古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第90話

 明け方に野盗共を探して襲撃する為に早めに仮眠を取らせて貰ったが、警戒中の為に装備を付けたまま毛布に包まって横になる。

 熟睡は出来ないが丁度良い、深夜時間帯に攻めて来る可能性も考慮したが襲撃は無かった。

 これだけの防御陣地に攻めては来ないと思っていた、相手が準備万端では中々攻め込めないだろう、純粋な戦闘力では劣る連中だし無理せず弱者から奪うのが基本だから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ベリトリアさん、お待たせしました」

 

「あら、夜襲慣れしてるのかしら?艶消しの黒の皮鎧やマントなんて用意周到ね」

 

 金属の鎧兜は防御力的には申し分ないが光を反射するしガチャガチャと五月蝿いので夜陰に紛れての隠密行動には不向きだ。

 

「慣れは酷いですよ、一般的な常識の対応です。ベリトリアさんこそ全身黒ずくめじゃないですか!」

 

 待ち合わせの場所で彼女は先に待っていた、僕よりも徹底して黒のローブの下も手袋から靴まで真っ黒で統一している、手に持つ杖にも黒い布を巻いている。

 これははぐれたら見付けだすのは無理だな。

 

「お待たせ、遅くなった」

 

「これで全員揃ったわね、では出発しましょう」

 

 最後に探索の要、『鷹の目』のギフト持ちのエレさんが来た。

 彼女は黒のマントを羽織り僕の渡している皮鎧を着込んでいる、全身黒ずくめの二人の間に入ると違和感が有るな……夜襲の準備など想定も用意もしてないから仕方ないけどね。

 

「さて、どうしましょう?全身真っ黒でも敵が見張っていれば比較的明るい防御陣地から出るとバレますね。

先ずはエレさんのギフトで警戒しながら此処を出て闇に紛れて馬ゴーレムに乗って探しますか?」

 

 周辺警戒で出入りは有るが流石に此処から馬に乗って移動すれば目立つしバレて警戒されるだろう。

 それでは意味が無い、僕等は逆に闇に紛れて奴等を襲撃する予定なのだから……

 

「そうね……周辺警戒の連中を装いながら移動、馬ゴーレムの召喚は未だ良いわ。こんな暗闇なら歩いた方が安心よ、逃げる時にお願いするわね」

 

 幸いか分からないが月は雲に隠れて真っ暗で警戒の為の篝火の周囲しか明るくない、少し先に行けば3m先も見えない位に真っ暗だ。

 確かに僕が制御する馬ゴーレムより歩いた方が安全か……

 

「念の為にエレさんは僕から離れないで、一応ギフトで僕等の位置は把握出来るよね?

ベリトリアさんは魔力を隠蔽しないで下さい、魔力感知で位置を手繰れないので。奴等に魔術師が居ても近付かなければ感知されない筈です。

逃げる時の馬ゴーレムは手綱は有れど制御は全て僕が行うので座っているだけです、手綱は振り落とされない為に握るだけですから」

 

 暗闇の中を馬ゴーレムで歩けるかは微妙だが四つ足は多少バランスが崩れても倒れない安定感が有る。

 問題は3m位先しか見えないので人が走るよりは少し早い程度しか速度を出せない事だ。

 いや、明るい防御陣地に向かい真っ直ぐ走るなら全力の八割位の速度は出せるかな?

 だけど徒歩だと広範囲は探せない、二時間程度では精々が防御陣地周辺の1㎞以内だろう……

 

「先ずは一番怪しい木や岩とかの障害物が点在していた北側から探しましょう」

 

 安全性を高める為に、エレさんの腰に紐を巻き先を持つ事にした。これで最悪の場合、紐を引っ張ればエレさんを確保して守る事が出来る。

 暗闇の中で戦う場合、味方の位置さえ把握していればゴーレムポーンがその他の周辺で動く者を攻撃する事が出来る。

 常に自分を中心に円陣を組ませれば安全に移動し逃げる事も可能だ。

 

「リーンハルト君、この迷子紐は子供扱い?」

 

「違うよ、あくまでも安全の為だよ」

 

 やはり年頃の娘に腰紐は嫌だったかな?小さいエレさんだと端目からは親子みたいに見えるのだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 周囲と足元を警戒しながらの移動は神経を使う、故に歩みは遅い。目的の北側の障害物ゾーンに近付くだけでも10分近く掛かった。

 

「エレさん、どうだい?」

 

「駄目、周辺には居ない……」

 

 一番怪しいと踏んだ北側はハズレか……こうなったら虱潰(しらみつぶ)しに回るしかないか。

 

「ベリトリアさん、時計回りに防御陣地周辺を回りましょうか?」

 

「そうね……居なければ仕方ないわね……」

 

 暗闇の中、辛うじて彼女のシルエットだけ見えるので表情は分からないが声は悔しそうだ。

 因みに僕とエレさんは互いに紐で腰を結んでいるので2m位しか離れられない、紐を握り片手を拘束されるよりは万が一の時に紐を手繰れる様にした。

 だが子供達の間で紐で互いを一列に結び歩く『商隊ごっこ』って遊びが有った様な……

 

「了解です、エレさんコッチだ。防御陣地を中心に右側から円を描く様に歩くよ」

 

「ん、了解」

 

 彼女の手を引き歩き始める、本当に小さな手だな……

 暗闇の中を何とか足元を確認しながら歩く、手を引かれているエレさんは『鷹の目』を発動しているので足元まで注意を向けられないから引かれるままに歩く……

 

「ねぇ、まだ見付からないの?そろそろ夜明けよ」

 

 二時間以上探し歩いたが野盗連中は見付からない、コレは元々居なかったか? 東の空が薄らと明るくなり始めた、15分位で夜明けか……

 

「もう夜が明けますね……大規模な襲撃は一回だけだったかな?」

 

 もう歩き回るのを止めて、その場で立ち止まり東の空を見詰める……冷たい空気を肺に一杯に吸い込むと緊張が解れる。

 隣に立つベリトリアさんの凄く不満そうな表情が見える位に明るくなり始めている、もう夜明けだ。

 

「夜が明けますね……夜営地も見えるな」

 

 200m先に僕の作った防御陣地が見える、既に使用人達は起きているのか煮炊き用の白い煙が何本か立ち上がって……

 

「ベリトリアさん!」

 

「ええ、朝方に攻め込んできたわね」

 

 防御陣地に向かう50人位の人影が辛うじて見えたが何人か馬にも乗っている。

 夜討ち朝駆け……警戒していた連中は明るくなり始めると気が弛むので襲撃には最適だ、しかも唯一の出入口に正確に群がっている。

 

「いや、アレは何だ?」

 

 突然奴等の後方に信じられないモノが……

 

「見付けた、漸く見付けた……殺す、全員ぶっ殺してやるわ!」

 

 ベリトリアさんを見れば両手を握り締めて震えている、アレが彼女の憎悪の元なのか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「敵が来ます、数は多くて分からないわ」

 

「リーンハルト様の居ない時に……擦れ違ったのかしら?皆さんに知らせて迎撃の準備をさせて下さい。私達も出ます、リラさんは此処で大人しくして下さい」

 

 リーンハルト様の予想通り彼等は朝方を狙って攻めて来ましたが、まさか擦れ違いになるとは……

 テントの外に待機していた護衛の方に襲撃を知らせて自分も権杖を手に取り外へ飛び出す。

 

「イルメラさん、奴等人数が多いよ。どうしよう?」リーダー不在の場合の次点は私、しっかりしなければ駄目だわ。

 

「ウィンディア、攻めてくる敵の方向は?

ルニーさん、出入口の封鎖をしてウィンディアの指す方向の見張り台に弓矢を装備した人を増やして下さい。後は全員起こして警戒を……」

 

 慌しく準備をさせるけど敵の方が早かったみたいだわ、何の警告も無く火矢が射ち込まれた。

 積み荷やテントに燃え広がるけど事前に用意していた水や土を掛けて消し止める。

 大切な積み荷には掛けた布に水を撒いて燃え難くしている、これはリーンハルト様の提案でしたが彼等が火矢を使うのを読んでいたのかしら?

 

 ルニーさんから木の盾を借りる、山なりに射ち込まれる弓矢なら頭上に翳せば防ぐ事は出来る。

 それに此方からの応戦も始まったわ、見張り台から射ち下ろす矢は山なりよりも威力が有るわ。

 

「弓を持つ者は狙いは適当でも構わんから柵の外へ射ち込め!消火急げよ、非戦闘員は中心に集まり盾を構えて大人しくしてるんだ」

 

 ルニーさんの的確な指示に浮き足立っていた皆さんも落ち着きを取り戻して対応しているわ、これならリーンハルト様が戻って来る迄は保ちそうね。

 

「イルメラさん、ヤバいのが出て来たわ。探索魔法を使わなくても分かるでしょ、アレを見れば……」

 

 ウィンディアの指差す方向に視線を向ければ奇妙なモノが見えたわ、とても歪で大きな……岩山?

 

「ロックゴーレムよ!アレだけの大きさのモノは初めて見たわ。私の風属性魔法は重く固い奴には効かないの……」

 

 両手でギュッと杖を握り締めるウィンディアの頬を軽く叩く。

 

「落ち着いて、ゴーレムなら操る魔術師を倒せば良いし、あと少し持ち堪えればリーンハルト様が来ます。大丈夫、取り乱さずに落ち着いて行動するわよ」

 

 2mの柵越しに上半身が見えているから少なくても全長5mは有る大きなゴーレムがゆっくりと振りかぶって柵を殴り付けた!

 低く大きな音がして殴ったゴーレムの拳が砕ける、錬成強度はリーンハルト様の方が上なのね。

 

「敵は大きいだけよ、柵は壊せないから大丈夫!敵の魔術師を見付けて倒せば良いわ」

 

 そうは言っても容赦無く連続で柵を殴り付ける巨大ゴーレムを見ているしかない、今外に出たらアレに襲われる事になる。

 今は柵の中だから助かっているにしか過ぎない。

 

「ああ、防御柵に罅(ひび)が……」

 

 巨大ゴーレムに侵入されたら負けは確定、柵が壊されたら一気に外に出て術者を倒すしかないわ。

 今は恐怖と防御柵の内側に居る安心感で外に出て戦おうとしない人達も侵入されれば否応なしに戦いになる。

 

「ルニーさん、柵が壊されたら外に出て術者を倒しましょう。アレだけの大きさのゴーレムなら術者は必ず近くに居ます」

 

 リーンハルト様みたいな半自動制御の遠隔操作でも同じ宿屋の中とか精々が10mや20mしか離れて無かった筈だわ、アレだけの大きさなら制御する術者は必ず近くに居る。

 遠距離が可能なら最初から防御陣地の中にゴーレムを錬成すれば良いのだから……

 

「分かった、少数の護衛を残し討って出よう。どの道逃げ場は無いし巨大ゴーレムさえ倒せれば逆転も可能だ、皆集まれ!」

 

 今のところ怪我人は軽症ばかりだから殆ど全員が戦う事が出来る、でも集まった人達の顔色は悪いわ。私だって怖い、僧侶として人々を守らねばならないけど……

 

「リーンハルト様、早くいらして下さい……」

 

 私の祈りはモアの神様には届かなかったのか、防御柵に大きな亀裂が走った!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 二体の馬ゴーレムを操り一直線に夜営地に向かう、僕はエレさんを前に乗せてベリトリアさんは一人で乗っている。

 この二日間馬に乗り続けたお陰で制御はスムーズなのだが何故か遅く感じる。

 

「ベリトリアさん、広域殲滅魔法を撃ち込めますか?」

 

「無理、夜営地と一直線だから誤射が怖いわ、もう少し近付かないと……」

 

 前方に巨大なロックゴーレムが僕の錬成した柵を殴って壊そうとしている。造形はイマイチだが大きさと重さは其れだけで破壊力を生む、あの調子では五分と保たないだろう。

 

「僕がゴーレムを止めますから野盗達を任せても良いですか?」

 

 あと150m、そろそろ敵の全体が見えて来た……巨大ゴーレムの他に馬に乗った奴が十騎、他に五十人位が周りを取り囲んでいる。

 

「寧ろ当然!あのゴーレムを操っている奴は私が殺す!手を出さないで」

 

 あと100m、向こうも近付く僕等に気付いた……騎馬が全員僕等に向かって来る、コッチが二騎と侮ったか?

 

「エレさん、確りと掴まってるんだぞ。ストーンブリッド!」

 

「ファイアランス!」

 

 真っ直ぐ向かって来る連中など的でしかない、僕のストーンブリッドに当たった奴は馬から転げ落ち、ベリトリアさんのファイアランスに当たった奴は……馬ごと消し炭となった。

 

 あと50m、馬から飛び降りて奴等を睨み付ける。エレさんは此処で待機して貰う。ベリトリアさんも馬ゴーレムから降りて杖を構えた。

 念の為にゴーレムポーンを四体練成し二体ずつ彼女達の護衛に付ける。

 今なら、今の僕なら錬成し制御する事が出来るだろう。ゴーレムナイトの上位種、防御特化型だが攻城戦に良く使った僕のゴーレムの中でも最大級の大きさを誇る。

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムルークよ、あのデカブツを倒すぞ!」

 

 膨大な魔素と周囲の岩や土を巻き込み人の形を成していく、普段よりも時間が掛かる……15秒掛けて完成した全長6mの大型ゴーレムがルークだ!


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