古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

919 / 1000
第913話

 魔牛族をエムデン王国に受け入れる為の援助を妖狼族に任せる事にする。これで妖狼族も活躍出来て、女神ルナ様もニッコリ。

 着々と成果を上げる事で、エムデン王国内での妖狼族の立場も固まりつつある。他種族の受け入れは中々難しいのだが、妖狼族に関しては上手く進んでいる。

 女神ルナ様の御神託による先読みと指示がエグいのも有るけどね。早々にエムデン王国の中でも影響力の有る僕の配下に収まる手段だって、最初は暗殺だよ。

 

 普通に一族をあげての敵対行動だったが、暗殺を仕掛けて失敗してからの捕らわれてたユエ殿の奪還すら計画の内だったのだろう。

 人間が女神に敵う訳が無いので受け入れるしかないのだが、最終的には僕にも利益も有るので結果オーライ?強力な配下を得られた事と、妖狼族絡みなら困った時に女神の助けを頼める?

 まぁ魔牛族も最初に一悶着有ったけれど、エルフ族との関係性を良好にするスパイスだと思えばプラスだよ。実際に魔牛族のミルフィナ殿も当初は反発していたが今は、クロレス殿に口添えもしてくれたし。

 

 この大陸にも少数だが異種族は存在する。エルフ族にドワーフ族、妖狼族に魔牛族。他にも居るのだが、エムデン王国の周辺には居ない筈だが……何となく、また接点の無い異種族と絡みそうな気がする。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇ 

 

 

 

 自分の屋敷に今回の件に関連する連中を集めた。自分だけ先行して、カシンチ族連合に援助物資を届ける案は没、魔牛族対策の方を優先しないと問題だと考え直したから。

 最初は別行動でも良いかと思ったけど、少なくともケルトウッドの森に寄って魔牛族の里に行く方が良いと思い直した。効率的‎に考え過ぎるも問題、そこに人の感情を入れた方が良い。

 まぁクロレス殿には先に会いに行って今後の予定を報告、その後に妖狼族と同行してケルトウッドの森と魔牛族の里に向かう。魔牛族の里まで同行するが、そこからは別行動。

 

 クリスと二人で辺境の地に居る、カシンチ族連合の所に向かう。途中で怪しい連中が居れば襲い掛かって間引くのも有りだな。

 

 王宮の執務室に妖狼族を招き入れる事は憚られるので自分の屋敷に招く。別に差別とかではなく、自分の配下だから態々王宮に呼ぶ事も無い。変な連中に絡まれるのも嫌だし面倒臭いし。

 人間至上主義者達は激減し勢力も減退したとはいえ、物珍しいとかでチョッカイを掛けられるのも面倒臭い。年中暇を持て余している高貴なる方々にでも目を付けられたら拗れるだけだし。

 私室でのんびりと、イルメラさんと紅茶を飲んでまったりと寛いでいたが馬の嘶きが聞こえて来た。招待客の乗った馬車が到着したのだろう。

 

「どうやら、ユエ殿達が来たみたいだね」

 

 この応接室は探査魔法を掛ける必要が無い。窓の下が正面玄関なので、一寸した音や気配はソファーに座っていても何となく分かる。馬車が到着して使用人が対応しているのだろう。

 窓から覗くのはマナー的に微妙だから、ここで大人しく待っていればよい。見下ろして来客と目が合ったりしたら気まずいし。

 

「彼女達ですが、馬車でなく徒歩で来たがるのには困ります。贅沢とかではなく対外的な目も有るという事を理解して欲しいです」

 

 イルメラは苦笑いだが、そもそもモア教とは清貧を尊ぶからね。街中の移動に馬車を使うとか贅沢っていう気持ちも有るのだろう。僕の立場が相手にも散財を押し付ける。

 広大な領地を所有する伯爵家の家臣には、それなりの振舞いを求められる。清貧を心掛ける者達に贅沢をしろって事だから、でも必要な事でも有る。

 そんなジレンマを抱えているだろう、イルメラを軽く抱き締めて首筋に鼻を押し付けて良い匂いを胸一杯に吸い込む。今日もミルクの様な甘い匂いで最高です、イルメラさん!

 

「り、リーンハルト様?昼間から恥ずかしいです」

 

 彼女は香水を付けていないのにミルクみたいな甘い匂いがする。深く深く吸い込めば心の底から安心する、これは僕の精神安定に必要な事だと異常性癖を正当化する。

 

「イルメラの匂いを嗅ぐのは精神安定上、必要な事だから我慢して下さい」

 

 腕の中でモゾモゾと動く、イルメラさんから苦言を頂いたが声に責める感じは無かったので大丈夫だろう。これも愛情表現なので、我慢して下さい。

 だが余り彼女を困らせるのも問題なので、最後の一吸いだけして抱き締めていた腕を緩める。だがイルメラさんは拘束を解いても離れようとしない。

 名残惜しいが、自制心を総動員して彼女から離れる。単独行動が多かった為か、一緒に居る時は自制が利かない事が多いのが贅沢な悩みだね。

 

 それに、そろそろ訪問客の件で誰かが報告に来る筈だ。当主として色ボケが極まっているとか誤解をされない様にソファーに座り直して気持ちを切り替える。

 これも幸せの弊害って事だな。満足感と多幸感を感じながら、カップに残された紅茶を飲み干して扉を見詰める。あれ?待っているのに来客の報告が来ないんだけど?

 もしかして気を遣われているとか?いや、まさかな。流石に来客には探査魔法を掛けないが、この部屋の周辺は最小限度の警戒はしている。

 

 クリスか彼女と同程度の技量の持ち主以外が潜んで居れば分かるんだぞ。

 

「報告に来ませんね」

 

「うん。問題の有る者でも訪ねてきたのか?訪問の約束も連絡も来てない筈だけど……」

 

 騒がしくはないから揉めていないとは思うが、念の為に探査魔法を掛けると、ユエ殿とフェルリルとサーフィルの反応だな。ん?それと、ウルフェル殿の反応もあるな。

 彼は新しい妖狼族の里の造営で現地に行ってた筈だけど、王都に来ていたのか。でも王都に来ているなら、何処に滞在している?

 フェルリル達、若い連中は長期休暇を取って交代で王都に滞在してるって前に聞いたのを思い出した。確か滞在先を用意されたような……

 

「あれ、そう言えば妖狼族の連中も王都に居るけど滞在先って?」

 

「リーンハルト様の御指示の通りに、ライラック商会が新貴族街に用意しています」

 

 ん?そうだったっけ?指示とか出したかな?いや、出してないが彼女の悪戯が成功した様な顔をみれば自主的に手配してくれたのだろう。それ位の気遣いは出来る女性だから。

 こういう不足した部分を何も言わずに補ってくれるから妖狼族に限らず、クリス達もイルメラに懐くのだろう。

 配下に招いた一族の対応を疎かにする所だった。只でさえ異種族なのだから、一般の宿に長期に入れ違いで泊まらせるのも問題。少数だが人間至上主義者達だって居る。

 

 ウルフェル殿は新貴族男爵位を賜っているので、新貴族街に屋敷を構えても問題はない。だが普通に購入は厳しかっただろう。ライラック商会にも感謝の手紙を送ろう。

 それとは別にして、イルメラにも感謝の気持ちを込めて抱き締めるのと来客の報告で、ウィンディアが部屋に来るタイミングが重なって見られてしまい飛びついて抱き着かれた。

 メイド長のサラまで来てしまい少し騒ぎとなったが、幸せな日常の一コマって感じで仕事で疲れた心と身体がリフレッシュされた。

 

 まぁアーシャやジゼル嬢にもバレて機嫌を回復する為にオペラを観に行く事を約束させられたりと、僕にとっては御褒美もあったけどね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 なかなか連絡が来なかった理由は、逃げようとするユエ殿をウルフェル殿達がやんわりと取り押さえていたので遅くなったそうだ。

 ウルフェル殿が今日来た理由は、妖狼族の里の整備が完了し女神ルナ様を祭る神殿が完成したので巫女であるユエ殿を迎えに来た。そして僕に挨拶をして、ユエ殿を連れて行く許可を貰いに来た。

 何故?僕の許可が必要なのは分からないのだが、ユエ殿としては新しい妖狼族の里に行きたくないので駄々を捏ねてみたが駄目だった。それで最後の抵抗で屋敷に入るのを拒んだとか……

 

 いやいやいや、貴女は女神ルナ様の御神託を授かる事が出来る妖狼族で唯一の巫女様でしょ?それが女神ルナ様を祭る神殿に行きたくないとかは駄目じゃないのかな?

 もの凄く不貞腐れている彼女を見て、幾つもの疑問が浮かんでは消える。もしかして憧れの都会の生活に慣れてしまったので、王都に比べれば田舎にある神殿に行きたくない?

 そんな笑えない疑問が浮かんだが頭を振って、その考えを弾き出す。ユエ殿は幼女と神獣形態を使いこなし、更には満月の夜には美女に成長するという多機能を持つ不思議な女性だ。

 

 ソファーの中央に座り左右をフェルリルとサーフィルに固められて不機嫌そうに座っている彼女だが、流石に女神ルナ様の御神託でも自分を祭る巫女が神殿に不在は許さないんじゃないかな?

 少し離れて座る、ウルフェル殿の疲れ果てた顔を見れば相応の応酬が有ったのだろう。多分だが最後の希望で、僕に説得して欲しいとかだろうか?まぁ年下だけど一族唯一の巫女様だし強引な事は出来ない。

 剛毅な彼がチラチラと僕を伺う様に見る仕草でも分かる。相当苦労して説得を尽くしたが全く駄目だった。その理由が分かれば、一応説得の為の切欠くらいは分かるのだが……

 

「それで、ユエ殿が神殿に行く事を拒む理由を聞いても良いかな?」

 

 因みにだが応接室に居るのは、僕とアーシャとジゼル嬢、それとイルメラとウィンディア。リゼルが不在なのが痛い、彼女のギフトならば言葉にしない思いも分かるのだが頼り切る訳にもいかない。

 それに、ジゼル嬢も同じギフトを持っているが使用頻度の差なのか精度の違いが表れている。リゼルは外交等の交渉の切り札として酷使されていたので当然、実践に勝る物なしだね。

 妖狼族はユエ殿にウルフェル殿、それにフェルリルとサーフィルの四人。合計で九人と狭くない筈の応接室だが密度が高い。アーシャは既に気持ちは、ユエ殿側だと思う。彼女を心配そうに見ているし。

 

「私は王都を離れたく有りません。魔牛族のミルフィナ様達との交流も有りますし、あの最低の国から助け出すのでしたら微力ながら同行したいのです」

 

 小さな両手を握り締めて力説する姿は悲壮感に溢れていて、アーシャなどハンカチで目元を押えている。御神託だと言えば絶対なのだが、それは巫女としての矜持なのか言わない。

 女神ルナ様ならば、ユエ殿の身に危険が及ぶ事があれば御神託で止める筈だし彼女も信奉する女神ルナ様には逆らわない。今回の件は様子見なのだろうか?それとも、ユエ殿の自由にさせている?

 うーん、一宗派の崇める神様の考えなど理解出来る訳もないのだが、御神託で止めないとなれば今回は彼女がどう動いても妖狼族にとって悪い事にはならないのか?

 

「ユエ様、それは危険だと何度も説明した筈です。今回の作戦は私とサーフィルが責任者として一族の精鋭を率いて行きますので任せて下さい。それよりも里の事をお願いします」

 

「そうです。ユエ様はウルフェル様と一緒に新しい里に行って神殿で女神ルナ様に作戦の成功を祈って下さい」

 

 フェルリルとサーフィルが諫めるけど、微妙に優越感とか入ってないかな?今回の件は私達に任せて、ユエ殿は新しい里の神殿に籠って女神ルナ様を崇め奉りなさいって言ってない?

 言葉だけ聞いても少しアレかな?って思うのと、その顔に張り付けた表情がだな。優越感を隠し切れてないっていうか何て言うか、ユエ殿って巫女として妖狼族の絶対的な指導者だよね?

 実の娘と一族の若手指導者の二人を見る、ウルフェル殿の微妙な顔もアレだな。言っている事は間違ってはいないが、態度が微妙に悪いというかさ。

 

「因みに今回の作戦の予定人員は?僕はゴーレムクィーン五姉妹の内、フィーアとフンフを同行させます」

 

 基本的に家財の移動は魔牛族が準備して運ぶ。妖狼族はその護衛と運搬の補助を担って貰う予定だ。完全武装の妖狼族百人は人間の正規兵千人と同等以上の戦力となる。

 魔牛族は防衛力が強く、妖狼族は攻撃力が高い。今回は役割分担が明確で分かり易いし、能力に合っているので十全に力を発揮出来る筈だ。周囲が全て敵だとしても、問題無く移動出来る。

 勿論だがマジックアイテムも支給し補助を手厚くするし、ゴーレムクィーンのフィーアとフンフの二人も同行させる予定だ。僕としては五姉妹でも信用の厚い、アインかツヴァイに任せたかったが断られた。

 

 あとドライも無言だがジェスチャーで分かり易く嫌だと伝えて来た。フィーアとフンフをアイン達三人で両肩を掴んで前後に揺すり役目を押し付ける徹底振り、僕のゴーレムクィーンの成長って凄くて笑える。

 

「フェルリルとサーフィルを責任者として一族の精鋭百人を同行させる予定だ」

 

「戦力としては十分ですが、妖狼族の巫女であるユエ様を守りながらの強行軍は危険度が跳ね上がります」

 

「ミルフィナ殿との交流は同世代の私達の方が深いので、任せて頂いても問題は有りません」

 

 同族の三人に否定されて涙目の、ユエ殿にじっと見詰められてしまった。困ったな、どうしようか?どうしたら良いんだ?

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。