古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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ahomin44様 nota1様 シンクロー様 北犬様 指ホチキス様 worshipers様
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誤字脱字報告有難う御座います。本当に助かります。


第869話

 久し振りの我が屋敷、使用人達による大袈裟な程の出迎えを受けて正直少し恥ずかしくて嬉しい。前世が恐怖の対象で嫌われ者だったせいか、こういう好意的な歓迎は未だに慣れない。

 リィナやナルサ達にも短いが声を掛けながら玄関の扉を潜る。屋敷の中で、ジゼル嬢を中心に右側にアーシャ、左側にイルメラ。その後ろにウィンディアやエレさん達が並んでいる。

 それと当然の様に、リゼルとユエ殿が居る事に呆れると言うか可笑しさが込み上げてくると言うか……思わず笑ってしまった。

 

「「「「お帰りなさいませ、リーンハルト様!」」」」

 

「うん、ただいま。留守中に何か問題は無かったかな?」

 

 今回の王命は自国内なので、頻繁に手紙の遣り取りを行っていたので有る程度の情報は共有している。危険な事はしないと言っていたが、ウデムシみたいな気持ち悪いモンスターの討伐には悲しまれた。

 油断も慢心もしていないが、未知のモンスターと遭遇した事、洗脳系のモンスターに襲われた事。リゼルやクリスとも手紙の遣り取りを行っているだろうから、嘘は書かずに真実を伝えた。どうせ隠しても直ぐにバレるから。

 言葉が少なかったり説明不足も有っただろうが、嘘は書いていない。細かい説明を省いただけで悪くはない筈だ。まぁアーシャの不安そうな顔を見れば、正解では無かったのか?

 

「えっと、一応王命は達成したし色々な問題も処理出来たと思う。暫くは王都に居られると思うけど、バーリンゲン王国への対応には参加する事になるかな」

 

 女性陣の圧が強いので説明口調になってしまうが、それは仕方の無い事だと思う。アーシャは不安そうな顔から笑顔になり、バーリンゲン王国の件でまた不安そうな顔をした。

 ジゼル嬢は、あの国は本当に異常ですねと憤り、ウィンディアは滅べば良いんだよ!と怒っている。まぁ確かにあの国には振り回されているから、またですか?って感じなのだろう。

 クリスが獰猛な笑みを浮かべたのは、僕と一緒に愚か者共を抹殺出来るから楽しいか嬉しいかだろう。ユエ殿の子供らしさ全開の笑みは癒されるが、心の中では何を考えているのだろうか?

 

 妖狼族の活躍の場が整えられつつある喜びか、若しくは自分達の一族の地位向上が具体的に進んでいる事への喜びか?もしかしなくとも新しい御神託を授かっているのかも知れない。我が家って神域化してるそうだし?

 最初の御神託よりも細かい所が微妙に変化している。だが女神ルナ様はリアルタイムで御神託を微調整出来るのが凄いんだ。女神の視点で人間界の動向を把握して、自身を崇める妖狼族にその都度指示を出す。

 普通に逆らえないだろう。だって僕は矮小な人間だし、色々と秘密も知られてるし。そもそも女神自身が人間界の事に直接介入してくる事が凄いし狡いし逆らえないんだよ、本当にさ。

 

 リゼルさんが深々と溜息を吐いたけれど、それって心を読んで僕の事を呆れてる?

 

「リーンハルト様はお疲れなのですから、先ずは無事な事を喜びましょう」

 

 イルメラさんがパンパンと手を叩いて皆を促してくれたので、微妙な雰囲気が霧散して歓迎モードになった。両脇に抱き着いてきた、ジゼル嬢とアーシャの腰に手を回して中に入る。

 未だ匂いは大袈裟には嗅げない、我慢だ。我慢するんだ。頼れる若き当主としての威厳を使用人達に見せなければならない。実情は別として、貴族たるもの外面は取り繕うのだ。

 左右から仄かに香る良い匂いに口元が緩むのを必死に我慢する。ああ、幸せな御褒美タイムが待ち遠しいです。はやく添い寝タイムにならないかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸く応接室に到着、僕を中心にそれぞれが決められていたかのようにスムーズに席に座る。でも五人掛けのソファーって何なのだろう?

 ウチにこんなの有ったっけ?しかもL字型で僕が中心に座るのが決定らしい。何故なら空いている席がそこしかないから、ジゼル嬢がポンポンと叩いて早く座れと催促しているから。

 僕を中心に右側がアーシャとジゼル嬢、左側がイルメラとウィンディア。テーブルを挟んで向かい側に、リゼルとクリスとエレさんと後から合流したニール。ユエ殿はアーシャの膝の上だ。

 

 ヒルデガードが全員分の紅茶と焼き菓子を配ったら、そそくさと退室して行った。御家族との団欒を楽しんで下さいって言われたけれど、一部家族以外が混じってますですはい。

 

「改めてお帰りなさいませ。王命の最中の事は、ザスキア公爵様から色々と教えて貰っていましたが……今回も盛り沢山な内容でしたわ」

 

 新しいソファーの据わり心地を確かめていると、聞いてはいけない言葉が聞こえた。ザスキア公爵は僕には内緒で、ジゼル嬢と親書の遣り取りをしているからな。何処迄の情報が流れたのか心配になる。

 深呼吸をして不審な挙動をしないように心を落ち着ける。幸せな家族の団欒タイムなのだから無様な真似は出来ないし、皆の不安を煽るわけにもいかない。落ち着いて何でもなかったアピールだ。

 そんな子供っぽい見栄も、イルメラには気付かれたのだろう。生暖かい笑みを浮かべて……いやいや、慈愛の籠った笑みを浮かべて僕をみている。本当に頭が上がらないし敵わないな。

 

「流石に暗殺騒ぎは許容出来ないもん!リーンハルト君は、暗殺の可能性についても予測していたんでしょ?出来れば教えておいて欲しかったもん!」

 

 落ち着いて対応出来たけど、最初に感情的になったのはウィンディアだった。久々の『もん』は良いモノだが、君呼びも出ちゃってるから相当心配かけたのだろうな。

 まぁ普通は暗殺とか驚くべき事だけど、僕は二回目だから余り動揺もしないし心配もしていなかったんだ。この辺の感情の温度差を甘く見た事も敗因だろう。現場でも、リゼルやシルギ嬢に泣かれたし。

 男女間の感情の違いを認識出来なかった結果なんだけれど、恋愛レベルの低い僕では限界が有ったのも事実なのです。申し訳ないので、真摯に謝る事にするしかない。

 

「ごめんね。暗殺対象になる事は現状でも想定しているし対策も講じているから、悪い意味で慣れていたから配慮が足りなかったよ」

 

「問題有りません。主様は私と暗殺対応訓練を積んでいましたし、私の攻撃の全てを跳ね返していました。現状で、主様を暗殺出来る者など居ないでしょう」

 

 謝罪したけど、クリスから不本意なフォローを貰ったよ。えっと普段から暗殺対応訓練をしているって何だろうな?他の連中は優秀な護衛を用意するんだけど、僕は自分で対応するって事だからな。

 女性陣の冷たい視線が突き刺さるのは、正直勘弁して下さい。僕以外でも、デオドラ男爵とかバーナム伯爵とか、ライル団長とかも暗殺対象になりましたから!彼等も対暗殺者訓練を……

 してるのかな?しているだろうな。暗殺者とか大好物な連中だろうし、襲われる事を嬉しいと感じる変態連中だったよ。同類に見られるのは嫌だけど、確かに呆れられる理由にはなる。反省が必要だった。

 

 気持ちを切り替える為に焼き菓子を食べる。甘い物は思考する事に対する栄養だって、偉い人が言っていた。頭を使うには糖分補給が必要だって!

 

「ん?バター風味たっぷりの甘くて少し塩気を感じる味わい、サクサクの食感。これはイルメラの手作りだよね?舌が味を覚えているよ」

 

 何より皆が、美味しく食べる僕を嬉しそうに見ているのが証拠だ。味覚は記憶と連動しているので、初めてイルメラの焼き菓子を食べた時の記憶が蘇る。あれは確か未だ僕が……

 

「有り難う御座います。今回は皆で一緒につくりました。ジゼル様も頑張って練習されたのですよ。何度も失敗しては挑戦の繰り返し、才媛の彼女の苦手な事を知れて驚きましたわ」

 

 え?ジゼル嬢も?そうだった。前回は、アーシャも頑張って教わって作ってくれたんだ。今回はジゼル嬢も頑張って作ってくれたのか。というか、料理は苦手なのか?

 貴族子女の嗜みに、お菓子作りはギリギリ許容されるけどね。実際は淑女達が厨房になど入ったりしないのが普通だから、自分の為に作ってくれたと思うと本当に嬉しい。僕の為に努力してくれたのなら、更に嬉しい。

 ジゼル嬢に視線を向ければ、真っ赤になって顔を逸らされた。料理が苦手な事をばらされたのが恥ずかしかったのだろうか?でも横顔は嬉しそうでもあるよ。

 

 固かったり柔らか過ぎたり、前者は粉を入れてから混ぜ過ぎたか低温で焼き過ぎたか?後者はオーブンの予熱が足りなかったか練った生地を十分に冷やしてなかったか?

 他にもバターを室温に戻してなくて混ざり辛かったとか、十分に生地に空気を含ませられずに口どけの食感が悪かったとか、生地の固さを誤り緩くなってしまい広がって形が悪くなったとか。

 実家で人払いをして独学で何度か挑戦して、それがバレて仕方無く恥を忍んでイルメラに教えを乞いたとか。僕に知られたくない内容を全てバラされました。

 

「流石に料理は無理ですが、お菓子作りならば淑女の嗜みの範疇ですし、前回は私にだけ声を掛けて貰えなかったので、今回は本当に色々と頑張りましたわ」

 

 あれだけバラされた内容を色々の一言で片付けたよ。流石は、ジゼル嬢だな。

 

「リーンハルト様の好物と聞いていますので、今回も頑張りましたわ」

 

 アーシャは相変わらず優しさと思いやりが溢れている。前回は彼女がイルメラに教えを乞いて頑張って、僕の好きな味に合わせてくれたんだったな。

 パティスリーワイズみたいな高級店の焼き菓子よりも、大切な人が僕の為に作ってくれた方が何倍も美味しく感じるのは何故だろう?愛情の補正が掛かっているのかな?

 ん?アーシャの膝の上に座っていた、ユエ殿がゴソゴソと動き出したぞ。そう言えば彼女も妖狼族の里に行った時に、手作りの朝食をふるまってくれたし焼き菓子作りにも興味があるのかな?

 

「今回は私が仲間外れですか?それは酷いです」

 

「タイミングが合わなかっただけですから、今度は一緒に作りましょうね」

 

 ユエ殿がアーシャを見上げて文句を言っているが、表情は笑っている。アーシャも次は一緒に作りましょうね。といって頭を撫でている。ほのぼのとした優しい時間が流れていく。

 ああ、僕は大切な人達と、こういう時間を過ごしたかったんだ。実感して理解した幸せなひと時、この幸せをずっと続ける為には……紅茶を飲む振りをして、カップで顔を隠す。

 多分だが今の僕の表情は、このほのぼのとした空間には似合わない類の笑みを浮かべているだろうから。邪魔者の排除、絶対に必要だな。今は未だ動けないが、無駄になっても幾つか策を講じておくか。

 

 さて、どう動けばバーリンゲン王国に妖狼族を連れて行けるかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 穏やかなお茶会の後は、久し振りに我が屋敷で家族全員での遅めの夕食。貴族的マナーを重視する為に会話が弾むとかはないが、特に会話しなくても安らげるんだ。側に居るだけで安心する、それだけで幸せだ。

 使用人は厳選しているが、他の貴族に情報を流したりしている者が居るのも事実。本人にとっては臨時収入程度の認識で、僕を裏切った事とは思ってないのだろうけどね。まぁ他家の使用人を買収し情報を得るのは、貴族間では普通だし。

 僕も似たような事はしているし、物を盗んだり毒を盛ったりとかの危害を加えなければ放置している。その辺はドライに考えないと精神的に病んでしまうし、貴族の闇って深いから怖いよね。

 

 お楽しみはこれからだ。夕食の後の入浴は反対票が多くて、アーシャとの混浴は出来なかった。問題はその後に起こった。当然だが予想はしていたが、予想以上で正直驚いている。僕は交渉には当然参加出来ていないが、決定事項として通達された。  

 

 特注品の天蓋付きのベッドに大の字になっているが、このベッドだけど新しくなってないかな?前回のとはモノが違うよね?だって四隅の柱の装飾に見覚えがないですよ。カーテンは同じでも誤魔化せられないですよ。

 え?王都の木工ギルド本部からの献上品?他にも有るの?彫刻に指物?え?僕の胸像も作りたいから許可して欲しいって申し込みが有るの?いや、却下でお願いします無理です無理無理です。

 恥ずかしいし、自分の胸像を屋敷に飾る?どんな羞恥プレイだよ、絶対に嫌だって。偉人や貴人の功績を留める記念的なモノ?余計に嫌です恥ずかしいです。

 

「その、王都木工ギルド本部との話し合いは近日中に行うけどさ。献上品を貰ったって事だけれど、それなりの返礼はしたのかな?」

 

 ジゼル嬢が説明してくれたのは、家の事を仕切ってくれているからだろう。対外的な事とか限定だけれど、嫁ぐ前だけど一定以上の権限は与えているというかお願いしているから。

 

「はい。幾つかの木製家具を発注しましたので大丈夫だと思います。彼等も鍛冶ギルド本部の件で僅かながらに焦りを感じたのかもしれません。リーンハルト様の錬金で木製は……出来ますよね?」

 

「錬金って金属のイメージが有るけれど、僕はウッドゴーレムもロックゴーレムも錬金出来る。使い勝手の関係で金属製のゴーレムを多用しているけどね。そうか、王都の木工ギルド本部か。予想外だったね」

 

 新しい問題が発生したな。王都に籍を置くギルド本部って結構な数が有った筈だよな。今後は他のギルドからも接触が有ると思っていた方が良いのか。既得権の関係で他の貴族とも揉めそうなナイーブな問題だが……今はそうじゃない。

 

「まぁこの問題は明日以降に先送りして早く寝ようか?流石に色々あって疲れたよ」

 

 そう!本日最大の目標は添い寝、添い寝です。早く落ち着いて皆の匂いを嗅ぎたいのです!

 

 

 


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