古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第816話

 王立錬金術研究所の所長として、リズリット王妃から新たな課題を与えられた。既存のポーション類の品質向上だが、ネクタルの研究への布石だろう。

 建前的には人命救助の成功率アップだが、リズリット王妃の欲望が透けて見えた。まさか最終的にはネクタルの量産化とか企んでないよな?流石に無理だぞ。

 満足そうに先に退出する、リズリット王妃の背中を見詰める。全く先に帰るって事は目の前でむくれている、セラス王女の機嫌を回復させろって事だよな。

 

 バレない様に心の中で溜息を吐き出す。はぁどうするかな……

 

「今回の依頼、セラス王女的には興味の薄い部類ですね?」

 

「まぁそうです。錬金で作成するとはいえポーションは薬品でしょ?マジックアイテムとは違うわ」

 

 確かに薬品には違いないが、全く興味無いって言い切ったよ。自分の欲望に忠実なのは母娘共にだが、可愛げが有るのは間違い無く娘の方だね。

 今もテーブルに肘を付いて不機嫌さをアピールしているが側に控える、ウーノの方が挙動不審だな。仕えし王女が不機嫌なんですが、どうしましょう?とか?

 此方を拝むな、何とかするから。あまり焦らしても仕方無いから、ご機嫌を回復させるかな。

 

「確かにポーション作成は、セラス王女の求める錬金とは違うのかもしれません。ですがポーション類の品質向上は、リズリット王妃の言う通り意義は有ります」

 

「でも、御母様の思惑は別に有るわ。リーンハルト卿も知ってると思うけど、最終的にはネクタルの模倣よ。オリジナルは手が出せないけど複製ならってね」

 

 先ずは回復ポーションから、成果が出れば徐々に難易度を上げていって最終的にはネクタルの解析から複製。どれだけ時間が必要なのかしら?って言ったよ。

 セラス王女の心配は、僕がネクタル絡みの件で拘束されて、自分の課題を研究する時間が無くなると思っている。確かに同時に複数の研究など出来ないからな。

 ポーションの品質向上など何年も無かった事だから、下手をすれば年単位の研究期間が必要だと思ったか?

 

「御母様は焦っています。御父様の迎えた新しい側室達は皆十代半ばの美しい姫君達ですから、老いていく自分に我慢が出来ないのでしょう。実際に御父様の寝室に呼ばれる回数も減りましたし」

 

 む?生々しい話を放り込んできたな。旦那の寝室に呼ばれないって、それは焦るか。しかも十代半ばの美しい姫達って、他国から僕の側室にと打診が有った方々だ。

 僕基準の年齢設定だから、同世代の十代半ばなんだ。若いライバルの登場に焦りを感じているって、原因の何割かは僕だな。罵られなかっただけマシなのだろうか?

 確か他国から新しく迎えた側室は三人、全員が自分の年齢の半分以下じゃ焦らない方が可笑しいか。アウレール王に幼女愛好家の噂が立たなければ良いのだが……

 

「御父様も新しい側室にデレデレですわ。私より年下の寵姫を愛でるとか、失望しました」

 

 あ?これ駄目なパターンだ。アウレール王、愛娘がゴミを見る様な表情で吐き捨てるように失望したって言いましたよ。自分より年下の寵姫に現(うつつ)を抜かしているって思われてます。

 四十代後半と十代半ばなら、貴族の恋愛で言えば普通の年の差です。申し訳有りません。僕の所為です、でも父親としての威厳を回復させる手段が思い付きません。

 僕の為に女絡みの悪戯はしないって約束の所為ですが、新しい側室と宜しくヤッてるんですか?セラス王女が呆れる位にデレデレなのですか?

 

「その、側室の件は国家間の関係性の構築の為の……その、高度な政治的な思惑が折り重なってですね」

 

「無理に難しい言葉で、御父様を擁護しなくても結構です。リーンハルト卿は御父様を甘やかし過ぎます。無理難題を吹っ掛けられても問題無いどころか、予想以上の成果を出し続けるのですから」

 

 腕を組んでそっぽを向かれた。この人は本当に可愛い、年上だけど。

 

「王命とは普通に達成して当り前の事なのです。より良い成果を上げる事が臣下としての責務なのですが……そうですね。ポーションの品質向上の他にも何か希望は有りますか?」

 

 この言葉に横を向いたままだが、口元が妙に緩むのが分かる。正面に居るウーノからは、何とか笑いを堪えるセラス王女が見えるだろう。勿論だが完璧なポーカーフェイスを保ってはいる。

 ここで笑えば不敬罪で処罰だが、流石は王宮勤務の上級侍女だけあり見事に表情を変えずに堪えている。両手は力を込めて握り締めているけど。

 今、彼女は一生懸命考えている。希望が色々有り過ぎて、何を頼むか決め兼ねているのだろう。ポーションの品質向上の研究の合間だからと、頼む内容を考慮しているのかな?

 

「少ない保有魔力でも補助を含めて効率的に魔法が使えるようになる、補助器具とかどうです?」

 

「何ですか?それって?」

 

 おおっと、勢いで振り返っただけでなくテーブルの上に上半身を乗せて迫って来たぞ。

 

「えっと、落ち着いて下さい。先ずはテーブルから降りましょう。ウーノ、紅茶を新しく替えてくれるかな」

 

 机の上で潰された薄い胸の谷間から目を逸らす。見てしまえば不敬罪成立、僕であっても処罰の対象になる。挙動が怪しいウーノにも席を外させる。

 少し気分を切り替えて話を進めよう。予想の通り、セラス王女は自身の少ない魔力保有量により魔術師になれなかった事を悔やんでいる。マジックアイテムの収集癖も元を辿れば魔法を使いたいという願望からだろう。

 ロッド・オブ・ファイアボールみたいな使い捨てのマジックアイテムも有るが、それでは満足しなかった。だが使える魔法の種類は少し考えないと駄目だろう。レジスラル女官長の意見も聞かないと駄目かな?

 

 その辺の調整も込みで、セラス王女にも魔術師になって貰うかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 セラス王女の要望を叶える為の根回しとして、今度はレジスラル女官長に面会を願ったが招かれたのは国王の謁見室だった。何故だ?

 

「何だ?不思議な顔をして?セラスの事ならば、俺にも報告しないでどうする?」

 

 非常に機嫌が悪そうな、アウレール王と苦々しい顔をしながら頭を振っている、レジスラル女官長が向かい側に居る。空気が重い、護衛の近衛騎士団員達が頭を下げて退室していったが……

 貴方達の仕事は国王の護衛でしょ?何故に申し訳なさそうに、国王の許可無く退室するの?ねぇ、戻って来てよ仕事でしょ?愚痴は懇意会でって何さ?

 駄目だ。近衛騎士団員達は、僕が来たら退室する様に事前に言い含められていたみたいだ。確かに王妃に王女にネクタル絡みなら、近衛騎士団員でも聞かせられない内容だ。

 

「最近、セラスが俺を塵芥(ちりあくた)を見る様な目で見るのだが、何故だ?」

 

「はぁ、それは……」

 

 それは色々とヤラかしているからです。とは言えない。光球魔法のお披露目の時とか、彼女が主催の催しを御自分で仕切りたがるから嫌われると思うのです。

 王族というか、アウレール王もロンメール殿下もだけど自己顕示欲が旺盛だと思う。僕も元は王族だが、王族時代でも彼等程は自己顕示欲は強くなかったと思う。

 セラス王女も自分の姿形も模した巨大セラスゴーレムを希望したりと、現代の王族なのかエムデン王国だけなのか分からないが結構グイグイ前に出ようとする。

 

 あとは新しい側室達の件だと思います。セラス王女は潔癖症ではないと思うが、年頃の淑女としては父王が自分より年下の若い側室を溺愛するとか思う事も多いのでは?

 その件についても、僕絡みなので最大限のフォローはしますが現状厳しいと思います。国政絡みとは言え、成人している十代半ばの少女ですから幼女愛好家とは言わないが近いモノは感じます。

 

「今回の舞踏会もだ。活躍していない王族の出席を控えろと言ったのだが、それが気に食わないのか機嫌が悪化している。最近は茶会に招いても理由を付けて欠席する始末だ」

 

「そうでしょうか?先程お会いしましたが、それほど不機嫌とは思えませんでしたが?」

 

 いえ、物凄く不機嫌でした。リズリット王妃の思惑の押し付けが、あのマジックアイテムが大好きで自分が立ち上げた『王立錬金術研究所』の課題にも口出しされた事が原因です。

 その不機嫌さが、同じく普段から自分の出番を奪う父親にも反発してしまうのだと愚考します。それと誰かが政略結婚の駒に使うとか吹き込んだ者が居ます。

 リゼルが調べていますが、他国からの謀略か彼女の事を良く思わない同じ王族の誰かなのか?有能なのに父親として、もう少し上手く立ち回れないのか不思議なのです。

 

「それはな、お前だからだ!俺の扱いは酷いんだ、俺はセラスを甘やかしたい構いたいのにだ」

 

 両手を振り回して力説されたが、レジスラル女官長が頭を抱えて蹲ったが、国王として臣下に対して見せる仕草じゃないです。もしかしなくても口封じされそうで怖いのですが?

 目も血走っているし鼻息も荒い。興奮している相手に何を言えば落ち着いてくれるんだ?セラス王女が父王に甘えさせる方法?そんなモノは知らない、分からない、分かりたくない。

 だが臣下として仕えし国王の心労を和らげるのは重要な仕事、丁度色々と許可を得ようとしていたから良かったのか?

 

「だいたいだ。お前はだな、セラスと仲が良いが嫁にはやらんぞ!誰の嫁にもやらん、生涯俺の手元に置いておくのだ!」

 

「それは……いえ、アウレール王の御心のままに」

 

 嫁になど要りません。後継者候補の参加資格になり得る事ですし、僕はモンテローザ嬢の件が落ち着いたら、ジゼル嬢を本妻に迎えてイルメラ達を側室に迎えて幸せになるんです。

 もう女性絡みの騒動など不要、止めて下さい迷惑です。深々と頭を下げて、アウレール王が落ち着くまで愚痴を聞く事に徹する。今は何を言っても無駄、迎合しても窘めても無駄。

 最近は愚痴を聞く事が多くないかな?それも次期宮廷魔術師筆頭の責務なのだろうか?まぁ腹に溜めた不満を吐き出せば落ち着くから、時間が解決してくれるから……多分。

 

「それで、セラス絡みの相談とは何だ?」

 

 十五分ほど愚痴を言い続けた事で多少の気持ちは晴れたのか、漸く本題を振ってくれた。見事に空気と化していた、レジスラル女官長が紅茶を用意してくれた。

 アウレール王の茶器コレクションを断りなく使用出来るのは、後宮の裏の支配者である彼女だけだろうな。

 僕が前に贈った、ジュベルヘイム殿の作品を模倣した耐火硝子製のカップを気に入ってくれて愛用してくれている。モノがモノだけに量産は出来ないのだが、ローラン公爵が欲しがっているんだ。

 

「王立錬金術研究所の件ですが、リズリット王妃の推しの課題について不満が有ります。彼女が立ち上げた研究所ですから、御自分の希望の課題を研究させたいのでしょう」

 

「あーうん、そうだな。リズリットが、娘の趣味にまで口を出したのだな。一応聞いてはいるし許可も出した。だがそんなに不満なのか?リズリットはセラスにも必要な事だと言っていたが?」

 

 リズリット王妃も根回しをしたみたいだが、セラス王女が必要になるのが何年先かは言わなかったのか。つまり具体的にポーションの品質向上の件だとは知らないのか?

 僕とザスキア公爵を追い込んだ件で、リズリット王妃の立場も微妙になった。追い打ちを掛ける様に新しい若い側室達がライバルとして後宮に招かれたし。危機感マックスだろう。

 頭の中で言う事を整理する。リズリット王妃に不利な言い回しは後々で問題にもなるし、上手く説明しないと国王と王妃の不和を招いたとか言われそうで怖い。

 

「今回の王立錬金術研究所への課題ですが、既存のポーションの品質向上です。怪我人の治療に関して死亡率を減らす為に……」

 

「建前としては理解出来るがな。既存のポーションの研究させて、何れはネクタルの解析と量産に繋げる訳か。アレも懲りない、懲りてない。ザスキアと事を構える事を選ぶとは愚かな……」

 

 説明を途中でバッサリ切られた。確かに最終的な目的はバレバレだが、アウレール王の苦悩の表情からすれば怒ってはいない。愚かとは言ったが、リズリット王妃を切り捨ててもいない。

 仕方ないで済ませる感じだが一応出来る限りのフォローと、セラス王女への贈り物として『魔法補助器具』の作成の許可も貰えた。使える魔法の種類に関しては、後日改めて協議が必要。

 何種類か候補を用意して決めて貰う事にした。『ライト』『シールド』『ヒール』辺りが無難かな。量産はせずに王家にのみ納品にするので、研究は僕だけで魔術師ギルド本部も噛ませるなと念を押された。

 

 確かに微弱な魔力しか保有せずに魔術師を諦めた連中も多いと聞くから、魔術師ギルド本部が絡むと大事になるか?だから王家の預かりにしてくれたんだな。

 アウレール王の配慮には頭が下がる思いだ。その事を上手く、セラス王女に伝えよう。父親の許可と配慮のお陰で『魔法補助器具』の開発が可能になりましたとね。

 

 


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