古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第925話

 荒廃した大地と人心、この国の連中は常に他人を蹴落とすとか奪おうとかしか考えないのだろうか?それとも余裕が無くなり本性が現れたのだろうか?兎に角、酷い。

 

 移動中に野盗らしき存在は問答無用で殲滅しお宝はカシンチ族連合に与えるので全て奪って空間創造に収納している。最初は金銭と武器や防具、食料位だったが今は全て奪っている。

 

 まぁ僕も酷い。私腹を肥やすつもりはないが、自分達の都合で彼等を間引こうとしているのだから。だが、見掛ける街や村が厳戒態勢となって野盗と化した農民や平民連中が襲っている。

 

 

 

 普通じゃ有り得ない状況なのは、中央政権が全く機能していないから群雄割拠時代に逆行しているのだろうか?

 

 

 

 この状況でも領主や貴族の私兵が治安維持活動を全くしていないのが異常だよ。領地の維持は領主の仕事であり義務でもある。それを怠るのならば貴族とは言えない。

 

 元々、バーリンゲン王国の貴族は平民達に圧政を敷いていたし平民達も貴族を恐れ従っていた。だが今は一部の武装した平民達が貴族の館を襲っている形跡が有る。

 

 今も目の前で燃え落ちた貴族の館らしき建物だが、襲撃の痕跡がありありと見える。僕よりも根こそぎ奪っている。それこそ何もかも、奪える物は全て奪い証拠隠滅で放火した感じだな。

 

 

 

 殺された貴族らしい……らしいと言うのは服も全て奪われて全裸で倒れているが、髪とか手入れが行き届いていたと思われる中年の死体が横たわっているから。

 

 他にも何人か身包み剥がされて殺されている。館と共に燃やさなかっただけマシじゃないな。暴行の跡も見られるし、館の物を全て運び出してから殺したか、運び出す最中に殺したか?

 

 計画性の無さも伺える。どのみち此処を襲った連中は狂っていると思って間違いはない。哀れな男達を簡単に埋葬して、モアの神に祈りを捧げる。

 

 

 

「ロクでもない連中だが、死んでしまえば埋葬する情けくらいはかける。これで遺族が救出に間に合わなかった所為だから、責任はお前にある!補償と賠償と謝罪をしろとか言いそうで怖い」

 

 

 

 祈りを捧げていると、遂に燃えて耐え切れなくなったのか館が崩れ落ちた。周囲に黒煙と火の粉が飛び散る。有る意味、幻想的な景色だな。崩壊は儚くて悲しい。

 

 

 

「ん?誰か来る。埋葬の最中に探査魔法を掛けてなかったのが失敗だった、反省」

 

 

 

 元々、貴族の館だから敷地周辺は塀で囲って有るが殆ど壊されている。周囲は拓けているので逃げ出しても見付かってしまう。近付く連中が善か悪かも分からないから、待ち構えて接触する事も憚られる。

 

 足元の地面に錬金で穴を開けて垂直に落ちる様に地中に潜る。そのまま塀が崩れて瓦礫となっている場所の下までトンネルを掘って移動し、頭だけ地上に出す。勿論だが錬金で瓦礫で周囲を覆い見付からない様にする。

 

 暫くすると人の気配を感じ、息を潜めて伺えば武装した兵士に守られた貴族らしき中年の男が現れた。馬には乗らずに徒歩で来たみたいだが、鎧兜で完全武装しているので体力は有りそうだな。

 

 

 

 兜を被っているしフェイスガードも下げているので顔は確認出来ない。仕立ては良い、少なくとも男爵本人か、子爵の親族クラス以上だろうか?

 

 使用感が有るので実戦に参加しているとみて良いかな?代々受け継ぐ程のレベルではないけど、お下がりを使用している可能性も有るか?それにしてはサイズ合わせの跡もないか。

 

 一応、統制は取れているので一定の訓練を科せられた連中だと思う。貴族の私兵としてのレベルならギリギリ及第点だろうか?その辺の野盗になら圧倒出来る練度だね。

 

 

 

「クソッ、また襲撃された後か。残念だが此処も間に合わなかった」

 

 

 

 言葉から察して、応援に駆け付けた近隣の貴族ってところだろうか?貴族間の助け合い、きっと襲われる前に救援を頼んでいたのだろう。男性の悔しそうな態度には、純粋に殺された者への悲しみを感じる。

 

 配下の連中が指示に従い周辺を探索する。僕の隠れている所は少し離れているし瓦礫しかないから近付いては来ない。偽装していても危険だから撤退するしかないので、連中の行動を注意して観察する。

 

 少し危険だが、情報収集をしたい。辺境に近い領主や貴族達の動向、現状の状況なども知っておきたい。カシンチ族連合にも情報は共有させたいし、ギリギリまで粘ってみるか。

 

 

 

 場合によっては彼等と戦う事になるのだから……

 

 

 

「オルレゴン様、此方に何かを埋めたような跡が有ります」

 

 

 

 直ぐに異常個所を発見して報告、上位者の前で直立不動で敬礼も忘れない。動きもキビキビしている。ふむ、彼等の評価を上方修正しても良いかな。

 

 

 

「何を埋めたのか分からないが、注意して掘り返してみろ」

 

 

 

 オルレゴン?聞き覚えが有る名前だが、誰だったかな?確か、そうだ!前にレズンの街を攻略した時に、クリッペン元殿下を街に引き入れた当時の代官の名前と同じだ。一族の者かな?

 

 一回しか会った事は無いが、イヴァノ商会の会長と共に処罰されたと思ったが、その親族の誰かか?そう言えば記憶は曖昧だが、殺されていた男性だが、オルレゴン殿だったような気もする。

 

 すると、オルレゴンと呼ばれた男は、家名を継いだ後継者か?代官の任を解かれて領地に戻ったとかだろうか?前回は逆賊の元殿下に協力して処罰され、今回は館を襲撃されて全てを奪われて殺されたのか。

 

 

 

 哀れだな。

 

 

 

 僕が埋葬した場所を掘り起こしている。被せた土は柔らかいので、特に苦も無く掘り返しているが組み立て式のスコップ持参とはエムデン王国の工兵と同じで用意が良い。

 

 ただ野生の獣やモンスターが血の匂いに誘き寄せられて掘り返さない様に、深さは1m程度は有る。なので時間はそこそこ掛かるのだが、オルレゴン殿は怪しいと思ったので全員を集めて掘らせている。

 

 十五分程掛かって一ヵ所が掘り終わったのだろう。穴の中で掘っていた男が慌てて穴から出て来た。死体を見付けてしまえば動揺もするだろう。

 

 

 

「オルレゴン様、死体が埋葬されています。その割と丁寧に埋葬されているので、証拠隠滅とも思えませんが……」

 

 

 

「埋葬?賊共が丁寧にか?この掘り返した痕跡が全て埋葬の跡だと?まさか奴等がそんな事をする訳が無い。襲撃されて、それ程時間も経ってない筈だぞ。そんな余裕が……おっ叔父上も埋葬されてないか?探せっ探すんだ!」

 

 

 

 その可能性に気付いて、慌てて指示をだしたか……

 

 

 

 叔父上、親族か。それはやるせないだろう。そして襲撃者達の事も一定の理解が有る。つまり何人もの貴族が襲われている、護衛を伴う貴族を襲える武装集団が居るという事か。

 

 僕が問答無用で殲滅した連中だが、奪ったお宝は貴族所有の物は無かった。そんな出所が怪しい高級な品物を簡単に処分出来る訳もないから保管したままの可能性が高い筈だが、ねぐらを襲ってもそんな物は無かった。

 

 今更顔を出して状況の説明などしても無意味だろう。逆に疑われて襲われる可能性が高い。野盗の仲間だと勝手に決め付けられても困るし、誤解を解く方法も時間も無い。

 

 

 

 もう得られる情報も少ないだろうし、移動するか。親族との悲しみの対面を盗み見る必要も無いし、見ては駄目な気がするし。大切な人との突然の別れは、他人がどうこう言える問題ではない。

 

 その場で静かに黙祷し、死者の魂の安らぎをモアの神に祈る。極力音を出さない様に注意しながら、トンネルを掘り進めて離れる。思った以上に国も人も荒廃が進んでいるぞ。

 

 しかし、生産職の連中も食えないからと生産を放棄して奪う方に行ってしまうとは未来が無いのと同義だぞ。この国の崩壊は、エムデン王国が関与しなくともエルフ族が森で浸食しなくても……

 

 

 

 「そう遠くない時期に崩壊していたな。エムデン王国の属国のままだったら、未だ少しはマシな未来を選べたのに自業自得と言う事か」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 辺境に近付く程、荒廃は進んでいる。あの後、幾つもの貴族の屋敷と思われる建物が襲撃されて焼き払われているのを確認したし、村も同じ様に焼き討ちされていた。幸いというか、襲撃者達との遭遇は無い。

 

 王都へと襲いながら進んでいるのだろうか?それとも拠点に奪った物を集めているのだろうか?どちらにしても遭遇したら殲滅する予定だ。無事な村もあったが、村人が武装して警戒しているので、近付かない事にした。

 

 一度でも襲撃する事を体験してしまうと、直ぐには元に戻らない。他人から奪うという優越感に浸ってしまうと、真面目に働く事が馬鹿らしく思えるのだろう。楽な方に逃げる事は良く有る事だが、高いリスクも含んでいる。

 

 

 

 だから襲う者は、逆に自分が襲われる事も自覚しておけ。常に襲う側に居られるとは限らない。特に、この国では……

 

 

 

「大分進んだな。明日には辺境に到着するだろう。一日中騎乗していると、流石に足腰が痛い。筋肉痛かな?」

 

 

 

 馬ゴーレムの全速力の駈歩(かけあし)は、時速20km位は出るが乗り心地は最悪。大きくゆったりとした前後の揺れが伝わるので、重心を中心に置いてバランスを取るのが難しい。

 

 故に身体に不要な力が入り、普段鍛えてない筋肉が痛む。就寝前にゆっくりと風呂に入ってマッサージを施せば少しは楽になるとは思うが、今は単独での軍事侵攻中、流石に余裕がない。無理をすれば風呂には入れるが……

 

 少しは身体を鍛えてはいるけど、最近は事務仕事ばかりだったらか少し鈍ってしまったかな?軍属は身体が資本だから、帰ったら計画的に鍛え直そう。時間に余裕が有ればだけどね。

 

 

 

 明日の午前中には、イエルマの街の近くまで行けるだろう。前回は、コーマが降伏してきたので攻め込まなかったので凡その情報しか持っていない。

 

 

 

 今夜の野営地は街道を少しそれた場所にある、朽ちた廃屋を利用する。この廃屋って何の為に建てたのだろうか?既に扉の無い開口部から中に入れば、辛うじて屋根は残っているが壁は何故か幾つか穴が開いている。

 

 魔法で光球を生み出し室内を明るくする。残置物はテーブルに椅子が四脚、水瓶に幾つかの木箱。どちらも中身は空、部屋の隅に牧草らしきものが積まれている。藁のベッドだろうか?既に生活感は無く、放置されて相応の年月が経っていると思う。

 

 窓枠しか残ってない開口から外を見れば、周囲は見渡す限り草原で低木位しか生えていないし近くに水場も無さそうだ。生活するには厳しい場所に、わざわざ家を建てたのか?まぁ不便だから廃屋になったのだろう。

 

 

 

「ああ、日が暮れるな」

 

 

 

 考え事をしていたら地平線に太陽が沈んだ。ゆっくりと周囲が暗くなって気温が下がり、夜の訪れとなるのだろう。独りぼっちの野営、寂しくないと言えば嘘になるが仕事と割り切るしかない。

 

 今夜もイルメラさんのインナーの匂いを嗅いで、一人寂しさを紛らわす事にするか。更に、アーシャやウィンディアのインナーも追加で嗅ごう。うん、元気が湧いてくるね。

 

 さてと、埃っぽい室内で過ごす訳じゃないし、何処から地下に入ろうかな?土間に置かれた水瓶の脇に地下に降りる階段を錬金するか。その辺の地面から潜っても構わないが、不用意に出入りを見られない為にする。

 

 

 

 地中に潜り色々と出来るのは、僕の土属性魔術師としての長所でもあり出来れば秘匿する事でも有る。地中移動が出来るとか、侵入し放題で警戒されるだけだし、余計な警戒や誤解をさせたく無い。

 

 誰にも侵入不可能な場所から物が盗まれた。僕しか不可能だから犯人だ!とか言われかねない。まぁそんな事を言う連中は、今後居なくなる予定だけど政敵は居なくならないからね。

 

 水瓶の脇に地下への降りる為の階段を錬金する。ミルフィナ殿が居れば大喜びだろう。地下神殿とかに異常な思い入れがあったな。今回は装飾に拘らず実用的な範囲で仕上げているので、壁面は凹凸が有り階段の造りも甘い。

 

 

 

「偽装用の空の木箱を蓋にしよう。板の隙間から周囲が確認出来るから、出たら鉢合わせも……感知魔法でわかるけど、最悪魔術師が居れば気付かれるかもしれないし……」

 

 

 

 まぁこんな僻地の廃屋に訪れる物好きもいないだろ。

 

 

 

 地下空間は暗がりと閉塞感さえ嫌がらなければ快適だ。静かで気温は一定、安らぎさえ感じられる。久し振りの贅沢として入浴した。方法は簡単で、錬金した浴槽に湯を張った状態で空間創造に収納した物を出しただけだ。

 

 かけ湯した身体に石鹸を塗りたくり布でゴシゴシと擦れば、それなりの垢が出た。綺麗にしているようで身体って汚れるんだな。泡を洗い流し浴槽に浸かる。天井付近に漂う光球をぼんやりと眺める。

 

 戦地での贅沢、普通では有り得ない居住空間。これが錬金術と空間創造の恩恵、素晴らしいリラックスの時間。明日はイエルマの街を遠目で確認し、そのまま辺境地区に侵入しよう。

 

 

 

 カシンチ族連合、コリコとスアクは飾りで実際はゾイルワーム族の長老、ベンバー殿が仕切っている。彼が連合の設立を提案し、僕との伝手が有ったコリコとスアクを頭に据えた。

 

 だが、ベンハー殿は有能でエムデン王国に対して変な感情も持ってない。ゾイルワーム族とカシンチ族は農耕を主とした部族で、比較的に考え方も保守的で防御思考で共感が持てる。

 

 彼等なら、エムデン王国が手を組んでも問題無いと思う。それに農業系なら、僕が錬金で農地を整備すれば比較的早く自立出来るだろう。

 

 

 

「全てはバーリンゲン王国の不要な連中を倒してからの話だけどね」

 

 

 

 アブドルの街で世話になった守備隊のミグニズ殿とブングル殿、ブングル殿の妹殿のカーマイン嬢、ミグニズ殿の娘のハーミィ嬢。領主代理のタマル殿も、普通に良い連中だった。

 

 彼等とカシンチ族連合を戦わせる事はしたくはないが、アブドルの街を守る彼等がカシンチ族連合の軍門に下る事は無いだろう。いや、交渉次第か?

 

 バーリンゲン王国の中枢が、ケルトウッドの森のエルフ族に喧嘩を売って返り討ちに会い怒らせたエルフ族の報復で国土が全て森に埋まると説明すれば……

 

 

 

 駄目だな。彼等はアブドルの街を守っている。住民全てを助ける位の条件を出さなければ、ウンとは言わない。それがまともな領主と守備隊としての行動であり判断だ。

 

 いやな任務だが、エムデン王国の未来を考えればバーリンゲン王国を存続させるのも国民全てを受け入れるのも意味が無い。デメリットだらけで余計な苦労を背負い込むだけだ。

 

 全ては自業自得、それに尽きるのだが愚かな中央の連中の仕出かした事を連帯責任で負わせる事は……考えれば考える程、ドツボに嵌るとはこの事か。

 

 




はい、やってまいりました。完結するする詐欺の時間です。毎年最後の投稿の後書きでやってますが今年もやります。
『来年こそ完結させます!』
何時も素人の趣味全開小説にお付き合い下さり有り難う御座います。
誤字脱字報告も大変助かっております。
今年を振り返ると私事ですが結構大変な年でしたが、何とか乗りきりました。
今年は色々有り難う御座いました。来年も宜しくお願いします。
皆様の幸せを願っております!

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