古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第852話

 巨大な昆虫系モンスター、ウデムシをクリスと共に倒した。成体が七体に幼体と卵は数えきれない。その胃袋からは、討伐目標のオークが大量に見つかった。正直、吐きたい程にグロいです。

 未消化の人型モンスターですから。問題は、討伐したウデムシが全てなのか?捕食されたオークが異常繁殖した全てなのか?それを知るには周辺を探索するしかないのだが……

 モンスターの死体を処理している連中が精神的に酷く疲労している事。オークと思っていたが、蓋を開ければ噂程度でしか存在が確認されていなかった巨大なウデムシが相手だ。

 

 猟師達ですら、噂は聞いた事が有るが嘘や憶測が入っていると思っていたくらいだ。実際に初めて見た連中が殆どで、僕ですら転生前を合わせても実物は初めてみた。

 本来のウデムシは不快生物であり、体長は数㎝、足を広げても20cmも無い。蜘蛛と蠍の両方の外見的特徴を持つが毒は無い。だが肉食であり、小さければ脅威ではないが巨大だと餌は人間サイズ。

 誰だって捕食などされたくないし、食われて死ぬとか最悪だ。情報の少ない巨大で凶悪な気持ちの悪い肉食昆虫、最悪な相手だ。幸いというか、僕とクリスが苦労せずに倒したので、そこまでの絶望感は無い。

 

 ただ未知の生物であり、自分達が今迄培ったスキルが使えない、通用するか分からない事が怖いのだろう。

 

「リーンハルト様の魔法は凄いですね。こんなにも綺麗に甲殻が切断されてるとは驚きです。鏡みたいなツルツルした切断面で、俺の顔が映りますよ」

 

 解体作業を見ていたら、スティー殿が話し掛けて来た。自分達が討伐した分の素材の回収と討伐証明は……どの部位になるのだろうか?肉は食べれないから捨てるので、幼体は外殻を剥いでいる。卵は普通に処理だな。

 解体作業が終わったら僕が空間創造に回収する。彼等の臨時収入だからネコババはしない。だが領主達がどうするかは分からない。まぁ冒険者ギルド支部に納めれば勝手に何割か徴税されるので大丈夫だろう。

 クリスは少し離れた所の木の上に登り周囲の確認をしつつ身体を休めている。正直、解体作業は臭いがキツい、生臭い臭いが漂っている。この臭いに釣られて、残りの連中が来てくれたらと淡い期待もしている。

 

 昆虫系の臓物って不思議だ。動物と違って血管が無くて臓器の間の隙間から循環しているみたいで、動物と違い血管を傷つけなければ出血がおさまる訳でもなさそうだ。つまり体液が飛び散って見た目も臭いも酷い。

 呼吸はしてるみたいだが、口じゃなくて胴体部分の気門?から取り入れるらしい。つまり魔法で頭部に水で覆う『操水術』や喉を焼く『灼熱水』等の水属性魔法は効果が無い、酸欠では倒せない。

 頭を刎ねても暫く生きているらしいし、本格的に昆虫系モンスターを討伐しようとすれば、相応の準備と下調べが必要だな。今回は準備なく大物に当たってしまったが、何とかなるだろう。何とかするしかないだろう。

 

「厚みが3cmもある甲殻って凄いですよ。しかも軽いし、加工は難しくないでしょうが色合いが気持ち悪いかな」

 

「ぬめりを伴う光沢、ナメクジとかカタツムリの粘液みたいですね。性能が高いから高額買取かと思いますが、見た目で判断されたら買い叩かれるかな?」

 

 スティー殿が剥ぎ取った甲殻を持ち上げて見せてくれた。幼体ですら外殻が3cmも有る。未だ羽化して時間が経ってないのか比較的柔らかい、それでも強度は鉄よりも有りそうな素材。

 濡れているような青味がかった色合い、表面は滑らかで凹凸は無い。鎧や盾にすれば剣の攻撃を滑らせて躱せそうだな。昆虫系の外殻は防具の素材になるけど、性能の割に人気は低い。

 ドラゴン種の皮の防具が圧倒的な人気、だが現状エムデン王国内では希少なはずのドラゴン種の素材が在庫有りという不思議な状況になっている。主に僕の仕業だけど……

 

 金を出しても在庫無しで買えなかったのが金を積めば買えるとなれば、我慢して貯めて本命を欲しがる。他の値段なりの高性能な鎧兜が売れないらしい。

 職人は珍しいドラゴンの素材を弄れるから大歓迎だ、が商人は在庫を抱えて困っている。だから比較的に底値で買い漁っている。ドラゴン素材の武器や防具も所詮は消耗品だから、何時かは底をつく。

 お金の使い道がないと零したら、アシュタルとナナルがその気になって投資目的で買い漁っている。経済とはお金を溜め込まず回転させる事が大切だそうだ。まぁ職人も商人もニッコリだから良いのか?

 

 完全なマッチポンプみたいだ。自分でドラゴン種を大量に討伐して素材を流して、売れない適度に高品質で底値な武器や防具を買い漁り、時期を見て売り捌き差額で利益を得るとかさ。

 

「リーンハルト様?何か黄昏ていますが、疲れましたか?」

 

「いや未知なる素材の利用方法とか流通方法を考えていたんだ。流石に王家に献上するには色々と微妙だけど、報告書だけっていうのも問題だし」

 

 一応、王命である復興支援の一環での依頼された討伐だ。その結果は報告書に纏めて報告する義務が有る。見た目はアレだが、エムデン王国内でも討伐数が少ない上級モンスターだから報告無しは有り得ないだろう。

 冒険者ギルド本部と支部にも報告書を送って対応の準備をさせておく。根回し大事、希少なモンスターの素材だから横取りとか独り占めとかはさせない。あと少数は魔術師ギルド本部に渡して研究させるかな。

 軽く柔軟性も有り強度はソコソコ、耐熱とか耐寒とかの性能はこれからの調査次第。もしかしたら魔法攻撃に対しての抵抗が有るかも知れないが、僕の魔法は物理攻撃ばかりだから今は調べられない。

 

「対応は領主様に丸投げで宜しいかと思います。ローラン公爵様には別途で報告だけしておけば、後は彼等の仕事ですよ。冒険者ギルド支部には、俺の方から報告しておきます。素材の横取りはしないと思いますが、ギルドの買い取り価格は……」

 

 さっきもボヤいていたが、見た目の気持ち悪さで買い取り価格を下げられたら堪らないって話だな。高品質でも需要と供給のバランスで価格は変動するから、それに大量にあるから希少価値って意味でも微妙?

 

「うーん、そうかな?丸投げで大丈夫かな?あと僕の方も王都の冒険者ギルド本部に報告するから、支部に急いで買取を任せなくても大丈夫かな。それなりの価値は有ると思うけど、適正価格を調べるには魔術師ギルド本部の調査の後かな」

 

 珍しいからって高値が付くとも限らない。もしかしたら希少価値って意味で高値で買い取ってくれるかもしれないし、価値が分からないからと安く買い叩かれるかも知れない。

 領主軍の兵士達は簡単だ。領主殿が全てを回収し、あとで兵士達に報酬として幾ばくか払うだけだろうな。猟師達よりも報酬は少ないかもしれないが、僕には何も出来ない。税収は領主の特権だから、犯せば友好的な相手でも敵対するだろう。

 ローラン公爵とは友好関係を維持したいので、スルーさせて頂きます。僕から慰労金という形で別途に報酬を渡せば兵士達の不満も少しは収まるだろうし。

 

「リーンハルト様!剥ぎ取りが完了致しました。この近くに水場が有るそうなので立ち寄りたいのですが宜しいでしょうか?」

 

 猟師達が整列して報告してくれた。領主軍の連中も剥ぎ取りは終わったらしい。猟師達は自分の稼ぎだから嬉しいのだろう。少しでも恐怖や不安が収まれば儲けモノだが、水場なんてこの辺に有るのか?

 

「休憩を兼ねて水場に行こうか。でも水場って分かるの?この辺まで入り込んだのは……」

 

「はい。凡その地形は把握しています。此処は谷あいですし、向こうに群生しているのはオモダカです。あれは水場に生える植物ですし、下流に流れる川の位置も把握しています。

普段は水場は獣も近付きますので、危険を避ける意味でも近付きません。必要な時に注意して近付く事にしています」

 

 うーん。僕なら川が有れば沿って移動するかな。確かに動物だって水は必要で肉食の獣は水を飲みに来る餌を待ち構えているとも聞くし、危険な場所には極力近付かないって事か。

 確かに体液でベタベタだし衛生面からも洗い流したいし、用意した水を無駄遣いしたくないって事もあるだろう。川魚でも捕れれば食事の足しにもなるし、断る意味はないな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 猟師達の案内に任せて自然林の中を進み、十分程歩いたら突然拓けた場所に出た。水流で泥が洗い流されたのだろうか?大小の岩で組み込まれた細い川が見えた。流れる水の幅は1mも無いが水流には勢いが有る。

 川魚は居無さそうだな。澄んでいるとは思うが、飛沫で白くしか見えない。猟師達は両手で水を汲み顔から洗い始めたが、先ずは手を洗いなさい。領主軍の兵士達も猟師を見習って洗い始めたが、スティー殿は腕を組んで彼等を見詰めている。 

 まぁ本来ならば、僕を優先しろとか言うのだろう。でも僕は汚れてないから必要が無い、いや衛生面には気を遣っているから汚くしていないよ大丈夫だよ。

 

「リーンハルト様は飲むのを控えて下さい」

 

 いや飲まないよ。流石に貴族が普通に流れる川の水を手で掬って飲まないよ。飲みたそうにもしてないから、ちゃんと立場を分かっているから大丈夫だから!

 

「ん?危険なのかい?」

 

 真面目な表情で言われたが、流水は比較的に安全だと聞いたけど問題が有るのか?それならば猟師達を何故止めなかったのだろうか?疑問を口にする前に、スティー殿が教えてくれた。

 

「腹を壊すとかの症状が出る事が稀に有ります。身体を洗うだけなら問題は無さそうなのですが、口に入れるには煮沸が必要です。貴族様には用意した水を飲んで下さい。極マレに奇病が……」

 

 スティー殿の教えてくれた奇病とは、寄生虫の事らしい。動物の体内に寄生している寄生虫が産んだ卵が、糞を経由して川の中に入り込むらしい。卵は肉眼では確認出来ないほど小さいので飲む前に取り除く事は不可能。

 何故寄生虫だと分かったのかと言えば、奇病を発症して死んだ人間の体内から動物に寄生している寄生虫が見付かったからだそうだ。恐ろしい事に死体の眼球で蠢く寄生虫を発見し、腹を裂いたら内臓にも寄生していたそうだ。

 数年に一人が寄生虫により死亡しているので感染率は限りなく低いと思われるが、流石に僕が寄生虫にやられたら困るのでって事らしい。モア教の教会も色々と調べているらしいが、症例が極端に少ないので治癒方法は未だ分からない。

 

 自覚症状が無く、どれくらい前に寄生されたかも不明。実際に発病した者の中には住居を街に構えていて、生水など十年単位で飲んだ事が無かったそうだ。つまり潜伏期間というか寄生されて自覚症状が現れる迄に年単位の時間が掛かる?

 これは分からないし防ぎようが無い。寄生虫を取り出すといっても現実的には難しい、いや不可能じゃない?治癒魔法も意味はなく、ポーション類も効果が無い。発病したら死ぬだけ。

 でも感染率は極端に低いので恐ろしいと思われていても、実際に何か対策をするとかもない。精々が生水は煮沸して飲む位か。でも熱い時期とかお湯とか飲みたくないから、煮沸せずに飲んじゃう連中は多そうだよ。

 

「別に無理に生水なんて飲まないよ。でも前に冒険者養成学校の実地訓練の時に比較的安全な水場の情報を教えて貰ったけど、寄生虫とかの話はなかったな。そのまま汲んで飲んでいたけど大丈夫だったのかな?」

 

「良く分かっていませんが、この領地に生息する一部の動物に寄生して居るそうです。寄生虫にも寄生し易い動物と寄生しにくい動物が居るそうで、一説にはキツネに寄生する事を好むとか。

猟師達がキツネを狩って皮を剥いで肉を食おうとすると、結構な頻度で肝臓や腸内に寄生してるそうですね。煮たり焼いたりすれば大丈夫だそうです。自分も子供達には野生のキツネには触るなと厳命しています」

 

 キツネか……特定の動物にのみ寄生する寄生虫ね。毒性学は好きだけど寄生虫は別だな。興味が無いから調べる事はないけど、危険な事は理解した。僕も野生のキツネが現れても触らない事にしよう。

 本当に、スティー殿の雑学の知識は凄い。聞いていて飽きないし為にもなる。この人が案内人で良かった。冒険者だそうだし、何か有れば指名で依頼をだしても良い、有能な冒険者と知り合えただけでも嬉しい。

 身嗜みを整え終わり、各々が自由に身体を休めている。水場は危険だが拓けた場所だし見張りも交代で立たせているので安心だ。僕もクリスも周囲を警戒しているから大丈夫。

 

 この後はウデムシとオークの捜索で精神的な負担を強いるので、今はゆっくりと休んで下さい。

 

 


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