古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第870話

 何度目かの全員との添い寝、素晴らしい一夜を過ごす。四方から身体が拘束されて全く動けないが、それが何だと言うのだろうか?そんな事は些細な事でしかない。

 左手にジゼル嬢と唯一の側室のアーシャ。右腕にはイルメラとウィンディア。左足はニールで右足はユエ殿と場所は固定されている。リゼルとクリスは客室で別、彼女達は配下と護衛だから。

 まぁ何時の間にか視界の隅に、クリスが毛布に包まって寝ているのは御愛嬌。何時もの事で、護衛は対象者から付かず離れずだそうで文句も言えない。でもその内、ベッドに潜り込んできそうな気がする。

 

 リゼルは流石に鍵付きの寝室に潜入する程のスキルは無いから、誰かが手引きしない限りは大丈夫だろう。ユエ殿はアーシャが許可を出してしまったので何も言えません。

 エレさん?駄目です。彼女も大切な仲間ですが、そういう対象ではないので屋敷内に有る自室で就寝しています。前にベリトリアさんがふざけて突撃して来たけれど、イルメラさんが弾き飛ばしてから大人しいですね。

 彼女の場合は女性陣をからかっての事だし悪ふざけだけど最後は笑って帰っていったし本気では無かったと思う。最近出番が少ないと文句を言っているが、契約内容が大切な人達の護衛だからね。

 

 割と広い寝室だが八人も寝ていれば、身綺麗にしていてもそれなりに体臭が籠る素晴らしい空間にと変貌する。僕の寝室は楽園、僕の性癖の為だけの楽園。だが魔香の効果は無い。

 アレは四人での添い寝の時の効果だが、倍の八人になっても効果は無い。厳密にはクリスは添い寝ではなく同室に居るだけだが。謎の効果だが最初はギフト(祝福)かと思ったが何となく違う様な……女神ルナ様に聞けば分かるだろうか?

 貴女の巫女様とも添い寝してるのですが、魔香の効果は表れません。魔香とは一体何なのでしょうか?とか聞いたら教えてくれるかな?いやいやいや、落ち着け。思考が変だぞ、女神に添い寝の効果を聞いてどうする?

 

 しかも自身を崇める妖狼族の巫女である神獣形態の、ユエ殿と同衾しています。普通に不敬案件じゃないか?

 

「皆、寝ているみたいだな」

 

 たまに独り言を言うと起きているみたいに反応してくれる時が有るけれど、今回は皆さん熟睡しているのだろう。僕は久し振りの添い寝に興奮して匂いを胸一杯に吸い込む事に夢中で中々睡魔が訪れない。

 明日は寝不足かもしれないが、精神的に充実しているから些細な事だろう。見慣れぬ天蓋を見詰めながら幸せな匂いを満喫する。王命の殆どは仕事だから彼女達を伴えないので基本は一人寝、側室を同行させる事は普通に避けるべき事だ。

 たまに本妻から離れる口実が出来たと愛妾とかを同行させる強者も居るが、大抵はバレて後から大問題になるんだよな。貴族は男尊女卑だと言われているけれど、実家の影響力とか横の繋がりとか旦那の弱みを掴むとか強かな淑女も多い。

 

 強かな淑女と言えば『側室予備軍』や『本妻様の下部組織』と呼称する不穏な団体とのお茶会も行わないと駄目だった。ダーダナス殿との関係も有るし、ターニャ夫人にも配慮が必要だし。

 実際に有能な淑女を二人も引き抜いて人材確保の面では有効だけれど、ジゼル嬢も含めて今後の関係性も考え直さないと駄目だった。いっそ全員雇用したいのだが、それを行うと全員側室に娶ってくれとか無茶振りが来そうなんだ。

 ハーレム全然嬉しくない。維持管理が大変なだけで雇用として金銭で対価を払う関係の方が健全で胃に優しいと思う。少し前なら、フレイナル殿が発狂して逆上したが今は落ち着いて逆に気遣われる始末だ。

 

 彼も複数の淑女を纏めて娶ったのに、上手くやっているらしいし……

 

 何となく薄暗い部屋を見回す。無駄に巨大な天蓋付きのベット、薄絹のカーテンからも室内の様子がぼんやりと確認出来る。ベッドに凭れ掛かるように、クリスが移動して来た。

 護衛としての任務も有る彼女は熟睡しないのだろうか?仕事に前向きなのは良い事だが毎日の睡眠時間は確保して欲しい。いや実際は眠っていても僅かな事で直ぐに起きれるのだろう。

 でも僕の寝室は安全だから毛布に包まりながら両手にナイフを持ってなくても良いと思うんだ。僕の屋敷は魔術的にも機械的にも防衛対策は手厚くしている。殆ど難攻不落の要塞と変わらないよ?

 

 パンデック殿から譲り受けた、元配下のブレイザー・フォン・アベルタイザーが晩年に手掛けた屋敷を調査した事にして数々の防御機能を設置した。この内容を本に纏めているが、何れは内容の開示も必要になるだろうか?

 今は特に誰からも技術を寄越せとは言われていないが、それは僕が自ら手掛けるしか出来ない事。口止めをしても自分の屋敷の防衛を他の貴族に委ねる事に抵抗が有るからだろうな。

 高い費用を費やして構築しても、僕が熟知していれば侵入防止など無意味だろうし。特に僕は城塞都市の単独ないし少数での侵入の実績もあるから余計に頼み辛いのだろう。今は味方寄りでも将来は分からないのが貴族って生き物だし。

 

 でも王宮とか軍事施設とか公共施設とかなら、技術を提供して欲しいとか有りそうだな。フルフの街の古代遺跡を調べるチャンスも有りそうだし、今後の課題として考えを纏めておくのも有りだ。

 人払いの陣に魔力で生成される矢の攻撃、雷撃発生装置とか、この三つだけでも幾らでも応用出来る。地味に機械式の罠も多数あったし、この辺は王都の盗賊ギルド本部との交渉に使えるだろう。

 前任のオバル殿は興味津々だったが後任のビーツ殿からは特に問い合わせも無い。まぁビーツ殿とは浅い関係だから、今の僕に対して要求するのは厳しいか。見合う対価の提供も難しいだろうしね。

 

 エレさん経由か、ギルテックさんにベルベットさん姉妹。それかティルさんにも話を通して何らかの利益を提供して協力体制をより強固にするとか?

 

 考え出すとヤル事が後から後から思い浮かんで切りが無い。この幸せを盤石にするには未だ努力が足りないって事なのか?熱くなった頭を冷やす為に右側を向いて鼻から大きく空気を吸い込む。

 うむ、ミルクの匂いと柑橘系の匂いが混ざった不思議な魅力を鼻腔一杯で感じる。もうコレって麻薬なんじゃない?精神安定感が半端ないっていうか多幸感が溢れ出すって言うか……何だろう?

 イルメラ+ウィンディア+アーシャの魔香の効果は、全知全能感と多幸感だった。人数が増えると効果は発揮されないが、それでも多幸感は感じる。全知全能感は無い、色々と考えて自分の力の足りなさを逆に認識する程だ。

 

 イルメラ+ウィンディア+エレさんの魔香の効果は冷静沈着と寡黙だが、これはデメリットも大きいから基本的には封印だろう。そもそもエレさんを寝所に引き込む事自体が控えるべき事だし。

 だが添い寝を許容してくれる女性陣が七人もいるとなると、組み合わせは……35通りか?調べるにしても大変だし、効果まで検証するのは時間が全く足りない。最悪の場合、デメリットを受けた状態で出仕とか厳し過ぎる。

 これは休前日に少しずつ検証するしかないか?でも添い寝の人数を三人に限定すると違う意味で不満が溢れないかな?うん、魔香の検証は先送りにしよう。今は無理、余計なリスクは背負わない。無くても分からなくても問題無いし。

 

「ふふふ、添い寝一つでこれだけの事が出来るのか。彼女達を得られた幸運は計り知れないな」

 

 左側を向いて鼻から大きく空気を吸い込む。ジゼル嬢とアーシャの姉妹の匂いを一緒に胸一杯に吸い込み、鼻腔に全神経を集中して楽しむ。この姉妹は体臭が殆ど無く仄かに石鹸の匂いに交じって本人達の控えめな匂いを嗅ぐ。

 物凄く変態チックだな。ヘルカンプ殿下の事を非難出来ない位に、僕も変態の仲間入りだろう。認めよう、僕は女性の体臭に幸せを感じる変態紳士だと!だが他人に迷惑は絶対に掛けない事を誓う。本人と相手だけで完結するお手軽仕様なのだ。

 左足にしがみ付く、ニールに集中する。遠い、普通なら僅かな距離なのに遠い。僕の研ぎ澄まされた嗅覚を以てしても僅かにしか感じない彼女の体臭、それは……

 

「リーンハルト様?先程から何を嗅いでいるのでしょうか?」

 

 下を向けば金色の瞳が僕を見詰めていた。

 

「む?ユエ殿?いや、何でもない何もない問題無い。明日も早いし早く寝ようね」

 

 右足に神獣形態でしがみ付いていた筈の、ユエ殿は幼女形態でズリズリと腰の近くまで登って来ている。僕の変態行為に気付かれたか?いや、大丈夫なはずだ。薄暗いから溶けた表情を見られてない筈だし、鼻から深呼吸だから行動だって普通だ異常じゃないし。

 頭を撫でて誤魔化したいのだが、生憎左右の腕は拘束済みで自由に動くのは首から上だけしかない。なので小さな声で問題無い事を伝えて早く寝る様に促す。僕の今回の御褒美タイムは終了、次回は今夜だな。

 ユエ殿の私は分かってます的な小さな笑い声を聞きつつ、目を閉じて眠りにつく。うむ、幸せだ。出来ればもう二時間位は匂いを堪能したかったが今回はこれで勘弁してやろうかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 目が覚めると未だ夜明け前なのだろうか?室内は薄暗く、それでもカーテンの隙間から弱弱しい朝日が差し込んでいる。今日は曇りか雨になるのかな?

 暫くは換気もせずに八人の男女が籠った部屋の匂いを楽しむ。うーむ、今回はユエ殿に気付かれない様に浅くゆっくりと匂いを楽しむ。室温は暖かく鼻から肺に入る空気も心地良い。

 最初に起きたのは、イルメラだった。彼女は僕の狸寝入りに気付かずに、ウィンディアとニールの身体をゆすって起こすとユエ殿を抱き上げて部屋を出て行った。

 

 彼女達はシンプルで真っ白だが肌触りの良い夜着を着ていたが各所の装甲値は最低値、薄暗い日の出の光でも体のラインが浮き上がるので素晴らしい。何とか薄目で確認し起きている事を誤魔化すのに苦労した。

 クリスは気付いたら居なかったし、直ぐにアーシャも起きて妹を起こす。二人は僕を起こさない様に静かにベットから起き上がると毛布を掛け直して寝室を出て行った。

 館の主として気遣って貰い、朝食の準備が整う迄は寝ていてくださいって事だろう。掛け直して貰った毛布を抱え込み彼女達の残り香を楽しむ。我が家は今日も平和で幸せ一杯だな。

 

 三十分くらい経っただろうか?人の気配がしたので薄目を開けて確認すれば、メイド服姿の二人連れの姿がボンヤリと見えた。誰だろう?イルメラとウィンディアは残念ながらメイド服を卒業し、仕立ての良いドレスを着る事が多い。

 もう暫くすれば、バーナム伯爵とライル団長との養子縁組を行い、養女となってから僕に嫁ぐ事が決まっている。これも彼女達の後ろ盾を作る事なので、双方共に納得済みだ。

 カートを押しているので、アーリーモーニングティーを用意して来たのだろう。普段はアーシャと一緒に飲んで朝の覚醒を促すのだが、確か今朝は彼女が朝食を一品作ると言っていたな。では誰が起こしに来たんだ?

 

「旦那様、時間ですので起きて下さい。アーリーモーニングティーを用意しました」

 

「既に皆様、食堂の方にいらしています」

 

 起き上がると、用意していた紅茶のカップが差し出されたので何も入れずに一口飲む。芳醇な香りが鼻を抜ける、身体が芯から温まり目覚めていくのが分かる。

 そのまま一気に飲んで、二杯目はミルクと砂糖を多目に入れて貰う。身体は活性化したが、頭脳は未だ栄養(糖分)を欲しがっている。僕も酒豪と言われてはいるが、実際は師の影響を受けて甘党になった。

 空いたカップを差し出すと、代わりに水を張った洗顔用の陶器製の洗面器が用意された。人肌に温められた水で顔を洗い、差し出されたタオルで水気を拭き取る。その後は髪型を整えてくれる。

 

 今朝のお世話係は……

 

「リィナとナルサか。おはよう」

 

「「お早う御座います。リーンハルト様」」

 

 彼女達も僕の世話が任される程、イルメラに信用されたみたいだ。元々バルバドス師の屋敷でメイドとして働いていた、ナルサと違い村娘だったリィナも貴族の使用人として一人前になったという事かな。

 キビキビと着替えの用意を始めたが衣服の用意だけで着替えの手伝いは不要だから、寝間着を脱がそうとしないで下さい。君達、目が怪しい光を放ってない?大丈夫、一人で着替えは出来るから手伝いは不要だから!

 僕は基本的に着替えは一人で行う。例外は、イルメラだけだ。彼女には手伝いは不要とか言えないし言わない。僕のお世話は彼女の仕事(希望)だし、今後も側室となっても変わらないだろう。

 

 それが、イルメラの望みだから。僕は彼女の数少ない希望は全て叶える事にしている。

 

 勿論だが対外的には配慮もするし、公的な場所では手伝いも辞退するけどね。自分の屋敷の中でくらい、彼女の世話になったって良いじゃないか。

 

 


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