古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第907話

 何故か仕事に対する意欲とか責任感とか色々の思いが混ざり合って、僕だけに仕事を押し付ける事が宜しくないという事になったらしい。

 そこ迄、酷使はされていないのだが周囲から見ると違うらしい。不正や汚職に塗れる某国とは違い大変良い事だとは思うが、まさか政敵のバニシード公爵まで同じ考えとは驚いた。

 まぁその彼も責任重大な仕事を押し付けられたのだが、流石に公爵と言えども一人では無理なので参謀連中と行う事になった。アルドリック殿達にも相応の苦労が押し寄せるだろう。いや結構大変だと思う。ザスキア公爵の協力が必要不可欠だと思うけれど、協力要請出来るのだろうか?

 王命は絶対だが協力を要請するには対価が必要で政敵として敵対している関係上、素直には聞かないだろう。王命だからと強要した場合、最低限の助力しかしない。そして失敗させてからのリカバリーで、ザスキア公爵は利益を得る。まぁそれ位は公爵間で当り前らしいから、相応の対価を積んで協力させるしかない。

 

 足の引っ張り合いは国益を損ねる悪行かもしれないが、最悪の回避を込みで行動してるのが恐ろしい。綺麗事だけでは済まない、その辺の事が僕は疎いのが問題なんだよな。女性陣に助力して貰って漸く人並みでしかないから……

 

 バニシード公爵は、フレイナル殿の件でアルドリック殿達参謀連中とは協力して僕を責めてきたので仲間意識は高そうだし上手くやっていけるとは思う。

 何方も主導権を握りたがるから、その辺の調整が大変だろうな。一応バニシード公爵は武門だが軍部での役職は名誉職で予備役扱いだから、今回新たな役職を任命させると思う。

 陸軍管轄で軍単位の戦力を動かすから指揮官でなく司令官になるのかな?『国境方面軍封鎖作戦司令官』とか?既にバーリンゲン王国に相当数の戦力を投入しているから、其方との兼ね合いをどうするのか?

 フルフの街を防衛の拠点として、侵攻部隊と入れ替わりで新たな戦力を投入するのか配下に加えるのか?だが侵攻部隊は公爵四家の連合軍だし素直に従うかが問題だな。

 今はローラン公爵の配下のベッケラン子爵が取り纏めているから簡単に指揮権を渡すとも思えない。第四軍団翠玉(すいぎょく)軍の残りの部隊は早急に王都に帰還させるかな?

 

 国難とは言え権力争いが無い訳じゃないし、何方が有利に事を進めるのかで裏に表に争うだろう。まぁそこは参謀連中の腕の見せ所だろう。頑張れとしか言えない。

 僕の立場は宮廷魔術師第二席、宮廷魔術師団員達を総括する筆頭のサリアリス様を補佐する地位に就いている。当然だが防衛戦ならば魔術師の配属は必須、派遣要請は来るだろう。

 サリアリス様は王宮の護りの要だから動かないし、僕は妖狼族を率いてバーリンゲン王国内に侵攻する。そうすると派遣の責任者はラミュール殿かアンドレアル殿か?

 

 宮廷魔術師団員は、セイン殿でも送るか?防衛なら土属性魔術師の活躍の場は多い。陣地構築とか城壁の補強とか探せば幾らでも仕事は有るだろう。

 だがそうすると相性の悪い者を責任者には送れない。いっその事、改心したフレイナル殿を送り込むか?今の彼ならば信用できるし、サポートを付ければ大丈夫じゃないかな?

 サリアリス様とも相談しよう。バニシード公爵と参謀連中と渡り合うには、未だ新米宮廷魔術師では厳しいかもしれない。やはり、ラミュール殿を責任者としてサポートにフレイナル殿を付ける?

 

 今のフレイナル殿なら、ラミュール殿も嫌がらないだろう。ラミュール殿ならば、バニシード公爵とも有る程度は渡り合える。宮廷魔術師団員を良い様には使われないだろう。

 うん。人選の腹案は決まった。あとはザスキア公爵とリゼルにも相談してから、サリアリス様に提案しよう。頼れる人が多いって凄く助かるよね。

 現実逃避は此処までにして、実はザスキア公爵に呼ばれているんだ。リゼルが有る事無い事言ってない事を祈るしかないが、今回も色々とやらかしているから。

 最近のザスキア公爵は少し怖いんだよな。見た目は若返って同年代の優しい感じの女の子なのに、中身がアレだからギャップも凄い。

 

 頼りになる御姉様なのに、今は何と言うか……

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 久し振りに自分の執務室に入ると大々的に改装が行われていた。部屋の大きさこそ変わってないが、落ち着いた感じに改装されている。これって国費の無駄遣いでは?

 自分の執務机に座れば、机の上には決裁待ちの書類が整理された状態で山積み。これを見ると帰って来たって実感が湧いてくるのは、職業病だろうか?そうなんだろう。

 今回、王都に居られる期間は約二週間程度。援助物資の選定と準備に時間が掛かるし、他にも決めなければいけない事も多い。責任者って大変だと本当に思うよね。

 

 優先的に決済が必要な書類に目を通し、問題が無ければ押印し内容に質問が有れば付箋を貼って担当部署に返却。直ぐに回答を持って担当者が説明に来る。

 前よりも風通しが良くなっていると実感する。反発していた下級官吏達を対処したら一時的にだが書類の回りが遅くなったが、今は効率化を重視して以前より速くなっている。

 ニーレンス公爵とも連携しながら組織改善を進めている。だが外交部門は手付かず、問題を起こしたクルーゾ殿達を辞めさせた後の人員の補充ってしてないらしい。

 

 というか、僕が外交担当してない?人間以外の種族限定だけどさ。

 

「リーンハルト様、遊びに来ましたわ!」

 

 ノックも無しに扉を開けて入ってくるのは、ザスキア公爵。その見た目も相まって本当に遊びに来たのかと錯覚してしまう。後ろに控える、イーリンとセシリアがお姉さんというか保護者?

 『新しき世界』の盟主様として若返りの秘薬を独占している女帝にして、エムデン王国内で実質的なNo.2だと思います。女性陣からすれば王妃を抜いてNo.1だろうな。

 その恐ろしい外見の優し気な少女は、来客用のソファーに横座りしている。若返り前は似合っていたが、今は普通に眠くなったの?って感じで思わず微笑んでしまう。

 

「何かしら?私を見て微笑んだりして?良い事でも有りましたか?」

 

「いえ、一仕事終えて帰ってきた実感でしょうか。まぁ日常に戻れた喜び?」

 

 まさか似合わない態度が微笑ましいとも言えず、適当というか半分本音を話す。難解な外の仕事が終われば忙しい中の仕事に移るって事ですね。ワーカホリックじゃないので気を付けなければ駄目だな。

 彼女の向かい側に座る。イーリンとセシリアは座らずにザスキア公爵の後ろに立って控えているので、声を掛けて隣に座らせる。このソファーは広いから三人座っても余裕が有るので……

 アレ?ザスキア公爵に睨まれたけど何か失敗したのか?左右に座った女性陣を見ると、此方は余裕の笑みを浮かべているけどさ。ザスキア公爵は君達の主様だよね?下剋上とか考えてないよね?

 

「その、今回も色々な事が有りましたけれど……多分ですが、リゼルの報告は彼女の主観が大きなウェイトを占めていると思われるので疑問点が有れば答えますですハイ」

 

「語尾が可笑しいですわよ。特に疑問点とかは有りませんが、新たに魔牛族も引き取る事になりますが大丈夫なの?」

 

 優し気な笑顔を浮かべているが安心は出来ない。魔牛族の移住の件の細かい事は、ザスキア公爵に丸投げすると決めていた。移動と護衛は妖狼族に手伝わせれば、彼等の成果としては十分だろう。

 これなら女神ルナ様もニッコリ。御神託は成就し、僕の仕事も終わり。移住先はこれから決めれば良いのだが、妖狼族の里の近くが良いだろう。わざわざ離す必要も無いが、ザスキア公爵とも相談だろう。

 彼の種族は大変見目が良い。バーリンゲン王国の連中は異常だが、ウチの国の連中が色香に迷って何か仕出かす可能性もゼロじゃない。お近付きになりたいと押し掛けて来る事も有るだろうし……

 

「基本的には妖狼族と同じ扱いにはならないでしょうね。妖狼族は僕に臣従しましたが、魔牛族はエルフ族のクロレス殿の依頼で移住の世話をするだけです」

 

 特に興味が無いというか、魔牛族の女性連中に興味はありませんアピールをする。エルフ族絡みの依頼だから世話をする、それだけです。

 邪な思惑など抱いてない、抱いて何かすればバーリンゲン王国と同じ末路を辿る事になるんだぞ。恐ろしくて出来るか!って言いたいけど、前例が有るから怖いんだ。

 ウチの貴族連中も親族まで合わせると、色欲に狂った異常者は必ず居る。そういう連中に限って世間を知らないから愚かな行動をしてしまう。

 

 インゴの件を考えれば、見目麗しい彼女達と自由恋愛するんだとかさ。性の強者達の対応も含めないと駄目なのか?駄目だよな。ああ、胃が痛くなって来た。

 

「でも自分の領地に支配下に無い部族を住まわせるってどうなのかしら?」

 

 チラリと視線を送りながら聞いて来たが、本来の領主としての立場ならば領民として扱うならば相応の税を納めて貰わないと駄目なんだろうな。

 魔牛族を特別扱いすると他の領民達の不満が溜まる。この辺は調整が必要だが、彼等も外貨を稼ぎたがっているし仕事を与えて報酬の一部を税として引けば良くないかな?

 下手な上下関係に拘れば関係性は拗れる。バーリンゲン王国の場合は一族の長に爵位を与えて相応の金貨も年金も与えていた。もっとも一族全てが満足する金額では無かったが、税は取りたててなかったそうだ。

 

 まぁ臣従していないし、独立性を保った他種族扱いだったのだろう。だが今回はエルフ族から僕を頼って移住しろと言われているからややこしい。

 エムデン王国はケルトウッドの森のエルフ族との関係は、一応は対等。属国の領地に独立して住んでいる少数の強力な種族、戦えば負けが確実な連中だから扱いは慎重にしないと駄目な連中。

 僕が交渉を一任された別の意味で困った連中ですが、特に干渉してくる訳ではないので接し方さえ間違えなければ問題は少ないと思います。

 

「どうとも思いません。適当な場所に住んで貰って、出来れば我々との接点は限られた場所を設けて一歩引いた健全な関係を築ければ良いのでは?」

 

「確かに交渉窓口を一本化して接点を極力絞るしかないと思いますが、果たして上手くいくと思います?」

 

 え?この言い回しは上手くいかない可能性が有るって事かな?

 

「何を分かりません的な顔をしているの?可愛いとは思いますが、貴方の立場では分からなくても分かった振り位はしなくては駄目よ。お姉さんが問題点を教えてあげます」

 

 人差し指を立てて左右に振る仕草は可愛いと思います。ですが見惚れた訳ではないので、左右から腰の肉を捩じるは止めて下さい。我慢しましたが、変な声が出そうでしたよ。

 ザスキア公爵が言うには既に妖狼族が周辺の領民と良好な関係を築いている。つまり地域に打ち解けている訳だが、魔牛族も同様に直ぐに馴染むと思われるそうです。

 元々、妖狼族は人間社会に憧れる若い連中が多かったが、相手が問題児のバーリンゲン王国の連中だからか。そこ迄、親密な関係にはならなかった。

 

 まぁ当然だろう、適度な距離を置いて関わらない事にしていた。関わっても碌な事にはならないし、実際に口車に乗せられて僕の暗殺とか企んだし……

 

「エムデン王国は民度が高いですから、他種族とはいえ国家が認めた連中ならば受け入れる。対策としては、魔牛族の方々の方にも適度な距離感で付き合って欲しい基準を明確にしないと駄目ですね」

 

「そうね。双方が関係性を理解しないと駄目よね。一方だけが気を遣う関係では長続きしないわよ」

 

 他種族間交流の難しさだな。人間至上主義者達の勢力は抑えたが無くなった訳じゃないし、良くない企みのターゲットにされる可能性は高い。当然だが自衛も必要、取り決めも必要。

 他種族間交流の取り決めって公式な物は無いと思ったから、僕が前例を作らないと駄目って事なのかな?そう思い付いて、ザスキア公爵を見ると満面の笑みを浮かべている。

 どうやら僕の考えなどお見通しみたいだな。つまり初めての異種族間交流についての取り決めの制定に助力してくれるって事ですね?

 

「色々と決め事が必要になってきますね」

 

 僕だけじゃ無理だな。これが前に浮かんだ直感の事だな。

 

「そうね。お互いが納得する内容に擦り合わせないと駄目だから、忙しくなるわよ」

 

 そう圧の強い笑みを浮かべられてもですね。僕は二週間後にバーリンゲン王国に向かいますので、時間は限られていますし他の仕事も多くて身動きが取れませんので……イーリンもセシリアも左右から身体を寄せて来ないで大丈夫だから、理解はしてるから。

 深々と頭を下げて助力を願う事にした。情けない位に予想通りに話は進んだが、僕が取り決めの内容について知る事になるのは全てが決まった後だろう。

 只、何も言わず承認すれば良い。提案される内容については反対などしない。これはそう言う案件だな。

 

 


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