古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第938話

 魔牛族と妖狼族、共にケルトウッドの森のエルフ族の庇護下にある者同士で仲は悪くないと思っていたのだが……身体的特徴が真逆なのは知っていたけど諍いに発展する迄とは知らなかった。

 

 母性の象徴が豊かな魔牛族と、サーフィル曰く妖狼族は敏捷性を重視した場合の究極の機能美というスレンダーな肢体だそうだ。何方が好みか聞かれたが黙秘権を行使した。

 

 僕の場合の拘りは体臭だから、正直豊満という肥満じゃ無ければ豊かでも機能美でも構わないけどね。世の中の男には女性の胸部に並々ならない執着を持つ者も多い。

 

 

 

 ミルフィナ殿がクユーサー達に余計な事を吹き込んでいたので、吊るして処した。純真無垢な子供に何を教え込むのかと思えば、物凄く不味い事だった。

 

 

 

 幼女から少女へ、そして女性へと成長する過程を楽しめとか悪戯にしても酷すぎるだろう。これだから異種族の同性に性愛を向ける変態は困る。クユーサー達に悪影響しかない。

 

 本人達も教えて貰った事をそのまま言葉にしただけなので、理解していない事が幸いだった。うん、情操教育に不向きな人材って本当に要るよね。

 

 そして制裁という騒動を起こしたら、フィーアとフンフも駆け付けて来た。僕自身がうっかり忘れていたが、ゴーレムクィーンも今回二人を妖狼族と同行させていたんだ。

 

 

 

 何となく状況を説明したら無言で頷いたので理解してくれたみたいだ。クユーサー達もエルフ族の自律行動型ゴーレムは見たけど女性騎士タイプの彼女達は珍しいらしく懐いた。

 

 フィーアとフンフも気を利かせて、僕から彼女達を引き離してくれたので気が楽になった。流石に幼女達に常に囲まれているのは精神的に辛いから。そこに喜びを見出せる、幼女愛好家は有る意味で凄いと思う。

 

 フィーアとフンフには感謝が必要だな。僕のゴーレムクィーン達の予想外の精神的な成長が劇的過ぎて驚かされてばかりだよ。まさか子守りも行えるとかさ。

 

 

 

 政務はアインが主導でツヴァイとドライが補佐、彼女達三人をリゼルが効率的に運用し、僕が居ない穴を埋めている。いや、埋めているどころか効率は上がってないかな?

 

 そんなゴーレムクィーン達に性的な視線を向ける、ロイス殿の闇の深さに考えさせられる。バーリンゲン王国に所属していた時代に接していた淑女達が、典型的なアレな令嬢達だったからな。

 

 清貧という言葉と真逆な浪費体質、貴族令嬢として最低限の身嗜みは必要経費と飲み込んでも受け入れられなかった。ラビエル子爵は不正を嫌っていた為に極貧貴族だったので、生活が改善された今でも色々と抱え込んでいる。

 

 

 

 まぁエムデン王国の貴族令嬢なら理想に近い淑女も居る筈だし、気長に人間の伴侶を探させよう。僕はゴーレムクィーン達を誰かに嫁がせるつもりは無い。

 

 ゴーレムの発展と多様性の開発に力を注いでいるけれど、嫁として育成している訳ではない。何故、自分の伴侶の選択肢にゴーレムを加えた?確かに物を食べないし浪費もしなけど、そもそも生産性は皆無。

 

 後継者を育てる事が貴族の長子の最低限の義務だと思うのだが……優秀な者を養子にして?ダメダメ、血族って意味でも駄目だと思うぞ。貴族の悩ましき習慣の一つは血族主義。

 

 

 

 たまに血の繋がりを辿られて、知らない親族が湧いて出るんだ。そうすると大抵は厄介事を持ち込んでくる。でも血族は最低限の配慮は必要で、突っぱねる事は出来無い。

 

 

 

「これが貴族の柵(しがらみ)の面倒臭さなんだよな。無暗に血族を増やさない方が良いのだけれど、親戚関係まで辿られるとバーレイ男爵本家筋だって相当の薄い血の繋がりは有る」

 

 

 

 父上のバーレイ男爵家だって新貴族男爵位だけど、エレナ嬢を迎えた事によりアルノルト子爵家とは親戚関係になっている。その義理とは言え息子の僕とも血縁の遠い遠戚関係だ。

 

 まぁ貴族として不名誉印を刻まれて御家断絶、平民階級に落とされたので身分差の関係で簡単に絡む事は無いとは思うが……エルナ嬢は優しいから親族に助けを求められたらどうなるか?

 

 インゴの件でも相当悩ませたので、余り精神的に追い込む事は忍びない。息子が悩まずとも父上が何とかすると思うけど、妊婦だし生まれる子供は跡継ぎだから万が一の事が有ればバーレイ男爵家は没落する。

 

 

 

 バーリンゲン王国の貴族連中とエムデン王国の貴族達も相当数は婚姻関係を結んでいる事も事実、クーデターに参加した連中は敵認定で何とでもなるが嘘吐き連中が素直に諦めるか?

 

 いや、自分は裏切っていない。自分が窮地に陥っているのは宗主国たるエムデン王国の不甲斐無さが原因だから生活の面倒を見る義務が有る!とか騒ぐのは最初に想定しただろ。

 

 だから嫌な役目をカシンチ族連合とバニシード公爵に押し付けたんだ。フルフの町を最前線防衛ラインに設定し、連中をエムデン王国に入れる事を断固阻止する。

 

 

 

 移民・難民・亡命、呼び名は色々有るけれど奴等を国内に入れるのは悪手でしかない。絶対に阻止する必要が有る。

 

 

 

「さて、魔牛族も妖狼族の応援が来たから問題は無いな。僕は先行してクロレス殿に中間報告に行くか。レティシア達も放置してきたから、そろそろ構わないと不味いかもしれない。」

 

 

 

 ファティ殿が手伝いをする為に残っている筈だから、レティシアもディーズ殿もケルトウッドの森に滞在しているだろうし素通りは駄目だろう。

 

 そのまま聖樹の力を借りて王都に戻るか、フルフの街に立ち寄るかだが……フルフの街にはバニシード公爵の手の者も既に到着し準備をしている筈だし寄るのは余計な刺激を与える?

 

 王都に行って、アウレール王に中間報告をしてフルフの街の手配状況を確認してから様子を見るかな。何方にしてもカシンチ族連合の為の錬金による整備は必要だから、権限の確認は必須。

 

 

 

 「バニシード公爵の派閥連中の嫌がらせも有り得るから指示伝達事項を把握して、僕の行動を邪魔させない様にする必要が有るんだよな」

 

 

 

 深く溜息を吐いてから、余計な心配を掛けない様に周囲を確認するが与えられた部屋には僕以外は居ない。クユーサー達はフィーアとフンフが連れ出したし、ミルフィナ殿とサーフィルは二人で何処かへ行った。

 

 それなりに広い客間に一人残された訳だが寂しくはない。単独行動が多いし、そもそも僕は昔から少数精鋭かゴーレムのみで行動していた『孤独な軍団長』だからね。

 

 孤独は怖くも恐ろしくもない。勿論、嫌でもないが愛する人達と過ごす幸せも知ってしまった。イルメラ達との幸せな人生を過ごしたい。転生込みの二回目だけど、再挑戦だからこそ失敗しない為の努力は惜しまない。

 

 

 

 だからね。僕の初めて知った家族との幸せを邪魔する奴等は例外なく磨り潰す。

 

 

 

 先ずは根回し、王命を貰って仕事と責任の区分を明確にするか。フルフの街の準備については、バニシード公爵の他に参謀連中も絡んでいるしお手並み拝見だね。

 

 政敵として敵対したなら妥協はしない。明確に敵として扱うだけだが、国益を損なわない様にする配慮はする。勿論だが手伝わないし、手伝う場合は其方の王命が未達成で尻拭いをする場合だけだよ。

 

 失敗続きの、バニシード公爵だからこそ今回の件は死に物狂いで手段は選ぶ余裕も無いだろう。参謀連中を抱き込んでも、順調に行くかは分からない。

 

 

 

 それでも何とかするのが臣下の務め。期待と応援だけはしてあげますよ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 ゴーレムマスターの奴が要らぬ事をアウレール王に吹き込むから、この俺がわざわざ国境を越えたフルフの街まで来る事になってしまった。流石に王命を受けて王都から遠隔指示は無理だ。

 

 フルフの街を最前線だが最終防衛ラインと定めて、バーリンゲン王国の連中を一人たりともエムデン王国に入れてはならない。言うは簡単だが普通に難問、要は国境閉鎖だが国境線は広く長い。

 

 簡単に言ってくれるが主要な街道に関所や検問場所を設ける事で防げる訳じゃない。密入国する連中が、わざわざ街道を馬鹿正直に進んで来ると?いや進んで来るんだな、これが……

 

 

 

 奴が錬金で一日で造り上げた城壁、そこから見回すバーリンゲン王国の領地は開発の余地が有り過ぎる未開の地。国家が管理する主要街道でさえ整備が行き届いていない。

 

 つまり荒れている。街道には轍(わだち)の跡が残り水捌けも悪く、両側には雑草が生い茂りゴチャゴチャとして見通しも悪い。国の体面として主要街道が悪路とは、どうなんだ?

 

 普通に予算を付けて定期的に整備するものだろう。側道でなく主要街道だぞ。それを荒れ放題とか、どれだけ予算を中抜きして手抜き工事をしたんだ? 

 

 

 

 城壁から見下ろすと遠目でも明らかに貴族と思われる男を先頭にガラの悪い連中が数名、此方に向かってくるのが見える。馬も調達出来ない連中だが、老人や女子供は同伴していない。

 

 亡命するなら体裁位は整えてから来る位の準備はしろ。また野盗崩れの連中か?警備兵達が配置に付き始めたし、矢倉の弓兵も攻撃の準備を始めた。

 

 今回は追い払うか、返り討ちにして処分か?良くもまぁ毎日飽きずに来るものだ。対応する身にもなって欲しいぞ。嘘吐きの連中の相手は疲れる。もう話も聞かずに処分でも良くないか?

 

 

 

「懲りずに毎日来れるものだな。今回は誰の関係者だと嘘を吐くのだろうな?」

 

 

 

「前回はモンベルマン子爵の親戚でしたか?ニーレンス公爵の親族が嫁いだ先の親戚の血縁者という曖昧過ぎる言い訳でしたが、仮にも公爵家との繋がりを匂わせてきましたね」

 

 

 

 隣に立つ、主席参謀のアルドリックがぼやく。確かに血縁者が大物だと粗略に扱えないのも事実。確認するまでには相応の時間が掛かり、待たせる間は歓待しなければならない。

 

 公爵の縁者を粗略に扱う事は出来ないのだが、こいつ等は平然と嘘を吐くから始末に負えない。確かにモンベルマン子爵の叔父の側室の兄の子供の何だったか?殆ど他人と変わらぬ血の薄さ。

 

 これを親戚と言い張る面の皮の厚さは見習うべきか、呆れるべきか?自信満々に言い放ち、亡命を認めて直ぐに護衛を付けて王都まで送れとか……仮にも元宗主国に対して上から目線とは、何を考えているのだろうな?

 

 

 

「まぁ『嘘を吐き続ければ真実になる』だったか?恐ろしい思考だな」

 

 

 

「まさか自分の親族を偽ってくる奴も居た事に驚きました。我が妻の従弟の旦那とか言われましても、既に他界しているので確認すら出来ません。そもそも実在の人物かも分かりませんですし……」

 

 

 

 それなりに調べてきている連中と、取り敢えず重鎮の名前を出せば粗略に扱われないと高を括る連中と、そもそも居もしない架空の名前をさも真実だと言い出す連中が一番多い。

 

 自分の中の架空の人物をさも居る様に話してくる。自分を粗略に扱うと、その人物に罰せられるぞと大声で脅して来た事には笑わせて貰った。俺は公爵本人で、俺に罰を与えられる者は片手で数えられる程しか居ない。

 

 それなのに、嘘を見破られて真実を突き付けられてもへこたれない。俺に対して『覚えてないかも知れませんが、あの時の一夜を過ごした女の家族です』とか知らぬ女遊びを捏造されたわ。

 

 

 

「事前にバーリンゲン王国と親族関係にある場合は申告させていますし、その場合でも絶縁する旨を了承させていますからね。この手際の良さは、リーンハルト卿に感謝しなければなりません」

 

 

 

 アルドリックめ。ゴーレムマスターにフレイナルの件で一泡吹かせたのは良かったが、逆襲されて心を折られたな。

 

 

 

「お前も随分と軟化したな。まぁ一族の女性陣総出で説教されれば、軟化もするか」

 

 

 

「はい。流石に実の母親と義母、それに妻や妹達から文句を言われ離縁も視野に入れていると脅されては……」

 

 

 

 ネクタル。若返りの秘薬。それを奴は魔法迷宮バンクの最下層から安定供給出来るらしい。俺も子飼いの高レベル冒険者を送り込んだが、転移の罠に引っ掛かり殆ど全滅してしまった。

 

 奴の魔術師としての能力の高さは認めるしかない。それと毒婦ザスキアの率いる『淑女同盟』だったか?いや『新しき世界』だったか?厄介すぎて話にならない。

 

 俺も一族の女共から、ゴーレムマスターに敵対行動は控えて欲しいと懇願されている。今更和解など出来ないが、更なる敵対行動は遺憾ながら控えるつもりだ。

 

 

 

 まぁ奴を前にすると、その決意も揺らいで要らぬ事を言ってしまうのだがな。今回の件も余計な一言が発端で貧乏くじを引かされた訳だしな。

 

 

 

「本当に、魔王ザスキア公爵には太刀打ち出来ません」

 

 

 

「毒婦め。リズリット王妃が率いる王族の女性陣の要求すらも跳ね返したそうだぞ。有り得ない珍事だな」

 

 

 

 もはやアウレール王位しか毒婦に太刀打ち出来る御方はいないだろう。国王と臣下という立場は絶対で、アウレール王本人はネクタルを必要とはしていない。

 

 だがゴーレムマスターの錬金する、毛生え薬や精力剤は求めている。俺も欲しいのだが直接交渉は出来ず、ライラック商会に配下の商会を経由して接触し手に入れている。

 

 貴族の紳士としての必須アイテムだが、大分足元を見られているが構わない。見栄を張るのも貴族の矜持、ツルツルは威厳が無いし起たないのも明日の活力が萎むので困る。

 

 

 

「どうやら今回の招かれざる客は、少し問題が有りそうです」

 

 

 

「ああ、此処からでも聞こえる程の大声でゴーレムマスターと懇意にしているとか騒いでいるがな。アレが奴等を嫌っている事は周知の事実だが、流石に俺達が確認しなければ不味いか?」

 

 

 

「では私が行ってまいります。道中でリーンハルト卿を世話したとか、彼は奴等の殲滅に動いているのに助けたなど笑い話にもなりませんが……一応戯言でも聞いて来ます」

 

 

 

 何が清廉潔白で優しいだ。奴に敵対した連中は軒並み全滅の憂き目にあっているのだぞ。良くて没落、悪ければ殺されてるのだぞ。アレは敵に対して容赦が無い。

 

 だが世論を気にして建前を用意するだけで、本性は冷酷非情な殺人鬼だぞ。同族を万単位で殺しているのだが敵味方の線引きがはっきりしているから味方からは好まれているだけだ。

 

 毒婦にはお似合いの殺人鬼だな。まぁアレが手を組んだ事で厄介事が増えて、俺でもどうにもならないのだがな。

 

 

 

「ははは、笑えない。公爵本人でもどうにもならないとか本当に笑えない」

 

 

 

 まぁ眼下で騒いでいるアレが何かに使えれば良いと今迄なら思ったが、今は火種は極力避けたいからな。さっさと始末して憂いを断つのが吉だろう。

 

 


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