古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第930話

 ブレスの街が襲撃されているタイミングに遭遇、何も考えずに城壁の門の前の激戦区に突撃してしまうという愚挙を犯してしまったが後悔は先に立たず。

 

 敵味方の判別も出来ない状態で、護衛にゴーレムクィーンのアインと四体のゴーレムナイトを召喚して戦場に乱入しカシンチ族連合の指揮官に呼び掛けたのが失敗。

 

 普通に謎の武装勢力が攻城戦の最中に指揮官は誰だ?と問いかけられて、自分だと名乗り出る愚か者は居ないだろう。普通に頭を潰して敵を混乱させる作戦だと疑う。

 

 

 

 僕も疑う。防衛側としては、攻撃を加えて来る連中の指揮官を潰す事は多い。怪しい連中は問答無用で潰すとばかりに、最初は普通に弓矢を射掛けられたし直接襲ってくる連中もいた。

 

 

 

 キレたアインが巨大なハルバードを振り回して、刃の無い柄の部分で襲撃者を吹き飛ばした事で一瞬の空白が生まれたので大声で事情を説明した。

 

 それで一部の連中が攻撃を止めたので、襲撃者側がカシンチ族連合だと分かった。あとは僕の真実とは異なるバーリンゲン王国側が流した噂話を鵜呑みにした連中が恐怖に駆られて街の中に逃げ込んだ。

 

 何と言っても、僕は『悪逆非道な殺戮魔術師、同族一万人殺しの人類の敵』だから。脅し文句としては最高だろう。嬉しくは全く無いけどね。

 

 

 

 そして逃げる連中を追うように、カシンチ族連合の連中が開いた門に殺到している。このまま追撃する連中を街の中に入れれば略奪とかする可能性が高い。

 

 元々、恨み合っている連中だし穏便に終わる事など無い。無辜の民への被害は最小限に抑えなければならない。最悪は、折角堕としたブレスの街を放棄してエムデン王国側に移動する。

 

 此処はエルフ族の長老達の実験場(趣味の遊び場)になるのだから、固執する必要は無い。っていうか、半月もしない内に人が住むには適さない植生を持つ森になります。

 

 

 

「ああ。もう全然ダメダメだぁ!」

 

 

 

 欲望に駆られた連中を止める方法は無い。諦めるしか……無い訳じゃない!今、混戦に持ち込めば逃げ出す算段を取る時間が無くなる。ブレスの街は諦めて包囲だけで今は良いんだ。

 

 

 

「アースウォール!」

 

 

 

 開け放たれた門の前に巨大な石の壁を錬金する。地面から高速で生える石壁に何人かが巻き込まれ空中に放り上げられるが、必要な事と割り切る。そのままブレスの街を囲う様に見える範囲を石壁で包む。

 

 取り敢えず、これで街への侵入は不可能だし街からも外に出られない。厳密に言えば、街を横断する川を利用したり他の門から出入りは出来るが今はインパクトの強い錬金で此処からは侵入出来ない事にした。

 

 折角の略奪の……いや、勝利の瞬間を邪魔された事でカシンチ族連合の連中が遠巻きに僕を取り囲み始めた。邪魔をしたから理由を聞く迄は逃がさない。ごく普通の対応だな。

 

 

 

「僕はエムデン王国宮廷魔術師第二席、リーンハルト・フォン・バーレイ!カシンチ族連合の代表か、この部隊の指揮官に会いたい!」

 

 

 

 戦場での殺伐とした空気には慣れている。猜疑心と敵意に塗れた視線も、前世で体験して慣れている。だから、更に完全武装のゴーレムナイトを三百体錬金して周囲に展開して逆に包囲する。

 

 これで味方と名乗り邪魔をした、僕を感情のままに害する事には躊躇するだろう。ゴーレムの数はそのまま戦力となり、数では勝るがゴーレムと一般兵の力の差は歴然。

 

 絶対に無傷では済まない事を分かり易く示した事で、相手の取れる手段を狭めて思考を話し合いに誘導する。まぁ直接僕の顔は知らなくても噂話で非常識なゴーレム使いだと理解はしている筈だ。

 

 

 

「カシンチ族連合と今後の事について早急に話し合いたい。この攻略部隊の指揮官と話がしたいので名乗り出てくれ!」

 

 

 

 この問い掛けに動揺が広まり、連中の視線がある男に集中する。つまり複数の辺境の部族を取り纏めて行動させている、指揮官が彼なのだろう。歴戦の戦士の風貌をした屈強な男を想像したのだが……

 

 

 

「俺様が、この部隊を仕切っている。ゾイルワーム族のクギューだ」

 

 

 

 自分を俺様と呼称する奴を始めて見た。如何にも筋肉隆々の蛮族って感じなら有りと思うが、彼の見た目は背は高いが身体つきは痩せていて細い。しかし装備は地肌に皮鎧を直接着込んでいる。

 

 インナーを着ないと皮膚が痛むし辺境は日差しも強いから日焼けもする。日焼け対策はフードを被るだけらしく、今は腰に巻き付けている。武器はロングソードと普通だが小盾も装備している。

 

 補助の武器なのだろうか?腰に短剣を三本も差している。普通に強そうだが、まだ若いな。多分二十代半ば?もう少し若いか?ゾイルワーム族の長老であるベンハー殿は自分の部族の連中を連合の要職に就けている。

 

 

 

「エムデン王国宮廷魔術師第二席、リーンハルト・フォン・バーレイです。急に現れて戦場を混乱させた事は謝罪しますが、カシンチ族連合というか辺境の民にとって重大な問題が発生したので直接来ました」

 

 

 

 その言葉に少しだけ不信感を表したが、文句も言わずに配下の連中に指示を出して一旦此処から離れてから話を聞くと言った。配下の連中も特に文句も言わずに指示に従うのを見れば統制は取れているのだろう。

 

 良かった。戦場の狂気に嵌って突っ走る様な連中だったらどうしようか悩んでいたが、一応対話による対応が可能だった。僕は辺境の民と思って少し見下していたのかもしれない。反省しよう。

 

 直ぐに1km程後退し、天幕を張って野営の準備を整えてる。この辺は手際も良いし慣れを感じる。放牧を生活の糧とする連中は定住しないので野営に慣れているとも聞くし、上手くバランスを取って割振りしてるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

  

 

 野営地の中心に一際大きな天幕が張られ、そこに案内された。天幕は木組で布の代わりに動物の皮を鞣したもので覆われている。エムデン王国製だと大量生産の関係で防水加工を施した布地を使用している。

 

 布は畳めばコンパクトで軽いので携帯性に優れているが、耐久性や断熱性を考えると革製の方が間違いなく高性能だろう。中央に炉が配置させて、暖房や調理を行うのだろう。今は何かが入った鍋が置かれて加熱されている。

 

 配置は炉を取り囲んで円形に座っているが、配置の理由は分からない。だがクギューと対面なので、これが彼等の来客対応なのだろう。全体的に悪意は感じないが、他の二人の参加した連中からは凝視されているのは観察か?

 

 

 

 前はエムデン王国の用意した天幕での会合だったので配置が違うが、本来の彼等は円陣で座るのだろうか?国や部族が違えばマナーも違うという。それを尊重しないと無駄に争う事になる。東方の諺の『郷に入っては郷に従え』って事だね。

 

 

 

「爺さんからさ、しつこい位に言われている。バーレイ卿は単独で何処にでも現れるって事と見事なゴーレムを見たら疑うなってな。部族の恩人でも有るし、交渉相手でも有るってな」

 

 

 

 あの爺さん達はちゃんと連合の連中に正しい情報を教えているのか。自分達の一族で要職を固めているのかと少し不信感が有ったが、大人数を動かすには頭に信用の置ける者を配置するのは普通だな。

 

 

 

「クギュー殿はベンハー殿の……」

 

 

 

「孫だよ。親父は爺さんの八男で俺は六男さ。あとクギューって呼び捨てにしてくれ。ゴーレムマスター殿にも立場が有るのだろう?辺境の蛮族に殿付けは駄目らしいし、俺様も気恥ずかしい」

 

 

 

 ほぅ?口調は俺様だったから、もっとプライドとか諸々が高い奴かと思ったけど僕の立場に配慮する様に指示されて反発もせずに受け入れられるのか。

 

 思った以上に出来た御孫さんなのか、祖父であるベンハー殿の教育が素晴らしいのか。まぁ辺境で他の部族を纏めて連合を組んで維持しながら攻略も進められるのだから、相応に能力は高いのだな。

 

 エルフ族絡みで問題の有る事だから、ベンハー殿やシュマンジュ殿の居る場所で話そうと思ったが、今此処で教えても問題は無さそうだな。というか、理由も教えず撤退しろは無理だな。

 

 

 

「分かりました。ではクギュー、これから話す事は今は他言無用です。不用意に話の内容が広まれば他の連中も混乱しますし、最悪の状況になる可能性も高いのです。なので一応、人払いをお願いします」

 

 

 

 僕の言葉を聞いて頭を抱えたぞ。事の重大さを理解してるんだ。クギューって見た目蛮族で言葉使いは俺様だけど、結構有能かもしれないぞ。そして同席していた二人を外に出した。

 

 一応、感知魔法で出て行った二人の行動を調べたが、話が聞こえない位に離れてくれた。盗み聞きとかはしないのだと安心する。流石にクギュー以外は未だ信用出来ない。

 

 

 

「うわぁ聞きたくねぇ!爺さん呼ぶ迄は待てないって事かよ」

 

 

 

 うん。ちゃんと理解している。これなら相当な部分まで話しても大丈夫だな。って言うか、クギューを巻き込む事にする。嫌かもしれないけど、巻き添えで一族が亡ぶよりマシだよ。

 

 

 

「端的に言えば、バーリンゲン王国の連中がケルトウッドの森のエルフ族に尊大な態度で喧嘩を売って逆鱗に触れた。エルフ族は怒り狂ってバーリンゲン王国の連中を抹殺する事が決まった。

 

これは人間には覆せない。だが愚か者と一括りにはしないでくれと妥協案は飲ませた。エムデン王国とカシンチ連合というか辺境の民は無関係だとね」

 

 

 

「クソ野郎共めっ!なんでエルフなんかに喧嘩売るんだよ。謎の肥大した根拠の無い自信と、嘘を言い続けたら本当になるって自己暗示の所為か?」

 

 

 

「魔牛族の里も襲撃したんだ。そっちは僕が襲撃者を殲滅したから被害は無いけど、魔牛族はエルフ族を慕っていて殆ど配下みたいな連中だから余計に怒らせたよ。僕は、その火消しに奔走しているんだ」

 

 

 

 それは何と言っていいか、掛ける言葉も分かんねぇ!と凄く同情された。辺境に住んでいても、エルフ族の厄介さは理解しているんだ。逆に一応、交渉出来る立場にあった、バーリンゲン王国の無謀さに驚かされる。

 

 愚か者共への愚痴を言い合ったら少し落ち着いたので、クギューが鍋で暖められていた謎の飲み物を椀によそって渡してくれたが……これは何だろう?匂いは野草っぽいのだが初めて嗅ぐ匂いだな。いや、嗅いだ事が有る?

 

 野草茶かな?クロレス殿に飲ませて貰った薬草茶とは違う、あれは別物で自分でも作れないエルフ謹製の特別製だし。椀を受け取り匂いを嗅ぐ、これはやはり嗅いだ事が有るような?一口飲めば、香ばしい。

 

 

 

「ゴーレムマスター殿は本当に珍しいな。バーリンゲン王国の御貴族様は、こんな物を出したら発狂して大騒ぎだぜ。それは、ドクダミとクマザサの茶だ。落ち着くだろ?」

 

 

 

「ドクダミ?そうか、確かにドクダミは薬草だし煎じて飲む事は知っていたがクマザサは初めてだよ。でもドクダミって皮膚病や便秘改善で女性が良く飲むものって思ってた。あと匂いがキツい筈だが、これはそんなに強くないね」

 

 

 

 医者が不足している辺境だからこそ、普段手に入る物を薬として使っているのだろうな。自然界の植物は毒草ばかり調べていた僕でも分かる位に効能が多かった。そして、クギューも色々と自分で研究してるとみた。

 

 

 

「おっ野草に詳しいのか?確かにドクダミは肌荒れや便秘に良いって婆さんが教えてくれたんだぜ。他にもスギナとかヨモギとかもさ、そのドクダミは乾燥させた後で燻ったから臭くないだろ?」

 

 

 

「一般的な薬草と違い普通の草花にも効能のあるものも多い。薬茶としてでなく嗜好品としてもですが、ハーブ茶はエムデン王国でも人気ですよ」

 

 

 

 クローブやセージ、ローズマリーとか定番ですね。ですが嗜好品として品種改良を重ねた物も多く、辺境では手に入らない物も多い。だから野草茶なのだろう。

 

 

 

「野草談義も楽しいですが、本当に時間が少ないのです。バーリンゲン王国絶対許すまじ、国自体を地図から無くす事を決めたエルフ達は、この国を森で覆い尽くす事にしました」

 

 

 

 は?口を大きく開けて飲んでいたお茶を零すと言う分かり易いリアクションをしてくれた、クギューに辺境を訪ねた本当の理由を教える事にする。まだ序の口だぞ。

 

 エルフ族はエルフ族で長老達の暴走が酷くて苦労しているんだ。主にクロレス殿がだけど……本当に碌な事をしない連中の尻拭いって嫌になるよね。

 

 

 


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