古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第897話

 エルフ達の驚くべき報復作戦を報告に王都に戻るか、状況的に危険度が増している両殿下の護衛の為にフルフの街に合流するか?この二択の結果、僕は……

 

 ケルトウッドの森を出て、フルフの街に向かった。何を仕出かすか分からない愚かな国の状況を考えて、失ってはならない両殿下の安全の確保を優先して向かう。

 レティシアに簡単な状況を説明し、リゼルを先にエムデン王国の王都に連れて帰って貰った。嫌味は言われたが、末期の連中の行動など予想出来ないから増援が必須と説き伏せた。

 合流して帰国すれば半月遅れでの帰国になるが、この国が森で埋まるのは十年後だから誤差の範囲と思って欲しい。両殿下を失う事はエムデン王国の国益を損なうし、友誼を結んだロンメール殿下を失う事は耐えられない。

 

 個人的な感情での行動で有る事は自覚している。だが幾らでも後付けで周囲を黙らせる理由は捏造出来る。これが権力、多用は出来ないが使わない意味は無い。

 

「リゼルがもう少しゴネるかと思ったが、逆に急いで行けって言われるとは思わなかったな」

 

 ミルフィナ殿が居ないので、ゴーレムキングを身に纏い街道沿いを疾走する。今回は案内役が居ないので最短距離や裏道は使えないが、街道沿いを進めば問題無い。

 大まかな地理は頭に入っているので、街道沿いに掲示されている案内看板を頼りに移動する。流石に日常的に使う看板に誤表記は無いだろう。凡その距離表示は怪しいけどね。

 異様な大きさの疾走するゴーレム。敢えて襲い掛かって来る連中は居ないが、怪しい武装集団を見付けたら、此方から襲撃して野盗の類なら身包み剥いで有り金を奪う。

 

「これじゃ何方が悪役か分からないな」

 

 単独行動中は独り言が多いのが難点だな。怪しい人物になってしまうが、ゴーレムキングの中なので見られる事は無い。あと『完全防御のオークだっ!』とか騒ぐな。

 

 既に四組の野盗の群れを殲滅、攻撃 → 尋問 → 強奪 → 埋葬 と嫌なローテーションが確立した。治安が悪化すると直ぐに湧いて出る連中だが、実入りはそこそこ良い。

 今も街道沿いの茂みに潜んでいた連中を吹き飛ばし無力化した上で尋問、野盗だと分かれば問答無用で殲滅。貴重品は根こそぎ奪い、アジトが有れば襲撃して殲滅しお宝は奪う。

 人質が居れば幾許かの金貨を与えて有無を言わさず解放する。そんな事を数回繰り返せば、予定よりも随分早くフルフの街の近くまで来れた。途中でコウ川が見えたので川岸に沿って下っていけば目的地が見えた。

 

「フルフの街、過去にはアスカロン砦と言われた場所。エルフ族や魔牛族とも関りが深いと聞くが、転生前の記憶が薄らいでいるけど接点は無かった筈だと思う。自信は無いけれど……」

 

 向こうからも目視が出来る距離まで近付いたので身に纏うゴーレムキングを魔素に還し、魔術師としてローブを羽織ったりして身嗜みを整える。一応軍属の上位者だから、相応の見た目も必要だよね。

 領主の館や街に入りきれない兵士達は周辺に天幕を張って泊まっているのか。確かに護衛の兵士全員が入れるキャパシティーは無いが、地下の施設を解放すれば余裕だな。

 ミルフィナ殿とクロレス殿の二人から情報を貰ったから、隠された軍事施設を暴いても問題は無いのだが……もしかしてクロレス殿は自分達が使いたいとか調べたいとかなのかな?それなら解禁しての使用は悪手か?

 

 まぁ今回直ぐに使う事は無い。それに既に有る程度の調査は終わってるし、資金も回収した。用は無いは言い過ぎだが、今回はスルーしても良い。エルフ達と争う意味も無い。

 

 徒歩で近付く。警備の者達の顔は知らないが、向こうは僕の事を知っているのだろう。手に持つ武器を構え直した所で気付いたのか、慌てて姿勢を正して敬礼してくれた。

 まぁ予想外の上司の登場って慌てるよね。しかも敵地のド真ん中で気が張っている時なら余計にさ。申し訳ないが、先触れとか出す余裕が無かったのです。あと大声で周囲に叫ばないで下さい。

 最初は二人だったが奥からもわらわらと集まってきて最終的には百人以上の兵士に囲まれる事となった。幸い歓迎ムードだから、僕一人だけでも増援が来て嬉しかったのだろう。籠城時の増援は一番望む事だからね。

 

「ロンメール殿下に取次を願いたい」

 

 周囲を見回す。物々しい状況を見れば、結構際どいタイミングだったのかもしれない。急造された防衛陣地も未だ戦火の跡がないのは本格的に攻め込まれてはいない証拠。一応最悪の前に間に合った。

 だが此処は狭い。一部の部隊は中に入り込めず、外で敵を迎え撃たないと駄目だとか効率が悪い。だが直ぐにエムデン王国に戻るから問題は無い。此処は引き払う、異論は認めない。

 領民を残して引き払う問題を無視すればだけどね。領民達がどう騒ぐか、僕でも分からないよ。まさか自分達も連れて行けとか言い出さないと思うけど、前例が有り過ぎて不安しかない。民度の低さは理解しているから。

 

「はっ!直ぐに取次ますので、暫く此方で……いえ、天幕の方でお待ちください。おぃ、最上級の持て成しの準備。それと伝令兵は殿下に報告に向かえ。急げよ」

 

「「「了解しました!」」」

 

 伝令兵?そんなに居るの?一斉に十人以上が奥に走り出したけど、少し落ち着こうよ。走りながら隣と肩がぶつかったりして危ないからさ。伝令兵って冷静な筈でしょ?そんなに慌ててどうするの?

 あと上司の抜き打ち視察とかじゃないんだからさ。一生懸命は分かるけど空回りし過ぎですよ。それと余り騒ぐと五月蠅いと叱られるよ。規律の乱れは軍隊では最悪だから、もっと落ち着いてゆっくり考えて行動しよう。

 最初に対応してくれた兵士が頭を抱えている。多分だが責任者なのだろう。まぁ今回の件については何も言わないし、しないから安心して下さい。

 

 取り敢えず案内された天幕の中で休ませて頂きますね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 臨時の執務室の外が騒がしい。どうやらエムデン王国からの増援が来たか、トチ狂ったバーリンゲン王国の連中が攻め込んで来たかの何方かでしょう。

 ここ数日、周辺に敵の威力偵察部隊というか自国民からも略奪する物資調達も兼ねた部隊の目撃情報が数件寄せられていたので、祖国からの増援は間に合わなかったとみるべきか?

 時間の許す限り、防衛陣地は構築しましたが未だ不安は有ります。増援の来ない籠城は勝てない、だが増援は確約されています。問題はタイミングだけ。もう数日で来る筈なのです。

 

 少しでも時間を稼いで増援を待つしかないのですが、フルフの街の領民達の事も考えると頭が痛くて嫌になります。彼等は不利になれば私達を裏切るでしょう。つまり内側にも敵は居ると言う事。

 

 何度も読んだ手元の資料を見る。残りの備蓄品の一覧、私達だけなら未だ一ヶ月以上は維持出来ます。ですが領民全ての衣食まで賄うとなれば、節約しても僅か十日。

 エムデン王国に反旗の芽有り!で乗り込んだら本当に謀反を企てていたという、東方の諺(ことわざ)で『瓢箪から駒』という状況に笑いをかみ殺すのが大変でした。

 街の警備兵も全て謀反側、不意打ちを食らいましたが何とか撃退しフルフの街を掌握した迄は良かったのです。その後の問題の方がキツいとか変を通り越して異常です。

 

 なんでこいつ等は自分達の領主が反乱を企てて倒されたのに、自分達は被害者ですと堂々と言えるんだ?消極的にも積極的にも協力したでしょう?証拠も押さえてますよ。それなのに心情的には最初から味方してましたと擦り寄ってくる。なんですかそれは?

 

「もうバーリンゲン王国が攻めて来たでも、領民達が反乱を起こしたでも信じますよ」

 

 吐き捨てる様に言えば、グーデリアル兄上も頷いた。この国の連中の酷さを共有しているのです。兄弟仲が良くなった事くらいしか有りませんね。此の国に良い思い出など。嗚呼、自らの手で滅ぼしてしまいたい。

 

「そうだな。準備は万端とは言えないが迎え討とう」

 

「私達に歯向かう愚か者の姿位は直接見てさしあげましょう。味方の戦意の高揚の為にもです。それ位しないと士気が駄々下がりですね」

 

「お前は後方で待機でも良いぞ。軍事関係は俺の領分だし流れ矢に当たって負傷とかされても困る。何故ならキュラリス殿が怖い」

 

 ははははっとお互い笑い合う。キュラリスは護衛と侍女達を配置して一番守りが堅牢な所に待機して貰っている。まぁ夫婦の寝室なのだが、此処に居させるよりは幾分マシです。

 

 席を立ち、持ち込まれる凶報に備える。流石にショッキングな報告を聞いて椅子から転げ落ちるとか恥を晒したくないですから。王族としての心構えは大切なのです。

 私は、グーデリアル兄上と違って軍事方面は専門外なのです。ですが兄弟仲の良い所と身分上位者が戦場に姿を現すだけでも大分違うのです。

 残念ながら、私やグーデリアル兄上は英雄の器ではない。そもそも我が国には既に英雄が居るのです。ああ、リーンハルト卿さえ来てくれれば何とでもなるのに……無い物ねだりをしても仕方無いですね。

 

 それでも私は、キュラリスと共に生き残ります。どんな事をしても何をしてでも。例えそれが外道であっても、この街の領民全てを見殺しにしてでも。グーデリアル兄上は見殺しに出来ないですがね。

 

「グーデリアル様、ロンメール様。バーレイ伯爵がフルフの街に訪ねて来られて面会を求めています」

 

 は?リーンハルト卿が此処に来たですって?

 

「「よっしゃ!勝ったぞ!勝利確定だっ!」」

 

 思わず、グーデリアル兄上と抱き合って飛び跳ねてしまう。最近で此処まで嬉しかった事は無いですよ。これで、私達もキュラリスの安全も保障されたも同然。流石は父上の腹心、必要な時に来てくれる。

 

「直ぐ此処に通して下さい。丁重にですよ。あと、キュラリスも呼んで下さい」

 

 本当に本人なのか一応確認しなければ。それと本物なら彼の近くが一番安全、キュラリスを呼び寄せなければ。最近塞ぎ込んでいますので、早く安心させてあげたいのです。

 芸術関連の話もしたいし、楽器の演奏会も催したいし、なにより趣味の合う者と話したい。リーンハルト卿にも新しき性の可能性を教えたいのです。

 女性の母性的な優しさや包容力を「赤子のように素直に甘えたい」という新しき世界を広める賛同者となって欲しいのです。これも芸術、頭の中に浮かんで来た称賛の言葉。

 

 そう『バブみ』です!ああ『オギャる』は別用途です。これは、リーンハルト卿には未だ早いでしょう。段階を踏んでの布教が……

 

「お前な、怖い顔をしているぞ。何か良からぬ事を考えていないか?あと守備隊の隊長も呼んでくれ。早々に此処を放棄してエムデン王国に帰還するぞ。ああ、あとあれだ。貴賓室のお客さん達には教えるな」

 

 黒い笑みを浮かべてしまいましたか?王族として駄目な痴態を晒してしまいました反省。あと気になったのですが、部屋の外にも兵士が溢れていますが、全員伝令ですか?

 グーデリアル兄上の指示を受けてバラバラと伝令に走って行ったので、多分ですが全員伝令兵だったのでしょう。複数人で報告に来るなど余程、リーンハルト卿が来てくれた事が嬉しかったのですね。

 分かります。それだけストレスを抱えていたのでしょうが、これで解決ですよ。ええ、もう心配事の殆どは無くなりました。後は限りある物資を消費する前に帰国しますよ。

 

「そうですね。余計な事を言わせない為にも教えてはいけませんね。亡国の王族の扱いは丁重に、誰にも触れさせずにしまい込んでおきましょう」

 

「此処に置いて行きたいが、流石にそういう訳には行かないだろうな。だが連中が、リーンハルト卿の事を知れば何を仕出かすか分からない。丁重に俗世から隔離して連れ出そう」

 

 だが実際は取り巻きの連中までは情報を遮断する事は不可能、既にこの騒ぎです。あの腹黒王女ならば、リーンハルト卿が来た情報は遅かれ早かれバレるでしょうね。いやもう既に掴んでいると考えた方が良いでしょう。

 あの腹黒王女は私と同じ策士であり、相当数の影の護衛を引き連れています。領民だけでなく、我々の配下にまで買収を掛けているのは報告が上がっています。全員が買収されていないとは考えられない。

 味方を疑う事を考えさせられるとは、本当に厄介者です。本音なら此処に放置して勝手に自分の国と運命を共にして滅んで欲しいのです。今なら可能でしょうか?

 

 この件は、リーンハルト卿とも話し合う必要が有りそうです。謀略系の話は、グーデリアル兄上には言えない私の領分。彼女達は何れ必ずエムデン王国に害をなす。今なら処分出来る。

 ですが英雄殿の考えが分からないと駄目なのです。此処で私との不和を生じさせる位ならば、涙を呑んで今回は我慢するしかないでしょう。

 清廉潔白で慈悲深く優しい。そういう評価を得ている相手ですし、暗殺しかも未婚の女性達ともなれば反対される可能性も捨て切れません。なんて厄介者、本当に疎ましい。

 

「この部屋の周囲に兵を配置、許可無き者は近付かせないで下さい」

 

「例え属国の女王でも王女でもだ。今後の我々の進退が決まる。部外者には大人しくしておいて頂こう」

 

 先ずは私達の安全の確保について話し合いです。考えられる限り最上の増援が来てくれたのです。此方の問題事を全て説明して、今後の行動を早急に決めなければなりませんね。

 ああ、考え事をしていたら来たみたいですね。先ずは増援に来てくれた事を心から感謝しましょう。本当に有難う御座いました。これで希望が見えましたよ。

 


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