と『忘却の風』だが正式にウルム王国冒険者ギルド本部が依頼していたのかよ。国の強制依頼じゃなく、グンター侯爵の手の者に金を積ませて依頼した。

 だが戦争には極力関わらない方針を曲げて迄依頼を受けたのは、幹部が賄賂を受け取ったからだとはね。処罰として旧ウルム王国冒険者ギルド本部は解散、代表と幹部連中は財産没収の上で国外追放か。

 普通は処刑だが聖戦だから甘くしたのかな?だが追跡調査した彼等の行き先がデンバー帝国?一悶着有るだろう。そしてエムデン王国冒険者ギルド本部が代行するのか……オールドマン代表は喜んだろう。

 エムデン王国の冒険者ギルド本部も勢力を拡大している。地方都市の支部も力を付けて虎視眈々と本部の権力を狙っている。敗戦国とはいえ、元は同等規模の本部だったから。上位陣が一掃出来たのは良かった。

 ウルム王国の残滓など不要、その他のギルドは支部としてエムデン王国のギルド本部の支配下に収まった。これでウルム王国関連も取り敢えず纏まった、後は担当者に任せれば大丈夫かな。

 さて、舞踏会の開始時間も近付いて来た。そろそろ準備という入浴(拷問)の時間か、国王以下の各国の代表も参加するし断れないんだよ。残念ながら……

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。