古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第830話

 妖狼族の女神ルナ様が我が屋敷に気楽に降臨するという衝撃の事実を知った。これでまた僕に対する妖狼族の態度が変わるだろう。自らが信奉する女神が頻繁に僕の屋敷に降臨するとなればね。

 既にフェルリルとサーフィルなど、僕を女神ルナの神官みたいに扱っている。止めてくれ!僕はモア教の敬虔なる信徒であり、いくら他宗教に寛容なモア教でもそろそろヤバい。

 既に手遅れかも知れないが、ユエ殿に相談して女神ルナ様に自重を促して貰おう。まぁ無理か、女神が人間の都合で動く事など有り得ないからな。自分で被害を最小限に抑えるしかないのか……

 

「それで、私達に重要な話が有るとの事ですが?」

 

「ユエさんと密談していた事を考えると、妖狼族絡みでありバーリンゲン王国絡みでも有りますか?」

 

 ユエ殿と話している間に、ジゼル嬢とリゼルの話し合いは終わったらしく今は二人並んで座り僕に質問をしてきた。因みにだが秘密の話し合いの参加者は他に、イルメラさんとウィンディア。

 ニールにクリス、アーシャとフェルリルにサーフィルの十人だ。秘密を知るのは最小人数が基本、エレさん達は遠慮して貰ったが必要に応じてイルメラさんが教えるだろう。

 僕も先程知った衝撃の事実を未だ飲み込んでないのだが、話しながら考えを纏めていけば良い。参謀の二人が協力してくれれば何とかなると思うので、ジゼル嬢とリゼルは本当に頼みますよ。

 

「先ずユエ殿から教えて貰ったのだが、妖狼族の信奉する女神ルナ様は巫女を通じて神託を授ける。嘘偽りの無い事実だと念頭に置いて、これからの話を聞いて欲しい」

 

 いきなり女神とか話を振っても誰も驚かない?幾ら僕が大事な話だからと言っても普通はうさん臭くないかな?それどころか頷いてるし……いや、数人は神妙な顔をしているが様子見か?

 

「知っています。最近ですが頻繁に屋敷の中で神威を感じる事が有りましたから……」

 

 神威(しんい)……神の威光、流石はモア教の僧侶イルメラだ。僕は全く気付かなかったのだが彼女は気付いていた。気付いていながら僕に教えなかったのは、脅威になり得なかったのだろう。

 もしも僕に害意が有ったのならば、彼女は直ぐに行動を起こした筈だから。モアの神を奉ずる彼女だが、他宗教の女神にも敬意をもっているのかも知れない。宗教関係は微妙な問題だし、突っ込まない方が良いな。

 因みにだが、ウィンディアやアーシャ、ジゼル嬢も知らなかった感じだな。ウィンディアなど『えっ?女神様って本当に居るの?』とか言ってるし、君もモア教徒だろ?崇める神様は信じようよ。

 

「僕も半信半疑だったけど、神託の内容が僕しか知らない事もあったからね。女神ルナ様は自分を崇める妖狼族の行く末に関して、かなり詳細な予言をする。

 バーリンゲン王国での初期の迷走の原因は巫女であるユエ殿がダーブスに捕まっていたので族長である、ウルフェル殿は神託を貰えずに独自の判断で僕の暗殺に手を貸してしまった。

 捕まっていた、ユエ殿が僕との関係を改善出来なければ妖狼族は絶滅していただろう。大国の重鎮の暗殺の報復が苛烈を極めるのは報復もそうだが見せしめの意味が大きい」

 

 この言葉に当時の事を思い出したのか、フェルリルとサーフィルが下を向いてしまった。ウィンディアが睨んだが、イルメラさんが諭した。僕を絶対的に信奉する彼女が許したのなら、妖狼族の連中も安心だ。

 実際に一族の大切な巫女を誘拐されて脅迫されたのだがら情状酌量の余地はあるし、今は非常に役立っているから結果的には暗殺事件は僕にはプラスに働いたんだ。まぁデメリットも確かに有るが、些細なものだけどね。

 バーリンゲン王国絡みで得たものなど、妖狼族を傘下に収めた事と、リゼルを仲間に出来た事だけだな。あとは嫌な思いでしかないが、今後の行動で最終的な縁切りが出来るだろう。

 

 反乱に加担する屑共の殲滅を以って、バーリンゲン王国の浄化が完了する。エムデン王国との過去の拗れた関係も清算される、似非な被害者意識など持たせない自業自得だぞ。

 

「女神ルナ様は妖狼族を繁栄に導く限り稀有な事だが、僕に対しても神託を下してくれた。モンテローザ嬢がバーリンゲン王国で巻き起こす騒動の進捗と結果と対策についてね」

 

 この言葉に一番驚いたのは、フェルリルとサーフィルだった。まさか自分が信仰を捧げる神が、他宗教で他種族の僕に対して個人に神託?そんな馬鹿なって事だろう。だが僕と妖狼族を含めてだぞ。

 その辺の事をユエ殿が小声で教えている。あくまでも妖狼族の為に、僕を絡めた神託である。女神ルナが妖狼族最優先から僕にも配慮をしてくれる神託に切り替えた事は驚いて良いよ。僕も驚いたから。

 イルメラの態度の表情も変わらないのだが『リーンハルト様の偉大さに女神様も気付かれた事は良い事です』とかは止めて下さい。女神様に上から目線とか恐れ多くて困ります。流石はイルメラさんなのか?

 

「正直、大事だから本来ならばエムデン王国に報告しなければと思うが……他宗教の女神の神託です!とは言えないから、ボカシて警告はしているが完全ではないね」

 

 エムデン王国に仕える僕が国家の行く末の神託を秘密にしているのが罪か?って言われると微妙なのだが。エムデン王国は宗教国家じゃない君主制で、アウレール王が頂点であり国教であるモア教よりも権威は国王が上。

 女神ルナは妖狼族の、他宗教の女神だから。幾ら神託だといっても国政に影響を与えられるかと言えば、否だ。余計に拗れるから言えない、言わない。最悪は僕でも排除対象になる。

 それ程に宗教を国政に絡めるのは危険であり、モア教の程よい支配階級との距離感が多くの国々に国教として迎えられる理由だろう。他にも細かい事は有るが、迂闊に他人に話せない事なんだ。

 

「バーリンゲン王国には、ロンメール殿下とグーデリアル殿下が滞在されています。既にモンテローザ嬢が国内に潜伏し暗躍している件は報告済みです。ですが彼女を捉えられないのが現状ですわ」

 

 リゼルは僕とロンメール殿下との親書のやりとりの内容を知っている。ボカシた内容でも相当の注意をして欲しいとお願いしている。ロンメール殿下は腹黒謀略系だから、バーリンゲン王国を良く理解している。

 グーデリアル殿下とは接点がないので、ロンメール殿下を通じてだが……現状は微妙な関係、父王と弟が信頼する臣下との距離は難しいだろうな。後継者候補として国外に出歩き殆ど王都に居ないし。

 武人肌な方らしく、雷光を献上したら大喜びだったらしいから疎まれてはいないと思いたい。有能な方なので、最悪の事態にはならないと思うけどバーリンゲン王国は常に最悪以上の事をするから心配だ。

 

「そうだね。第四軍が常駐し、多数の官僚や官吏に護衛の連中も王都に滞在している。でも地方に潜伏されたら見付けるのは難しい。

何故ならバーリンゲン王国の連中は表面上は属国として従っている振りをしているが内心では反抗している。いや自分勝手な理由で僕等を恨んでいると言っていい。地方の貴族連中は相当酷い、絶対に捜索の協力などしない」

 

 汚職・賄賂・私利私欲に走る連中が多い。特に中年層以上の連中が酷い。アブドルの街を任せた、タマル殿に聞いたが控えめに捉えてもバーリンゲン王国の貴族はイマルタ殿みたいな屑だな。

 領民達はそうでもないが辺境の少数部族達はピンキリだ。部族間紛争はどちらが正しいとかは抗争期間が長すぎて分からない。先に手を出した方が悪いとか、報復が苛烈過ぎて非情だとか……

 スピーギ族は略奪部族だったが、カシンチ族は周辺部族を纏めて協力的だった。無理な要求をせずに僕等を立てた交渉をしてきた。

 

「それで、女神ルナ様は当初バーリンゲン王国での騒乱は確実。僕の最適な介入は妖狼族を従えて三ヶ月以降だったけど、変化があったらしく新しく神託を授けてくれた」

 

「はい。これから先は私が説明します。女神ルナ様はリーンハルト様が私達を従えて介入する事が最適と御神託を下されましたが……」

 

 アーシャの膝の上に座っていた、ユエ殿が引き継いで説明してくれた。妖狼族関係であり女神ルナの巫女だから、詳細説明は私がします的な?微笑ましい幼女が国家存亡の企みを笑顔で説明する姿に複雑な気持ちになる。

 かなり具体的な時期や地名、敵の個人名まで正確に神託として説明してくれる、女神ルナ様って凄い。普通は神の御言葉や御神託って結構あやふやで曖昧で多くの解釈が出来るモノだけど。

 勝手に隠居した元宮廷魔術師筆頭のマドックス殿が生き残りの宮廷魔術師団員を集めているとか、バーリンゲン王国の冒険者ギルド本部の代表、フリンガ殿がモンテローザ嬢に洗脳されてるとか細かすぎるぞ。

 

「……と言う流れで、エムデン王国に隔意有る貴族達が結束し反旗を翻す流れです。エムデン王国の方々の被害を最小限にする事が現状厳しく有りますが、今警告しても効果は薄いそうです」

 

「まぁ表面上はエムデン王国に従っている振りをしているからね。それに他国の地方に潜む連中など、現地の協力が無ければ捕縛は不可能。これを機に腐敗した連中を一掃する事も可能かな」

 

 大筋の説明を終えたが、皆真剣な表情で聞いてくれ考えている。僕がイルメラ達に望む事は助力でなく、僕の此れからの行動を不審がらず信じて貰う為だけだから。それだけの為に女神ルナ様の神託を教えたんだ。

 ジゼル嬢とリゼルは、もう少し手伝って貰う。特にリゼルは旧ウルム王国領の復興支援に同行して貰い、ベルヌーイ元殿下の捜索に協力して貰うので屋敷の留守を任せるのは表向きはアーシャ、裏はジゼル嬢になる。

 政務はラビエル子爵達に任せて、僕は御爺様の領地の灌漑事業を任せていたシルギ嬢と土属性魔術師達、それと親族のダルシム・ナジャフ・ソルベ・ルドルフの四人を補佐として連れて行く。

 

「うわぁ大変だね。でもリーンハルト君、忙し過ぎじゃないかな?旧ウルム王国領の復興支援に行って直ぐにバーリンゲン王国に行く事になるんでしょ?休む暇がないよ」

 

 ウィンディア、君呼びが治らないね。今は身内だけだから良いけど、対外的には注意してくれ。最愛の人が不敬罪で処罰とか笑えない。そんな事を言い出す奴が居れば誰であっても僕は戦うが、正当性は向こうに有るんだぞ。

 アーシャとイルメラは僕の全てを肯定してるっぽいし、思考を読んでいるジゼル嬢は不機嫌だ。ユエ殿はドヤ顔だが、フェルリルとサーフィルは恐縮しちゃってる。

 ニールは留守中の守りは任せて下さいと言って、クリスはバーリンゲン王国の屑共は主様と二人で皆殺しとか呟いて怖い。でも大体合ってる、僕とクリスで突撃して妖狼族がフォローの予定だし。それで大概の敵は何とかなる。

 

 家族への説明は終わった。これで来週から旧ウルム王国領に復興支援に赴く事になる。アルドリック殿との調整は、彼の希望を叶えてあげよう。

 正直、王宮の女性達に君臨する、教祖ザスキア公爵率いる『新しき世界』の連中が勝手に動き出しているらしいからさ。そんなに酷い要求は突き付けられないと思うんだ。

 彼等の家族や親族の女性陣からの猛烈な干渉に耐えられれば良いけど、有る程度双方が妥協して合意だろう。そういう流れにしてあげないと、彼等が色々と困る筈だから、それは哀れだから。

 

「さて、週末は魔法迷宮バンクに籠るよ。ネクタルの大量確保とレベルアップ、鍛錬に経験値に資産と三倍美味しい攻略だね!」

 

 気持ちを切り替える為に明るく言ってみた。一家の主として家族を幸せにする為に、お金って大事だって理解した。資産は膨大だけど、ネクタルの確保を怠ると色々と危険なんだよね。

 アルドリック殿絡みで、ザスキア公爵はネクタルを使う。直接的に彼の親族には配らないだろうが、圧力を掛けられる上位陣には少数配るだろう。もう既に四桁は確保したけど未だ欲しいって言われたし。

 レベルも100を超えたけど世界最強には程遠い。義父連中には勝てないし、エルフ族の上位陣にも勝てない、デスバレーの奥地のドラゴンにも勝てない。僕は未だ未だ未熟、鍛錬あるのみなんだよな。

 

「リーンハルト君が幼女愛好家じゃなくて良かったよ。もしもそうだったら私達幼女パーティになってるもん」

 

 いや久し振りに『もん』って聞いてホッコリしたけどさ、僕は幼女愛好家は否定します。それを容認したら十代前半の未成年パーティになるじゃん。

 そう言えば、嫌な事を思い出した。ヘルカンプ殿下が『永遠の幼女万歳!』とかいって、ザスキア公爵にネクタルを強要して領地に飛ばされたらしいんだ。

 彼からすればお気に入りの幼女が永遠に幼女の外見を保つ訳だから、理想の幼女が出来上がる訳で……ん?そうすると僕に幼女愛好家の連中が集まってくるのか?

 

 嫌な考えがよぎったが、僕は知らない協力もしない。でも幼気な幼女を保護する意味では成人女性を外観だけ若返らせて彼等の寵愛を授ければ……いやいやいや、それは駄目な思考だな。

 

 


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