古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第865話

 敵対するバーリンゲン王国、モンテローザに洗脳された国の対応を協議する為に王宮の謁見室に集められた。アウレール王がいらっしゃる前に一悶着有ったが些細な事だ。

 王家は独自の情報手段、伝書鳩の技術を持っており場合によっては、ザスキア公爵の諜報部隊よりも早く正確な情報の遣り取りを行っている。今回は両殿下の危機なので間違いなく使っているだろう。

 謁見室に入ってきた、アウレール王は不機嫌さを隠していない。少し焦燥感も見られるし、状況は良くないのだろう。さて、僕への指示は何だろうか?

 

 既に諸侯軍はソレスト平原に集まりつつあり情報封鎖の為に、ニーレンス公爵とローラン公爵の諜報部隊がバーリンゲン王国領に侵入している。流石と言って良いだろう。

 あの国の杜撰な情報管理体制ならば、フルフの街まで侵攻している情報が王都に届く事は相当遅らせる事が出来る。両殿下の脱出の手助けになる事は間違いない。

 あとは両殿下の身柄を確保し粛々と領内に侵攻していけば良い。どの道、あの連中なら唆されて殆どがエムデン王国憎しで敵対している筈だ。順番に殲滅していけば良い。

 

 なら何が不安なのだろうか?両殿下の安全が確保されていない?既に危害を加えられていたら焦るだけでは済まないだろうし何だろう?他に懸案事項とか有ったかな?

 

「リーンハルト、ご苦労だったな。お前には何時も王命の途中で呼び出す事が多くて心苦しく思っている。ザスキアも苦労をかけた」

 

 第一声が労わりの言葉と謝罪とか勘弁して下さい。予定通り、そう予定通りなのです。この時期に王都に戻されるのも想定済み、呼ばれなければ予定を早めても戻って来ました。

 声を掛けられた、ザスキア公爵と共に頭を下げる。労わりの言葉に遠慮してしまう事は、相手の気遣いを無にする事なので無言で有難い御言葉として頂く。

 少し気になるのが、横目で見たザスキア公爵が頭を下げた時に浮かべた笑みだ。アレはアウレール王には見えないが、僕や横に並んでいる連中には見えた筈だよな。何かの牽制?

 

「有難う御座います。王命を達成出来て安心しております」

 

「ウルム王国の残党も殲滅、生き残りの王族を泳がせたお陰で周辺諸国の思惑も何となく掴めましたわ」

 

「そうだな。アレの存在は良き生餌として機能してくれた。諸外国への対応を決めるに有効だったぞ」

 

 ん?変な言い回しだな。顔を上げてアウレール王とザスキア公爵の遣り取りを思い返す。良き生餌?泳がせていた?いやいやいや、ベルヌーイ殿下はフレイナル殿が逃がしてしまったんだよ。

 確かに生かして身柄の確保は出来たし、デンバー帝国や他の国からの諜報部員も多数捕縛出来て各国の動向もそれとなく聞き出せた。バルト王国以外の国は多かれ少なかれ諜報部員を送り込んで来た。

 バルト王国は、何と言うかベアトリクス王女が親エムデン王国な感じなのか我が国に不利益な行動はしなくなっている気がする。その内、同盟でも申し込まれそうだが……

 

 中立よりのシグ王国とレネント王国の動向次第だろうか?デンバー帝国とルクソール帝国は仮想敵国だな。此方の隙を伺っているのがバレバレだ。

 両国の軍事同盟は確定かな?いや、勝算も無く公に攻め入られる隙は作らないか?エムデン王国の土台を揺るがすような事にしない為にも、モンテローザ嬢の対応を早急にしないと駄目だな。

 あと、この国王と公爵の怪しい会話だが……もしかしなくとも僕の配下の失点を周辺諸国の動向を伺う為の布石だった事にして汚点をなくしてくれるのだろう。

 

 バニシード公爵の面白く無さそうな、それでも言葉を挟んで不興を買うのは嫌だが腹立たしい表情で理解した。別に失点の一つや二つは構わない、失敗も無く順風満帆な方が知らずに慢心しそうなのだが。

 

「褒美は後で渡す事にするとして、現状の理解はしているな?」

 

「はい。報告書の内容は頭に入れていますわ」

 

 ベルヌーイ殿下絡みの話は此処で御終い。フレイナル殿の汚点は無くなり同時に、参謀連中との確執も手打ちって事だな。国外の難題に当たるのに国内でいがみ合う事は止めろって話だね。

 まぁアルドリック殿や参謀連中は、ザスキア公爵率いる『新しき世界』の淑女の方々が物理的と精神的に色々と仕掛けたから、僕としては同情しかないので今更手討ちって言われても何も思う事は無い。

 だが改心した、フレイナル殿の過去の汚点が公的には無くなる事は望ましい。本当に別人になった、実は僕みたいに中身が違うとか?いや、流石にそれは無いか?

 

「既にソレスト平原に諸侯軍が集まりつつあるし、敵の目や耳を潰す部隊も先行として送り込んだ。ロンメールはフルフの街に到着し、グーデリアルもバーリンゲン王国の王都を発つ頃合いだろう。

二人がフルフの街を制圧するタイミングに合わせて、モレロフの街とスメタナの街及び周辺の小砦や村も制圧する。フルフの街を前線基地として、グーデリアル達の安全を確保してからバーリンゲン王国を墜とす」

 

 アウレール王が静かに、そして反論を認めさせない強い意志の籠った言葉で『バーリンゲン王国を墜とす』と言った。属国であるけれど、アウレール王の中では敵国認定なのだろう。

 僕も賛成、あの国は本当にどうにもならない。駄目さ加減が煮詰まっている。エムデン王国は良く我慢した方だと思う。あれだけ普段から敵対行動を取っておきながら属国です味方ですとか笑えない。

 ウルム王国の件が一応落ち着いた今ならば、本腰を据えて取り掛かれるだろう。僕はあの腐った国を亡ぼす為に、妖狼族を率いて乗り込まないと駄目なのだが……どうやって話を切り出したら良いかな?

 

 安易に参戦したいとか言えば手柄の独り占めとか言われかねないし、既に諸侯軍が纏まりつつあるのだから割り込みも厳しい。少数精鋭を生かして遊撃隊として敵国深く切り込む?

 それと最低限の条件を決めて貰わないと駄目だな。パゥルム女王達の身柄の扱いについてとか、彼女達は絶対にエムデン王国に全力で縋り付いて来るからな。最悪はグーデリアル殿下達と共に居るかも知れない。

 自国の危機に王族が王都から出るとか普通に有り得ない事だけど、彼女達に普通は当て込まらない。自身の身柄の安全の為に、必ず僕等を巻き込む筈だ。故に亡国の王族となる彼女達の扱いの確認は必須。

 

「勝利の条件について、幾つか聞いても宜しいでしょうか?」

 

「ん?何だ改まって?構わないが何が知りたいのだ?」

 

 僕の言葉に参加者全員の視線が集まる。いやいやいや、皆さんだって勝利条件の確認は必要でしょ?両殿下の安全確保は絶対条件だけど、何処まで何をして良いかの確認は必要でしょ?

 

「首謀者のモンテローザの生死は問わず。ですが洗脳系のギフト持ちなので安全を考えて見つけ次第、殺す事で宜しいでしょうか?」

 

 一応、事前段階で洗脳系のギフトの恐ろしさは伝えているし捕縛でなく殺害前提で話を進めている。だが公の場で国王の意思を確認しなければならない。女子供だからと安易な助命は駄目なんだ。

 この言葉に殆ど全員が頷いている。普段は甘いとか優しいとか言われている僕が殺す事を推奨した事に対して、僅かながら動揺というか未だに信じられないとか思った者も居たけどね。

 悪いけど彼女は絶対に殺さなければならない。彼女を洗脳した、モリエスティ侯爵夫人の為にもだ。彼女と接触した直ぐ後に異常な行動を始めたから、疑う者が居るかも知れないしね。

 

「構わない。逆に助命を言い出す奴が居れば共に処罰する。他には何かあるか?」

 

「バーリンゲン王国への損害の度合いの許容範囲と、敵対していない連中の対応。特にパゥルム女王やミッテルト王女達への待遇についてです。亡国の王族の対応ですが、一応敵対行動をしない場合についてです」

 

 ベルヌーイ元殿下の場合は自国が敵対行動をしていたから、抗った敗戦国の王族として対応した。だが洗脳されずに反乱に巻き込まれただけの場合、流石に敵国の王族としての対応は不味いと思う。

 洗脳された連中が敵対行動を起こせば洗脳されてない連中も便乗して敵対行動をするのが、あの困った国の連中だ。その場合は情け容赦無く共に殲滅するが、巻き込まれた連中の扱いが敵国の捕虜なのか難民なのか?

 あと施設の破壊については、どれ位まで許容するのか?城壁や砦は破壊して良いのか?田畑は戦場となれば荒らして良いのか?確認しないで荒らした場合、戦後に補償しろとか言われるのも困るし。

 

 これって参戦する皆さんも必要な確認事項ですよね?マリオン将軍の驚いた顔は、事前確認なく攻め込むぜぇ!とかではないですよね?

 

「これは驚いたな。清廉潔白、慈悲深く優しいといわれる者の言葉ではないぞ。流石は軍属、容赦無いな。何処まで破壊して良いかの確認とはな。いや、何処までも壊したいから上限を教えろか?」

 

 バニシード公爵がわざとらしく驚いたとか言ってるけど、何処まで破壊して良いかの確認じゃないぞ。戦争に明確なルールを設けないと只の破壊行為と変わらないんだよ。

 戦場に立つ者は自分の命を懸けて行動するのに、その判断基準に不明瞭な部分を残して自己判断とか求めちゃ駄目なんだ。理性を持ち続けるには必要な事で、安易な自己判断を求めれば暴走する。

 戦場での略奪が最たるもので、アレは敵対する者の処遇を決めないから敵だから何をしても良いとか自己判断しちゃって行動するんだ。駄目なものは駄目って明確に指示する必要が有る。

 

 戦争を主導する僕達にはね。

 

「必要な事ですよ。バニシード公爵は戦場で明確に参戦した配下に指示出来るのですか?貴方の判断は、アウレール王の意向に沿っていると絶対の自信が有りますか?僕には無いので、確認が必要なのです」

 

「敵対する者には容赦などしないし、抵抗するなら排除する。投降するなら助命するで良かろう?複雑な命令など末端の兵士には理解も判断も出来ないだろう?分からなければ上官に報告し指示を仰げばよいのだ」

 

 ドヤって感じで教えてくれたけど、それは大前提です。僕は王族の対応についてと、戦場で白黒が明確な場合は良いけどグレーな時の判断基準だよ。それと戦場で都合良く上官に連絡が取れるとは限らない。

 判断を保留して上官の指示待ちも有りだけど、即時判断しないと命に係わる事も有る。まぁ条件付ければどんな場合も想定できるから、最初に指示出来る事は指示しろって事です。

 どうにも、バニシード公爵は僕のイメージを損わせる為に言い掛かりに近い事を言ってくるよね。これは慈悲とか優しいとか関係ない部分だと思います。

 

「バニシード、そう噛みつくな。確かに明確な方針と指示は必要、先ず敵対していない王族や貴族は捕虜として拘束。領民に関しては罪を問わないが、難民は受け入れない。住んでいた街や村で大人しくさせていろ。

街や村が焼けてしまった場合は、臨時の受け入れる場所を探して送り込む。それについてはフルフの街に常駐させる参謀連中の指示を仰げ。但し無暗な虐待や殺生はするな、それと略奪は禁止する」

 

 参謀連中を最前線基地に常駐させるのか?アルドリック殿達も大変だな。難民の受け入れ先の指示など、戦場の推移を正確に把握しないと難しいし物資の把握も合わせて必要だな。

 この役目は僕に振られると思っていて、如何に最前線に出るか悩んでいたけど違うのかな?アウレール王が求める僕の役割ってなんだろう?

 

「それと損害の度合いだが、基本的に敵対した者達が籠る砦に街や村は破壊しても構わない。だが降伏勧告は二回はしろ。降伏勧告を無視するならば敵として扱う。問答無用での焼き討ちは許可しない。

それで難民が多くなるとかも有るだろう。だがそれは自業自得、攻めた者に責任は問わない。奴等が非道な事をしても我等が習う事は無い。それは絶対に守れ。他の条件は参謀連中に纏めさせる」

 

「アウレール王の指示に従いましょう」

 

 バニシード公爵が不満げに従ったが、てっきりアウレール王の不興を買うかと思った。でも大事の前の小事って事で不問にしたのかな?今此処で政敵と政争するなって事だろうか?

 公爵四家は1対3で割れているが、アウレール王はバニシード公爵にも利用価値を認めている。今は争わずに協力しろって事だと思う。僕は従うけど、他の連中はどうかな?

 そう簡単には従わないだろうな。足の引っ張り合い位はするだろうし、何かしらの失敗をすればつけ込むだろう。戦後の政争の為の準備を欠かさないのが貴族って生き物だし、僕もそれなりに考えなくては駄目なんだよな。

 

「さて、一つ大きな問題が有る」

 

 考え込んでいたら、アウレール王から重大な話が出たぞ。大きな問題?首謀者や王族の扱いの他に?何だろう?そして参加者が一斉に僕を見るのは何故ですか?

 

「バーリンゲン王国にもエルフ族が棲む森が有る。今回の争いは人族だけの問題、本来ならエルフ族は不干渉だろう。だが愚か者の国の連中はどうだろうな?」

 

 えっと、アウレール王までも僕を見詰めてきますけど?まさか僕の仕事ってエルフ族対応?いやいやいや、それはないですよね。エルフ族との交渉窓口って、ニーレンス公爵ですよね?

 自分の領地にゼロリックスの森が有り、彼等と交渉しているニーレンス公爵を差し置いて僕がエルフ族担当?レティシアやファティ殿、ディース殿と交流が有るからとか?

 ああ、非公式だけどエルフの王とも面識があったし精霊魔法も学んでいるんだよな。これって内緒の筈だけど、もしかしてバレてる?

 

 ニーレンス公爵に視線を送り暫し見詰め合う、そして目を逸らされた。その貧乏くじだが共に頑張ろう的な顔をしないで下さい。

 

 


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