古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第82話

 リラ・ライラック嬢の結婚を祝うパーティーに招かれた、指名依頼を『ブレイクフリー』として請けているので参加させて貰った。

 流石は王都に本店を構えるライラック商会の会長だけあり自宅も豪華だ。下手な男爵より大きな屋敷、豪華な内装……

 招待客も取引先の商人関係から得意先の貴族達と一定以上の方々なので我々は浮いている。

 

「リーンハルト様、このドレス似合ってますか?私、変じゃないでしょうか?」

 

 ライラック商会に仕立てを頼んだイルメラのドレスは見事の一言に尽きた……

 黒を基調として銀糸の刺繍を施したデザインは普段は控え目な彼女にしては大胆に肩口を露出しウエストを締め付けスカート部分は踝までフレアーに広がり大人の魅力を引き出している。

 胸元には僕謹製のレジストストーンを配したネックレス、両手首にも僕謹製の銀細工にトルコ石を埋め込んだブレスレット、髪飾りも僕謹製の銀細工にフローライト(蛍石)を組み込んで鷹の羽根を模した……

 普段は着飾らない彼女の為に色々と奮発してしまった。

 元々物作りが好きな僕はアクセサリー類を作り過ぎてしまったんだ。勿論、魔力付加はネックレスだけで他は純粋な装飾品だ。

 

「む、大丈夫だ。良く似合っているよ」

 

「リーンハルト君、私はどうかな?」

 

 ウィンディアは普段の快活さとは逆に露出の殆ど無いライトグリーンのドレスだ。首元から手首、踝まで緩やかで流れるデザイン。 ドレスの生地に部分的に金糸と銀糸で花を型取った刺繍を施している。

 胸元を飾るネックレスの他は両耳にルビーをあしらったイヤリングを付けている、ドレスで手首が隠れているのでブレスレットは付けていない。

 

「む、大丈夫だ。良く似合っているよ」

 

「誉め言葉が同じ、私はどうかな?」

 

 緊張して上手く誉め言葉が出て来ない……

 

 エレさんは……メノウさんの見立てたドレスはライトブルーでフリルとリボンを多用している。

 イルメラやウィンディアは大人のデザインだが、彼女は……その、少し年齢を下げたデザインかな?

 同じネックレスに大き目な髪飾りを付けている、ラビスラズリ(瑪瑙)でアクセントを付けた。

 ラビスラズリは母親であるメノウさんの名前に合わせてみました。

 

「そうだね、可愛いよ」

 

 頭を撫でたい衝動に駆られたが我慢した、今頭を撫でたら子供扱いになってしまう。

 

「じゃ、ライラックさん達に挨拶に行こうか?」

 

 本来ならパーティーが始まった後に花嫁に近しい人達や身分の高い人達が先に挨拶をして僕達みたいなオマケは後回しになるのだが、ライラックさんに相談して父親同伴で花嫁にパーティー開始前に挨拶させて貰う事にした。

 お祝いの他に護衛として紹介する為にだ、女性陣はリラ嬢の護衛として近くに侍る事になった。

 長旅だし同性の方が都合が良い場合も有るし実力も十分に有るから問題は無い。

 屋敷の花嫁控え室にライラックさんとリラ嬢が待っていてくれた。

 長椅子に座るリラ嬢と脇に立つライラックさん、絵になる情景だ……

 ウェディングドレスは本番まで着ないので今夜は珍しいビロード生地のドレスだが襟元や袖口にフワフワの毛皮を巻いている、見た事の無いデザインだが似合っている。

 初めて見るリラ嬢はライラックさんが溺愛するのが分かる美人さんだ、多分だが二十歳前後だろうか?

 大商人の令嬢にしては珍しく綺麗な金髪を肩口で切り揃えている、ロングヘアーが流行なのに……

 

「ご成婚、おめでとうございます。これは細やかですが祝いの品です、僕が錬金で作りました」

 

 誕生日とかのお祝いパーティーに呼ばれた場合、手ぶらはマナー違反だ。

 今回はライラックさんの名前に関する高山植物のライラックの花をあしらった銀細工のブローチを作った。

 

「まぁ!有り難う御座いますわ。綺麗……お父様、このライラックの花、五弁花よ」

 

「ほぅ?我が故郷の言い伝えをご存知でしたか……」

 

 通常のライラックの花弁は四枚、だが稀に五枚の花弁を持って咲く個体も有る。

 これを「ラッキーライラック」と呼び幸運の花として珍重がられる風習がコーカサス地方には伝わっている。

 

「ラッキーライラックです、リラ嬢の新婚生活が幸せに包まれる様に……」

 

「有り難う、リーンハルトさん。王都に来て故郷の言い伝えで祝って貰えるとは思わなかったわ、本当に有り難う……」

 

 そう言って、その場で自分の胸元に付けてくれた。

 後で聞いた話だが彼女の旦那さんは幼なじみで大恋愛結婚だったそうだ。

 だがライラックさんに認めて貰う迄に時間が掛かり結婚適齢期ギリギリまで伸びてしまったとか……

 白(銀)のライラックの花言葉は、「美しい契り」「青春の喜び」「若き日の思い出」と結婚と幼なじみとは関連性が有り余計に喜んでくれた。

 贈った装飾品をその場で身に付ける事には深い意味が有るのだが、相手は他の人の花嫁だし問題無いだろう。

 挨拶を終えて少しだけ結婚披露パーティーをたのしんで帰る予定だったのだが……

 

「おお、リーンハルト殿もパーティーに呼ばれていたのか?奇遇だな、我々もだ」

 

 デオドラ男爵とジゼル嬢に捕まった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「はっはっは、リーンハルト殿のゴーレムの素晴らしさは俺がライラック殿に教えたのだ。大層喜んだのか丁寧な礼状を貰ったぞ」

 

 貴方でしたか、この指名依頼の原因を作った方は……

 イルメラ達は予定通り先に帰した、少しだけだがパーティーの雰囲気も楽しめたし料理も食べていた。

 懇親タイムに突入する前に早々に帰せたのは良かった、ウィンディアは残りたがったがデオドラ男爵が帰した。

 対外的に今の僕はジゼル嬢の婚約者候補の一人、他の女性を侍らす訳にはいかない。

 僕も帰りたかったが、そうもいかない、現実は厳しい……

 

「俺とジゼルと一緒に居る所を周りに見せる事に意味が有る。ほら、もっとジゼルと寄り添え!」

 

 力強く肩を押してジゼル嬢の方へ押しやるが何とか踏み止まる、周りは僕等の会話は聞こえてないと思うがチラチラと盗み見ている。

 僕等の関係が噂通りか確かめているのだろう。

 

「いや、駄目でしょう。僕はジゼル嬢の数居る婚約者候補の一人です。これでは彼女に迷惑が……」

 

「いえ、構いません。元々今夜は壁の華の予定でしたし有象無象を追い払うにリーンハルト様は最適です、私もパーティーを楽しめますから大丈夫ですわ」

 

 そう言って輝く笑顔を僕に向けて袖口を軽く掴まないで下さい、リラ嬢が凄い笑顔で僕に手を振ってますが彼女とは誤解です!

 

「さて、何人か一緒に挨拶をしたら少しジゼルの相手をしてくれ。先ずは主賓に挨拶に行くぞ」

 

 いえ、僕は既にリラ嬢にはお祝いの言葉を贈ってるんですが……そのまま連行されて本日二回目の挨拶に向かう。

 

「ご成婚おめでとう、永き恋が実ったと聞いている」

 

「ご成婚おめでとうございますわ」

 

 デオドラ男爵、情報通だな。幼なじみとの結婚を知っていたのか……

 

「デオドラ男爵様、ジゼル様、有り難う御座いますわ。リーンハルト様はデオドラ男爵様の関係者だったのですね?」

 

「そうだな、俺が気に入ってジゼルの婚約者にしている。コイツは強いぞ、何といっても俺と引き分けて息子達に圧勝した男だ」

 

「まぁ、ジゼル様の?それはデオドラ男爵様の期待の程が分かりますわ。

でも繊細な細工も作れるのにお強いのですね。ほら、このライラックの銀細工もリーンハルト様に頂いたのです」

 

 彼女の胸元には僕がプレゼントしたライラックのブローチが輝いている。

 

「見事な銀細工ですわね……リーンハルト様は私には何もプレゼントしてくれないのです」

 

 何故、そんなにも悲しそうな顔が出来るんだ?

 

「まぁ?リーンハルト様、私に贈るより先にジゼル様に何かプレゼントを贈らなければ駄目ですわ!」

 

 リラ嬢、結構本気で怒ってます、主賓を怒らせたら駄目ですよね?

 周りからも何を話しているのか気になって此方を伺ってます。不味いな、何とかしないと……

 

「ジゼル様の好きな花は何でしょうか?」

 

「私の好きな花ですか?そうですわね、薔薇が好きです」

 

 薔薇、薔薇だと?男が女に薔薇を模したアクセサリーを贈るのは意味深だが悠長な事は言ってられない。

 空間創造から上級魔力石は……全て使ってしまったな。

 核になる宝石はビックボア狩りで手に入れたルビーしか手持ちは無いが仕方ないか、赤いルビーは薔薇に合う。

 

「ジゼル様、お手を……」

 

 嬉しそうに差し出す右手を包み込む様に握り一気にブレスレットを錬成する。周りも輝く魔素に気を取られて注目を集めてしまった。

 

「凄い、綺麗な細工のブレスレット……」

 

 手の甲に大振りの薔薇を型取り中心にルビーを配し茎と葉と刺を手首に巻き付けるデザインにした。

 薔薇は定番中の定番だからイメージが出来たので良かった、迂闊に何が良いとか言うんじゃないな、反省。

 

「有り難う御座いますわ、リーンハルト様……」

 

「気に入って頂ければ幸いです。では私達はこれで……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 リラ嬢と別れた後、何人かの貴族や商人とデオドラ男爵とジゼル嬢と共に挨拶をして世間話に花を咲かせた。

 もっとも僕とジゼル嬢は相槌と質問されたら答える位で自ら会話に参加はしない、これは顔見せであり一緒に行動する事に意味が有る。

 

「この後はリーンハルト殿には聞かせられない話になる、暫くはジゼルの相手をしてくれ」

 

 そう言うと身分の高そうな中年貴族の方へ行ってしまったが誰だろう?

 僕も貴族の一員として女性をエスコートする事は学んでいる、二人分の飲み物を貰い壁際に置かれた椅子にジゼル嬢を座らせ自分は脇に立つ。

 彼女が座った所で飲み物を渡す、半身を彼女の前にして立ち周りからの視線を遮る。

 

「しかし二人になっても挨拶が多いですね」

 

 デオドラ男爵が離れてから直ぐに何人かの男女が僕等に挨拶に来たが……

 

「リーンハルト様を無視して私だけに話し掛けて来た連中は忘れて結構ですわ。お父様でなく私に言い寄っても無駄な事を理解出来ない有象無象ですわ」

 

 結構毒を吐くお嬢様なんだよな、彼女は……

 

「逆に君を理由にして僕に言い寄って来た連中は注意が必要かい?」

 

 殆どがジゼル嬢に自分を売り込みに来た連中だが何人かは彼女より僕に関心が有った、特に若き商人のライザックと同じ派閥のコリン子爵の次男のグランジは……

 

「ライザック様はリーンハルト様の空間創造のスキル狙い、どうせ密輸入とか碌な考えは無いでしょう。

グランジ様はリーンハルト様の将来性を買っています、彼自身も有能ですから縁を結ぶのは良いかと思いますわ」

 

 流石だな、デオドラ男爵が腹心として大切にしているのが分かる。

 彼女のギフト(人物鑑定)は読心術に近い凶悪なスキルだ、考えを読めるって交渉には凄い便利だ。

 

「分かった。有り難う、参考にするよ」

 

「それと、申し訳有りませんでしたわ……」

 

 彼女は作り物めいた表情をする、何時どんな顔をした方が効果的かを理解しているみたいだ。

 だが今は本当に申し訳なさそうな顔をしている、そんなにブレスレットを強請った事を気にしていたのか?

 

「ん?ブレスレットの件なら気にしていないよ」

 

 リラ嬢の誤解を解くのが大変そうだが、王都を離れる彼女が誤解をしていても不都合は無い。

 一応僕とジゼル嬢はデオドラ男爵が決めた婚約者候補の関係だ。

 

「違います、その……私のギフトでリーンハルト様の心を無断で読んだ件です。何度も……です」

 

 ああ、そっちか。確かに屋敷に呼ばれた時はずっとスキルを発動してたな。

 

「うん、そうだね。確かに心を読まれるのは不愉快では有るが君の立場なら仕方ないだろ?

それに普通は気付かれない、気付くのは魔術師くらいだから気を付けた方が良いよ」

 

「心を読まれても気遣われたのは初めてです。でもあんなに早く気付かれて対応されたのは初めてですわ」

 

 僕は彼女の疑問を曖昧に微笑んで誤魔化した……

 


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