古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第936話

 魔牛族の里に引っ越し状況の確認の為に寄らせて貰い、久し振りにゆっくりと入浴する事が出来た。勿論だが混浴などしないし手伝いも不要で一人で入浴した。

 

 魔牛族には混浴の習慣も無く大浴場とかもなく、普通に一人用の風呂に順番に入る。今回は賓客として一番風呂に入らせて頂きました。因みに入浴後に湯も抜きました。

 

 流石に家族でもないので、同じ湯を使い回す事など出来ない。幼女三人も混浴するとは言わずに大人しかったが、それは当然だろう。伴侶でもない異性に肌を見せるとか有り得ない。

 

 

 

 ゆっくりと湯船に浸かり、疲労と汚れを洗い流してさっぱりしてから宛がわられた客室に戻る。因みに風呂が備え付けの客室は無く、幾つかある風呂の一つを利用させて貰った。

 

 親族が一つの館に増改築を繰り返して同居するので、各世帯に風呂やトイレも設置する。大浴場という考え自体が無いらしい。まぁ入浴の時間もバラバラだし大きい風呂は維持管理が大変だ。

 

 来客用の設備も氏族の長の館なら完備はしているが、バーリンゲン王国の連中は泊めた事は無くエルフ族か妖狼族の連中が使用していたらしい。まぁアイツ等を泊めるのは嫌だろうね。

 

 

 

 久し振りのベッドで寝れる喜び。飛び込んで大の字に寝転ぶ。

 

 

 

「お日様の匂い、フカフカで気持ち良い」

 

 

 

 良く手入れはさせているし、キルトケットという珍しい掛布団が用意されている。部屋自体が暖房で暖かいので布団は軽く薄いものが好まれるらしい。肌布団と呼んでいたかな?

 

 表地と裏地の間に薄い綿を入れて重ねた状態で指し縫いしている。軽くて扱いが容易だが用途上、シングルサイズのみで大きいものは作らないそうだ。

 

 でも中々使い心地も良いし、ライラック商会に探させて納品させようかな。ああ、駄目だ。僕のベッドは超特大のキングサイズだからシングルサイズじゃ使い勝手が悪いや。

 

 

 

 この部屋は増築前の最初の氏族の長の館に設えた客室らしく、綺麗に清掃が行き届いてはいるけど黒光りする梁材を見ても歴史を感じさせる。

 

 住み慣れた館を放棄して新天地で暮らさなければならないとは、カシンチ族連合の人達もそうだが魔牛族の人達もバーリンゲン王国の連中のやらかしの巻き添え感が酷くて哀れだ。

 

 僕の空間創造ならば、この屋敷を丸々収納する事は可能かもしれないが出した時に建物は崩壊する。基礎の形状とか同じ様に収まるかと言えば分からないし、其処までの精度で出し入れも出来ない。

 

 

 

 収納前と同じ基礎形状の所に納めれば問題は無いとは思うが上手くはいかない。それに空間創造に収納する時も見えない地中の基礎とかを破損せずに収納できるのかも不明だし。

 

 自分のギフトなのに突き詰めて出来る事を調べた事は無かったな。転生前に調べた所で止まっていた、反省。時間を作って色々と調べてみよう。

 

 確かに空間創造は希少だが、希少故に所持している人数も少なく情報も殆ど共用されていない。数の多い汎用型のギフトは調べ尽くされた感が有り、故に限界も知られている。

 

 

 

「空間創造、物の出し入れと収納した物の時間経過による劣化を防ぐ。熱い物は熱いまま、冷たい物も冷たいまま。能力の成長は収納出来る量の増加だけで他に派生する能力は無い」

 

 

 

 後は禁呪の類だが空間創造のギフトを持つ魔術師は自分だけの『魔法迷宮』を作り出す事が出来るし、実際に作れた。そこに財を溜め込み、マジックアイテムの腕輪に自分の魂と精神を宿して待った。

 

 分の悪すぎる賭けであり、もう二度と行わないと心に決めている。今生は寿命は全うするが、外見的年齢はネクタルで詐称する事になるだろう。ヨボヨボの老人の姿での老衰死は無い。

 

 出来れば二十代後半の外見の、イルメラに程々の中年の外見で看取られるのが細やかな希望だ。それ位なら頑張れば可能だし、周囲に掛ける迷惑も最小限で済むだろう。

 

 

 

「どうせ、ザスキア公爵率いる『淑女連合』が外見的な老いを駆逐し捲るからね。僕はその恩恵を黙って受ければ良い。その為のネクタルの大量供与なのだから……」

 

 

 

 面倒臭くて難しい世論誘導とかは全て、ザスキア公爵達が行ってくれるだろう。既に公爵三家の女性陣は表と裏で手を結んでいるし、侯爵家だってモリエスティ侯爵夫人と共闘体制を築けたから問題は無い。

 

 残りの侯爵家で、彼女に逆らえる所など無い。エムデン王国の高貴なる淑女達は、経年による老化という誰にでも平等に降りかかる筈の試練を超越してしまった。

 

 逆に周辺諸国の淑女達が祖国を唆して、とか有り得そうだけれども大陸一の大国であるエムデン王国に攻め込んでも勝てないだろう。慢心はしないが、僕だけでも一国の相手は出来る。

 

 

 

 連合を組んでも苦戦はすれども負けは無い。最悪は唆した淑女をネクタル漬けにしてしまえば敵対心など無くなるだろう。

 

 

 

「なんとも恐ろしい結果だね。こういう安寧の方法は望んでなかったけど、協力者ザスキア公爵に任せれば問題は無い」

 

 

 

 心配事が無くなったので、キルトケットを身体に巻き付けて寝る事にする。明日は少し早く起きて、魔牛族に問題が無さそうならケルトウッドの森に中間報告に行こうかな……

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、妖狼族の先触れを任された、サーフィルが数人の供と一緒に魔牛族の里に訪ねてきた。丁度、エアレー達と十時の御茶を楽しんでいる最中だったのでサーフィルに参加して貰い報告を受けた。

 

 その際に幼女三人とお茶をしている事をユエ殿に知られたら不機嫌になりますので黙っていますとか余計な気を遣われたので、どっと疲れが押し寄せて来た。

 

 折角、久々の入浴で疲れが取れた筈なのにだ。勿論だが、サーフィルに悪意は無い。本人も、ユエ殿の暴走を抑えようと思っているだけだな。しかし、配下に心配されるとはね。

 

 

 

 妖狼族の唯一の巫女の威厳と言うか神秘性は全くと言って良い程、無いのだろうな。

 

 

 

「リーンハルト様はクユーサーと随分と仲良くなられたのですね」

 

 

 

 円形のテープルの向かい側で紅茶を飲んで寛ぐ、サーフィルが何となく零した言葉に満面の笑みを浮かべる幼女達。因みにだが、本来の報告を一緒に聞く筈のミルフィナ殿は居ない。

 

 

 

「はい、リーンハルトさまとわたし達はスッゴクなかよしです!」

 

 

 

「リーンハルトさまの近くにいると、おちつくのです」

 

 

 

「おとう様ともおじい様ともちがうのですが、ほわほわしたきもちになります」

 

 

 

 ほうほう、そうなのですか。それは良い事です。私達、妖狼族の連中もリーンハルト様の配下となれて本当の安寧って意味を知りました。とか難しい言葉を幼女相手に使わないで下さい。

 

 因みにだが、サーフィルはクユーサーの姉と親友らしく、その関係で妹のクユーサーとも親交が深いらしい。それもあり先触れに立候補して全力で敵国であるバーリンゲン王国内を駆け抜けて来たそうだ。

 

 エルフ族の庇護下にあろうとも、予想以上に愚かな事を繰り返す連中が彼女達に何を仕出かすか不安だったらしい。まぁ僕が居たので余計な心配でしたと言われたので、別れてケルトウッドの森に行きにくくなってしまった。

 

 

 

「頼れる親戚のお兄ちゃん位な感じかな?重たい話は一切ないので誤解しないで下さいね」

 

 

 

 一応、笑顔で釘を刺しておいたが効果は全く無さそうだ。そうですか、それは良かったですね!とか普通に流されたが、端から見てもそう言う感じなのだろう。

 

 

 

「それで妖狼族の本隊はどれ位の規模で、あとどれ位で魔牛族の里に来れそうなのかな?」

 

 

 

 最大の関心事は、妖狼族の部隊がどの辺まで来ているかだ。彼等と合流すれば、もうバーリンゲン王国の正規兵が襲ってきても問題無く返り討ちに出来る戦力となる。

 

 魔牛族も強いが非戦闘員が多い。カシンチ族連合とは違い、守るべき者達が多いので護衛は多いほど良い。ミルフィナ殿一人でも血相を変えて襲って来るのだ。

 

 エアレー達、美幼女を見たら間違い無く襲って来る信頼感が有る。返り討ちは可能だが、何度も襲われれば疲労が溜まり注意力が散漫になり誰かが攫われる危険性も低くはない。

 

 

 

 不安そうな彼女達の頭を撫でて、求められるままに角も撫でる。その様子を見ていた、サーフィルが椅子から転げ落ちる程に驚いている。角は触っていますが、そんなに重たい話じゃないですからね。

 

 

 

「あの、リーンハルト様?魔牛族の女性の角はですね」

 

 

 

 うん、不安そうだけどね。僕もミルフィナ殿に確認したし、言質も取っているから安心して欲しい。角に触れたから側室に迎えるとかは無い。義妹というか幼女に慕われるのも中々良いモノだ。

 

 ユエ殿は満月の夜に月光を浴びると急成長するし、既に性格は大人の面も強く持っているので純粋な幼女ではない。彼女達と触れ合っていると、自分の娘が欲しくなってくる。

 

 未だ早いとは言え、成人式を挙げたら即ジゼル嬢と結婚してイルメラ達を順次側室に迎えて……時期を見計らって第一子の誕生となりたい。貴族の結婚は早く、同世代で子持ちも居なくないから問題は無い。

 

 

 

「家族か信頼する者にしか触らせないのでしょ?信頼する者であり伴侶ではないので、誤解しないようにお願いします」

 

 

 

 その何とも言えない変な顔は止めなさい。貴女も年頃の淑女なのですから、上司とは言え変顔を異性に晒すのもどうかと思います。

 

 

 

「そうは言っても異常な事ですし……あぁクユーサーが良いなら、私がどうこう言う事でも無いのかな?ああ、そうでした。本隊は後二日の距離まで来ています。既に二回、賊共に襲われましたが全滅させています」

 

 

 

 本当に野盗と変わらない連中です。領主の私兵どころか、街や村の自警団も野盗に早変わりですよ。何を考えているのか何も考えていないのか、判断に迷いますって教えてくれたけどさ。

 

 貴族も平民も等しく野盗に身を窶すって事なんだけど、どれだけ意地汚くて悪事が好きな連中なのだろう。だがしかし、どんどんと間引かれているので未来は安心だろうか?

 

 そう言えば、モンテローザ嬢の行方だがバーリンゲン王国の連中にギフトを掛け捲って変な思考が余計に変になってないよね?何処に潜伏しているのか?未だ生きてはいるらしいのだが、潜伏先が掴めないのが不思議だ。

 

 

 

「あと二日か。それなら合流した時には荷造りは終わっているな。安全を優先して少し待って合流してから出発するか……」

 

 

 

「本妻様が厳選した戦士五十人が向かっておりますれば、護衛に付いての心配は無用と思います。それとリゼル様もライラック商会から幌馬車と救援物資も用意させました」

 

 

 

 家の事を任せている、ジゼル嬢と仕事のサポートを任せている、リゼルの二人が協力しているなら問題は無いな。此処で彼等との合流も待ってから、ケルトウッドの森に向かう事にしよう。

 

 二日程度は誤差の内だし、カシンチ族連合の連中も近くまで来れるだろう。魔牛族とは合流して一緒に行動はさせないが、辺境の森林化から逃れた事は間違い無い。

 

 後は組織された纏まった数の正規兵に襲われない限りは負ける事は無いだろう。食料等の物資も相当数渡してあるので、物が無くて行き詰まる事も無い筈だ。

 

 

 

 クギューも若いが攻撃部隊の現場指揮官としては優秀だし、ルスのサポートも有る。夜の秘め事で行動不能だったが、そろそろ回復しているだろうから凡そ計画は順調だよ。

 

 

 

「本隊の合流も待って、移動を始めよう。準備は万全の方が良いし、急いで出発して擦れ違ったりするのも困る。ミルフィナ殿にも……」

 

 

 

「あ、それは私の方から伝えておきますので。リーンハルト様はごゆっくりしていて下さい」

 

 

 

 サーフィルに食い気味に言葉を遮られたと思ったら、自分が報告すると言って紅茶を一気飲みして駆け出して行ったけどさ。ごゆっくりって言われても、僕も賓客扱いだからね。

 

 そんなに自由勝手に動けないし、のんびりしているのもサボっているみたいで落ち着かない。でも手伝うと言っても、魔牛族の連中を困らせるだけなんだよな。

 

 だから、エアレー達が僕に絡んで時間潰しの手伝いをしてくれているのかな?彼女達も優秀な接待要員という訳か?

 

 

 

「さて、二日程時間が出来たから、何しようか?」

 

 

 

 幼い接待役達に声を掛ける。大人は引っ越しの準備で忙しいから、僕の世話で時間を奪う事は憚られるし実際は僕は居なくても問題無い位だし。ならば邪魔をしない様に大人しくしていよう。

 

 色々有り過ぎて忙しかったのも慌しかったのも確かだし、二日程有給を取ったと言う事でのんびりしても怒られないと思う。

 

 

 

「うらの山のね。おくにお花ばたけがあるの!すごくきれいなんだよ」

 

 

 

「小さな川もあってね。おさかなさんが沢山いるの」

 

 

 

「それをつかまえて食べるとおいしいんだよ」

 

 

 

 ああ、そうだね。もう無くなってしまう故郷の景色を記憶に留めたい、忘れない様に心に刻みたい。その思い出造りに、僕も参加させてくれるんだね。

 

 エアレー達の頭を順番に撫でる。下心なく純粋に嬉しそうにしてくれているが分かるので僕も嬉しい。午後は彼女達の思い出作りに参加させて貰おう。

 

 幼いながらも故郷を失う事を何となくだが理解してるのだろう。その思い出を綺麗なままで忘れない為にも、恥ずかしがらずに一緒に楽しむ事が大切なのだろうな……

 

 

 


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