古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第91話

 夜営地に攻めて来た野盗達の中に巨大なロックゴーレムが居た。

 その質量と重量で攻城戦に使用されるゴーレムを扱える奴が野盗にまで落ちぶれているとは意外だ、アレだけのロックゴーレムを操れるなら国軍にでも入れば優遇されるだろうに。

 そしてベリトリアさんの復讐の相手みたいだ、ロックゴーレムを睨み付けている彼女の放つ殺気は相当強い……余程の恨みが有るのだろう。

 

 復讐か……他人の僕が口を挟める事じゃないな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムルークよ、敵を粉砕しろ!」

 

 10m前方に精神を集中し大気中から魔素を集め周りの大地を削り取りながら全長6mのゴーレムルークを錬成する。

 これだけの大きさのゴーレムは転生後では初めてだ、大量の魔力を消費するが制御出来ない事はない……大丈夫だ、やれるぞ。

 

「へぇ、攻城型のゴーレムか……防御陣地の構築と良い、リーンハルト君ってさ、騎士団副長の息子とはいえ軍隊に関係が深い魔術が多いよね?」

 

 ええ、元々一軍を率いてましたから……とは言えないな。

 

「攻城型?違いますよ。ゴーレムルークはゴーレムの能力向上の一つとしての巨大化ですが、問題も多々有るんですよ」

 

 ゴーレムルークをロックゴーレムに向かって突撃させる、此方に気付き振り返るがその歪な顔に向かい右のパンチを打ち込む!

 鈍く大きな音がして相手はよろけた……

 

「よし!そのまま引き離せ!」

 

 後ろに一歩下がる事で体勢を整えたロックゴーレムに更に左のパンチを打ち込むと頭部が粉砕する、やはり魔力を岩や土に浸透させて操るタイプか……

 仰向けに倒れた所を背中に背負わせていたメイスを取り出して殴り付けると、破片を撒き散らかしながらロックゴーレムの上半身が崩れる。

 二発目のパンチが当たった後、急速に魔力が薄れたから制御を切ったな。だから崩壊も早いのだが、襲撃されて直ぐの段階で見切りを付けて逃げ出した?その判断の早さの根拠は何だ?

 

「まさか……ハボック兄弟のロックゴーレムが負けるなんて……そんな馬鹿な……」

 

「あの野郎、高い金で雇ったのに逃げやがった……俺達も急いで……グハッ!」

 

 頼みの綱のロックゴーレムが倒され操っていた魔術師が逃げ出した事により戦意を喪失した野盗達。

 そんな奴等に情け容赦無くファイアランスを打ち込むベリトリアさんから目を逸らし戦場を見回す。

 

「粗方片付いたか……」

 

 ファイアランスって叫んでるけど丸太みたいに太く長い炎の塊に当たれば全身が業火に包まれ苦しみながら死ぬ、全身火傷は高位治癒魔法じゃなければ治せない。

 

 野盗達は壊滅、立っている者は僕等以外は誰も居ない。

 

 

「畜生!何処だ、何処へ行ったんだ!出て来い、ハボック!」

 

 見失った時点でエレさんに確認して貰えば、或いは捕まえる事が出来たかも知れない。

 復讐心に駆られて正常な判断力が鈍ったのかな?完全に日が昇り辺りが明るくなったのに、ハボック兄弟の姿形は何処にも見えない……

 

「ハボック兄弟か……Bランク冒険者、白炎のベリトリアさんから逃げ続けている奴等だし侮れない」

 

 昨夜にベリトリアさんが言った、どのみち私が地獄にすると……その通りになったな。

 全身を焼かれた野盗達がプスプスと白煙を立ち上らせながら倒れている、復讐に対しては本当に見境も容赦も無い。

 未だ激昂しているベリトリアさんを横目に見ながらエレさんの元へ向かう、注意はしていたが特に怪我も無くて安心した。

 

「エレさん大丈夫?」

 

 呆然としている彼女に話し掛けるが無理もない、こんな惨劇はベリトリアさんだから出来た事だから……

 

「ん、平気。でも五人逃げた、もう『鷹の目』の探索範囲外……」

 

 呆然としつつも『鷹の目』のギフトで索敵を続けていたのは凄いな。

 でも逃げたのは五人か……少なくない人数だ、ハボック兄弟が何人居るのかは知らないが野盗の上層陣も一緒に逃げたと思って良いだろう。

 僕等が来て三分も経ってないのに逃げる判断が出来る連中が野放しとは不安が残る。

 

「そうか、やはり逃げたのか……」

 

 ゴーレムルークを魔素に還し警戒の為にゴーレムポーンを十二体錬成した所で、イルメラ達が走り寄ってくるのが見えた。防御柵の出入口は反対側だから回って来たのだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト様、早くいらして下さい」

 

 モアの神様に祈る、私達を助けて下さい……

 

「もう防御柵が保たない!」

 

「くっ、駄目か……こうなったら……」

 

 突撃する為に集まった人達から漏れる言葉はどれも悲観的、こうなったらやれるだけの事をしてリーンハルト様を待つだけだわ。

 何度目かの覚悟を決めて権杖を握り締めると、ロックゴーレムがよろめいていた……

 

「アレは……大きさは違うけどリーンハルト様のゴーレムさんに似ている」

 

 朝日を浴びて輝く青銅製の大きなゴーレムが二発目のパンチを当ててロックゴーレムを吹き飛ばすと柵に隠れる様に倒れた。

 

「凄い、あんな巨大なゴーレムを錬成するなんて……岩や土に魔力を浸透させて操るんじゃない、全てを魔素だけで金属製のゴーレムを作り込める物なの?」

 

 ウィンディアが呟く様に説明してくれるが今はどうでも良いのです。

 リーンハルト様のゴーレムさんは巨大なメイスを振りかぶって一気に止めを刺したのだろう、凄い大きな音と振動が響いた……

 

「勝ったな、討って出るぞ!奴等を一網打尽にしてやる!」

 

 ルニーさんが他の人達を率いて外に飛び出して行った、私はその場に座り込む。今気付いたけど手が震えているわ……

 

「イルメラさんも怖かったんだ、私も怖かったわ。野盗なんかに捕まったら酷い事をされるもの……

またリーンハルト君に助けられちゃった。さぁ、私達の素敵なリーダーに会いに行こうよ」

 

 奴等に捕まる?それは死より辛い目に遭わされる、だけどモア教は自殺を認めていないわ。差し出された彼女の手を握り起き上がる、柵の外から歓声が聞こえるのは残敵も倒したのね。

 

「ええ、行きましょう。私達の素敵なリーダー、リーンハルト様のところへ……」

 

 あの不思議な主の元へ、早くリーンハルト様の顔が見たくて仕方なかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト様!」

 

 既に大きなゴーレムさんは魔素に還されたのか、リーンハルト様の周辺には何時ものゴーレムさんしか居ない。真っ直ぐに駆け寄ると私達に気付いて笑顔を向けてくれる。

 

「イルメラの方は大丈夫だったかい?」

 

「はい、あのロックゴーレムに防御柵が壊されそうな時は駄目かと思いましたが……あの大きなゴーレムさんは初めてですね?」

 

 全長6mは有る巨大なゴーレムは初めて見ました、それに重厚な感じで如何にも頑丈そうなデザインでしたし……

 

「拠点防御特化のゴーレムのゴーレムルークだ、漸く錬成する事が出来たよ」

 

 何故か苦笑いを浮かべていますが……

 

「漸くと言う事は?」

 

 既に作れるだけの知識や技術は有ったのですか?と聞きたかったのですが、リーンハルト様の周辺に人が集まり過ぎて話し掛けるタイミングを失ってしまいました。

 あれが私にだけ教えてくれた前世か他人の記憶による知識なのですか?でも知識だけじゃない慣れがなかったですか?

 心に浮かんだ疑問を飲み込み笑顔でお礼を言う、命を救われたのだから些細な事です……

 

「有り難う御座いました、リーンハルト様」

 

 そう言って頭を深く下げる。

 

「む、僕の方こそ遅くなってすまない。でも馬ゴーレムの制御にも慣れ始めたし今後の移動は楽になるだろう」

 

 本当に周りから魔術馬鹿と言われる位に魔術の事を考えていますね、可笑しくなります。

 

「リーンハルト君、凄いよ!あんな巨大なゴーレムを作り出せるなんて聞いてないよ」

 

 突然ローブ姿の小柄な人が割り込んできて、リーンハルト様の手を握り締めましたが誰でしょうか?

 

「ああ、聞かれなかったからね。いや本当は、このゴーレムを多用する依頼をこなしている内に出来ると確信したんだ」

 

 私の初めて見る女性が馴れ馴れしくリーンハルト様に話し掛けるのが気に入らない、ローブを着てるしゴーレムの話をしてるから同じ土属性魔術師でしょうか?

 謎の女性の後にルニーさん、ベリトリアさんがそれぞれ話し掛けて来ましたが何故か女性ばかり……

 

「むぅ、何故でしょうか?少し……いえ、かなりムカムカします」

 

 リーンハルト様の周りの綺麗な女性が集まると感情が乱れます、今迄は無かった事なのに……

 

 夜は完全に明けて暖かい太陽の光が降り注ぎ、気持ちの良い日差しが緊張感を解してくれます。漸く今夜の出来事が終わったと実感しました……

 

 

 後日、コレットさんが男性と教えて貰い驚きましたが女性より細くサラサラの髪や、きめ細かな肌ってどうなんでしょう?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今回はライラックさんとリラさんに事実を告げた、アレだけの騒ぎを起こして死傷者無しとは言えない、皆さんの口止めが出来ない位に見られてしまったし……

 何よりリラさんが何と無く気付いてしまっているので嘘は言えない。他の連中が後片付けをしている中、朝食兼報告会となった。

 大きなテントに集まり襲撃の後にしては豪華な朝食を食べながら今夜の出来事を説明する。

 

「つまり時計回りに周囲を探していたら反対側から攻めてきたと?」

 

「完全な行き違いでした、申し訳ないです」

 

 予想はしていた、暗闇で半径150mの索敵範囲では迎撃には有利だが襲撃は微妙だと……だが反対側から攻めてくるとは運が悪いと言うか何と言うか。

 

「当初の予定通りよ、すれ違って野営地を襲撃されても直ぐに助けに行けたじゃない。

ハボック兄弟を取り逃がしたのは悔しいけど依頼は達成、契約違反はしてないわ。リーンハルト君も簡単に頭を下げちゃ駄目よ」

 

 これが普通の対応なんだろうか?だが良い依頼人ばかりじゃないから無闇に謝罪すると契約違反とか突っ込まれるのかな?

 

「まぁまぁ、確かに最初にリーンハルトさんが心配して対策を練った通りになりましたが予想通りの事です。最終的に判断を下したのも私ですから非が有るなら私の所為ですね」

 

「私の為に無理をさせてごめんなさい……」

 

 リラさんが申し訳なさそうに頭を下げた、食事も殆ど食べていない、余程恐かったのか……明日は、いや今日は花嫁行進の本番なのに、こんな鬱いだ顔では駄目だ。

 

「考え方を変えればコーカサス地方を脅かす野盗共を討伐出来たのですから凱旋?ですよ。

街の方々に、特に商隊を組んで移動する商人の方々にも良い土産が出来たと言えるでしょう。

だから自信を持って花婿の待つ街へと入って下さい。幸いと言うか今回の件で技術的にレベルが上がったのでゴーレムの召喚数が増えました、当初の予定より多く隊列を組めます」

 

 花嫁行進は血で汚してしまったが先方には悪い事じゃない、リラさんが嫁いだ事で野盗共が減ったのだから……

 

「あの大きなゴーレムさんもリーンハルトさんが召喚したんですよね?アレは何体作れます?」

 

 ライラックさんがゴーレムルークに食い付いた、だがアレは余り他人に知られたくない。

 

「うーん、ゴーレムルークだと一体だけですね。アレは制御が難しいので集中しないと駄目なんです。ゴーレムポーンなら三十体作れます」

 

「二割り増しか……凄いな……あのロングソードのアーチですが結婚式で教会に向かう時もお願い出来ますか?

勿論、追加報酬も出しますし野盗共の賞金も手続きは我々が行い全額お渡しします」

 

 教会に向かう?当初契約では街に到着して終了、一泊して用意された馬車で帰るだったから結婚式本番には出席しない筈だが……

 イルメラ達を見れば苦笑しているが嫌がってはいない、つまり依頼延長OKか。

 

「分かりました、本番の結婚式もお手伝いさせて頂きます。ですが武装集団ですから先方には事前に許可を取って下さい」

 

 確かリラさんの相手は貴族だった筈だから変に疑われるのは嫌だしね。

 


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